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この一年で私たちの暮らしに誕生した「3つの新・生活空間」とは? RoomClip住文化研究所 ユーザーの投稿データから読み取る 【中編】
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この一年で私たちの暮らしに誕生した「3つの新・生活空間」とは? RoomClip住文化研究所 ユーザーの投稿データから読み取る 【中編】

スタートアップ企業に出資をし、新しいビジネスモデルを創出することを目指して活動している博報堂DYベンチャーズ。同社が2020年9月に出資したルームクリップ株式会社では、住生活の領域に特化した日本最大級のソーシャルプラットフォームRoomClipを運営しています。この一年間のRoomClipのユーザー行動データには、新型コロナウイルスの影響による生活者の住まいと暮らしの変化が如実に現れていました。この分析を行なったルームクリップ株式会社 執行役員/RoomClip住文化研究所所長の川本太郎さんに、博報堂DYホールディングス戦略投資推進室インダストリーアナリストの加藤薫がお話を聞きました。

前編はこちら

おうち○○というタグの多様化にみる、自宅空間でのアクティビティの変化

加藤
「この一年の社会の変化によって、私たちの暮らしに3つの新しい生活空間が生まれた」ということで、2つ目のファインディングスに移りたいと思います。「おうち○○」というキーワードが見えてきたということなのですが、これはどういうことなのでしょうか。
川本
「おうち時間」にまつわる投稿を分析していたら、面白い現象がみえてきました。毎年毎年、いろいろな新しいタグをユーザーさんが作っています。変わったタグとか面白いタグがある中で、まず、「おうち」で始まるタグが、年間でどれだけ生成されているのかというところを調べてみたら見事に増えていたのです。
加藤
データでいうと、どのような形になったのでしょうか。

川本
「おうち○○」というタグが、これまでは毎年150種類前後で一定していたのですが、2021年の調査時点では2倍になった。例えば、「おうちアウトドア」みたいなタグ自体はもっと前からありましたが、それが部活になったりするなど、「おうち○○」は、バリエーションも含めてすごく多様化しました。そしてタグの種類だけでなく、それらまつわる投稿、検索ともにも伸びています。

家にいる時間が増えたことで、当然それらは伸びるのですが、さらに細かくみていくとこんなデータもみえてきました。「おうち○○」というのは、基本的に家の中でのアクティビティ、どちらかというと余暇を表す言葉です。投稿の推移をみると、2020年は4月より5月の方が伸びている。4月はおそらく「おうち○○」を楽しむ余裕がなかった。5月になってちょっと落ち着いたから、むしろ楽しむ余裕ができて、投稿が伸びたんじゃないか。そして、1年経ってみるとベースラインが高くなり、「おうち○○」という余暇は定着していっている。そんな形で捉えています。もともとあった家庭内のアクティビティが、より傾向として伸びてきたというのが、大きな特徴かなと思っています。

RoomClipユーザーからの投稿例
加藤
具体的な投稿データでは、どんな動きが見られたのでしょうか。
川本
左側の写真では、今年の初キャンプはリビングの「土間サイト」でしたというコメントがありました。「庭キャンプ」とか、そういう投稿がちょうど2020年の5月か6月の気候がよくなる時期に、キャンプデビューはおうちの中でしたみたいな投稿がすごく出てきたというのがある。もともとアウトドアは、皆さんもトレンドをご存じのとおり、ここ数年ずっとブームです。SNSで映えるスポットがたくさん出てきたことによって、「アウトドアがインドアに寄ってきている」とも言えますし、それこそアウトドア用品メーカーがマンションを建てたりするなど、かなり融合してきていた。それが「おうち○○」で加速されたのがこの一年なのかなと思っています。
加藤
家の中でのアクティビティという視点で、他にも気になるタグはありましたでしょうか。

RoomClipユーザーからの投稿例

川本
「宅トレ」という言葉はすごく広まった印象を受けています。左2つは、家の中でボルダリングをやっている。これは非常に特殊な事例かなと思ったら、データではそれなり数があったので、取り上げるに至りました。住宅情報誌の編集長の方に伺ったところ、ボルダリングウォールっておしゃれにできるから、一戸建てのインテリアのアイテムとして採用する人が実は結構いて、それがRoomClipで再発見されたという指摘がありました。ただの飾りになっていたけど、家の中にボルダリングがあるからやろうよ、という動きがでてきたと捉えています。
加藤
右側の写真も面白いですね。テレビの前のスペースが「宅トレ」のアクティビティ空間になったんですね。次の写真はなんでしょうか。

