キャッシュレス化がもたらす生活者体験の変化とは? 【第3回】「Place」を劇的に変える、「どこでも決済」
博報堂金融マーケティングプロジェクトでは、「キャッシュレス化が進展した先にどのようなサービスが生まれ、生活者体験が変化していくか」を洞察するために、日本に先行してキャッシュレス化の進むアジアや欧米圏の国々のキャッシュレスサービス事例を収集・分析しています。
本連載では、プロジェクトメンバーである3名から、事例収集を通じて見えてきた生活者体験の変化の可能性について、全4回にわたってご紹介します。
■キャッシュレス決済による「どこでも決済」が、「Place」の概念を消した
前回も述べているように、流通側、店舗側にとっては、現金には目に見えない管理コストが発生します。
盗難、紛失のリスクを回避するため、扱える人や場所を限定することが一般的です。
地理的制約だけでなく、管理コストも含めて、店舗展開を考慮しなければなりませんでした。
生活者側から考えれば、どんなモノ・サービスも、思い立ったらすぐに利用できれば、こんなにいいことはありません。
キャッシュレス決済は、こんな願いを現実のものにするツールなのです。
たとえば、今では一般的なECサイトでの購買。
クレジットカードやプリペイドカードといったキャッシュレス決済手段を利用することで、自宅で、電車内で、場所を選ばずに購買できるようになりました。
こうしたキャッシュレス決済の機能を、金融マーケティングプロジェクトでは「どこでも決済」と名付けました。
今や、生活者はほとんどの商品、サービスをインターネット上で入手・契約できます。
言い換えれば、マーケティングの4P(Product/Price/Promotion/Place)における「Place」は、どこからでも購買できることを前提に設計する時代になりました。
今回は、「どこでも決済」について、金融マーケティングプロジェクトの水上が考えていきます。
■「どこでも決済」は、顧客体験に心地よさを創出する
ここからは、「どこでも決済」が実現した、サービスの一例を見ていきましょう。
まずは、タイのアパレルメーカー「Pomelo.」。
ネットで購入した服を、Pomelo.の直営店舗とパートナー店舗で受け取れるサービスを展開しています。
また、返品は無料でできるので、実際に着て合わなかった場合は、返品もできます。
このサービスが画期的なのは、Pomelo.直営店舗でなくても、受取場所にできること。
衣料品店以外では、喫茶店も受取場所に選択されています。
支払いを店舗外で済ませることによって、出店場所の制限をなくし、利便性を高めています。
いわば取り置きの拡張版ともいえるこのサービス。
自分の都合で受け取りができるぶん、在宅するプレッシャーもなく、より心地よいとも感じます。
もう一つは、最近日本への進出意欲も示している、アメリカのLime。
自転車と電動キックボードを街中で自由に乗り降りできるサービスです。
利用者の手元で決済ができることで、決済のために専用の機械やスペースを設置する必要がなくなりました。
つり銭の管理も不要なので、各拠点を回って小銭を補てん、回収する手間もなし。
結果、利用者が返却場所などを気にせず、自由に乗り捨てられる仕組みとなり、利便性が飛躍的に向上しました。
■「どこでも決済」が創る、進化した顧客体験
「どこでも決済」は利用者が増えても、決済に時間や手間を取られないため、サービス提供に集中できるメリットがあります。
特に、短時間に多くの人が集まる場所で活用すると、人が多い中でもスムーズに買い物ができます。キャッシュレス決済に大きな可能性を感じます。具体例として、それほど遠くない未来の、ある野球場での出来事を見てみましょう。
野球観戦にやってきたAさんとその友人たち。
現地でチームを応援することを、とても楽しみにしてきました。
「のどが渇いたな」
「球場の名物グルメ、食べてみたかったんだよね」
球場での飲食は、観戦の醍醐味。
しかし休日ということもあり、球場は超満員です。
売店はどこも長蛇の列で、並んでいては試合を見逃してしまいそうです。
そこでAさんがスマホを取り出します。
起動したのは、球団公式の専用観戦アプリ。
球場の全メニューが一覧化されており、自由に閲覧、注文もできます。
Aさんたちは、アルコール飲料やジュース、弁当などを注文しました。
試合が始まってしばらくすると、専門の配達員がAさんたちの席まで注文品を届けてくれました。
これまでは、席の間を歩いている販売員から、あるいは所定の売店で、飲食物を購入していました。
しかし、近くに販売員がいないときは注文できません。
また、時間帯によっては売店にお客さんが殺到し、試合の合間に食事を買いきれないこともありました。
このサービスなら、お客様が都合のいいタイミングで注文し、
お店側も都合のいいタイミングで提供することができます。
「支払いはどうすればいい?」と友人に聞かれ、
Aさんは「後で皆に送金依頼をするから、それで払ってよ」と答えました。
このアプリでは、登録したメールアドレスやSNSアカウントに、
合計金額を人数で割った額を請求する(割り勘する)こともできます。
「これまでは小銭が必要で面倒だったけど、気にせずに買えていいね」
これまでも楽しかったイベントが、より快適に楽しめるようになりました。
実は、海外のスポーツ会場では「席で注文し、席に届ける」仕組みが実現されています。
「どこでも決済」できることで、体験の質を向上することができた好例です。
日本のスポーツチームでも、キャッシュレス決済での事前注文(※)に取り組んでいるところがあります。
※事前にオーダーして、できあがった後に自分で受け取りに行くスタイル。
こうした、楽しさを増幅させるツールとしてのキャッシュレス決済体験は、
日常的な利用への第一歩につながることも期待されます。
キャッシュレス決済はあくまでも手段に過ぎません。
博報堂金融マーケティングプロジェクトでは、キャッシュレス決済を活用し、生活者や、様々なクライアント企業の課題解決をサポートしていきます。
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博報堂 第二プラニング局
ストラテジックプラナー
金融マーケティングプロジェクト メンバー2016年、博報堂入社。入社以来、マーケティング職として、飲料、食品、コンテンツ、金融業などを担当。保険、銀行、キャッシュレス決済といった金融関係のクライアントを幅広く担当していることから、金融マーケティングプロジェクトに参画。特に専門としている領域はキャッシュレス決済で、事例収集と並行して実際に体験することを大事にしている。
旅行、スポーツ観戦が趣味で、支払い履歴を後から確認できるキャッシュレス決済サービスは重宝している。