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顧客の「声」がマーケティングを変える  ─VOCを起点とした「ボイス・ドリブン・マーケティング」の可能性─
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顧客の「声」がマーケティングを変える  ─VOCを起点とした「ボイス・ドリブン・マーケティング」の可能性─

「VOC」(Voice of customer、顧客の声)が、マーケティングの貴重な資産として注目されています。なぜ今VOCの価値が高まっているのか?マーケティングにどう活用できるのか? VOC分析を起点とした「ボイス・ドリブン・マーケティング」を推進する博報堂の長縄雄一郎と大津翔、日本トータルテレマーケティングの大村大の3人に、詳しく話を聞きました。

大津 翔 博報堂 ビジネス開発局 ビジネスディベロップメントディレクター
長縄雄一郎 博報堂 第三BXマーケティング局 イノベーションプラニングディレクター
大村 大 日本トータルテレマーケティング株式会社 営業本部 営業二部 次長/博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部

VOCは「金言が詰まった声」

─―皆さんは博報堂と日本トータルテレマーケティングの合同チームで、クライアント企業のVOC利活用支援に取り組まれています。このチームで取り組みを始めた経緯から伺えますか?

大津(博報堂)
私は博報堂のビジネス開発局に所属し、博報堂の強みとグループ会社のソリューションとをつなぎ合わせて新たな高付加価値のサービスを開発することに取り組んでいます。さまざまなグループ会社との連携を模索する中で、日本トータルテレマーケティング(以下、NTM)のVOC獲得力と分析力の高さを知り、その価値を博報堂のリソースとつなぎ合わせられないかと考えたんです。

大村(NTM)
NTMはコンタクトセンターと物流をドッキングさせた事業を展開しています。コンタクトセンター事業では、電話、メール、チャット、SNS、アプリなどのチャネルで、クライアント企業のお客様に対応しています。2018年に博報堂プロダクツと資本提携を結び、博報堂グループの一員になりましたが、我々が培ってきたVOC獲得の方法論やお客様の声をくみ取るスキルを博報堂のリソースと掛け合わせてシナジーを生むことができればと思い、大津さんたちと検討を進めてきました。
長縄(博報堂)
私は博報堂のマーケティング部門で、自動車メーカーやゲーム会社、スタートアップ企業などのマーケティングコミュニケーション戦略やブランド体験全般の設計を手掛けていますが、業務で得られた知見を汎用性あるソリューションにして、タテ・ヨコに広げていくことにも同時に取り組んでいます。
前職で教育関連の企業にいたのですが、そこがVOCデータ活用の先進企業ともいえる環境だったんです。お客様のリアルな声をマーケティングに生かしてきた自分の経験が、博報堂とNTMの連携に活かせるのではないか。そう考えてこのチームに参画しています。

─―そもそも、VOC(Voice of customer)とは何ですか? いわゆる「お客様の声」とは違うのでしょうか。

大村
VOCは、あらゆるタッチポイントで得られるお客様の声のことですが、一言でいえば「サービスの金言が詰まった声」です。コールセンターに寄せられる不満の中には、実はサービスや事業開発の大きなヒントになる言葉がたくさん埋まっています。近年、お客様との会話の内容がチャットログや対話ログなどのテキストデータとして大量にサーバーに蓄積できるようになり、テキストマイニング(掘削)の精度も上がって、集めた声の中からビジネスの大事な要素を掘り出すことが今まで以上に可能になってきています。

長縄
お客様の声というと、真っ先に思い浮かぶのはスーパーマーケットに貼り出されている手書きの投書のようなものかもしれません。大村さんが挙げられたチャットログや対話ログも、VOCのど真ん中です。ただ、VOCはもっと大きく捉えられると我々は考えていて、インターネットで「〇〇(商品名) 使い方」と検索してメーカーのQ&Aサイトにたどり着いた人がいたとしたら、そのアクセスログはお客様が「使い方を知りたい」と思った行動の結果であり、まさに広義のVOCです。そうした広義のあらゆるVOCをIDで紐づけられれば、顧客のインサイトや体験をかなりの深度で分析することも可能になります。

ボイス・ドリブン・マーケティングで仮説を超える

――お客様の声を大事にすることは、マーケティングの基本であるようにも思うのですが、なぜ今VOCに注目が集まっているのでしょうか?

大津
デジタル化ですべてがつながった結果、ビジネスの構造が変化しています。従来のバリューチェーンではマーケティング戦略があり商品開発があり、広告があり、アフターサービスがあって、バケツリレーのように各組織が順番に役割を担っていましたよね。それが今は、すべてがつながって動く「サイクル型」に変わっています。そうなるとマーケティングもマーケティング部門だけに閉じたものではなく、複数部門が連携して行う活動になります。
VOCの活用も同じで、これまではコンタクトセンターのお客様窓口と、マーケティング部門の消費者調査は、完全に分断された別のものでした。でも今は、お客様の声はどこからでも取れるし、あらゆる部門で活用できるようになっています。コンタクトセンターに金言が集まっているのならば、マーケティング部門や事業部門もそのデータを活用しない手はないですよね。コンタクトセンターがVOCを一元管理・分析し、あらゆる部門と接続するハブとして機能するのが理想的な組織のありかたなのではないかと考えています。