RoomClipユーザーからの投稿例

川本
いわゆるDIYまわりの投稿ですね。この一年で、DIYの復権がおきました。実は、DIYについては、RoomClipではこの数年下落トレンドだったんです。2012年に僕たちがサービスをローンチしてから2015~2016年まで、DIYのタグは「DIY女子」のブームとともに伸びた後、みんな飽きがきたというか、当たり前になりすぎてしまいました。それが2020年にバーンと戻った。そんなDIYのタグの中でも目立ったのが、「DIY初心者」「団地DIY」といった、「これまで諦めていたけどやっぱりDIY頑張ってみよう」という意味合いのタグです。「DIY」というタグ自体は前年比1.5倍くらいに戻ったのですが、「団地DIY」は5倍程度になったので特に顕著に伸びたと言えます。
加藤
DIYのなかでも、右側の写真のように家の外にあった「砂場」のようなアクティビティを、自宅空間の中にDIYする動きも興味深いですね。
川本
そうですね。似たようなものでいうと、エンタメとして家の中で消費する「おうち映画館」にも注目しています。

RoomClipユーザーからの投稿例

川本
また、消費するのとは別に、作る育てる系のアクティビティも増えました。たとえば庭づくりや園芸、 ぬか床を始めた、おうち菜園、味噌造りなどですね。これは印象値ではありますが、余暇の過ごし方が消費から生産に、といった時代の気分も言えそうだと、社内では話をしています。
加藤
私自身もまさに、ぬか床、水耕栽培、自家製味噌など、昨年ぜんぶ手を出していて、思い当たることしかないです(笑)。このあたりは、また違うキーワードでも語られそうですね。
川本
以前からあった「ていねいな暮らし」というものに、30~40代の女性がこのところずっと親しんできたのが、もう一度リバイバルしているという捉え方なのかなと思います。それが、コロナの間の「おうち○○」と相性がよかったのでしょう。
加藤
それでいうと、「ていねいな暮らし」をやりたい人たちのかたまりがある。そこでのハウツーの情報も溢れている。でも、実際にやりやすくなるという企業側からのアプローチは、まだまだ余地がありそうですね。
川本
実際にユーザーと話していて思うのは、育む、育てることってノウハウがとても必要なんだということです。企業側でそうしたことがサポートできないか、という視点で、例えばとある通販企業では、手作り系の商品について、RoomClipユーザー向けのワークショップを一緒にやりました。モニターキャンペーンをRoomClipでやって、同時刻にみんなにインスタライブにアクセスしてもらって、その商品の使い方について講師の先生が教えるという企画をやったら、非常に反応がよかったんです。ただ、商品を消費して終わるのではなくて、その後のサポートまで含めてやるなどして、個々のお客さんの活動がコミュニティにつながっていきやすいのだと捉えています。
加藤
「おうち○○」という、アクティビティの気運がある今だからこそ、取り組みやすいと言えそうですね。

---収納・整理整頓に「備蓄」が加わった

加藤
続いて3つめのファイティングスをお願いできますか?
川本
「蓄える、備蓄する」という行動がみえてきました。

もともと、収納まわりは、RoomClipの中で超人気トピックなんです。RoomClipの中にはユーザーさん主体の「部活」がたくさんあるんですが、「整理収納部」は一大勢力で皆さん自ら、整理収納アドバイザーの資格を取ったりしています。過去のデータをみてみると、2019年に収納についての検索の山がありますが、これはこのタイミングでRoomClipがとあるテレビ番組に取り上げられて、全体のアクセス数が増えたたことに起因します。こうした経緯からRoomclip全体のアクセスが増えると、整理収納まわりも伸びるという相関は、もともと把握していたのですが、新型コロナの影響の中で、さらに定性的な変化を把握するためにアンケート調査を実施してみました。整理収納の流れで、「コロナがきっかけで新しくつくった空間、改善した空間はどこですか」とユーザーに尋ねたときに、「食品のストックを収納するためのスペース」という回答が23%にのぼりました。

