web3と博報堂の未来 #1‐博報堂キースリーが目指していること‐
次世代のインターネットとして注目を集めるweb3。 企業がデータを独占してきた世界から、ブロックチェーンをはじめとする分散技術の活用により、ユーザー自らがデータを管理・共有する世界へと進化していきます 日本政府もweb3を成長戦略の柱に据え、ルールメイキングや新たな経済活動の推進を行っていくことを発表しました。
デジタルツイン、自律分散型社会、情報の民主化など、web3時代の到来は今の世の中に大きな変化をもたらすといわれています。
web3が社会実装された際に、生活者の暮らしやライフスタイルはどのように変わるのか。
来るべきweb3の潮流で創造される未来とは──。
「web3と博報堂の未来」をテーマに、web3の可能性や将来性を探っていきます。
初回は博報堂キースリー 代表取締役社長の重松俊範と、同取締役COOの寺内康人に、博報堂キースリーの事業紹介やweb3ハッカソン事例について話を聞きました。
web3の事業を企業と一緒に創る組織を目指す
──はじめに、博報堂キースリーを設立した経緯について教えていただけますか。
- 重松
- 博報堂キースリーは、博報堂と日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」の渡辺創太さんとともに、2022年12月に設立しました。
ボードメンバーには私と寺内のほかに、社外取締役として渡辺創太さん、博報堂ミライの事業室チーフプロデューサーの佐野拓海などが参画しています。
従来の広告会社では、リアルとデジタルの両面で映像やグラフィック、ノベルティ、イベント、SNS広告などのクリエイティブ制作を行ってきましたが、ブロックチェーンやNFT、メタバースといった技術が台頭してきたことで、web3時代にふさわしい広告会社が求められるようになると考えています。
博報堂キースリーは、web3のプロジェクトを企業と共に立体的に進め、一緒にweb3の可能性を創造していける組織を目指しています。
- 寺内
- 博報堂キースリーのビジョンとして「日本から世界を代表する web3サービスを生み出す」というのを掲げています。
既存のコンテンツやアセットをweb3と掛け合わせ、企業のweb3案件をサポートし、ひいては日本にweb3のエコシステムを根付かせ、発展させることが使命だと考えています。
スティーブ・ジョブズがiPhoneを作り、スマートフォンが世界中に使われるようになったことで、モバイル化の動きが生まれたように、誰もがweb3に参加でき、今よりも生活者が豊かになるような社会の実現に寄与していきたい。そう思っています。
──博報堂キースリーの手がける事業はどのようなものがあるのでしょうか?
- 重松
- 博報堂キースリーのソリューションとしては3つの柱があります。
まず1つ目はweb3ハッカソンの企画・運営です。
博報堂ならではの企画力やクリエイティブ力、そして大手企業とのネットワークに加え、Astarを通してグローバルのweb3エンジニアにアプローチできるため、クライアント企業の新規事業としてプロトタイプを作るのに、ハッカソンが非常に効果的だと言えます。
直近ではトヨタ自動車協賛のもと、web3グローバルハッカソンを開催し、国内外から多くのデペロッパーが参加しました。
2つ目は、DataGateway社と共同開発した企業向けデータウォレットサービス「wappa」です。
近年ではGDPR(EU一般データ保護規制)やクッキーレスなどのように、個人情報保護の観点から、企業における個人情報の取り扱いがしづらくなっている状況にあります。
このような社会背景は、データの利活用を生業とする広告会社にとっても死活問題であり、将来的に変化を余儀なくされる可能性も多分にあるだろうと感じています。
そうしたなかで博報堂キースリーが目指すのは、企業が個人情報を扱わずとも生活者(=顧客)と情報伝達やプロモーションのやり取りが可能な「データウォレット」というものです。
web3ではデータ所有の主導権が企業から個人へと移行する「データの民主化」が根幹となっていて、個人が自身のデータを管理する時代が訪れるといわれています。
従来の銀行口座や証券口座は、目的に応じていくつも開設している人が多いかもしれません。