長縄
もう一つ大きな変化を挙げると、企画、開発、生産を経てお客様のもとにプロダクトが届くサイクルがぎゅっと縮まってきています。例えば自動車や生活家電は、企画から世の中に出るまで、5~10年かかるのが普通でした。でも、いまや車はソフトウェアが搭載され、スマートフォンとインターネット結線されたコネクテッドカーになりました。顧客体験を左右するのは車そのものよりも搭載されたプログラムであり、それらは数か月単位でアップデートを繰り返しています。
これからの企業は、そうしたスピード感に対応していく必要がある。そして、そのスピードで活かせる生活者のデータは、プロダクトを使っている人たちのタイムリーな声に他なりません。そこに、VOCが求められている理由があるわけです。

大村
私たちは長くVOCを取り扱ってきましたが、企業の端っこだと思っていたコンタクトセンターが、VOCという視点で見ると、企業のマーケティングの「核」になるかもしれない。このことにはNTMの中でも期待が高まっています。これまではクライアントにお渡ししたVOCデータがクライアント社内でどこまで行き渡り、どう活用されているかまでは分かりませんでした。博報堂と一緒にマーケティングの領域まで踏み込んでいくようになって、私自身もこれまで気付いていなかったVOCの新たな可能性に驚かされているところです。

──今お話に出たような、タイムリーに取得したVOCがマーケティングに活かされた事例をうかがいたいです。

長縄
あるアパレルブランドで、 EC機能のあるモバイルアプリを使い始めたばかりのお客様にアンケートを行ったケースがあります。使った直後にアンケートを送り、アプリの良かった点や悪かった点を自由なフォーマットでフィードバックしてもらいました。そのVOCを分析した結果、「商品を探すプロセスで使いにくさを感じている」ことが分かったんです。すぐに導線や検索性を改善したところ、離脱率が減少し、売上アップに直結しました。
大津
このケースのポイントは、「検索プロセスの、このあたりが使いづらい」という、定量調査では言語化するのが難しい感覚を声として取得できた点です。それも、まだ記憶がはっきり残っている利用直後にアンケート依頼を送付したことで、よりリアルなVOCを獲得することができた。
長縄
そうなんです。3か月前に使ったECアプリの話を聞かれても、検索しにくくてイラっとした感覚なんて覚えていませんよね。不満を感じたそのモーメントをとらえることが、VOC獲得ではとても重要です。また、自由に入力してもらったテキストを解析して課題発見するという点もVOC活用の大事なポイントです。定量調査の選択肢は仮説そのものでもありますから、分析してもなかなか仮説の域を越えられないという課題がある。VOCは、仮説を超えた発見をもたらしてくれることがあるんです。

―なるほど、調査手法としての利点もあるということですね。アンケート以外の事例はいかがでしょうか?

大村
アウトバウンド(コールセンターの電話営業)も、質の高いVOCを獲得できる接点です。あるメーカーの依頼で、展示会に来場したあと半年以上連絡を取れていないお客様にNTMが電話をかけて状況をヒアリングし、VOCを収集したところ、思わぬ結果が判明したことがあります。通常、その状況でお客様に電話をかける目的は、「もう一度商談の場を持たせてください」と営業のリードを取ってくることですよね。でも、目的をVOCの獲得に切り替えると、もっとやれることがあるんです。「他で決めてしまったからもういいです」というお客様に、何が決め手に欠けたのか?営業がダメだったのか?商材がダメなのか?などと聞いていくことで、得られる情報は数多くあります。この時の案件では、想定していなかった競合にお客様が流れていたことと、その理由を明らかにすることができました。
大津
このケースの場合、アンケートはがきで質問を送っても、半年前のことをはっきりと思い出して書ける人はそういません。そこを実際の会話で、雑談力を駆使して相手の記憶を引き出しながら、声を拾いあげていく。ここにはNTMの専門性の高さも発揮されています。NTMはオペレーターの引き出し力が本当に強いんです! 営業につながらなさそうな方にも、ダメな理由をきちんとヒアリングし、そのインサイトを発掘して、新しい価値につなげていくことができる。
長縄
生の会話であれば、結論ありきの質問は減りますし、情報がぐっと立体的になります。今は音声のAI分析もできるようになっているので、VOCの深堀りはますます進んでいくと思います。
ビジネスの潮流はモノからコトへ、プロダクトからサービスへと言われていますが、モノを売っていた時代は「この品質で〇円なら買いますか?」というアンケートで答えられる質問が多かった。でも今は、売上からLTV(顧客生涯価値)に重視点が変化し、ユーザーもプロダクトだけでなくブランドの振る舞いや、どんな体験ができるかでブランドの価値を判断するようになっています。先ほどの事例のような「服はいいんだけど、ECアプリが使いにくいから買わない」ということが起こるのです。だからこそ、ユーザーの気持ちが動いたその瞬間の声を拾ってブランド体験に反映させていくことが非常に重要で、その取り組みにVOCは欠かせないものになっていくと思います。

3段階のソリューションで支援

――現在、自社ではどんなVOCを取得できていて、どれくらい活用できているか。一度確認してみることで、新たなマーケティングの可能性が見えてきそうですね。
「ボイス・ドリブン・マーケティング」に関心を持つ企業に、このチームではどういった支援ができるのでしょうか?

