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オフラインコンバージョンで変わるデジタル広告の新しい可能性【アドテック東京2017】
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オフラインコンバージョンで変わるデジタル広告の新しい可能性【アドテック東京2017】

今年9回目を迎えた、アジア最大級のマーケティングカンファレンス「アドテック東京(ad:tech tokyo)」。10月17日(火)、18日(水)の2日間に会場を訪れた人は1万4095人にのぼりました。本稿では、博報堂DYグループ関係者が登壇したセッションの模様を紹介します。

【オフラインコンバージョンで変わるデジタル広告の新しい可能性】

徳久真也:株式会社博報堂 データドリブンマーケティング局第一グループ グループマネージャー
山縣亜己:ユニリーバジャパンカスタマーマーケティング株式会社 マーケティング メディア ダイレクター
安岡武人:イオンドットコム株式会社 事業戦略責任者
高山靖弘:シナラシステムズジャパン株式会社 マーケティング・ディレクター

冒頭、「Web注文完了やWeb資料請求完了などのオンラインコンバージョンがCVRやCPAで計測されるのに対して、オフラインコンバージョンは店舗への来店、商品購入、電話での注文などを表し、来店率や購入率等で判断されます。今回、ここでこの話題を取り上げるのは、来店・購買トラッキングなど、オフラインコンバージョンを計測する技術が整ってきたから。そこで今回は、次の3つのテーマでディスカッションしていきます」とモデレーターをつとめた博報堂の徳久が挨拶し、始まった本セッション。

最初のテーマは、イオンドットコムの安岡氏が掲げた「流通視点から見たオフラインコンバージョン:チラシのデジタル代替はどこまで可能か?」。「我々GMSは、店舗チラシ中心のプロモーションを長くやってきましたが、チラシでは消費者にリーチしにくくなってきたため、現在では自社サイト・販促アプリ・店舗PRサイト・SNS+ネット広告によるネットプロモーションへの転換を進めています。この転換により、総リーチ倍以上にアップ、総コスト2~3割ダウンを見込んでいます」と安岡氏。「いままでチラシの効果は絶大だと思っていましたが…。折込チラシは消費者にリーチする手法がすでに確立されているので、有利にも思えるのですが…」とのユニリーバ山縣氏の疑問に対しては、安岡氏は「新店オープンの場合、いまでもチラシ効果は絶大ですが、日常的な販促について、そこまでの効果が出にくい状況です。また、近年は若年層で新聞購読者が減っていて、リーチの点でも優位性はなくなってきています」と回答しました。

イオンが今やろうとしているのが、「リアルタイム店舗販促」。プロモーションは各店舗でコントロールし、各店舗からリアルタイムで「オススメ商品」などの情報を発信し、その情報をネット広告として集客。その後、成果をデータ分析して売場改編につなげる。店舗からの情報は、販売員がスマホで撮影したライブ感あふれる映像を使い、それをバナーまたは動画の形でネットにアップする。この手法は「SNSの自撮りのように臨場感と共感が得られやすい」と山縣氏が評価する一方、「恒常的に運営していくシステム作りが難しい」というシナラシステム高山氏、博報堂の徳久の指摘も。それに対して安岡氏は、「システム作りより、人材育成に投資していきたい」と答えました。
現在MDプランナー・マーケッター・アナリスト・セールスコピーライター・プロモーターなど1人5役できるハイブリッド人材として育成中。Photoshopなどスキル習得には時間がかかるため、黒板へのPOP作成を習得させ、黒板POP+従業員の店頭PRを撮影するなどローテクでも出来る手法を考えているとか。目指すのは「臨場感」「ライブ感」+「ITソリューション」。「AIなどシステムではなく、人で対応するのであれば、その日の天候に応じて戦略を変えるなど、柔軟に対応できますね。各店舗ごとのネット広告とその来店率のデータが取れれば、その後のプロモーションにも活かせますね」と徳久がコメントしました。