同様に、データウォレットも暗号資産の取引用やNFTの保有用など、用途によってさまざまなウォレットを開設するようになると捉えています。
個人がウォレットを通じて、さまざまなデータを自ら管理できるようになる。
一方、企業もユーザーの個人情報を取得することなく、所有NFTや購買データをwappa上で参照し、ある一定の層にターゲットを絞ってアプローチすることができるようになる。
こうした仕組みを構築し、サービスとして提供するのがwappaになります。
3つ目の柱が2023年3月末から始動した「KEY3 STUDIO」です。
大手企業とweb3スタートアップのハブになる「KEY3 STUDIO」
- 重松
- KEY3 STUDIOは、web3領域の専門的な知識や技術、ノウハウを持つweb3スタートアップを中心とした専門家集団で、大手企業のweb3プロジェクトを、設計から実行までワンストップで支援する座組みとなっています。
KEY3 STUDIOに参画するスタートアップは、ブロックチェーン技術を用いたプロダクトやコンテンツづくりに長けた開発企業に加え、web3領域のコンサルティングやBizDev、コミュニティビルディング、NFTの発行やプロモーションなど、各企業ごとに専門分野や得意分野を有するのが特徴です。
私自身、web3関連のイベントやミートアップにも足を運び、これまで多くのweb3に関わる起業家や技術者、NFTプロジェクトなど、多くの専門家にヒアリングを重ねてきました。
その中から博報堂キースリーと親和性が高く、将来性のあるスタートアップとタッグを組んでおり、大手企業のweb3に関するさまざまな課題やニーズに合わせ、最適なチームをアサインし、プロジェクトチームを組成する体制を構築しています。
web3の領域は具体的なユースケースが少なく、とりわけ大手企業の場合はweb3領域のプロジェクト立案や運用、プロダクト開発の経験を持っている社内人材がほとんどいないのが現状です。
何かweb3の事業を始めてみたいと思っても、web3に特化した企業情報が不足していたり、どの企業と組めば最適なのか判断できなかったりと、大手企業はプロジェクトを推進するパートナー選びに課題感を抱いています。
他方、web3スタートアップも非常に優秀で技術力が高いところが多いにもかかわらず、大手企業とのコネクションがなく、事業成長にドライブをかけられないといった課題が顕在化しています。
そこでKEY3 STUDIOが、web3企業と大手企業の出会いを創出し、面白い仕事やプロジェクトを生み出すハブになれたらと考えています。
大手企業はKEY3 STUDIOに参画するweb3スタートアップに向けて、コンペ提案をすることができる一方、web3スタートアップも特定の企業に対して企画や協業といった自主提案も可能な仕組みにしていく予定で、両者のニーズをマッチングさせるプラットフォームを目指し、KEY3 STUDIO発のプロジェクトを生み出していきたいですね。
トヨタ協賛のweb3グローバルハッカソンを開催した背景
- 重松
- web3における世界的なトレンドとして、Ethereum(イーサリアム)やPolygon(ポリゴン)、Solana(ソラナ)といったブロックチェーンが主催するハッカソンが多く開かれていて、そこに優秀なエンジニアが集い、web3サービスを開発していくのが主流になっています。
例えば、日本でも“Move to Earn”(歩いて稼ぐ)という仕組みが大きな話題を集めた「STEPN」も、実はハッカソンから生まれているNFTゲームなのです。
つまり、クライアント企業とweb3領域のビジネスを新しく作っていく場合、数週間から数ヶ月というスパンの短期集中型でプロトタイプを開発するハッカソンが、最善な選択肢として挙げられるわけです。
博報堂キースリーの強みは、ユーザー、スポンサー、エンジニアの三方よしのハッカソン開催テーマを定める企画力があること。
博報堂ならではの「生活者発想」と「クリエイティビティ」を活かし、スポンサー企業の本質的な課題を捉え、それを解決するためのテーマを、web3の視点を加えた形で設定できるのが、優位性につながっています。