長縄
博報堂×NTMで、大きく3段階のソリューションを用意しています。第一段階として、そもそもお客様の声が取れていない企業には、コンタクトセンターやチャットボット、アプリ活用など、必要な声を獲得するための土台となるタッチポイント開発を提案します。第二段階として、声は集めているけど活用できていない企業には、取得したVOCを分析して有効活用する仕組みづくりのお手伝いをさせていただく。そして第三段階として、より一層のVOC利活用を求める企業には、各部門のさまざまな困りごとに対してVOCをどう活用できるかのコンサルテーションやプランニングを行います。第三段階は特に、博報堂のプランニング力やクリエイティビティを発揮できる領域だと考えています。

大津
第一段階から第三段階は、NTMと博報堂の役割の比重がグラデーション的に変わっていくようなイメージですよね。NTMでも企業向けのレポーティングは行っていますが、商品開発部門のコンサルテーションまではそれほど踏み込んでいなかった。今後はNTMの案件にも博報堂が入って、コンタクトセンター部門を起点に色々な部門に広がっていくプロジェクトに拡張させていければと思っています。
大村
大きくしていくこともできますし、「まずは小さく始めてみようか」という案件も、このチームでぜひ支援させて頂きたいですね。D2Cブランドや、C2Bの流れもきています。小さな突破口が、企業の意識を変えていくことにつながるかもしれません。
長縄
VOCに対する意識や活用の度合いは、企業によって差が大きいですよね。新興のアプリ会社などは、サービスリリースと同時に寄せられる生のコメントに反応しながら、アジャイルでどんどんサービスを改善しています。SNSの使い方も非常にうまい。彼らから学ぶことはとても多いと思います。

―─最後に、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

長縄
これからは行動データとVOCを行き来するマーケティングが主流になるはずです。「お客様はこういうことを求めているのではないか」と、生の行動ログとVOCを掛け合わせて発見された仮説は、企業の複数部門を横串・縦串で突破する非常に強いものとなるはず。博報堂としてはぜひそこを伸ばしていきたいです。そして改善の提案だけでなく、NTMと博報堂、両者の強みを掛け合わせて、「ECだけではなく実店舗でも売りましょう」「サブスクリプションの仕組みを開発しましょう」など、より大きなエグゼキューションにつなげていきたいですね。
大村
当社はこの10月、創業以来はじめて企業ロゴを変更したんです。お客様や従業員から親しみを込めて「NTM」と呼んで頂いていることを代表の森が汲み取って、今後も愛着をもって呼んでいただけるように、新たなロゴでNTMの文字を大きく打ち出しました。この「周囲の意見を取り込んでアップデートした」という経緯は、まさに自分たちが取り組むVOC活用施策の文脈と同じで、わが社らしいと感じています。新しいロゴのもとで、博報堂の皆さんと新しい価値を提供していくことが楽しみです。
大津
博報堂は広告コミュニケーションの会社というイメージはまだ強いですが、時代の変化の中で、僕らはクライアントのビジネスパートナーになっていきたいと思っています。そためにも、博報堂単体ではできないことも、グループ会社のリソースとつなぎ合わせて、より大きなビジネス課題の解決と支援ができる存在になっていかねばならない。その大きな一歩目が、この「ボイス・ドリブン・マーケティング」なのだと思っています。

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  • 博報堂 第三BXマーケティング局
    イノベーションプラニングディレクター
    教育系出版社で企画・制作の経験を経て、2014年に博報堂入社。食品メーカー、旅行、自動車、ゲーム、自治体など幅広い業種でコミュニケーション戦略の策定を担当。2017年より現職。オンラインとオフラインを統合した体験設計で、生活者の幸せとクライアントのビジネス貢献の両立を実現することを信条とする。
  • 大村 大
    大村 大
    日本トータルテレマーケティング株式会社 営業本部 営業二部 次長
    博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部
    2003年にNTMに入社。BtoB、BtoCのコンタクトセンター業務(ボイス、ノンボイス)・バックオフィス業務を中心に運用設計・マネジメントを実施。現在はデジアナ統合テーマにコンタクトセンターにおける次世代コミュニケーションの開拓とサービス開発を担当。博報堂プロダクツと資本提携後、2019年4月以降、博報堂グループにおける専任営業、広報として活動中。
  • 博報堂 ビジネス開発局
    ビジネスディベロップメントディレクター
    2009年博報堂入社。マーケティングセクションにて、食品・飲料、金融等、幅広い民間企業のマーケティング戦略策定を担当。12年から4年間、官公庁・自治体担当の営業セクション。官公庁の広報戦略、広報施策プロデュースや自治体のブランディング事業をプロデュース。2016年より現職。テーマ型プロジェクトマネジメントが主な担当領域。