Google とのコラボレーションプロジェクト【Vol.2】 AI を活用して SDGs の課題を解決する!
Google のテクノロジーやプロダクトと博報堂のクリエイティブアイデアを掛け合わせることで新しいサービスやプロダクトを生み出すプロジェクト。第1回に続いて、今回はGoogle Cloud の AI 基盤を活用して SDGs の課題を解決するプロダクト開発について、プロジェクト事務局と「AI× SDGs チーム」のメンバーに、サービスが生まれた経緯やそこから生まれる価値について語ってもらいました。
姫川 侑己
博報堂 ビジネスデザイン局
ビジネスプラナー
紀 小凡
博報堂 hakuhodo DXD
マーケティングプラナー
宮本 潤哉
博報堂 データドリブンプラニング局
データサイエンティスト
曽根原 正樹
博報堂 DXプロデュース局
AI × SDGs でできること
──前回は、Google Glass を使った新サービス開発について、プロジェクトに関わったメンバーの皆さんの話を伺いました。今回ご紹介するプロジェクトはどのようなものですか。
- 曽根原
- Google Cloudの AI 基盤を使って SDGs の課題解決の実現を目指したプロジェクトです。ハッカソンを通じて「 AI × SDGs 」というテーマで何ができるのかを話し合い、プロダクトの方向性が決まった段階で、自由意思でチームに参加してもらいました。本日はチームのうちコアメンバーの3名が参加しています。
──このチームに参加したモチベーションをお聞かせください。
- 姫川
- 私は普段、ビジネスプラナーとして、いろいろなクライアントを担当させていただいています。さまざまなスタッフをアサインして、チーム組成を担うビジネスプラナーとして、自分自身もいろいろなスキルや知識を身につけておく必要があると考えました。
「 AI を使って SDGs の課題を解決するプロダクトをつくる」というテーマを聞いたときに、自分にとってまったく未知の領域なので、新しい知見が得られるに違いないと考えました。また、 SDGs というテーマは自分自身にもかかわる部分がとても多いので、自分が日頃感じていることや個人的な問題意識からアイデアを出せのではないかとも思いました。それがこのチームに参加した理由です。
- 紀
- 私は普段プランナーとして、生活者のインサイト発掘やコアアイディアの開発から、体験までを広く設計しております。その中でもデジタル上の体験設計を主に行っており、エンジニアの方と密にコミュニケーションを取って設計・開発する事が多いです。
このプロジェクトでは自分の現業の経験を活かし、よりクイックに開発を進めPDCAを回していく事例ができると良いなと思い参加しました。
- 宮本
- Google Glass を使った新サービス開発は、すでにあるプロダクトの可能性をどう広げていくかという視点をもったプロジェクトでした。それに対して「 AI × SDGs 」は、テーマに基づいて新しいサービスやプロダクトをつくっていくプロジェクトであり、 SDGs という一見ビジネスとは結びつかないようなテーマをビジネスにつなげていくという取り組みでもありました。そこに独自のやり方でアプローチしていくのはとても面白そうだと思ったのが、僕の一番のモチベーションでした。
「ワードローブを可視化する」というアイデア
──ハッカソンではどのようなアイデアが出たのですか。
- 紀
- いろいろなアイデアがでましたが、最終的に採用されたのは、姫川さんが出した「持っている洋服を可視化して廃棄を減らす」というアイデアでした。
- 姫川
- 私の中に最初にあったのは、「洋服の大量廃棄をなくしたい」という問題意識でした。その課題をめぐって、いろいろな話し合いをしました。
- 宮本
- 生活者側の廃棄をなくすべきか、生産者側の廃棄をなくすべきかといった話をしたことを憶えています。
- 曽根原
- いらなくなった服を預かるサービスとか、フリーマーケットに簡単に出品できるサービスなどのアイデアが出ましたよね。
- 姫川