また、Astar Networkのグローバルコミュニティを活用し、オンラインでハッカソンを開催することで、世界中から優秀なエンジニアを集められるのも特徴です。
開発者のモチベーションが上がり、技術的にチャレンジしたくなるテーマを選定するために、スポンサー企業が提供したい価値、解決したい課題をヒアリングし、それを具体化していきます。
ハッカソン実施後も、入賞チームの開発したサービスのブラッシュアップを行いながら、法人化や出資、買取を検討し、正式なリリースを目指すプロセスになっています。
- 寺内
- 博報堂キースリーが2022年12月に立ちあがり、web3での企画を模索している中で、
トヨタ自動車の新規事業開発部と、既存のクルマ以外で何かweb3のプロジェクトを立ち上げたいという話から、今回のweb3グローバルハッカソンの開催が決まりました。
ハッカソンテーマに据えたのは「企業内プロジェクト向けのDAO支援ツール開発」というものでしたが、これはトヨタが「KAIZEN」や「KANBAN」、「JUST IN TIME」などの業務効率化手法を編み出し、業務改善に取り組んできた文化を持っていたから。
web3時代の新しい業務効率化サービスをエンジニアと作り、企業内プロジェクトのメンバーの自律的な活動や意思決定を促進する「DAO型組織」の運営に役立てられるようなツールの開発をハッカソンで目指しました。
──ハッカソンには、日本以外にアジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどさまざまな地域から数百名超の参加があり、完成度の高い作品が多かったそうですね。
- 寺内
- DAOは、プロジェクトの管理や運営に透明性を持たせることができる自律分散型の組織として注目されていますが、ガバナンストークンを発行して投票する仕組みだったり、スマートコントラクトによる組織独自のルールを設定したりと、web3の専門的知識が問われるのが、企業側にとってもハードルになっています。
そんななか、今回のハッカソンで入賞したチームは、web3の知識がなくても、プロジェクトの管理やDAO組織の立ち上げ、トークンによる意思決定などが簡単にできる体験を作品に落とし込んだものが多かった。
UIUXやユーザビリティにも優れていて、「トヨタの働き方を変えよう」という思いが各プロダクトからも伝わってきましたし、ハッカソンを通じて大きな学びと成果を得ることができました。
web3時代の新たな広告会社として事業推進に貢献したい
──今後の博報堂キースリーの展開について、最後に教えていただけますか。
- 重松
- 博報堂には多くのクライアントがあり、「web3に興味があって何かやってみたい」、「NFTを絡めたプロモーションを行いたい」といった要望があれば、博報堂キースリーに相談するという流れを作っていきたいですね。
これまでの販促やマーケティングとは異なり、web3の潮流を捉えた新規事業や取り組みを、クライアントとともに生み出し、web3の社会実装に貢献できればと考えています。
- 寺内
- クライアントがweb3でやりたいこと、解決したいことを汲み取り、博報堂キースリーの最適なソリューションを提案していけるように尽力したいと思います。
web3ハッカソンやKEY3 STUDIOといったプラットフォームはあるので、いかにユースケースを作れるかが、これからの鍵になってくるでしょう。
提案先に関しても、国内の拠点のみならず、博報堂の海外拠点も視野に入れながら、多くの企業とweb3プロジェクトを推進していきたいです。
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博報堂キースリー
CEO / 代表取締役博報堂キースリー代表取締役社長。読売広告社の上海支社と台湾支社を立ち上げ支社長に就任。その後webベンチャー企業やXR企業に取締役として参画、VR空間でのバーチャルイベントPFを立ち上げ、2023年1月より現職。
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博報堂キースリー
COO / 取締役デジタル専業代理店、外資系広告会社を経て、14年博報堂入社。
多くの企業のDX関連業務のプロジェクトマネジメントを経験し、KEY3の立ち上げに参画。