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CES、スーパーボウルに見るエンタメテックの可能性 ~イノベーションサロンVol.2~
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CES、スーパーボウルに見るエンタメテックの可能性 ~イノベーションサロンVol.2~

2月下旬、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が主催する「イノベーションサロン」の第2回が開催されました。(1回目の様子はこちら
エンタテインメントテクノロジーの最前線では何が生まれているのか――。コンシュマーテクノロジーの世界的な見本市である「CES(コンシュマー・エレクトロニクス・ショー)」と、アメリカンフットボールリーグNFLの頂点を決める試合で、“エンタメ×テクノロジーの実験の場”とも呼ばれる「スーパーボウル」を通じて見えてきたトレンドについて、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 加藤薫と、エンタテインメントビジネス局 矢木野桂一郎、クリエイティブ&テクノロジー局 森永真弓の3人が講演しました。

■メディアのインターフェースが変わる

今回は今年1月にラスベガスで開かれた「CES 2019」と、2月4日にアトランタで催されたスーパーボウルを主なテーマに、「エンタメ×テクノロジー」について考えていきます。まずはここ数年、“エンタメテックの実験の場”といわれるスーパーボウルについて、矢木野から解説がありました。

ハーフタイムショーでは、マルーン5の演奏中に「ONE」と「LOVE」という文字を150台のドローンで上空につくっていた事例を紹介。スーパーボウルのライブでドローンを使ったのは今回が初めてで、2年前もドローンは登場したものの、事故が起きないようにあらかじめ録画したものを放映したとのこと。森永は「ドローンを使った取り組みは、平昌五輪のときもあった」と話し、中国では今年の春節に、深圳市で600台のドローンとプロジェクションマッピングを組み合わせた大規模ショーを行っていたと紹介しました。

加藤からは、2017年のCESで注目されたスマートスピーカーと音声AIアシスタント活用が、今年のCESでは、家電に音声AIアシスタントを内蔵する方向に発展し、ボイスユーザーインターフェース(VUI)として引き続き盛り上がっていたと解説しました。VUIの市場データについても触れ、「グローバルではアメリカが圧倒的で、2018年1クォーターから中国が一気に増え、今では10%ほどが中国。その次が英国となっている(出典:Canalys社調査レポート/2018年11月)。またアメリカでは2018年12月末の時点で18歳以上の世帯の21%に普及しているというデータが出ています。VUIを複数台所有する人が増えてきているというデータもある」と解説しました。

(出典:NPR Smart-Audio-Report-Winter-2018

CESの主催者によると、家電内蔵型の音声AIアシスタントを除いた今年のスマートスピーカー単体での市場の伸びは、前年比7%程度になるとのこと。さらに今年は内蔵型の音声AIアシスタントを「Built-in」と表示する企業展示が増えていたと紹介しました。事例として、電子ピアノや家電に搭載しているケースや、中国・韓国系の冷蔵庫のハイエンドモデルにはタッチパネルにVUIが付いており、レシピ検索が可能になっていたことを挙げました。

ほかにも、ディスプレイ付きのスマートスピーカーではキッチンで使えるよう耐水性があるものや、リアルタイムで米国人とイタリア人が交互に喋ったものを翻訳するデモンストレーションも行われていたと紹介。声で水圧を高めたり温度の上げ下げができるAIアシスタント対応のシャワーや、音声で鏡とスピーカーと照明を一度に連動して動作させることができる水まわりメーカーの事例も紹介しました。

■スーパーボウルの米国人の生活を映すCM

次に矢木野からはスーパーボウルのCM事例について。「スーパーボウルで流れるCMはその時のアメリカ人の生活を映す側面があります。最近のCMは音声テクノロジー周りが多いのですが、今年も特徴的なものが多くありました」とし、事例を紹介していきます。

あるスマートスピーカーのCMは、スマート歯ブラシでポッドキャストを再生しても口の中だから聴こえないという内容や、犬がワンと鳴くたびにドッグフードが出てしまうという「うまくいかない事例を自らうたったもの」や、お菓子のCMでは味の組み合わせを提案する内容で、スマートスピーカーが「組み合わせは無限にあるが、私には口がない」と愚痴るという内容を紹介しました。
さらに矢木野は「2年前に新しいテクノロジーとしてスマートスピーカーの先進性を紹介するCMがたくさん流れていたことを考えると、たった2年で大きく進化していると言えます」と話し、加藤は「スマートスピーカーを冗談にしてもいいくらい普及し、AIアシスタント便利でスマートでしょう、という描かれ方が変わってきたのは気になるところですね」と指摘。さらに、AIアシスタントやロボットをテーマにしたものも紹介され、スーパーボウルのCMの11本中8本以上がロボットやAIに関するものであったと解説しました。

■生活者を“察するAI”が大きなテーマに?

