ヒット習慣予報 vol.106『頑張りシェアリング』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。
令和という新しい元号もはじまり、いよいよ日本にとって記念すべき年になる2020年がはじまり1か月が経過しましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
個人的には年末年始休暇でボケた頭を懸命に回転させて1月はあっという間に過ぎ去り、2月になってやっといつもの仕事の感覚に戻ってくることができたかな、というところです。(スロースタートすぎますね)
さて、やっと頭が回り始めた年の初めのこの時期は、今年の目標を立てたり挑戦したいことを考えたりと新しいことを始める時期でもあるのではないでしょうか。
今回のヒット習慣予報のテーマは、そんな何かを始める際の新しい潮流「頑張りシェアリング」です。そもそもこの潮流に気付いたのは30代男性にありがちな悩みかもしれませんが入社時と比べて15キロも太っていることが判明するという事件がキッカケでした。特にお腹がやばいです。パーカーやセーター、大き目のコートなどの体型が隠せる服を着ることで冬場はなんとか乗り切っていますが、夏場に向けてダイエットを決意しては挫折するということを昨年から繰り返しています。そんな中々成功しないダイエットについて何かいい方法はないかとSNSで検索していると「#公開ダイエット」というハッシュタグが、なんと120万件弱も投稿されていることに気づきました。
ダイエットというと、以前であれば太っている時の写真はなるべく人に見られたくないと思い積極的にSNSで発信しようと思う人は少なかったのかもしれません。しかし最近では太っていた時の自分とダイエットを頑張って痩せた今の自分の写真をあえて並べて投稿したり、いつまでに目標●●キロまで痩せることを宣言したり、健康に痩せるために考案した1日の食事メニューの写真を投稿したりと、ダイエットしていることを隠すのではなく、そのプロセスを積極的に公開する習慣が加速しています。皆さんも人気のモデルや女優さんがジムで辛そうな運動をしている様子をSNSでみたことがあるのではないでしょうか。
「公開ダイエット」のSNS投稿数推移
プロセスを隠して達成できた結果のみをシェアするのではなく、そのプロセスも隠さず投稿する、という行動は以前ヒット習慣予報vol.59でも紹介した「シェア勉」にも通じるところがあると思います。「シェア勉」のコラムでは学生が「#勉強垢」というハッシュタグをつけて毎日のように自分の勉強の進捗状況などを共有したり、使ったノートや教科書にカラフルな付箋をつけた画像や間食のかわいいお菓子の画像などを共有するという潮流を紹介させていただきましたが、この頑張っているプロセスを共有する行動が受験勉強以外にも広がり始めているということだと思います。
この潮流はダイエットや受験勉強に留まりません。例えば、SNSで「制作日記」というワードで検索してみてください。多くの人がファッションや小物からイラストまで様々な制作物を完成品ではなく、途中経過から失敗作まで頑張っているプロセスを公開している様子をみることができます。そのような投稿に対するコメントを見てみても、「完成が楽しみです!」だったり、「そういうやり方があったんですね!真似してみます!」といったポジティブなコメントが散見され、おそらく会ったこともないフォロワーからそのプロセスを公開する行為自体が共感を集めていることが分かります。
他にも、SNSでマンガ作品を投稿して人気の作家さんが出版社の編集者さんとのやりとりをそのまま公開して、そのやりとりも含めてファンがマンガを楽しんでいる様子もみたことがあります。本を出版する前に執筆者が表紙案をSNSで公開してファンから意見を求める投稿が話題になっていたり、人気アイドルが写真集を出す前にその撮影の様子をSNSで公開することも珍しくなくなりました。もはやものをつくるうえで、一部の制作者だけで内密に制作した結果のみを発表するよりも、完成前にその制作の様子や頑張っている葛藤そのものを見せていくのは当たり前になりつつあるのかもしれません。
ではなぜ、このような「頑張りシェアリング」という潮流が本格化し始めているのでしょうか。1つ目の理由は憧れではなく共感が人々を動かす時代へと世の中の価値観が変化してきたことがあげられるでしょう。それこそ昭和のアイドルは努力しなくても完璧な美しさを保っている超人的なイメージが人を引き付けて、憧れを生み出すことでその存在を確立していた側面があると思います。しかしSNSが普及し身近な人も会ったことのない人も、いつでもどこでもその生活を垣間見ることができるようになったのが今日の社会です。完璧で手の届かない憧れのアイドルに「その超人的な結果」を見せつけられるよりも、その完璧な美しさを保つためにストイックに努力している様子を公開してしまったほうが、疑いなく(表面的にでも)その人を信頼することができるので、共感と強い結びつきを獲得できるようになっているのではないでしょうか。2つ目の理由は、「頑張りシェアリング」をすることでよりSNSでみた人が自分ごと化できるということがあげられるでしょう。完璧な結果だけ見せられても、その背景にどんなプロセスがあったのかわからないので、ミステリアスな興味はそそられるかもしれませんが、自分ごと化することはできません。そのプロセスを公開してもらえるからこそ、「自分でもこの部分だけはマネできるかも!」だったり、「明日から憧れの存在に近づくために自分もこれくらい頑張ろう!」といったように自分に置き換えて考えたり反応したりすることができるのです。
世の中が加速度的に進化して、分かり易い1つの正解がなくなったと言われる時代だからこそ、完璧な結果を追い求めて一人で頑張るのではなく、未完成であってもその頑張りや葛藤を含めたプロセスをシェアすることで共感をあつめて、SNSでつながった顔も知らない誰かと目標を達成するために頑張っていくことが大切になってきたのかもしれませんね。
最後に、「頑張りシェアリング」のビジネスチャンスについて、少し考えてみたいと思います。
「頑張りシェアリング」のビジネスチャンス例
■ 頑張りたいことをカテゴリーごとにシェアできるアプリを開発(マンガ、アート等)
■ 取り組みのプロセスをみて投資を決めるクラウド“プロセス”ファンディング
■ 「頑張りシェアリング」しているSNS投稿を解析して、悩みと解決策をオンライン辞書化
など。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 PR局
ヒット習慣メーカーズ メンバーPR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。車からお菓子に至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。