ヒット習慣予報 vol.290『ヘル〆』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの中林です。
いきなり私事ですが、先週一週間おやすみを取って、船でペナン島に行ってきました。
ペナンの人はとにかく明るく元気で、道端で象とキスしたり、ポケットからおもむろにマラカスを取り出して踊ったりしていました。彼らの底なしの陽気さにあやかって、お土産でマラカスを買いましたが、日本で使う機会はそう多くはなさそうで、しゅん、としています。
一週間船内で過ごすなかで、異文化のひとと交流したり異国の食事にチャレンジする機会が多くあり、そこである共通点を発見しました。
いつもこのコラムでは日本の習慣を取り上げていますが、今回は海外まで視野を広げて、新たな習慣について考えてみようと思います。
今回着目したのは、みんなだいすき「〆」。
わたしは呑んだあとに温かい蕎麦をすするのが何より好きですが(紅生姜の天ぷらもあると尚良い)、ラーメンやうどんなど、呑み食いしたあと炭水化物で〆てから帰宅し眠る、という習慣が日本には根付いています。
この背徳習慣は海外にもあるのだろうか、と思い観察していると、国ごとに食材は違えど〆の習慣はあるようでした。〆=night foodと呼ぶと知ったので早速調べてみると、〆文化の注目度が、世界でじわじわと高まっていることを発見しました。
「night food」の検索数推移(検索対象:すべての国)
さらに、night foodと同様に寝る前に食べることで健康効果が高まるとされる“sleep friendly”というキーワードも徐々に注目を集めている、ということがわかりました。
「sleep friendly」の検索数推移
そこで今回は、“sleep friendlyなnight food”=“寝る前に食べることで健康になれるとされているヘルシー〆習慣”をいくつかご紹介します。
まず1つ目は、「ヘル〆アイス」習慣です。
最近、仕事や飲み会の帰り道など、夜にアイスを食べられる「夜アイス専門店」が続々と増えつつあるようですが、海外ではこの習慣がより“ヘルシー”な形で広がりを見せているようです。
一般的にアイスクリームというのは多量の砂糖、脂肪分やカフェインなど睡眠の質を下げる成分が含まれているため、睡眠前のデザートとして不向きとされています。しかし、夜の〆用アイスは、これらの成分や人工甘味料を排除し、代わりに睡眠機能に働きかけるミネラルやアミノ酸が使用されているため、むしろ睡眠前こそ食べたいアイスとして人気を集めているそうです。
日本ではまだあまり見かけませんが、夜アイス専門店がヘルシーを謳う日はそう遠くないのかもしれませんね。
続いて2つ目にご紹介するのは「ヘル〆チョコ」です。
ダイエット中やヘルシー志向の人にとっては、一見敵視してしまいがちなチョコレートですが、実は、ストレスを和らげてこころとからだをリラックスさせ、睡眠の質を高める機能があることが確認されているようです。
それだけでなく、肌のアンチエイジング機能や、血管拡張作用・冷え性改善、動脈硬化の予防、便通改善など、様々な効果が備わっており、就寝前にチョコレートを口にすることでそれらのメリットを効率よく体内に吸収させることができるそうで、ナイトルーティンに取り入れる人も増えているようです。
そして3つ目は、「ヘル〆ヌードル」習慣です。
スイーツもいいけど、やっぱり〆はしょっぱくてお腹にたまるものが食べたい!と思う人も多いでしょう。そんな方におすすめなヘル〆は、ヘルシーヌードル。
ラーメンやうどん、蕎麦のように粉ものを使ったものではなく、春雨や野菜などのヘルシー食材で作られた〆の麺料理のことで、夜遅くに食べても胃への負担が少ないことや、睡眠時の熟睡を妨げないことなどが特徴です。
また、東南アジアでは、安眠効果のあるスパイス(シナモンやカルダモン)をかけることによって、よりsleep friendlyを促進させる食べ方をする人が多いようです。
では、一体なぜいまこのようなヘルシーな〆文化が海外で広がりを見せているのか、すこし考察をしてみました。
まず第一に、日本と比べて欧米の方がファンクショナルフード(健康食品)業界が成熟している、ということが挙げられます。たとえばアメリカでは、足りない栄養をサプリや健康食品で補うという習慣が日常生活に根付いていますが、日本ではアメリカほど親しみのある存在ではないように感じます。また、東南アジアでは昨今健康食品の市場拡大が目覚ましく、特にタイでは人々の健康への関心が年々増加していると言われています。
このような健康食品への馴染みの差が、〆文化に影響を及ぼす要因の一つであると考えられます。
加えて、睡眠意識もこの〆文化に影響を与えるひとつの要因となっていると推測できます。
睡眠に満足できていない日本人は増加傾向にありますが*、良質な睡眠を取るために食生活から改善していこうという意識が日本より海外の方が強く、その結果として選ばれる〆がヘルシー方面へ向かっているのかもしれませんね。
最後に、ヘル〆の今後の広がりについて、考えてみました。
「ヘル〆」のビジネスチャンスの例
■家飲み専用のヘル〆セットを冷凍の定期サブスク便で販売する。
■終電が近くなると、駅構内の蕎麦屋がヘル〆ヌードルに切り替わる。
■ヘル〆をパワーアップさせる睡眠導入オリジナルスパイスをつくる。
日を追うごとに冬の気配が濃くなるこの頃、夜が長く感じるようになった方も多いのではないでしょうか。いつか読もうと積んである本や、いつか見ようと思っていた映画、たまっていた興味ごとに手を伸ばせる季節です。
わたしは最近、先輩に教えてもらった落語家の演目を聞きながら、冬用の靴下を編んで、たまにチョコレートをかじって、寝る前の時間を過ごしています。
みなさんもぜひ、秋の夜長のおともにヘルシーな〆を取り入れてみてくださいね。
*出典:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001126766.pdf
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モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
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博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー2021年博報堂に入社。一人前のマーケティングプラナーをめざして毎日修行中。趣味はヨガと編み物、好物はさば寿司といわし、あと卵焼きです。まいにち散歩をします。