対談!EC+【第21回】「共感型コマース」ってなに? 「想い」や「ストーリー」を軸に生活者とつながる「クラウドファンディング型EC」の可能性
博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」。そのメンバーが外部の専門家と語り合う連載「対談!EC+」の第21回は、国内最大級のクラウドファンディングプラットフォーム・CAMPFIREの藤原裕樹さんをお招きし、クラウドファンディングとECの共通点や、企業がクラウドファンディングを活用する可能性について語り合いました。
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(写真左から)
矢野 裕
HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部 部長
藤原 裕樹氏
CAMPFIRE エンターテインメイント・サポート管掌 執行役員
桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
イノベーションプラニングディレクター
奥山 貴弘
HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐
起案者の「世界観」を支援する
- 奥山
- 「共感型コマース」とは、生活者が売り手の志や思想、行動などに共感して、ものやサービスの購入を決める比較的新しい消費スタイルのことです。今回は、日本を代表するクラウドファンディングプラットフォームの1つであるCAMPFIREの藤原さんと一緒に、共感型コマースの可能性について探っていきたいと思います。はじめに、クラウドファンディングとCAMPFIREの現在について藤原さんからご説明いただきたいと思います。

- 藤原
- クラウドファンディングは、ご存知のように、「新しいことを始めたい」「ものをつくりたい」といった挑戦をすることを目指す起案者と、共感してそれをサポートする支援者をマッチングする仕組みです。CAMPFIREを含め、クラウドファンディングは、もともとインターネットサービスに慣れている方の活用が多い印象でした。ただ、コロナ禍以降、飲食店の経営支援やアーティストの支援など、プロジェクトがかなり多様化するようになりました。
- 桑嶋
- ほかのクラウドファンディングサービスと比べて、CAMPFIREにはどのような特徴があるのでしょうか。
- 藤原
- 起案者の「想い」に対して支援するというコンセプトをはっきり打ち出している点に大きな特徴があります。起案者が思い描いている「ストーリー」を支援すると言っていいかもしれません。過去に、より支援をされやすいサイトにするためにABテストをしたことがあります。支援に対するリターンを前面に出すスタイルと、起案者が描くストーリーを前面に出すスタイル。その両方に対する支援者の反応を比較してみたところ、圧倒的に後者のほうの反応がいいことがわかり、ストーリーを支援することの重要性がデータからも立証されました。
- 奥山
- もともと大切にされていた起案者の想いの重要性が、その検証によってデータとしても裏付けられたわけですね。
- 藤原
- そうです。とはいえ、もちろんリターンも大切です。世界観やストーリーに合ったリターンを設定して、プロジェクトに一貫性をもたせることが重要だと考えています。

