おすすめ検索キーワード
「社会実装が進むデジタルツインと今後の可能性」【Media Innovation Labレポート.28】
TECHNOLOGY

「社会実装が進むデジタルツインと今後の可能性」【Media Innovation Labレポート.28】

昨今、仮想空間、メタバースと共に注目を集めているキーワード「デジタルツイン」。
さまざまな企業のビジネス活動において関心が高まっているほか、マーケティングへの利活用も始まっています。その市場の概要や世界の動向から、マーケティングビジネスにおける可能性まで、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)の永松範之と江口英里に、ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞いていきます。

■現実環境の“ツイン”をつくり高度なシミュレーションを行う「デジタルツイン」

田代
メタバースについては多くの人がおおよその概要を理解していると思いますが、私自身、「デジタルツイン」についての認識は正直あいまいです。デジタルツインが何を指すのか、改めて教えていただけますか。
永松
インターネットに接続したデバイスなどを使ってフィジカル空間(現実空間)でデータを取得し、それをもとにサイバー空間(仮想空間)に環境を再現することで、モデリングやシミュレーションが可能になる仕組みを指します。もとは2002年当時、ミシガン大学のマイケル・グリーブス教授によって広く提唱された概念なのですが、その後ネット環境が発展しIoTデバイスも普及してきたことで、よりこうした環境の実現性が高まり、広く使われるようになったという経緯があります。

もう少し具体的に説明すると、まずフィジカル空間のリアルタイムデータをIoTのセンサーなどを通して取得します。それをベースに、フィジカル空間と同じ環境をサイバー空間に構築し、そのデータの分析やシミュレーションを実施。その結果をフィジカル空間にフィードバックし反映させることで、フィジカル空間の改善などに役立てるというものです。
「メタバースと何が違うのか?」と疑問に思われるかもしれませんが、デジタルツインの場合、現実環境を再現した空間であることが前提で、その目的はあくまでも現実世界のシミュレーションにある。一方でメタバースは、必ずしも現実世界と同じ環境である必要はなく、人と人のコミュニケーションを主な目的としていて、そこに大きな違いがあると言えます。

デジタルツインを構成する基盤としては、サイバー空間においてはデータとそれを構築するシステム、フィジカル空間ではインフラといった要素があります。データの内容としては、センシングデータや移動データなどリアルタイムに取得可能な動的データ、そして統計データなどの静的データがあり、さらにはGIS(地理情報システム)データや3Dデジタルマップのデータなど、フィジカル空間の環境を再現するためのデータも使われます。

各技術との関連から見てみると、IoTのデバイスからデータを生成してできたビッグデータとAIや機械学習と連携することで、デジタルツインでは、適切なプロセスやリソース配分、安全性、故障の「検証」、健康状態やメンテナンスの必要性の「予測」、計画や工程管理、スケジューラーなどの「最適化」、そして動的な「意思決定」といった業務の支援が可能になるのです。

田代
なるほど。市場としてもデジタルツインはいま非常に伸びているんですよね。
江口
はい。今年の市場規模は111億ドルですが、2030年には1599億ドル、日本円で20兆円以上(出典:Grand View Research,2022)が見込まれていて、非常に成長率の高い市場とされています。特に大きく成長しているのは製造業、自動車・航空業界です。製造業では生産ラインの設計や管理に、自動車や航空業界では車両や機体の設計、自動運転などの走行シミュレーションにデジタルツインのシミュレーション技術が使われています。IoTやAI技術の発展によりエネルギー、ヘルスケア、小売りといった業界でも大きな成長が見込まれています。

