【コンテンツファン消費行動調査2017分析リレーコラム】#2 若年層で進むライブストリーミング観戦
スポーツにお金を使う平均支出単価は増加傾向。市場拡大の要因に。
コンテンツビジネスラボで2011年より実施している「コンテンツファン消費行動調査」では、スポーツへの視聴やライブ観戦などの支出項目を聴取しており、7年間におけるスポーツ支出への市場動向を分析することが可能です。
図1は、過去7年間の野球、サッカーに対する支出層と支出層の平均支出金額、推定市場規模をグラフにしたものです。図を見てみると、スポーツを過去1年間に利用しているという利用層は過去数年減少傾向にある一方で、支出層における一人あたりの平均支出額は野球では2015年より微増、サッカーでは2013年から増加傾向にあります。端的にいうと、利用人数よりも一人あたりの年間支出単価の増大によって野球・サッカーの市場が大きくなっているのが近年の傾向と言えそうです。
一人あたり支出単価を押し上げる定額制配信サービスに注目
近年、スマートフォン・タブレットの普及などに伴い、OTT(Over The Top※1)と呼ばれる定額制配信サービス市場が注目されています。その流れは当然スポーツにも波及しており、DAZNやスポナビライブなど様々な定額制のライブ配信系サービスが登場しました。また、2017年JリーグとDAZNが10年間、2,100億円の放映権契約を結び、大きな話題となりました。
今回のコラムでは、「ライブ配信系サービス利用層」がどんな特徴なのかについて分析し、今後のスポーツ観戦スタイルの変化の兆しについて触れてみたいと思います。コンテンツファン消費行動調査では、「ライブ配信系サービス(※2)」「スタジアム生観戦(※3)」の利用を聴取しており、それぞれの重なりを示したのが図2となります。スタジアム生観戦層は627万人となっており、そのうちライブ配信系サービスも利用しているのが80万人という結果でした。
注目すべきなのは、スタジアム生観戦に行かずライブ配信系サービスのみでの観戦を行っている層が96万人となっており、スタジアム観戦&ライブ配信サービス利用層よりも多い結果となりました。スタジアム観戦に行かない96万人の「ライブ配信系サービスのみ利用層」に注目し、彼らの特徴を追っていきたいと思います。
“ライブストリーミング観戦”という新しい観戦スタイルの登場
次に、各層の性年代構成比を見ていきましょう。「ライブ配信サービスのみ利用層」は10-20代で高く、定額ライブ配信での観戦スタイルが若年層を中心に浸透し始めているのがわかります。
①スマホ・タブレット依存が高く、動画サイト、まとめサイト、Q&Aサイトの利用が多い。
「ライブ配信系サービスのみ利用層」は、3層の中でスマートフォン、タブレット端末の毎日利用が高く、スマホ・タブレットへの依存の高さが伺えます。次にSNSの利用を見ると、軒並み両サービス利用層よりも高い項目はInstagramのみでSNSへの依存度はそこまで高くありませんでした。一方インターネットサービス利用の状況を見ると、動画サイトとまとめサイト、Q&Aサイトで高い結果となりました。
②リアルプレイスより、リアルタイム。「ライブストリーミング観戦」が大事。
次に、コンテンツに関する意識の違いを見てみますと、「ライブ配信系サービスのみ利用層」では、「リアルタイムでみたいテレビ番組、ネット番組がある」が3層の中で最も高いという結果になりました。スタジアム観戦をしない層ということを考えると、彼らはデジタル、リアルな場にこだわりはなく、「リアルタイム」でのスポーツ観戦に最も力点が置かれており、「ライブストリーミング観戦」を最も重視していると言えそうです。
③自分だけが気づいたスポーツうんちくを知りたい、語りたい「情報コスパフォーカス層」
「ライブ配信系サービスのみ利用層」を先日発表した調査レポートでの「コンテンツクラスター」の含有状況で見ると、最も多いのは「情報コスパフォーカス層」でした。彼らは効率的に自分のほしい情報を収集する力が強く、コンテンツに触れた後、自分なりの視点で作品の感想や批評をSNSやブログに書き込む傾向のあるのが特徴で、ライブストリーミング観戦中に、スポーツ観戦の視点やアスリートの魅力を自分視点で発見し、みんなに評論したいニーズが高いのかもしれません。
「ライブストリーミング観戦層」に今後提供していくべきコンテンツ体験とは?
スマホ・タブレット上で「ライブストリーミング観戦」を楽しみ、自分なりの視点でうんちくを語りたい、そんな彼らに提供すべきコンテンツ体験はどんなものなのか?最後にサービスアイデアを提案したいと思います。現状の定額制ライブ配信サービスをより楽しむことができるものはどんなものでしょうか。
一人称視点、監督・選手視点で楽しむことができるVR観戦体験
一人でスマホやネットを活用して楽しむことにむしろ特化した観戦方法があります。それがVR(※4)による観戦体験です。特にHMD(※5)を活用した体験は一人で楽しむためのコンテンツ体験として事例も増えてきております。このVR✕HMDを活用し、ライブストリーミング観戦用に提供することで、「ライブストリーミング観戦層」に新たなスポーツ体験を提供できる可能性があるのではないでしょうか。
例えば、自分の好きな選手が試合中にどんな目線でプレイしているのかにフォーカスしたVRコンテンツを提供するのは面白いかもしれません。試合の決め手となったヒット時に、バッターがピッチャーの投球フォームのどこを見て、狙っていた玉を打つ判断をしたのか?などが一人称視点で視線を把握できるような情報提供をすることができれば、うんちくを語りたい「ライブストリーミング観戦層」には、響くコンテンツかもしれません。
また、「一人称監督目線」のVR体験も面白いと思います。普段試合中ベンチから見ている様子を体験できれば、監督の孤独さなどを感じることができるかもしれません。試合の中の1分1秒の体験がよりリアルタイムに感じられるのではないでしょうか。このVRを活用した観戦こそが、「ライブストリーミング観戦層」に適した観戦体験と言えるかもしれません。
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博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。