あなたのアイデアを、”ビジネスモデル”にする方法
近年の技術革新とともに社会のデジタライゼーションが進み、企業側でも生活者や社会の変化に合わせて、新しい事業開発が求められています。様々な顧客の行動や状態がデータとして取得可能になり、様々な分析がマーケティングシステム基盤上で可能になっており、国内大手企業でもそれらを活用したイノベーションに関する取り組みが次々と起こっています。しかし、社内でアイデア発想までは行われるものの、それがビジネスに結びつかないケースも少なくありません。今回は、みなさんが持っているアイデアを、ビジネスモデルへと昇華させる方法をご紹介します。
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事業アイデアにありがちな失敗パターンとは
そもそも「ビジネスモデル」とは何なのでしょうか?世の中でも様々な定義がされており統一見解のない言葉ですが、WHITEでは、ビジネスモデルを「事業が持続的に成立することを説明できる事業の全体構造」であると捉えています。ビジネスモデルの詳細については後述しますが、アイデア創出までは進めることができるものの、それを事業として説明できない、つまりビジネスモデルに書き換えることができない新規事業担当者が多いと感じています。そこには、こんな原因が存在しているのではないかと考えています。
1.戦略視点が抜けている
課題を定義してその解決策を発案するところまでは進みますが、「顧客が求めているから」という視点だけではビジネスが成立することへの回答にはなりません。どんな新規事業であっても競合や代替となるプレーヤーは存在します。その競合や代替手段と比較した時に、「なぜ選ばれるようになるのか?」「どこに自社事業の強みを据えるのか」=「戦略」を策定せずに、顧客視点のみで一点突破しようとしても、事業には結びつきません。
2.生産・開発から顧客に届けるまでの仕組みがイメージできていない
全く新しい新規事業を行う場合、既存事業とは用意すべき資材や技術が大きく異なる場合があります。また、ターゲットが異なれば、顧客に届けるチャネルやプロモーションについて自社でまかないきれない可能性もあるでしょう。自社内で生産・開発が可能なのか、難しい場合は社外のパートナーと提携するのかなど、顧客の求める価値を生み出し、届けるためのリソースについても検討しておかなければなりません。
3.マネタイズが検討されていない
顧客の課題解決を実現する手法が競合と比較して優位性がある場合は、顧客がお金を払う可能性が高くなります。またその体験が一時的な課題解決になるのか、定期的に発生するものかどうかによって、顧客からお金を受け取る方法も変えるべきでしょう。顧客のどんな体験に、どのくらいの金額が払われる可能性があり、またどんな課金方法が適切なのかについても、イメージしておく必要があります。
4.それぞれの要素に繋がりがない
1~3で示した顧客・戦略・実現性・収益性の勝ち筋が見えても、それぞれがバラバラで繋がりがなければ、事業として説明が成り立ちません。顧客の課題から始まり、その課題の解決手法、代替手段と比較しての優位性、生産・開発と顧客に届けるチャネルの実現性、そしてどの体験でどのようにお金を得るかという収益の視点が1つに繋がらなければ、ビジネスモデルとして説明することができないでしょう。
「ビジネスモデル」とは何か
前述の通り、我々はビジネスモデルを、「事業が持続的に成立することを説明できる事業の全体構造」であると捉えています。この中に含まれる「成立性」という「持続性」という要素について、その内容をもう少しだけ細かく紐解いて行きたいと思います。
「成立性」を構成する4つの要素
WHITEが考えるビジネスモデルに内包されている「事業の成立性」とは、大きく4つの視点が存在すると考えています。
①顧客視点:顧客はどのような課題を抱えていて、それをどう解決するのか
②戦略視点:その解決策は代替手段と比較して、どこに優位性があるのか
③実現性視点:その解決策を生産・開発するリソースはどこにあるのか
また、どのチャネルで・どんな方法で顧客にサービスを届けるのか
④収益性視点:どの顧客の体験価値に対して、どのようにお金を得ていくのか
アイデアから先に進むことができない新規事業担当者のお話をうかがうと、①は社内で行っているものの、それ以外の視点は考えられていないということも多いようです。この4つの視点がすべて揃って初めて、事業の成立性が説明できる要素が集まったと言えるでしょう。
「持続性」とは、「何が蓄積され、何が強化されるのか」