■データ収集技術とソリューション技術の進展で広がるデジタルツインの活用領域

田代
世界各国ではどのようにデジタルツイン技術の開発が進められているのでしょうか。
永松
各国とも政府によって開発が後押しされていますが、特に中国では国家レベルの研究開発が大々的に推し進められています。AIや5G、ブロックチェーンなどの技術と並ぶ主要なデジタル技術としてデジタルツインを位置付けていて、たとえば河北省政府は雄安新区に3D都市基盤を構築し、デジタルを駆使したハイテク都市の開発にデジタルツインを利用しています。米国では、連邦政府が基盤技術の研究を推進しており、それをもとに州政府が実証実験などを行っております。2016年には官民パートナーシップによる研究機関ネットワーク「Manufacturing USA」が発表され、技術開発が進められています。たとえばニューメキシコ州では、2045年までに100%再生可能エネルギーへの転換を目指すというニューメキシコ・エネルギー転換法の達成を目指し、工業都市のアルバカーキ市をデジタルツイン化。気温やエネルギー使用量などのデータを継続して可視化する実証実験を行っています。日本でも、政府がSociety5.0の実現のために官民連携のデジタルツインプロジェクトを推進していて、「Project PLATEAU」という、博報堂DYグループも参加する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトが進められています。
江口
「Project PLATEAU」ではソーシャルディスタンスの判定や人流解析、混雑状況の分析など、実用性の高いプロジェクトが多数走っていますね。
田代
各国でそれほど活用が広まっている背景には何があるのでしょうか。
江口
理由は2つあります。
1つ目は、データの収集技術が発展しているということ。
データ収集やデータの可視化に特化した企業や、独自のデータ収集デバイスを開発する企業が台頭してきています。たとえば、あるテクノロジー企業は赤外線センサー搭載の3Dカメラで空間を撮影し、3Dモデルを生成。ダッシュボードでそのモデルを可視化し、空間の状況や情報の共有を可能にしていて、不動産業界の3D内見などに活用されています。他にも、肩に載せて歩いたり台車型のものを人が操縦するなどして、人力で施設内のデータを集めるという独自デバイスを開発している会社もあります。このように簡単な方法で3Dデータを収集、可視化、共有できる技術の進展が、デジタルツインの発展にも貢献しているわけです。

2つ目は、デジタルツインを実現するソリューション、特に業界に特化したソリューション技術が誕生してきていることです。
専門性のあるデータの収集、専門的なデータ蓄積による分析力に長けた業界特化のソリューションプロバイダーも台頭してきており、デジタルツインの発展に貢献しています。たとえば医療分野において、患者のMRIの3Dスキャンデータをもとに心臓の構造や特性を表示し、3Dデータで表示。手術前のシミュレーションに利用することで、手術時間の短縮や成功率上昇につなげる取り組みを行っている企業もあります。自動車業界においては、車同士の衝突の可能性や、悪天候による視界不良時の様子をリアリティある映像で再現し、シミュレーションを通して事故を回避するといった活用も進められています。

田代
活用方法として、特に注目しているトレンドなどはありますか。
永松
もともと製造業を中心に活用が進められていたものですが、最近の活用例を見ていると、CO2の排出量削減のためだとか、災害時にどう対応するかといった、社会課題や自然環境の課題に対応するための活用がトレンドになっていると感じます。また、宇宙開発において探査機の挙動や動作を確認したり、ロケットエンジンの動作テストを行うなど、人が直接携われないような環境でのシミュレーションの検証においての活用も、今後ますます進んでいくだろうと考えています。
江口
確かに、業務効率化といった側面だけでなく、社会の安全を守るといった目的のための活用が広がっていますね。たとえばあるテクノロジー企業は、都市に関する膨大なデータを持っていて、気候変動による災害が起きたときに、企業に対してどういうリスクがあるかを教えてくれるソリューションを開発しています。実際に熊本市でも実証実験を行うなど、災害時にどう対応できるかを非常にリアリティをもってシミュレーションできるのがデジタルツインを活用する大きな強みだと感じています。
いずれにしても、デジタルツインは社会実装がすでに結構進んできている。幅広い業界での活用も見込まれていて、今後見逃せない大きな領域だと感じています。

