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顧客体験変革とメディア変革へ -XRマーケティングの可能性-【セミナーレポート(後編)】
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顧客体験変革とメディア変革へ -XRマーケティングの可能性-【セミナーレポート(後編)】

近年、「メタバース」というキーワードが世の中に広く浸透しました。メタバースとは、インターネット上に構築された3次元の仮想空間のこと。自分の分身であるアバターを介して自由に動き回りながら、他者との交流やさまざまな体験ができます。

そして、そんな空間や体験を創り出しているのが「XR技術」です。
デバイスやソフトウェアの進化だけでなく、5Gによる高速かつ大容量通信の実現によって、さまざまな領域への応用も急速に進んでいます。

博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナーでは、そんなXR技術のマーケティング領域への活用可能性について、セミナーを実施。今後、XRマーケティングはどのように生活者に新しい価値を創造していくのか。「メディア変革」と「顧客体験変革」の二つを軸に、事例を交えながら解説しました。第一部ではXRを取り巻く環境とマーケティングへの可能性について、第二部では新事業会社ARROVAの取り組みとメディア変革について、第三部では3Dアバターを使用した顧客体験の可能性についてご紹介します。

前編はこちら

【第三部】顧客体験変革へ −3Dアバターを使用した顧客体験の可能性

中島 優人
株式会社博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
HAKUHODO-XR エクスペリエンスディレクター

XR体験における“生活者にとっての価値”とは?

第三部では、生活者体験を起点にXRマーケティングの可能性についてお話しさせていただきます。

まず考えなければならないのが、XR体験における「生活者にとっての価値」についてです。
もちろんVRやAR、MRといった体験手法やメディア環境の変化からも目が離せませんが、それらと並行して「生活者にはどんな願望が生まれるのか」「XRによってどんな願望を叶えられるのか」といった視点も重要だと考えています。

そこで私たちが目をつけたのが“人のデジタライゼーション”でもある「アバター体験」です。
中でも普及しているのが、第二部のテーマでもあったゲーム市場などのエンターテインメント領域だと思いますが、今後はアパレルやヘルスケアなどさまざまな領域でバーチャル空間での体験が生まれていくはず。そんな流れも受けながら、さまざまな体験を行き来するインターフェースとなりうる「3Dアバター」の可能性を模索してきました。

今回は、3Dアバターを活用した顧客体験について、実験の成果や事例を交えながらお話しします。

ファッション領域における事例『じぶんランウェイ』

まずファッション領域での事例として、3Dアバター技術を活用した試着サービス『じぶんランウェイ』について紹介します。

toC向けのメリットとしては、3Dアバターだからこそ気軽に試着できたり、後ろ姿も確認できたりするといったものも当然ありますが、さまざまなコーディネートを着た何人もの自分を同時に見られることで、「意外とこんな服も似合うかも」といった気づきを与えたり、「新しい自分を発見したい」という生活者の潜在的な願望を叶えたりするサービスになるのではないかとも思っています。

また、toB向けのメリットとしては、試着のハードルを下げるだけでなく、店舗にスキャナーを設置し顧客にアバターを作ってもらうことで、リアル店舗とECサイトをつなぐハブとしても機能するのではないかと思っています。
さらに、3Dアバターが普及すれば生産前の試着~受注も可能になるため、プレマーケティングにも活用できる可能性も。ファッション業界では特に大量生産・大量消費が課題になっているので、この取り組みがゆくゆくは環境への負荷軽減にもつながればと考えています。

昨年イオンさんで実施したPoCについても簡単に紹介させていただきます。
生活者向けの実証実験としては初の試みだったのですが、「体験満足度」「不安解消につながった」などの声は9割にものぼり、高い満足度を獲得することができました。
また「試着したアイテム購入意向」についても、ECで78%、実店舗で76%という結果になり、リアル店舗に組み込んでいく可能性を検証できたかなと思っています。

さらに、現在は機能拡充にも注力。服を買う時には着用するシーンや場所を想起することから、アウトドアや結婚式の二次会などの多様な背景を用意し、さまざまな場所での着用イメージを持てるように工夫しています。

また実証実験を通じて、3Dアバターにコミュニケーションツールとしてのポテンシャルを感じたことから、ランウェイを歩く姿をSNSでシェアできる機能も実装しました。誰かと自分のアバターを一緒に見ることで「こういう服も似合いそう」などと新たな服を買う後押しにもなるのではと考えています。

こうした機能拡張を進めている『じぶんランウェイ』ですが、やはり根本的な価値は生活者の潜在願望に応えることだと思っています。
「こんな服も着てみたいな」「似合わないと思うけどちょっと着てみたいな」などの願望を、XR技術を使うことでもっと解放していけるはず。こうした生活者の願望に寄り添ったサービスや体験価値を今後も目指していきたいと思っています。

ヘルスケア領域における事例『じぶんトレーナー』

続いて、ヘルスケア領域における3Dアバターの活用事例について紹介します。

まずはヘルスケア領域に取り組むようになった背景についてですが、2016年の「健康経営優良法人認定制度」や2019年の「働き方改革関連法」など、従業員の健康を増進する環境づくりがますます重要視されるようになっていたことから、博報堂DYホールディングスでは健康診断にエンタメ要素を取り込んだ実証実験を実施していました。