また、「食に関する習慣で新しく取り入れたものは何ですか」という質問には、40%の方が、「食品の買い置き、買いだめ、備蓄をするようになった」と回答をしています。回答者ベースでみると、全体のうち4割くらいの方が食品の備蓄を始めて、また全体の2割の人は備蓄のために新しくストッカーやパントリーのような空間を増設したと答えているということがわかりました。

加藤
これは、今年の春のデータですから、昨年の春の買い占め騒動のタイミング以降、こうした意識が定着してきたともいえそうですね。投稿データではいかがでしょうか。

RoomClipユーザーからの投稿例

川本
投稿では、日用品の備蓄を始めたというコメントがあったり、ペットボトルの収納場所と方法を変えて、メタルラックごと収納した、といった写真がみられました。ユーザーさんにインタビューベースで聞いて面白かったのは、実はまとめ買い自体はECサイトの定期便で以前からやっていたんだけど、そのスペースがぐちゃぐちゃだった。押し入れの中にペットボトルが置きっぱなしになっていて、なんとかしたいと思っていて、コロナ禍で時間ができたから、家の収納を見直すときに、これはなんとかしたいということでパントリーを作った、といった話を伺いました。
加藤
順番でいうと、もともとの備蓄志向が、コロナ禍でうまれた作業時間によって、実際の備蓄収納スペースの誕生という、目に見える空間の変化にあらわれたということですね。
川本
はい、コロナ禍がきっかけで、潜在的なものが顕在化したという感じがします。さらに、ここ10数年間、世界中でも日本でも、災害の激甚化が起きています。それに伴って、家の中で必要な生活用品をストックしましょうということで、国が「ローリングストック」を推奨する流れもありました。また、もう1つの流れが、定期便、といういわゆる通販の特典サービスですね。必要なものを定期的に届くという文化が、消費環境上整ったことも後押ししたのではないかと捉えています。

RoomClipユーザーからの投稿例

加藤
左の写真は、文字も含めて相当細かく投稿されていて、とても面白いなと思って拝見していました。ユーザーの皆さんの「このノウハウを伝えたい」という熱意を感じます。こうしたトレンドはポストコロナでも続いていきそうですか。
川本
収納はノウハウの塊なので、投稿されたユーザーさんも自分の頭の整理にもつながるのかなと思います。パントリーやストッカーといったキーワードそのものでは、今年3月の時点だと顕著な数字がまだ見えていないので、コロナ後に、空間としてどのように定着していくかは、引き続き分析していきたいなとは思っています。ただ、大きな社会変動の中でいうと、コロナ禍に加えて、災害の激甚化、インターネット通販環境の整備といった、3つの社会背景の結果なので、構造変化としては非常に定着しやすいのではないでしょうか。

後編へつづく

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  • 川本 太郎
    川本 太郎
    ルームクリップ株式会社 執行役員/RoomClip住文化研究所所長
    1983年神奈川県川崎市生まれ。2007年日本経済新聞社入社。大阪社会部を経て、消費産業部(現ビジネス報道ユニット)にて小売業およびインターネット産業の取材を担当。2013年Tunnel株式会社(現・ルームクリップ株式会社)にコミュニティマネジャーとして参画し、オウンドメディアRoomClip magを立ち上げる。2015年よりビジネス担当役員に就任。セールスチームを立ち上げ、住まい・暮らし関連の企業を中心にUGCのマーケティング活用を提案している。2021年にRoomClip住文化研究所を設立。プライベートでは男女二児の父で、「子供と暮らす」「植物のある暮らし」が家づくりのテーマ。
  • 博報堂DYホールディングス
    戦略投資推進室 インダストリーアナリスト
    1999年博報堂入社。営業職として菓子メーカー・ゲームメーカーなどの広告業務に携わった後、2008年から博報堂DYグループ内メディア系シンクタンク「メディア環境研究所」にて国内外の生活者調査やテクノロジー取材に従事。主席研究員として、これからのメディア環境についての洞察と発信を行う。調査分析と独自インサイトに基づく講演、寄稿など多数。2021年4月より現職。大きな産業再編が起こる中、幅広いインダストリーのこれからを洞察し提示することで、スタートアップ企業との連携を促進し、社会へのインパクトを創出すべく活動中。