生活者のデータ活用で変わる健康事業の未来 ー「健康経営カンファレンス2018」レポート
去る2018年5月15日(水)、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、「健康経営カンファレンス2018」が開催されました。
「健康経営カンファレンス2018」は、政府・企業・医療それぞれの立場から健康経営の推進の一助となる貴重な情報・提言をいただくべく、複数のセッションで構成されているイベントです。ロナルド・リプケ氏によるキーノートの他、日本における社会保障制度を踏まえた健康経営の在り方、その未来について経済産業省、厚生労働省、健康保険組合連合会、健康経営研究会、日本総合研究所、それぞれの代表者がディスカッションを行うステージ、「自律」「健康課題」「データ」「リテラシー」というテーマ別に健康経営を深掘りするセッション等、健康経営の本質に迫り、個人と組織の価値最大化を目指すための有意義な情報提供を行うことが目的とされています。
本稿では、博報堂データドリブンマーケティング局の徳久真也が登壇したテーマセッション「IoTが拓く新時代~データは誰のものか~」を中心にレポートいたします。
本セッションは、モデレーターの日本総合研究所 田川絢子氏から、健康にかかわるデータ取得手段の多様化・行動の決定要因の複雑化・働き方の多様化による自律的な健康管理への注目を背景とし、保険者・企業といった法人だけでなく、生活者個人の自律的な健康管理が求められるのではないかといった問題提起から始まりました。
続いて、国として推進するデータの利活用について、「ヘルスケアイノベーション創出に向けて~データ利活用を中心に~」をテーマに、経済産業省ヘルスケア産業課の富原早夏さんの講演が始まりました。
「健康経営」という言葉ができた背景について富原さんは、以下のように語られました。
「生活習慣などに伴う内因性の疾患や複数の要因による疾患が増えている昨今、『予防』や『病気の進行を遅らせる』ということが一層大事になっており、そのためには、ご本人の生活の行動変容だけでなく、地域コミュニティや企業など幅広い主体に関与してもらわなければならないと思っております。『予防』と『進行抑制』をいかに徹底的にやっていくか。そこから今日のテーマである「健康経営」という考え方に至ります。保険者・経営者の方々に、従業員が健康でい続けることにインセンティブがあるということになかなか気付いてもらえませんでした。「健康経営」という言葉自体を経営者の方の宿題にしていくことによって、従業員の健康になり、組織の活力があがることによって、企業としても生産性があがる、この好循環を目指していきたいと思います。」
また、セッションのテーマである、IoTとデータの利活用に関して、
今後の取り組んでいきたいこととして3点あげられました。
①セキュティ体制等が整っている優良なデジタルヘルス事業者の認証・見える化
②ソリューション・ユースケースを作っていく
③デジタルヘルスケア領域が進んでいる海外への投資誘致
海外からのノウハウも取り入れながら、このような取り組みを行うことで、医療の現場、「予防」や「進行抑制」の現場においても、これからデータを活用していきたい、と語られました。
次に、博報堂データドリブンマーケティング局 徳久真也が登壇し、
「生活者とデータ~生活者を“丸ごと”捉えることで見えてくる健康事業の未来」というテーマで話しました。
「生活者とデータ」というテーマにおいて、徳久は、
「データはぶつ切りに捉えるのではなく、”丸ごと”とらえて、生活者そのものを見ていくことが重要になってくる」との考えを提示し、博報堂における取り組みについて紹介しました。「博報堂は、生活者を”丸ごと”捉えるためのDMP『生活者データ・マネジメント・プラットフォーム』という基盤を準備しており、オンライン・オフラインデータを幅広くみて、生活者を捉えていこうというアプローチをしています。そういったなかで、一つのデータだけを見るよりも、複数のデータを組み合わせて見た方が、生活者の解像度が上がってきます。」と話しました。
また、今回のテーマであるヘルスケアの分野においても、複数のデータをつないで、生活者を“丸ごと”見ていくことの重要性について触れ、それを実現する上で生活者の個人情報やプライバシーを十二分に守りながら、データをつなげる仕組みの必要性を挙げました。