しかし、健康意識の高い層には受け入れられたものの、健康に対する意識や関心が低い社員の行動を喚起するのは簡単ではなく……。個人の行動変容を促す効果的なプログラムづくりを考える上でヒントになったのが、昨年当社が実施したイベントでした。

東京大学院の教授や3Dアバターを扱う会社の社長とセッションをさせていただいた際に、「3Dアバターが現実の自分の行動や意識を変容しうる」というお話を伺ったんです。

例えば、自分そっくりのアバターが踊っていると、その振り付けを覚えやすいとか、自分のアバターが怒られていると自分も申し訳ない気持ちになってくるとか。さらに、マッチョなアバターになると少し強気になれるとか、有名な科学者のアバターになると勉強意欲が増すといった効果もあるそうです。そうしたことから、自分の理想の姿を可視化することで、これまでにない健康モチベーションを生み出せるのではないかと考えました。

そんな着想をもとに最近ローンチしたのが『じぶんトレーナー』です。『じぶんトレーナー』は、定期健康診断の健診会場に設置された専用筐体で従業員自身の3Dアバターを生成します。さらに、自身のアバターがパーソナルトレーナーとなり、目指すべき体型を可視化したり改善に向けたエクササイズ等を教えたりしてくれるコンテンツです。

先日、当社グループの健康診断会場に専用筐体を設置し実証実験を行ったところ、1,300人以上もの社員が体験し、97.6%の体験満足度を獲得する結果となりました。
自分そっくりのアバターは、鏡以上に自分を客観的に見ることができる存在なので、「意外と姿勢が悪いな」「もう少し痩せたい」など、自分では気づけないことを意識するきっかけになっているようです。また、自分のアバターが運動している姿を見て「自分も運動しようかなと思った」という声もありましたね。

先日ローンチしたばかりですが、複数のメディアで健康経営のソリューションとして紹介いただいており、今後はさまざまな企業の健康診断会場や、無料のフィットネスジムなどへの導入も進めながら、健康増進に寄与していきたいと思っています。

エンターテインメント領域における事例

最後に、今まさに取り組みを進めているエンターテインメント領域での事例についても簡単にご紹介させていただきます。

小学館と協業しながら実証実験を進めている『Snap AvatarTM』というサービスです。こちらは、全身スキャンをした自分の3Dデータをもとに、瞬時にコンテンツの世界観を反映した3Dアバターを作成するといったもの。

『じぶんランウェイ』や『じぶんトレーナー』は、自分そっくりのアバターを効果的に活用するものでしたが、『Snap AvatarTM』で生成するのは、キャラクター化された自分のアバターです。作品の世界の一員になったような体験の創出など、3Dアバターの新たな活用法を模索しています。

3Dアバターが生活者をエンパワーメントする存在に

このように、さまざまな領域への活用を進めていく中で、3Dアバターの可能性もより具体的になってきています。

これまでは、全く違う自分になれる「変身体験」と、自分そっくりのアバターになって自分を客観視する「分身体験」の二つが3Dアバターによる体験価値だとお伝えしてきたのですが、今改めて思うのは、その“間”にこそ新たな価値が眠っているのではないかということです。

例えば、「自分の理想の姿を見てみたい」「こんな自分になったらどうだろう」といった未来を3Dアバターで具現化できれば、生活者の行動を生み出すことにもつながるでしょう。つまり、3Dアバターはただ生活者にベネフィットを提供するだけでなく、生活者をエンパワーメントしていく存在にもなり得る可能性も秘めているのです。

まとめー新しい体験設計に向けたキーワード

尾崎
さて、今回のセミナーでは「メディア変革」「顧客体験変革」についてそれぞれお話しさせていただきました。「メディア変革」において重要なのは、メディアを“リーチメディア”ではなく“エンゲージメントメディア”として捉え、「いかにユーザーと一緒に楽しい体験を作っていけるか」ということ。「顧客体験変革」では”生活者ベネフィット”を超えて”生活者エンパワーメント”まで提供できる可能性があると考えています。
今後も、さまざまな領域・企業の皆さんと協業しながら、新しいマーケティングの可能性を追求していけたらと思っています。
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  • 株式会社博報堂
    生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 局長代理
    クリエイティブディレクター/HAKUHODO-XRリーダー
    1998年博報堂入社。以来、100を超える企業やブランドのブランディング、統合コミュニケーション、商品・サービス開発などに従事。多様なクリエイティブ領域の経験を生かして、新しい体験価値の創造を実践している。
    伊豆好きでリモート&新幹線通勤をする、4児の父。
  • 株式会社ARROVA
    代表取締役社長
    2019年株式会社博報堂DYメディアパートナーズに入社後、大手自動車会社など向けのデジタルメディアマーケティングに従事。2021年よりデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社にてメタバース・ゲーム・XR領域における次世代メディアサービスを展開。
    2023年8月、株式会社ARROVA 代表取締役社長。
  • 株式会社博報堂
    生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
    HAKUHODO-XRエクスペリエンスディレクター
    広告コミュニケーションの経験を軸足に生活者と社会に寄り添うブランド体験を企画。
    公共空間、学習施設、アプリ、XRなどジャンルを問わず企画を行っている。
    受賞歴にJapan Branding Award / ACC / Spikes Asia / 消費者が選ぶ広告コンクール / Young Cannes&Spikes 2023&2024日本代表 / アジア本戦Silverなど