「共感」を醸成するためのポイントとは
- 奥山
- 世界観や想いを前面に出す場合でも、起案者の最終的な目的は資金調達ということになるのですか。
- 藤原
- 目的も多様化していますね。ある目標を一緒に目指す仲間を集めるとか、地域のコミュニティを活性化させる、ファンの熱量を上げるなどを最終ゴールにするケースも増えています。そういったイベント的なプロジェクトが多いのもCAMPFIREの特徴の1つです。
- 奥山
- クラウドファンディングで、共感をうまく醸成して支援者を集めていくにはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。
- 藤原
- これはマーケティングにも共通することだと思いますが、一番大切なのは「What」と「Why」、つまり、何をやりたいのか、なぜやりたいのかを明確にすることです。それに加えて、「なぜ今なのか」という視点も重要です。
僕たちが起案者とプロジェクトの方向性について話し合う際、「これをやるのは今なのでしょうか?」という視点を提示することがよくあります。コンセプトがしっかりと固まっていない、あるいは支援者を集められる条件が整っていない段階でプロジェクトをはじめても、失敗することが多々あるからです。
次に考えるべきは、「仲間」の集め方です。仲間はどのファン層なのか、地域の人たちなのか、趣味のネットワークのメンバーなのか。それを明確にして、そういった人たちを巻き込み、最初の支援者になってもらえる道筋を考えます。その作業は具体的に進めなければなりません。僕たちは起案者の皆さんに、「あなたが仲間にしたいと考えている人たちの中に、このプロジェクトのコンセプトを評価してくれそうな人は何人いますか?」「それは誰ですか?」「その人とどのようにつながっていますか?」と尋ねるようにしています。
生活者の支援の声がブランド価値を上げる
- 奥山
- お話を伺っていると、僕たちが「生活者共創型マーケティング」と呼んでいるものと、CAMPFIREの取り組みは非常に近いと感じます。
- 桑嶋
- 共通点が多いですよね。生活者からの共感がなければ、ブランドは成長しない──。生活者共創型マーケティングの根幹にはそういう考え方があります。生活者の声をもとにして商品を開発したり、改善したりする。あるいは販売の方法を変えていくということです。僕たちがECをご支援しているクライアントの中にも、商品開発の上流工程からユーザーに参加してもらうことにチャレンジしている企業がいます。例えば、ロイヤルカスタマーに新商品開発のテスターをやってもらったり、ユーザーアンケートの声を商品に活かしたりするチャレンジです。
- 矢野
- クライアントのEC事業を支援していて感じるのは、ECサイトに寄せられるレビューが単に商品の反響ということではなく商品の付加価値にもなるということです。その商品が良かった、商品をまた買いたい、応援したいといった声が集まることで、その商品のブランド価値が上がっていきます。従来の「売る」「買う」といった関係ではなく、「想い」を交換する関係を生活者とつくれているブランドが成長していくケースが少なくありません。それはまさに、クラウドファンディング的な方法論と言っていいと思います。
- 奥山
- 生活者がブランドの支援者となるということですね。
- 桑嶋
- ブランドを支援したいと考える生活者は間違いなく増えていると感じます。自分の声を企業に届けて、ブランドに参画していく体験を求める。そんな人たちです。
- 奥山
- 共感とCRMの関係については、どうお考えですか。
- 矢野
- クラウドファンディングでは、プロジェクト進行中に支援者に進捗状況を知らせますよね。支援額がどのくらい溜まったか、どんな取り組みが進んでいるのか等です。それによって支援者の期待値が高まり、関係値も深まります。ECとは違いプロジェクトの成果物が届く前から、すでにCRMが始まっていると言えるのが特徴的です。
ECでも、同じような方法で生活者の共感を獲得し、関係を深めていくことが可能だと考えています。例えば、スポーツチームがECで優勝記念ユニフォームを販売する際、単に「限定1万枚販売します」というのと、「希望者が1万人に達したら商品化します」というのでは、ユーザーの共感や参加感に大きな差が生まれるはずです。後者の場合は、「俺たちが商品化したぜ」という思いが醸成され、商品をめぐる1つのストーリーが生まれます。そう考えれば、共感を軸としたクラウドファンティング的なマーケティングは、大いに有効だと思います。

企業がクラウドファンディングを活用するメリット
- 奥山
- 企業がクラウドファンディングを活用することもできるのでしょうか。できるとすれば、そこにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
- 藤原
- 実際に、企業がクラウドファンディングを活用するケースは増えてきています。生活者の率直な意見が集まるのがクラウドファンディングの大きな特徴です。メーカーなど、ユーザーの一次データを収集することが難しい間接流通が発生する企業にとっては、ユーザーの声や想いをダイレクトに集めるチャネルとして、クラウドファンディングは非常に有効であると考えられます。
- 桑嶋
- コアなファンの意見を聞いて商品開発に活かしていくコミュニティになりうるということですね。
- 矢野
- オンラインサロンのイメージに近いかもしれません。
- 藤原
- まさに、コミュニティでありオンラインサロンであると思います。ファンや新規など多くの人とつながることによって新しい価値を生み出していける場がクラウドファンディングです。
- 矢野
- 先ほどもお話したように、生活者の共感はブランドの付加価値になります。原価の積み上げで商品の価格を決めるのではなく、共感という価値をもとに売値を決める。そんな新しいプライシングの方法もこれからは出てくるかもしれません。原料価格などが高騰している現在、「共感に基づいた価値提供」は、多くの企業にとって重要な視点になるのではないでしょうか。そのような価値をつくれるのが、クラウドファンディングの大きな利点だと思います。
- 桑嶋
- 売り手思考にならずに生活者と一緒にブランドをつくっていける場であり、共感を具体的な価値に変えていける場。それがクラウドファンディングであるということですよね。

