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この一年で私たちの暮らしに誕生した「3つの新・生活空間」とは? RoomClip住文化研究所 ユーザーの投稿データから読み取る 【後編】
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この一年で私たちの暮らしに誕生した「3つの新・生活空間」とは? RoomClip住文化研究所 ユーザーの投稿データから読み取る 【後編】

スタートアップ企業に出資をし、新しいビジネスモデルを創出することを目指して活動している博報堂DYベンチャーズ。同社が2020年9月に出資したルームクリップ株式会社では、住生活の領域に特化した日本最大級のソーシャルプラットフォームRoomClipを運営しています。この一年間のRoomClipのユーザー行動データには、新型コロナウイルスの影響による生活者の住まいと暮らしの変化が如実に現れていました。この分析を行なったルームクリップ株式会社 執行役員/RoomClip住文化研究所所長の川本太郎さんに、博報堂DYホールディングス戦略投資推進室インダストリーアナリストの加藤薫がお話を聞きました。

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新しくうまれた空間に対して、企業はどんなアプローチがあるか

・Clean up スペース 清める、清潔化する 
・Activity スペース 遊ぶ、おうち○○活動 
・Storage スペース 蓄える、備蓄する

加藤
これまで、この一年で3つの新しい空間が生まれてきた、ということで、お話を伺ってきました。どれも、一時的なものというよりは定着していきそうという見立てをされていることも印象的でした。
私たちは広告会社なので、こういうデータを見ながら、では生活者に対してどんなアプローチがあるか、企業サイドではどんな使われ方がありうるか、と言ったところが大変気になるのですが、具体的なアイデアについて、こんなやり方で考えてみたいと思います。
加藤
博報堂DYグループではよく「アイデアの強制発想」という言い方をします。二つの要素の掛け合わせで発想していくやり方です。たとえば左側の縦のラインには、この一年で生まれた空間が3つ、記されています。「清める、遊ぶ、蓄える」というスペースが暮らしの中に生まれていくとすると、企業側は、まず「商品/サービス開発」だと何ができるんだろう、「生活活動提案」では・・・、「流通・販売」まわりでは・・・といった形で、この「空間×企業活動」のかけ算で、川本さんと「企業は何かできるのか」というイメージを膨らませていきたいと思います。川本さん、気になるセルはありますか?
川本
8番の、備蓄にあわせた生活活動提案は、工夫の余地がありそうですね。月初に大量に届いてストックスペースがいっぱいになり、だんだん減っていって、月末なくなって、また月初にドンと届くという、ちょっと変わった空間の使い方がうまれていますが、そのやり方にマッチした収納アイテムってまだないんですよね。右から入れて左から取る、みたいな形で仕組み化しないと、ずっと残るものが出てきてしまうのは、困る。日本人はそういう工夫が得意なので、なにかできそうだなと思ってはいます。
加藤
商品開発でというと、7番の領域で、「ローリングで消費」に合わせた押し出し式のケースとか、そういうパッケージをメーカーサイドが提供するというのもありそうですね。たとえばカートリッジ式の髭剃りと柄の関係のように、「ケースにぴったりあう商品を順番に消費していく」という行動が、別の日用品でも生まれそうですね。
加藤
Activityでいうと「遊ぶ」と「生活活動提案」の5のあたりはいかがですか? 紹介していただいた投稿写真の中に、土間スペースがありましたが、今まで、家の中に何にでもなる空間ってわりと少なかったのではないかと思います。
川本
土間自体は、もともと常に一定の人気はあって、それがちょっとずつ増えていっているという話は聞いています。完全なパブリックと完全なプライベートの真ん中の空間で、土足がOK、というイメージですね。RoomClipでDIYが全盛だった頃は、DIYをどこでやるべきか、みんな悩んでいました。ベランダでやるといっても、マンションのベランダでやると、木くずが大量に出たりしたら、それは大変。だから作業スペースが必要になってくるという意味では、土間だったりベランダをちょっと大きめに取ったりする。よく聞くのは玄関ですね。玄関をかなり広くしたり、ガレージを広くとる。そうして、家の中の作業スペースを求めた結果、男性が使っていた書斎という空間が、女性が使うアトリエに変化するといった現象も起きています。
加藤
間取りそのものが変わっていくということですね。
川本
そうですね、消費するのと違って、生み出す、育てる系のアクティビティをしようとすると、だいたい汚れます(笑)。水道が必要になったり、ちょっとかさばるものがあったりします。DIYブームの全盛期は、集合住宅の中に共用のDIYスペースがあります、といったDIYマンションを売りにしているメーカーもあって、あれは面白いと思っていたのですが、ポストコロナでは、そういうのも再び出てきそうですね。
加藤
外付けのアクティビティ空間のようなイメージですね。