事業が成立するのかどうかに加えて、その事業が持続的に成長するのかという視点も重要であると捉えています。例えばCtoCのフリマアプリなどの場合は、購買データが蓄積されると顧客一人ひとりの商品ニーズも明らかになれば、商品レコメンドの精度があがって顧客一人当たりの単価が向上するだけではなく、ニーズにマッチしたBtoCの商品販売、自社オリジナルブランド立ち上げなどの新たなビジネスのためのマーケティングデータとしても大いに活用できるでしょう。事業の拡張可能性を伴った「持続性」の確からしさも重要な要素の1つとなります。
すべてが「1つのストーリー」として繋がっているのか
そして最後に最も重要となるのが、その成立性や持続性に含まれる要素が「1つのストーリー」として繋がっているのかという点です。顧客の課題を起点として、課題をどのように解決するか/どのような価値を提供するかという“事業コンセプト”があり、事業コンセプトが市場の中で選ばれる状態を創るための“戦略”を競合サービスの分析を基に明確化しながら実現可能性についても検討し、価値や優位性をマネタイズする方法を模索して収益モデルへと繋げることで、事業の成立性を1つのストーリーとして描いていく。そしてストーリーが成立するとき、事業を継続するとどのような資産が蓄積され、どのような拡張可能性があるのか、その持続可能性へと繋げていく。つまり、ビジネスモデルを描くということは、「顧客課題、戦略、実現の仕組み、収益性を繋げ、事業成立・持続のストーリーを紡いでいく」ことであると捉えています。
アイデアを、ストーリーで「ビジネスモデル」に転換していく
WHITEでは、アイデアをビジネスモデルに昇華するために、ビジネスモデルを文章として捉えるBusiness Model Syntaxというツールを用いています。
Business Model Syntaxはビジネスモデルを説明するための1つの長文となっており、長文は6つの短文のセットで構成されています。各文章内に配置されているBOXに入る言葉を検討していくことで、顧客の課題を解決するサービス“アイデア”を、持続的に成立することを説明できる事業の全体構造である“ビジネスモデル”へと組み上げていくことが可能になります。「誰の、どの課題を、どのような手法で、どんな状態にするのか」という事業コンセプトから、コンセプトが選ばれる状態を創る為の「戦略/優位性」を起点に仕組みや届け方、収益モデルを検討し、それらを束ねた「事業」を起点に持続性として選ばれ続ける理由を検討していく構成となっています。
基本的な思考プロセスは、最上段から各Boxに入る言葉を規定しながら、ビジネスモデルを組み上げていくシンプルなものですが、重要なのは「横と縦」の繋がりを意識することです。「横の繋がり」とは各単文内での整合性であり、「縦の繋がり」とは各単文間での整合性です。この2つの繋がりを意識し続けながら、各Boxを順に規定していくことが重要です。
1.事業コンセプト
起点となる事業コンセプトは、ターゲットを起点として課題、手法、ゴールの状態を記載します。ターゲットや課題は複数で検討されていることも多いですが、複数の要素から組み上げられるビジネスモデルは非常に複雑で難解なものとなります。コンセプト規定においては“事業のアイデアを、最も成功確度が高い状態として一言で表現できるか?”が重要です。
2.競合優位性
事業コンセプトの「ターゲット」と「手法」が共通する他のサービスを競合と設定し、多くの競合がいる中でも、自社が選ばれる理由を明確にするのがこの一文です。
その際重要となるのは「競合ができない、しない、追いつけない理由を言語化する」ということです。「競合より安い」ではなく、「自社にしか安くできない、競合がしない理由」も明らかにすることで競合優位性は初めて規定されます。
3.実現の仕組み
事業コンセプトの「手法」と、競合優位性を生み出すために必要なものを具体化します。
最初のBOXとなる優位性を構築する”活動”とは、例えば優位性が「小規模店舗のニーズにフォーカスした」という経理システムがあった場合、「全国の中小企業を回ることができる営業ネットワーク」が入ることもあれば、市場で最初のプレーヤーとなる場合には「成功事例の蓄積や、それに伴う信頼の構築」なども挙げられます。つまり、優位性を生み出すための基盤となる活動がここに入ります。それを実現することが自社のみで可能か、不可の場合はどこをパートナーとするか、現在想定している内容を記載していきます。
4.提供方法の仕組み