- 「自身のワードローブを可視化する」というアイデアを思いついたのは、私自身が引っ越しのタイミングで、たくさんの洋服を捨てた経験があったからです。主に着ずに眠ったままの洋服を捨てることになったのですが、もしタンスの隅々までどのような洋服があるかを知っていて、一点一点のステータスが把握できていれば、きっともっと着る機会があったし、これからも着ようと思ったかもしれません。そんな体験から、「持っている洋服を可視化して廃棄を減らす」というサービスを開発できないかと考えました。
- 紀
- そのアイデアを聞いて、とても強いインサイトだと感じました。 Google Cloud の重要な機能の一つに「データの可視化」があります。その点でも、まさにテーマに合ったアイデアだと思いましたね。そこからさらに、持っている服を可視化することの意味について長い話し合いを重ねました。可視化したうえで、どこかに預けるのがいいのか、フリマに出品するのがいいのか。でも、どれもすでに世の中にあるサービスなんですよね。
- 姫川
- そうしてアイディエーションを重ねる中で見えてきたのが、「持っている服のコーディネートを AI がサジェストする」という方向性でした。それによって、捨てようと思っていた服も有効に使えるようになるんじゃないかと。
- 紀
- 結局、プロジェクト全体の時間の7割くらいをアイディエーションに使いましたね。
- 曽根原
- 必要な時間だったと思います。このプロジェクトは、MVP( Minimum Viable Product :最小限の機能を備えたプロダクト)をつくることがゴールでしたが、それは将来的にビジネス化できるものでなければなりません。その点で、ユーザーに提供できる価値やそれによって実現する社会価値について徹底的に話し合うことはとても重要なことでした。
どうすれば生活者に使ってもらえるツールになるか
──開発したサービスの具体的な仕組みをお聞かせください。
- 姫川
- 購入したタイミングやタンスにしまうタイミングなどで服の写真をウェブサイトから Google Cloud にアップし、それを AI に学習させ、 TPO に合わせてコーディネートを提案してもらう、というのが今回開発したサービスの基本的な機能です。それによって洋服の有効活用を促進し、廃棄を抑制するというコンセプトです。
- 宮本
- リコメンドの機能をどこまで広げるかというところは、協力してくださった開発会社の皆さんとも話し合いながら決めていきました。ユーザーの体形や肌の質などとのマッチングもできたらいいね、という話もしたのですが、現段階で完成しているのは、性別、季節、カジュアルかフォーマルかといった条件に合わせてリコメンドする仕組みです。時間や予算的な制約がある中で、できることとできないことを見極めて、線を引いていかなければならなかった点に、今回の開発の苦労がありました。
──写真の登録を手間と感じるユーザーがいそうな気もしますね。
- 宮本
- その点は大いに議論になりました。何かしらのインセンティブがないと、洋服を一つ一つ撮影してアップするには心理的なハードルがあるんじゃないかと。そこで考えたのが、 SNS でワードローブ情報をいろいろな人とシェアできる仕組みをつくることと、写真をアップするオペレーションをできるだけ簡単にすること。その2つでした。
- 姫川
- 今回のテーマである SDGs を前面に打ち出しても、それだけでは「使ってみたい」という気持ちにはならないだろうと考えました。そこで、「より楽しんで使ってもらうには?」という視点から掘り下げ、結果的に(性格診断や AI 似顔絵のように)オリジナリティのある結果を他人に示すことで遊び心や承認欲求を満たせるのではないか、という仮説のもと SNS シェア機能を搭載しました。
- 曽根原
- あくまでも今回のプロジェクトの目的は、「最低限の機能を備えたサービス(MVP)」の開発なので、実際に生活者に試していただくことはできていません。ただ、Google Cloud をはじめとする関係者の皆様からは、今回のプロダクトが博報堂ユニークなアイデアである、といったご意見をいただくことができました。それは、実際に利用してもらう生活者のインサイトを熟慮して、クリエイティビティや生活者発想といった博報堂の強みを活かした、地に足の着いたサービス開発に取り組めたのではないか、と感じています。
「開発思想」を広めるための取り組み
──このプロジェクトに参加して得られたことをお聞かせください。
- 紀