企業が提供するのは「ユーザー同士のノウハウの流通をスムーズにする」こと

川本
これは販売手法にも繋がるかもしれませんが、商品を体験型のメニューにしていく、というアプローチは、すべてにおいて共通するのではないかと思います。売った後に、その商品を使った体験をコミュニティにしていくということは、昔から一部のブランドではありましたが、コロナ禍の期間を経て、はるかにやりやすくなりました。ワークショップをやるとなると、以前だったら実際に移動して集まってもらわないといけなかったことが、今だったら動画配信でもできるし、そこで完成したものをSNSでも共有できる。作った後共有してみようという行動は、アクティビティとしては広がりやすいし、それを前提にやれば、コミュニティとして廃れないと思います。
加藤
ちなみに部活のような形での「○○部presented by企業」のようなコミュニティのあり方は増えてきているのですか?
川本
これまでもずっとあるし、今、ますます皆さん旺盛にやっていらっしゃる印象です。さきほど話にでた「収納部」だけでなく、「食卓部」など、たくさんの活動があります。
加藤
企業がそこの楽しみやノウハウを提案したり、レクチャーするところも出てきているということですね。
川本
いや、そうではないんです。RoomClipでやる場合は、企業がレクチャーするというより、「ユーザー同士のノウハウの流通をスムーズにする」という観点の方がより重要かなと思っています。企業サイドのマーケターや商品開発の方が想定している使い方よりも、実際の暮らしではもっと多様なものが生まれています。生活者の方が一歩先を行っていたりする。「ちょっと聞かせてください」というスタンスのほうが、コミュニティづくりがうまくいっている印象があります。
加藤
それは、非常に重要な視点ですね。企業が「教えてあげます」じゃないんですね。企業側からすると、どうやってユーザー同士のノウハウが流通できるようにするのか、また、それを支援する仕組みをつくれるのか、そういうポイントに知恵をしぼったほうがよそうですね。
川本
サービスを運営している上で、意識していることがあります。一般的に、SNSでユーザーの投稿やUGCをシェアしてもらう際にどの欲求に訴えるのが効果的かという問いに、だいたい皆さん「自己承認欲求でしょう」と答えることが多いと思いますが
。僕の経験上では、一番効くのは「貢献欲求」なんです。人のためになりたいという欲求は、思った以上に強い。キャンペーンを設計するときに、投稿してくれたら抽選で何名様に何万円当たりますというよりも、「あなたのノウハウを人に教えてあげてください」というひと言の方が、よっぽどみんな投稿したくなるし、おざなりじゃなくて良い投稿になるという実感があります。
加藤
貢献欲求という捉え方はおもしろいですね。コミュニティが健やかで長く続いていく設計につながりそうです。一方で、貢献したい人という人は、どのくらい出現するのかという疑問を持たれる方もいそうですが、RoomClipだと、その出現数が通常より多いのでしょうか。
川本
それはありますね。よくも悪くも結果論なのですが、RoomClipが成長していくなかで、例えばフォロワーがたくさん欲しい人、有名になりたい人、お金儲けしたいといった承認欲求ベースの人は、もっと大きいプラットホームに行きました。一方で、RoomClipに残る人達というのは、そのコミュニティが好きで、インテリアの写真をきちんと見たい人、住まいの写真を共有、シェアしたい人が集まったものが一定数まで広がって、そこから拡大したので、もともとそういう貢献欲求がある人たちがスタートの段階に一定数いたんです。また、サービスサイドのメンバー内でも、「僕たちは貢献欲求で運営していきましょう」と事あるごとに明言してきたので、それが10年間蓄積した結果というのはあると思います。