モデレーターを務めたデータドリブンマーケテイング局第一グループマネジャーの徳久 真也

次に、「メーカー視点から見たオフラインコンバージョン:マーケティング活用の限界と可能性は?」について、ユニリーバ山縣氏が発言します。「メーカー側からすれば、オフラインコンバージョンは『来店』ではなく『購買』になるので、今のテクノロジーではそこがなかなか可視化しにくいと感じています。私たちのビジネスは、まだまだオフラインがメインですが、オフラインではマーケティングすべき要素が多種多様すぎるため、たとえデジタルでバナー広告を出したとしても、それとの関係が見えにくい。最近、TVCMとネット広告効果の関係を可視化しようとする動きが広告業界に見られますが、どこまで明らかにできるのかは、まだ不透明ですね」。とはいえ、エリアマーケティング、ジオマーケティングに時間軸を掛け合わせることができれば、プロモーションの可能性は広がると山縣氏は言います。「たとえば、消費者が店舗に来店する直前、ある特別な情報を消費者にリマインドすることができれば、それが購買活動につながる可能性は十分考えられます」。高校の放課後の時間帯に、女子高周辺のコンビニで、ユニリーバ商品であるリプトンのペットボトルが割引で購入できるキャンペーンを告知する、などの一例を挙げました。

最後に、シナラシステムの高山氏が、「生活者視点から見たオフラインコンバージョン:オフラインコンバージョンで見えてくる生活者の真の姿は?」について語りました。「最近、ある自動車メーカーでキャンペーンを実施したところ、面白い事実がわかりました。ディーラー訪問者全体のうち、モバイル広告接触者とサイト訪問者のぞれぞれが占める比率をベン図にして比較したところ、クリックをしていないモバイル広告接触者の比率が最も高かった。つまり、ボリュームの観点では、クリックスルーよりビュースルーの方がディーラー訪問に貢献していたのです」。自動車は検討商材であるため、来店にはサイトでの理解促進が必要不可欠であると思われがちですが、実際の生活者の行動はそうではなかったのです。「もうひとつ興味深かったのは、ディーラー訪問とサイト訪問のタイミング。実はディーラーで実際に自動車を見てから、サイトで性能等の詳細を確認する人が意外と多いのです。」
生活者は広告を見て、メーカーサイトで詳細を確認し、見積りシミュレーションをしてから、ほぼ決め打ち状態で店舗を訪問するというのが一般的なカスタマージャーニーの理解ですが、実際は必ずしもそうではなく、その傾向は比較的安価な軽自動車の場合、顕著であることがわかりました。「したがって、車種によっては、サイトで店舗誘導するのではなく、既に来店した人向けのコンテンツを作るほうが販促につながるかもしれません」。そう語る高山氏に、徳久も「そうなってくると、今後デジタル広告を作る場合、商品によっては配信のアプローチやLPの考え方についても変えていく必要がありそうですね」と応じました。
最後に徳久は、「オフラインコンバージョンは技術的にまだ未成熟の分野ですが、これまでわからなかったチラシの効果が可視化できたり、生活者の導線がわかってくるなど、新たな成果も生まれています。マーケティングにフィードバックしていけば、さらに可能性は広がりそうです」と話をまとめ、セッションは終了しました。

当セッションでモデレーターを務めた徳久は、「オフラインコンバージョンのポイントは、アドテクノロジーやインターネット広告領域の話に留めず、いかにマーケティングレイヤー・事業レイヤーのKPIとして設定し、単発ではなく継続的に運用していくかにあると思います。まだ活用が始まったばかりで限界も見えてきていますが、ここをどう”仕組み化”できるかが成功のポイントだと考えます。」と語っています。

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  • 博報堂 データドリブンマーケテイング局 第一グループ グループマネジャー
    2005年博報堂入社。流通・通信・飲料・食品・自動車・電気機器メーカー等、50社を超える幅広い得意先のマーケティング/事業戦略立案、統合コミュニケーション戦略立案、ブランディング、商品開発、キャンペーン開発業務等に従事。 2017年より現職。データを活用したマーケティング×メディア×クリエイティブ×ビジネスデザインの融合を目指し、新規事業開発に従事。