その具体的な手法の一つとして、個人データを非個人情報に加工したうえで統合するデータ活用技術「k-統計化&データフュージョン(特許取得済)*1」を紹介しました。「k-統計化」は、ローデータをk=10人、100人などに圧縮して、個々人が特定されない「仮想個人」にすることでデータを外に出しやすくする方法です。k-統計化したデータは、「データフュージョン」という技術を使って、データ同士を統計的につなげていくことができます。
続いて、今回のテーマであるヘルスケア分野では、どのようなデータを組み合わせていけるか、という話題について、例えば、バイタルデータ、食事の記録、ドラッグストアでの購買記録、スマートメーターの記録などを、仮想的であってもつなげることで、健康リスク×健康行動の傾向をみつけ、個人指導の中身を変えていくことができる、と生活者データを活用することによる健康増進への期待を語りました。
「健康データ以外の生活者のデータをつなげることで、生活者の解像度を上げていく。その時に、個票データにとらわれず、統計化データを使うという選択肢を持つということも一つのアイデアになるのではないか」と提案を行い、プレゼンテーションを終えました。
地域の健康のために活動されている民間企業として、北海道を中心にドラックストアビジネス展開されているサツドラホールディングス代表取締役の富山浩樹さんが登壇され、具体的な取り組みについて説明されました。
富山さんは同社の店舗を、生活便利店でありながら健康プラットフォームを目指しており、日々接している生活者の窓口、地域包括ケアへの入り口となっていきたい、と同社が掲げる「健康プラットフォーム化構想」について、さらに、地域のお客さまの行動が目に見える形で変化につなげられるサービス設計を行っていきたい、と今後の展望を語りました。
最後に、登壇された3名をスピーカーとしたトークセッションが行われ、「健康経営におけるデータ」について討論を行いました。
データを活用して人の行動を変えていく際に何が一番重要だと考えているか、ということについて、以下のように締めくくりました。
経済産業省の富原さんは、「信頼と親しみやすさ」、サツドラホールディングスの富山さんは、「トライし続けられる環境をどう作れるか。」を挙げ、「今日のこのような場所に集まっているような様々なステークホルダーがオープンに繋がってトライできる環境をいかにつくるかが重要だと考えます。」と話されました。また、博報堂の徳久は、「やはり人間味だと思います。データにおぼれないこと。人間中心にどう考えていけるか、ということが重要なのではないかと考えます。」と、まず生活者を中心におくことの重要性を強調しました。
人々の健康という共通の目的に向かって、「健康経営」という概念を作り企業や様々なステークホルダーのモチベーション向上を目指す省庁、データをより安全に多くの人に活用してもらえるよう技術開発を行う広告会社、地域に根差した店舗特徴を活かし地域の人々の包括的なケアを行うリテール企業が集まり、三者三様の取り組みを紹介した本セッション。
産官民が個々の得意領域を活かし連携していくことで、健康分野でのデータ活用がますます広がっていく未来を予感することができた2時間となりました。
*1「k-統計化&データフュージョン」技術について
「k-統計化&データフュージョン」技術は個人情報を保護しつつ、複数のデータを統合して利活用する技術です(特許取得済み)。まず、データソース毎に個人データを加工し、k*2人以上によって構成されたマイクロクラスタを生成することで、元データの情報損失をおさえつつ非個人情報化を行います(k-統計化処理)。次に、複数のデータソースで作成したマイクロクラスタどうしで、特徴が似たマイクロクラスタを統計的に結びつけることでデータを統合します(フュージョン処理)。これら一連の処理により、個人レベルの詳細情報ではないものの、元データがもつ仔細な統計的特徴を保持しつつ複数のデータが統合されたリッチなデータが生成されます。
*2 kの数は、k=10、k=100などデータの種類や利用目的に合わせて選択します。
この記事はいかがでしたか?
-
博報堂 データドリブンマーケテイング局 第一グループ グループマネジャー2005年博報堂入社。流通・通信・飲料・食品・自動車・電気機器メーカー等、50社を超える幅広い得意先のマーケティング/事業戦略立案、統合コミュニケーション戦略立案、ブランディング、商品開発、キャンペーン開発業務等に従事。 2017年より現職。データを活用したマーケティング×メディア×クリエイティブ×ビジネスデザインの融合を目指し、新規事業開発に従事。