■現実空間のリアルデータを活用する強みを、マーケティングの高度化に活かしていく

田代
広告・マーケティング領域ではどのように活用されているのでしょうか。
江口
デジタルツインを活用した新しい店舗体験づくりの事例をご紹介します。たとえばあるアパレルブランドは、テクノロジー企業のソリューションを使い、店舗を3D化。女優さんと一緒に買い物しているかのような体験をサイバー空間で再現しています。コロナ禍を受け、オンラインにおいてもリアリティがあって使いやすいバーチャル店舗が注目されるなか、よりリアルに店舗の状況を再現でき、購買につなげるというつくりになっている。新規性があり面白い取り組みだと思います。メディア領域においては、キング牧師やマリリン・モンローといった故人を、3Dモーションデータを使って再現する取り組みも行われていて、キング牧師のスピーチを映像化したり、マリリン・モンローが最新ファッションをまとった写真を雑誌の表紙に使うなど、新たなユーザー体験を創造しています。広告領域においては、空撮した大量の写真データからCM動画のクリエイティブをつくったり、モデルのデジタルツインをつくって撮影時間の短縮を図るなど、物理的な制限にとらわれないタレント活動を実現する取り組みにも活用されています。
永松
屋外広告での広告効果測定や、脳の活動をデジタルツイン化し脳の反応をシミュレーションするといった取り組みも進められています。商業施設などでウィンドウを見た人がどう反応したか、感情がどう動き、好感度や購入欲求がどう動いたかといったことまで予測できるという話もあります。広告領域においては今後さらに期待したい動きですね。
田代
確かにそうですね。
ではこれからの方向性について、お2人の見立てを教えてください。
永松
改めて現状を整理すると、まずはセンサーの進化でさまざまなデータをリアルタイムで取得できるようになり、地理空間や建築物の3Dマップ化、製品の3Dコンテンツ化の精度向上など、データの収集・活用が進展している。さらに、AIによりシミュレーションが高度化し、サイバー空間でのシミュレーション状況がリアルタイムに可視化されるようになったほか、フィードバックされた内容を受けての迅速な意思決定や業務最適化・効率化につながるなど、デジタルツインを実現するソリューションも進化しています。こうした現状を受け、今後はさまざまな分野での活用がますます進展するだろうと考えます。

そのうえで、具体的にどういう方向性が考えられるかというと、まず得意先支援としては、サイバー空間上での商品開発や空間デザインが可能になることから、クリエイティブの開発を効率化させることができます。また地理空間や建築物、人物のデジタルツインを活用したクリエイティブを使うことで、天候や人的な制約を乗り越えて制作できるようになる。店頭でのマーケティング活動においても、購買や人の動きなどのシミュレーションに大いに活用できるのではないかと思います。メディア領域においては、フィジカル空間とサイバー空間を融合した広告・メディアの開発、屋外広告をデジタルツイン環境で分析することでプランニングや効果検証を高度化させるということも可能です。マーケティング領域においては、戦略立案やプランニングなどのソリューション開発の可能性や、生活者の行動や広告効果の把握・検証におけるソリューション開発についても可能性がありそうだと考えています。

江口
デジタルツインではリアルタイムのデータ、現実のデータが活用されているところが最大の特徴です。リアルの情報とサイバー空間を掛け合わせて考えることで、新しい広告の可能性を広げることにつながるのではないでしょうか。

またヒューマンデジタルツインといわれる領域にも注目しています。人間のバイタルデータを組み合わせた活用がより広がることで、広告だけでなく、ヘルスケア・ウェルネスなどの人の状態をもとにした活用の広がりも今後は期待できそうです。

田代
現在メタバースをベースに進められているさまざまなマーケティングの取り組みも、デジタルツインの要素、手法を取り入れることで、より高度化するということでしょうか。
永松
そうですね。広告領域では生活者の反応がつねに重要になってきますから、生活者をデジタルツイン化することで高度なシミュレーションができ、マーケティングの高度化がどんどん進んでいくのではないかと思っています。

いずれにしても、デジタルツインはもともと製造業におけるシミュレーション用途から生まれたものであり、そこから活用領域が徐々に広がってきました。必ずしも現実世界に則する必要のないメタバースに対し、デジタルツインはあくまでも現実世界がベースで、そのうえでデジタル上でのリアルなシミュレーションを行うという特性がある。そこをしっかりと押さえておいていただければと思います。

 

田代
デジタルツインの特性をよく理解し、うまく活用して、マーケティング領域の可能性を探っていくことが重要だということですね。
お2人ともありがとうございました!

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 兼Media Innovation Lab
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究室 兼Media Innovation Lab
    2018年DAC入社。先端テクノロジーや海外メディアの調査・研究に従事、新たな市場・ビジネスへの対応提案を行う。またデジタル広告業界団体「IAB」との連携を担当し、グローバルでの広告業界の潮流を捉え、HDYグループ全体へのナレッジ共有(社内セミナー運営等)を推進。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局メディアインテリジェンスグループGM兼Media Innovation Lab
    博報堂入社。テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て2019年よりメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。