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デジタルツインと生活者発想で実現する葉山町の活性化【湘南国際村 北斎 DX CONFERENCE 2023レポート】
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デジタルツインと生活者発想で実現する葉山町の活性化【湘南国際村 北斎 DX CONFERENCE 2023レポート】

三浦半島エリアの活性化に向けて、デジタルツインができることとは?「うみぐらし 3.0」をコンセプトに、web3による地域活性化施策を提言する「メタバース未来社会デザインプロジェクト*」のメンバーが語ります。

本稿では2023年11月22日~26日に開催された「湘南国際村 北斎 DX CONFERENCE 2023」のセッションにて、博報堂メンバーが登壇した「葉山町活性化の未来 うみぐらし 3.0」の模様をお届けします。

*メタバース未来社会デザインプロジェクト・・・博報堂行動デザイン研究所、HAKUHODO-XR、慶應義塾大学未来社会共創イノベーション研究室が、共同でメタバースを利活用した未来社会デザインを研究・推進するプロジェクト。
博報堂行動デザイン研究所、HAKUHODO-XRと慶應義塾大学未来社会共創イノベーション研究室、メタバースを利活用した未来社会デザインを研究/推進する共同プロジェクト「メタバース未来社会デザインプロジェクト」を発足

山形与志樹
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

大椨朋子
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 修士

中川浩史
博報堂行動デザイン研究所 所長

デジタルツインを活用し、持続可能な未来社会の姿を可視化する

山形
我々は「慶應義塾大学未来社会共創イノベーション研究室」で、持続可能な未来社会に向けて社会課題を解決し、新しい価値を創造するための研究を行っています。そのなかで、内閣府との新たな取り組みとして「未来の都市システムにおけるスマートエネルギーマネジメントシステムを実現するデジタルシミュレーション」がスタートしました。これは未来都市の姿をデジタルツインを活用して可視化するという取り組みです。
大都市、沿岸都市、山中間地域、地方都市でそれぞれテストサイトを設定し、たとえば空飛ぶクルマが活用される未来はどのような世界になるのかを検証しています。
昨年から三浦半島を舞台にこのテーマについてワークショップを繰り返し、ひとつ導き出したコンセプトが「メタもバース」。本来沿岸域には、藻場がCO2を吸収するという炭素循環の仕組みがあります。磯焼けなどさまざまな原因で失われつつある藻場を再生する「ブルーカーボンプロジェクト」という活動を、バーチャルとリアルを対応させて実現する構想が「メタもバース」。葉山から三崎にかけての沿岸部はブルーカーボンという視点で非常に重要な場所となるわけですが、地方再生を行いながらその価値を広めるために、慶應義塾大学と博報堂で検討を進めているところです。

そこで今回のセッションのテーマとなるのが「うみぐらし 3.0」。web3による地域活性化施策として我々がコンセプトに掲げる「うみぐらし 3.0」についてお話ししていきたいと思います。

行動の源泉には、欲望がある。生活者発想で考える葉山町の魅力

中川
博報堂行動デザイン研究所の中川です。今回、メタバースにおける行動研究ということで山形教授からお声がかかりまして、慶應義塾大学の特任准教授としても活動しております。行動デザイン研究所のミッションは、どうすれば顧客に行動を起こしてもらえるかを生活者発想で考えること。今回の「うみぐらし 3.0」では、葉山町に働き盛りの世代の方に来ていただく、住んでいただくことをゴールにしながら、脱炭素にも貢献できるメタバース活用に取り組んでいます。
葉山町は本当にすばらしい場所ですが、それを「発信した」だけでは人は行動してくれません。
そこで大切なことは、葉山町ができることをトップダウンで考えるのではなく、生活者の発想で、ボトムアップで考えること。
我々は「生活者の行動の源泉には、欲求がある」と考えています。
行動デザイン研究所では、欲求について、マイナスを減らすための欲求か、プラスを増やすための欲求かという一般的な概念に加え、その欲求が自分だけで完結するのか、社会や他者との関係で成立するのかに分けて4象限で捉えています。今回のプロジェクトにおいても、葉山町に来ていただきたい生活者がどんな欲求を持っているかを調査することからはじめました。

コロナ禍を経て生まれた、「Social-Me Good」という新たな視点

調査の結果、12の欲求のうち最も高かったのが「安全欲」。
次に、損をしたくないという「損失回避欲」が続きました。
人類を脅かすようなコロナ禍を経て、安心系欲求が高まっていることがわかります。一方、一時期騒がれたインスタ映えのような優越系欲求は低い結果になっています。しかしこの分布は年齢によっても大きく異なっていて、若年層においては優越系欲求、同調系欲求も高く、決して無視できないものと考えられます。
いずれにしても、コロナ禍において、自分が生き抜くためには社会全体が協力し合わなくてはいけないと実感したことは間違いありません。自分のために社会に貢献するという意識は若年層にも芽生えはじめ、それがSDGsの理解にもつながっていると考えられます。みんなのために社会を守るという「Socia Good」とは少し違う、自分のために社会に貢献する「Social-Me Good」という新たな視座が生まれたと捉えています。