優位性が認められる「価値」を、ターゲットに届けるにあたり、どんな手法が最適なのか。
年齢が高いことが想定される場合には、インターネットではなく対面のチャネルでなければならないなど、ターゲットや事業特性に応じたチャネル選択が求められます。
5.収益モデル
この一文では、事業コンセプトの「価値」を具体的な行動(体験)に分解した上で、「収益源となる行動/体験」と「収益源」を規定します。
例えば私がよく使っているトレーニングのアプリケーションで言えば、データを記録するところまでは無料ですが、トレーナーに相談することは有料になっていて、実際お金を払っています。つまりこの場合は、「トレーナーという専門家から意見をもらえる」という価値に対して「毎月支払う相談料」が収益源となります。トレーニングの場合は基本的に目標とその数値への期限があるため、単発の相談になるケースは少ないです。このような特性を考慮すると、月額定額で一定回数利用するという方法もあれば、場合によっては相談の度に課金という方法も考えられるでしょう。
6.持続性
ここでは、事業活動が将来にどう繋がるのか、事業の発展形や成長像を規定します。具体的に記入する際には、事業の全体像を継続することによって蓄積されるものにはデータやブランド価値などが入ることが多いでしょう。それによって「成長するもの」には、同一顧客に対してアップセルやクロスセルなどでLTV向上になる、もしくは他事業に転用し新規顧客を獲得する可能性があるかどうかなどを記入してください。
Business Model Syntaxのメリット
「Business Model Syntax」を活用するメリットは3点あります。
1点目は、自身の事業アイデアの骨格、輪郭を明確にすることができるという点です。「Business Model Syntax」の文章内にはいくつかのボックスがありますが、各BOXは“基本的に1単語や1文章しか入れられない”というルールを設定しています。このルールを設けることで、自身の事業案の肝となる要素、実現したいストーリーをより鮮明に浮き上がらせることができます。
2点目は、ストーリーが明確になることによりシンプルに他者に伝えやすくなる点です。企業内で事業開発を進める中では、決裁者や関係者への事業案の報告は端的に、分かりやすく、その魅力と可能性を伝えられるかどうかも非常に重要なポイントの1つです。
3点目は、「どのような事業なのか?(What/How)」ではなく「なぜこの事業が成立するのか(Why)」を起点にビジネスモデルを検討していくことができるという点です。事業の決済者は「その事業アイデアは本当に“成立”するのかどうか」という問いを立てますが、新規事業担当者側は「顧客」やその課題を解決するための「提供したい価値」、それを「実現する仕組み」などを、それぞれ個別要素を「どのように成立させるか(What/How)」に終始しがちです。そうではなく、全体を顧客の課題を起点とした1つのストーリーとして「なぜ事業が成立すると考えているのか」について答えられる状態を創ることが、新規事業を推進していくためにも重要だと考えています。
これら3つのメリットを通じて、事業の“アイデア”を”“ビジネスモデル”と引き上げ、社内でも次のステップへと推進する状態を創ることができるのではないでしょうか。是非みなさんが考える事業アイデアを、このBusiness Model Syntaxを活用して、ビジネスモデルへと進化させてみてください。
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株式会社WHITE Business Design Division ビジネスデザイナー
宮城大学事業構想学群講師ネット系ベンチャーを経て、2008年にspicebox入社。デジタルを起点としたマスも含むコミュニケーション全体戦略や、事業戦略立案などを担当し、2017年よりWHITE入社。WHITEではBusiness Design Divisionを統括し、事業アイディアの価値検証やビジネスモデル策定、収益シミュレーションなど国内大手企業の新規事業推進に取り組む。現在は宮城大学にてイントレプレナーの教育、研究を行っている。
<株式会社WHITE>
「新しい、を価値にする」をミッションに掲げるイノベーション・デザイン・カンパニー。企業のデジタルシフトに対応した新規事業開発、イノベーション創出を独自のプロセスにより支援します。
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