暮らしのデータ活用のこれから

加藤
生活者の実際の住まいの空間の中に、様々な企業の商品が置かれたときに、その商品が暮らしの中でどうワークするのか、どうやって見えているのかというところを、リアリティのある生活者目線で捉えることができるのはなぜなんだろう、とずっと思っていたのですが、それを可能にするRoomClipの構造の秘密がわかってきました。今後の展望について、お聞かせいただけますか?
川本
サービスとして、最近RoomClipショッピングという新しい機能をリリースしました。これはいわゆるソーシャルコマースという文脈になりますが、他ユーザーが教えてくれた実例写真を見ながらモノを購入するという体験をよりやりやすくし、加速させていこうという狙いがあります。でも、ただただ人の部屋からモノが買えるというだけではなく、たとえば自分の暮らしを参考にして人がモノを買うと、その人にポイントが付与されて、そのポイントを使って新しい商品を買うことができるというシステムを作っていこうと思っています。
加藤
それは新しいサイクルがうまれそうですね。
川本
意外とやっているところは少ないのですが、我々にとって重要だと思っているのは、何気なく暮らしている自分の家が、写真を撮ってRoomClipに置いておくだけで、誰かの役にたち、別の形で資産になっていくということです。ちょっとした創意工夫や自分で吟味して選んだものを、こんなものを選んだよ、これはここで買えますよというのをインターネット上にあげておくだけで、それを見て別の人の購買活動が生まれると、わずかだけど、そこから少しずつポイントが貯まっていく。それを使ってまたモノを買える。一部のインフルエンサーでそういう生活をしている人はいると思いますが、その仕組みはもっと幅広く民主化できるかなと思っていいます。あと何よりも、自分の家にあるものの情報を、他の人も使って「楽しいです」と言われると、すごくうれしいですよね。
加藤
さきほどの貢献欲求のお話にもつながりますね。
川本
単純にマーケットプレイス事業に乗り出したというよりも、日常の創造性を応援するというミッションを掲げてやっています。自分の暮らしが、他の人の暮らしを、自分のクリエイティビティが他の人のクリエイティビティを助けていくといった連鎖をつくるというところのピースとして、この事業を位置付けています。
加藤
また、RoomClip住文化研究所としては、次の活動はいかがでしょうか。
川本
バーティカルな領域って、国やカルチャーによって、すごく特性がありますよね。レシピ、外食、ファッションなどの領域で、日本ならではの文化があるからこそ、グローバルプラットフォームとは別にバーティカルで成立し、頑張っているサービスはたくさんあります。暮らしという領域で、それは我々もできるかなと思っています。
そうした中で、まずは、日本の住生活市場に即した面白いデータを出していくということが、住文化研究所でやりたいことです。一過性のトレンドを追いすぎないように注意しながら、最近、生活者の住生活ではこういう大きなトレンドあるんですよ、と言えるように、フワフワしていないものを出したいです(笑)。ファクトと市場のボリューム感があって、企業の方が見た時にこれは役に立ちそうだなと思ってもらえるデータをつくりたいですね。
加藤
冒頭にも伺いましたが、RoomClipで半年後の暮らしのトレンドがわかるというのはすごく面白いと思いました。この記事を読まれた企業サイドの方から、そういう生活者の分析調査をご一緒できませんかみたいなお話もでてきそうですが、そういったお付き合いも可能なのでしょうか。
川本
とてもウェルカムです。生活者という言葉を、僕たちも使わせてもらっているんですが、博報堂DYベンチャーズにご出資いただいたことや、今回のファインディングスも含めて、生活者発想というものは、つながるんだなと改めて思いました。
加藤
企業のフィロソフィーが繋がるって、なんだか嬉しくなりますね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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  • 川本 太郎
    川本 太郎
    ルームクリップ株式会社 執行役員/RoomClip住文化研究所所長
    1983年神奈川県川崎市生まれ。2007年日本経済新聞社入社。大阪社会部を経て、消費産業部(現ビジネス報道ユニット)にて小売業およびインターネット産業の取材を担当。2013年Tunnel株式会社(現・ルームクリップ株式会社)にコミュニティマネジャーとして参画し、オウンドメディアRoomClip magを立ち上げる。2015年よりビジネス担当役員に就任。セールスチームを立ち上げ、住まい・暮らし関連の企業を中心にUGCのマーケティング活用を提案している。2021年にRoomClip住文化研究所を設立。プライベートでは男女二児の父で、「子供と暮らす」「植物のある暮らし」が家づくりのテーマ。
  • 博報堂DYホールディングス
    戦略投資推進室 インダストリーアナリスト
    1999年博報堂入社。営業職として菓子メーカー・ゲームメーカーなどの広告業務に携わった後、2008年から博報堂DYグループ内メディア系シンクタンク「メディア環境研究所」にて国内外の生活者調査やテクノロジー取材に従事。主席研究員として、これからのメディア環境についての洞察と発信を行う。調査分析と独自インサイトに基づく講演、寄稿など多数。2021年4月より現職。大きな産業再編が起こる中、幅広いインダストリーのこれからを洞察し提示することで、スタートアップ企業との連携を促進し、社会へのインパクトを創出すべく活動中。