- 今までもアプリケーションやサービスを開発する経験はありましたが、これまではできるだけ完全なものをつくろうとしてリリースまでに時間がかかっていました。今回のようにアジャイル型開発でMVPをスピーディにつくるスタイルが社内に広まっていけば、博報堂グループ全体の開発力が大きく向上していくと思います。
今回のサービスは生活者に使っていただくことを想定したものですが、アパレルメーカーに「在庫の商品を組み合わせて顧客に提案していく」といった使い方をしていただくことも可能だと思います。それによってメーカー側の廃棄を減らすことができるし、顧客への提案の幅も広がるはずです。プロジェクトはいったん完結しましたが、今後の可能性を引き続き探っていきたいですね。
- 宮本
- このサービスは、 SDGs を、衣食住という生活者にとって身近なテーマと結びつける中から生まれたものです。プロダクト開発の過程で、私自身にとっても SDGs がとても身近なものになりましたし、生活者に向けて SDGs の意義を伝えていく1つの方法を学べたように思います。ビジネスを通じて人々の意識を変えていく道筋が多少なりとも見えたこと。それが私にとっては非常に大きな経験でした。
- 姫川
- AI は使われることによって機能を高めていくテクノロジーです。その点で「いかに使ってもらえるか」ということを時間をかけて考えられたことがとても大きかったと思っています。今回、サービスとしてローンチしていませんが、「世に出せば使ってもらえる」という手応えを感じました。ビジネスプラナーとしても、このプロジェクトに関わることで、視野や思考の幅がとても広がったと感じています。自分にとって大きな資産になる経験でした。
- 曽根原
- Google とのコラボレーションの大きな目的の1つは、博報堂DYグループに「開発思想」を広めていくことにありました。技術的な知見をもってアイディエーションを進め、アジャイル型で MVP をつくり、それを検証してブラッシュアップしていく──。そのようなスキルをさまざまな職種の人に備えてもらうことによって、博報堂DYグループ全体のケイパビリティが大きく向上していくと僕たちは考えています。それによって、クライアントや生活者に提供できる価値も大きくなるはずです。その取り組みの第一歩として、大きな成果を上げることができたと感じています。今後もこのような機会を積極的につくっていきたいと思っています。
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博報堂 ビジネスデザイン局
ビジネスプラナー2018年度博報堂入社。初年度よりBD配属。製薬メーカー/金融/エレクトロニクスプロダクツ/ゲーム&ネットワークサービス/紳士服/自動車メーカーなど幅広く担当。現在はフィンテック/ソーシャルゲーム業務を中心に日々精進中。
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博報堂 hakuhodo DXD
マーケティングプラナー慶應大学理工学部を卒業後、博報堂入社。インサイトからコンセプトまでのクリエイティブストラテジーに驚きと発見を宿し、体験まで幅広く企画するプランナー。 デジタル領域の体験を軸にサービス開発, デジタル, CMなど手段にとらわれないプラニングを経験。
受賞:YoungLions2023国内メディア部門 Gold
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博報堂 データドリブンプラニング局
データサイエンティストSI企業にてECサービス開発、大学病院、WEB系事業会社にてデータ分析業務に従事。2021年博報堂入社。現在は、データサイエンスを駆使した広告効果可視化やその運用自動化パイプライン構築業務に従事。
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博報堂 DXプロデュース局東北大学法学部を卒業後、ITベンチャーにて、メディア事業のCS・Sales・Marketing・新規事業開発を幅広く経験。退職後、クラウド領域でのスタートアップ創業に携わり、2022年博報堂に中途入社。現在は Google Cloud を用いたプロダクト開発やクラウドガバナンス体制構築業務、及び Googleソリューションの活用戦略~戦術策定を中心に推進。