森永は、「会話型のロボットは、アジアでしか求められてないというのが面白い。欧米ではあくまで“召使い”という位置付けで、こちらの要求に対して明確に答えることを求めています。これに対して日本や中国ではドラえもんのようなものを求めている」と指摘。加藤からも、「アメリカと欧州でも違うという話も聞いたことがあります。アメリカだと完全自動化を目指して、いちいち命令しなくてもAIが勝手にほしいと考えますが、欧州だと召使いや執事の立場で「こうしますか」という提案が欲しくて完全自動化は嫌という話があった」と語りました。

加藤からはさらにCESにおいて、韓国系の企業が独自のAIアシスタントを標榜していた例や、日本企業もIoT住宅を展示していたことを紹介。CESでのスマートホームのトレンドとして「以前は防犯がメインだったが、“察する”が増えて来ている印象」と解説しました。

これに対して森永は、「過去にはCUI(Command base User Interface)の次にGUI(Graphical User Interface)があり、最近VUI(Voice User Interface)が登場した流れがあります。VUIの場合、こちらが言ったことに反応するだけだと、新たなことに偶然接触する機会がなくなって、CUIの時代に逆戻りしてしまう可能性があるんです。ユーザーに偶然接触をもたらすためにはどうすればいいかの答えとして、“察する”が大きなテーマになっていますよね」と述べました。

続いて森永は、最近平成を振り返りながらスマホについて考える機会があった際に、「最初は小さい画面をセカンドスクリーンと捉えていたが、実はテレビや街の動作のきっかけになるインターフェースなのではないか」という話になったことに触れ、スマホをメディアとして捉えずに、入出力のインターフェースとして捉えると、スマートグラスやスマートウォッチも将来的にはスマホと同様の役割を果たせるようになるだろうと指摘。加藤からは一般消費財メーカーによるIoT化した歯ブラシを挙げ、歯磨きデータがスマホ閲覧できるプロダクトがIoT化している例について話しました。ほかにもCESで肌用の小型プリンタが話題になっていたことに触れ、スキャンして肌のどこにファンデーションを塗れば肌が綺麗にできるかを自動で判別してくれるプロダクトを紹介しました。

■移動体に対してエンタメを届ける

昨年のCESでは、車体がシャトルバスやランチのデリバリーになるなど“中身が何になってもいい”という展示があり、今年はほかのメーカーも近しいコンセプトの展示があったことから「ピープルムーバー型のモビリティサービス」がカテゴリーとしてできたのを感じたと加藤。「こうしたトレンドには、5Gで移動体に対して直にコンテンツを届けられるようになるということが前提にある」と指摘したうえで、映画配給会社が自動走行車に映画配信する取り組みや、高品質スピーカー16機を搭載し、移動する車の中でも極上の音楽体験ができるという展示や、車の動きと連動したVRコンテンツの展示を紹介しました。

これらの事例のように移動体に対してエンタメを届けるという議論が始まっているなか、ラスベガスの街全体でもいろいろな取り組みをしていたことを矢木野が紹介していきます。
シルク・ドゥ・ソレイユが、マイケル・ジャクソンのホログラムを取り入れて公演していた「ONE」をみた矢木野は「感動したと同時にエンタメ×テクノロジーの活用の仕方について考えさせられました。エンタメで新しいことをしようとすると、まず新しい技術を持ってきてとなりますが、そうではなくて演出の中で必要性に応じて持ってくることが大事なんだな、と感じました。テクノロジーは使われるものではなく使うものなんだ、という意識を改めて持つ必要がある」と語りました。

さらにラスベガスではホテル「ルクソール」内にe-sports専用施設「HyperX Esports Arena Las Vegas」があり、子どもを中心に人気なゲーム大会中でも、お母さんが赤ちゃんにミルクをあげながら自分の息子のゲームを応援している姿があったり。隣ではお父さんがカジノを楽しんでいる姿があったと紹介されました。