我々はもうひとつ、観光におけるメタバースの可能性も生活者発想で考えています。
バーチャル観光はリアル観光の事前体験や行った後の反芻にもなりますが、バーチャルの体験がプアすぎると期待が高まらず行きたくならないし、リッチすぎるとリアルで行く必要がなくなってしまう。その適度なバランスが大切です。
こちらについても調査を行ったところ、メタバースに求められていることは「発見欲」や「簡便欲」。リアルに求められていることは「愉楽欲」や「達成欲」であることがわかりました。当面はメタバースは発見する場所、リアルは五感で高揚感を楽しむ場所として役割を分けて利用されていくように思います。
このようなことを踏まえながら、「うみぐらし 3.0」では脱炭素や地域活性化とメタバースの活用を考えている次第です。ここからは、大椨さんから我々が行ったワークショップについてご紹介いただきます。

子供教育とリトリート。ワークショップから生まれた2つのアイデア

大椨
企業に勤めながら、慶應義塾大学大学院の社会人学生として、ブルーカーボンを中心とした研究を行っています大椨と申します。「うみぐらし 3.0」では、生活者の欲求を知り、どんな情報を発信すればいいかを探るためのワークショップを行いました。
2チームに分かれ、誰のどんな欲求を狙うか、その欲求から行動を起こしてもらうためにどんなトリガーが必要か、アイデアを出し合います。

このとき大切にしたのが、ただ楽しい体験を提供するだけでなく、葉山の自然を活かし、地域の方に貢献できるアイデアにすること。
葉山アマモ協議会の方にブルーカーボンについて伺ったり、葉山在住の方にお話しを聞いて地元の方の思いを取り入れながらアイデアをまとめていきました。今日はこれから2つのご提案をさせていただきたいと思います。

ひとつめは、ブルーカーボンを中心とした最先端の子供教育を打ち出すアイデアです。葉山の自然を回復させることと、未来の子供を育むことを地域全体で行う施策です。

もうひとつの提案は、数多くの別邸がある葉山ならではの優雅な時間を過ごしていただくリトリートプログラム。こちらも単にリッチな体験をしていただくのではなく、高貴な文化を遺しながらゆっくり流れる葉山時間を育むことを目的としています。これらのアイデアを今後どのように実現させていくか、引き続き考えていきたいと思っています。

「ダイバータウン 葉山町」をコンセプトに、多面的な魅力をアピールしたい

中川
いまご紹介したのはワークショップのアイデアですので、これを今後、脱炭素、デジタルツインと掛け合わせていくことが我々のミッションです。
このとき、一方的な施策ではなく住民の方が能動的に参加できることが重要。葉山町の人たちには、多様な価値を受容し合うほどよい距離感があると感じています。これは、住民参加型・戦略的都市デザインの先駆者になるポテンシャルがあるということだと思うのですがいかがでしょう?
山形
その通りですね。すばらしい町づくりを実現された小布施町には、町の真ん中に住民の方が集まって話ができる喫茶店がありました。そこからさまざまな町づくりのアイデアが生まれたと聞いています。それと同様に、葉山町にも古民家を改修した喫茶店がたくさんありますし、そういった場所を活用したプレイスメイキング、タクティカルアーバニズムがすでに起こりはじめているように感じます。
中川
ありがとうございます。もうひとつ、葉山町には鉄道がないことで不便な印象があるかもしれませんが、これによって昭和的な町並みやあたたかな人間性が残っているとも考えられます。それが子供の情操教育や大人にとっての癒しにもつながる価値になる。海も山もある葉山町は湘南との差別化も図れますし、海の保全と山の保全両方にアプローチする「ブルー=グリーンカーボン」という新しい概念を発信することも考えられますよね。
大椨
そうですね。ブルーカーボンはいまメディアでも注目されていますが、葉山の良さは海も山も両方あること。海での取り組みを、山の土づくりにも活かすということは今後ぜひ進めていただきたいです。
中川
これらのアイデアをまとめまして、我々が提言したいのが「ダイバータウン 葉山町」というコンセプトです。これは単にダイバーのための町という意味ではなく、ダイバーシティ、多様性の意味を込めた「ダイバータウン」でして、3つの意味合いを持たせています。

1つめが「自然やスポーツが好きなダイバーが愛せる町」。
2つめが「生物多様性の保全が生活と一体化した町」。
3つめが「多様な価値観を受け入れ育む町」。

こういった多面的な魅力をアピールすることで、首都圏だけでなく、海外の方にも選んでいただける場所にしていきたいと思っています。

山形
今回このような提言をさせていただきましたが、「うみぐらし 3.0」は5年間のプロジェクトとしてこれからも引き続き活動を続けてまいります。皆さまもぜひご参加いただけますと幸いです。
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  • 山形 与志樹
    山形 与志樹
    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授

  • 大椨 朋子
    大椨 朋子
    慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 修士

  • 博報堂行動デザイン研究所 所長

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