クラウドファンディング活用の課題
- 奥山
- 現在のクラウドファンディングの課題がありましたら、お聞かせいただけますか。
- 藤原
- 1つは、クラウドファンディングには「資金に困っている人だけが使うサービス」というイメージが根強くあることです。もちろんその役割は今も重要でありますが、多様な使われ方を知ってもらう機会を増やしていきたいと思っています。
- 桑嶋
- 僕も企業にクラウドファンディング活用をご提案した際に、「うちの商品が売れないと思っているんですか」というネガティブな反応が返ってきたことがあります。お金を集めたり、新しい販路にしたりするだけではないクラウドファンディングのメリットを広めていく必要があると思います。
- 藤原
- もう1つの課題は、継続性をつくることです。一回限りのお祭り的イベントだけではなく、共感や信頼を継続的に蓄積していける場をいかにつくれるか。それを起案者と一緒に考えていくのが僕たちの役割だと考えています。
- 矢野
- 起案者となる企業目線で見ると、クラウドファンディングの仕組みの宿命である支援額が目標に届かない可能性があるというリスクはつきものです。ECであれば1つでも商品が売れれば少なからず売上はたちますが、万が一プロジェクト未達となってしまった場合のそこまでに投じた費用をどう計上処理するのかなどの事前のシミュレーションは欠かせません。
- 桑嶋
- 確かに、通常の物販チャネルとの違いは意識したほうがいいと思います。特に財務面でのケアポイントがいくつかあります。例えばクラウドファンディングの手数料はオープンになっているので、生活者から「企業の手元にいくら残るのか」が見えるかがほかのチャネルより意識されやすいため、ほかの流通チャネルとのバランスのとり方が難しくなる可能性があります。
とはいえ、一つ一つケアポイントをクリアしていけば、クラウドファンディングが企業にとっての新しいコミュニケーションチャネルとして定着していく可能性は大いにありそうです。

新しいECチャネルとしてのクラウドファンディング
- 奥山
- 最後に、共感型コマースとクラウドファンディングの今後について、それぞれの見通しをお聞かせください。
- 藤原
- クラウドファンディングの役割を「前」と「後ろ」に広げていきたいと思っています。プロジェクトを起案する「前」のアイデア出し段階から起案者をサポートして、プロジェクトの質を高めていくこと。それから1つのプロジェクトが終了した「後」に、支援者とのつながりを継続していくコミュニティをつくっていくこと。その2つの取り組みによって、共感の力をより大きくしていきたいと思っています。
- 桑嶋
- クラウドファンディングは、今後企業にとって間違いなく有用なコミュニティになっていくと思います。生活者の共感を集め、ブランド体験をつくっていく場となりうることをクライアントに広く伝えていきたいですね。
- 矢野
- クラウドファンディングには、資金を集めてリターンを提供するだけでなく、ファンの声を集めたり、テストマーケティングをしたりする使い道があります。その使い道=機能を有効に活用していくことをクライアントに提案していくだけでなく、クライアントがもつ自社ECにもクラウドファンディング的な機能をもたせることで共感型コマースがより当たり前になっていく、そんな取り組みにチャレンジしたいと思っています。
- 奥山
- 僕たちEC+は、ECを「人と人がつながる場」であると考えてきました。想いや共感を軸として起案者と支援者がつながっていくクラウドファンディングは、企業にとって新しい形のECチャネルと捉えることが可能だと思います。今後、その視点をぜひ多くのクライアントに提示していきたいと思います。今日はありがとうございました。
※肩書は取材当時のものです
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藤原 裕樹氏CAMPFIRE エンターテインメイント・サポート管掌 執行役員マーケティング会社・広告会社の企画営業を経て、2015年リクルートへ入社。プロダクト/セールス横断組織のマネージャーとして従事。2023年5月に株式会社CAMPFIREへ入社後、同年10月サービス企画部部長、2024年1月サポート開発統括部長、同年4月執行役員に就任。現在はサポート開発領域・エンタメ領域(クラウドファンディング&Community・CAMPFIRE Creation事業)のグロース責任を担う。
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HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部 部長2016年の博報堂グループ中途入社以来、ダイレクトビジネスのプロデューサーとしてマーケティングコミュニケーション領域に留まらず、事業計画/データ分析といったコンサルティング領域、コンタクトセンター/システム/物流といったフルフィルメント領域、BI/MA/ECといったデジタル領域など、川上から川下まで担当。
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HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」のリーダーとしてEC領域を起点とした事業支援および協業パートナーとのアライアンスを推進。
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HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
イノベーションプラニングディレクター通販事業の運営チームを経て、博報堂のEC支援チームの旗揚げに参画。米国Kepler社への短期出向を経て、現職。ECを軸に、新規ビジネスの立ち上げや変革、事業設計を得意とする。各種講師や記事/書籍執筆なども担当。