■eスポーツが興行として成立するには

また、矢木野は2月に日本で開催された「EVO Japan 2019」について解説。EVOは北米で開催されている格闘ゲームの世界最大規模の大会で、日本大会では3日間で1万3000人の集客があったことに加えて、外国人が2割ほど参加し、決勝戦でパキスタン人プレイヤーが優勝したことも非常に話題になったと解説しました。加藤は「EVO Japanにはゲームのタイトルが6つくらいあったんですが、歴史があって有名なタイトルは、特に実況がとても良くて面白いと思いました」と話すと、森永からは「eスポーツの実況や解説をするには、それぞれの属性や得意技を全部覚えて、技がぶつかったときにどうなるかの相性を調べて、出場する選手名も覚えなくてはいけません。なので実況者には2ヶ月前から必死にそのゲームをプレイして覚えてもらう必要があり、実況者が中々集められないのが課題としてあります」と指摘しました。一方で、EVO Japanでは実況と解説の両方ができる人がお話していて、それが盛り上がりに繋がっていたと解説しました。

矢木野は昨年、NPB主催で野球ゲームのリーグがあり、今年はNPBが一見、野球と無関係のゲーム対抗戦を主催することを発表して業界で話題になっていると言及し、森永はeスポーツを興行として成立させるにはいくつかの条件があると指摘しました。一つ目は「既にプレイヤーが多いゲームであること」、二つ目は「非プレイヤーでも他人のゲームプレイの様子を楽しめること」。三つ目は、「1プレイの時間が数分程度と短いこと」だと指摘し、一試合が長くなってしまう野球やサッカーのゲームには乗り越えられない部分で、格闘ゲームだけがクリアできているところであると解説しました。

■5Gで家や移動体がエンタメ空間になっていく

最後に加藤は、2018年6月のCES Asiaにてテレビ×AIの展示があり、テレビに映っている顔をAIが自動認識して、ドラマで役者が着ている服と似た服をレコメンドするというサービス事例を紹介。「テレビのメタ情報取得を自動化する動きだと言える」と解説しました。さらに、今年のCESではテレビが8Kになったときに音声の22.2チャンネルを、テレビ側が自動で振り分けて映像を流す技術展示があり中国や韓国系のメーカーが取り組んでいると紹介しました、

森永からは、Jリーグの番組で複数の試合を1画面上に表示して解説やゲストの方がトークをするなか、得点が入ると画面を切り替えてその試合だけを映すという事例を挙げ、試合の見せ方や番組をさらに良くするためにどうしたらいいかをTwitterで随時募集している点などを紹介。「新しいスポーツの見せ方という意味ではとても面白いなと思っています。AIによる自動化の可能性も感じます」と指摘しました。

最後に加藤から、「昨年辺りからスマートスピーカーが本格化しつつあります。今後は5Gでスマートホームや移動体に、エンタメ×テクノロジーは広がっていくでしょう。これまではスマホのスクリーンの中でインプットしていたものが、スマートスピーカーを使うことでスクリーンの外でもインプットできるようになりますし、アウトプットも得られるようになります。洗面所や移動体など、今までとは違う環境でエンタメを楽しめるようになります。ここにはたくさんの企画のフックがあるように思います」と締めました。トークセッションの後は、参加者からもさまざまな意見が聞かれ、イベントは盛況の中幕を閉じました。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    メディア環境研究所 主席研究員
    1999年博報堂入社。菓子メーカー・ゲームメーカーの担当営業を経て、2008年より現職。生活者調査、テクノロジー系カンファレンス取材、メディアビジネスプレイヤーへのヒアリングなどの活動をベースに、これから先のメディア環境についての洞察と発信を行っている。2018年4月より東京大学情報学環 非常勤講師。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    コンテンツビジネスセンター戦略企画室
    電機メーカーでキャリアをスタートし、米国留学を経て2001年博報堂入社。
    ストラテジックプラナーとしてクライアントビジネスに従事したのちに事業開発業務を担当。
    現在はコンテンツビジネスセンターにおいてエンタテインメントビジネス/スポーツビジネスの開発・推進に従事。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    クリエイティブ&テクノロジー局
    通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。 WOMマーケティング協議会理事。共著に「グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか」(マガジンハウス)がある。