事業プラニングが目指す新たな広告会社の姿【vol.3】 「交通空白」を解消する共創の力:博報堂×オリエンタルコンサルタンツが語る地域交通の未来
現在、様々な領域でのデジタルシフトが進み、生活者インターフェース市場が次々と誕生しています。本連載では、博報堂が事業プラニングを専門とする組織を設置し、クリエイティビティやデータ・テクノロジーの知見を活かし、どのようにクライアントの事業戦略・事業開発の支援、さらには博報堂の生活者発想に基づいた新事業の立ち上げを目指すのかに迫ります。
第三回では、同じ地域交通というテーマに向き合い、地域交通の再編業務で協業してきた総合建設コンサルタントであるオリエンタルコンサルタンツと博報堂の取り組みにフォーカスします。実際の業務や会議体での議論を通して見えてきた発見や、地域公共交通の課題、今後の見通しについて、オリエンタルコンサルタンツ土崎氏と博報堂のメンバーが語り合いました。
土崎 伸
オリエンタルコンサルタンツ 関西支社 交通政策部 次長
黒住 奈生
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー
工田 菜央
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー
1.「交通空白」解消に向けた官民共創の現状と課題
- 工田
- 博報堂では、富山県朝日町の共助型MaaS「ノッカルあさひまち」のプロジェクトが始まった2020年から、交通領域への取り組みが始まりました。現在は、各地域でサービスの実装業務や、実装前の調査などを支援させていただく機会が増えています。広島県で県庁の皆様と一緒に、各地域の交通空白解消に向けたプロジェクトを推進するなどの取り組みを行っています。
- 土崎
- オリエンタルコンサルタンツは主に建設コンサルタント業を手掛ける会社で、橋や道路の設計のほか、道路・交通の運用・計画、都市計画・地域活性化等も行っています。私の所属は交通政策部で、これまで20年ほど交通計画、プラニングの仕事に携わってきました。博報堂がノッカルあさひまちを進めていく中で、プロジェクトの方向性について交通計画の視点からどう見えるか?というご相談をいただいたことをきっかけにご一緒することが多くなりました。

- 黒住
- 2024年11月、国土交通省による「交通空白」の解消に向けた官民連携プラットフォームが発足しました。自治体や多様なソリューションを持つ企業・団体が連携し、交通空白解消に取り組む体制が全国規模で構築されつつあります。こうした中で、オリエンタルコンサルタンツと博報堂とで具体的な共創に踏み出すきっかけを作るべく、自治体や都道府県、企業の方などにご参加いただき好事例の共有や議論をする「官民連携プラットフォームスピンオフ会」を開催しました。
これまで2回開催され、第1回では自治体・バスやタクシーの事業者・交通に関するサービスを提供する企業だけでなく、地域コミュニティや様々な領域の民間企業など交通以外の多様なステークホルダーを巻き込んだ、地域全体の再編集=「地域リ・デザイン」の重要性を議論し、第2回ではその地域リ・デザインを「都道府県がどのようにリードするか」を題材に議論を進めました。
- 工田
- 参加自治体のみなさんは、自治体単独ではなく、企業や都道府県単位で連携して地域公共交通を考えることに非常に可能性を感じているようでした。例えば住民の生活圏は自治体圏を超えて構成されているものの、交通サービスやデータが自治体ごとに分断されているという課題に対し、都道府県が主導して統合・効率化ができないか?という議論もありました。
- 土崎
- 企業側も非常に熱意をもって参加されている方が多かった印象です。送迎サービスの効率的な実施に対する工夫、大企業の技術力・ネットワークを活かした新たな地域交通向けの管理システムの提供等、視点は様々ですが、継続的にサービス提供することと併せ、地域課題解決に寄与したいという視点で、真摯に考え、工夫をされている印象を受けました。
ただ、自治体職員が既存の業務で多忙だといった悩みも出ていました。一部の企業や行政との議論でしたが、民間が持っている熱量を、うまく組み合わせて活かすことができない状況がいろいろなところで起きているのかな、ということを感じました。
- 黒住
- まずは生活に根ざした課題を自治体・企業のどちらも理解し、新しい交通はどのような形をとるべきなのか一緒に考える。その構想を終えて初めて、企業側の持つソリューションがどのように活きるのか考える、という順番で進めていければ、良い共創の形になるのかもしませんね。地域によって必要な解決策は違ってくるはずだからこそ、ソリューション起点で考えるのではなく課題起点で考えることで、企業が想定していなかったような技術やサービスの活かし方が見えてくることもありそうですね。

- 工田
- 他の視点で言うと、路線バスやコミュニティバスの「GTFSデータ」※が徐々に整備されつつあり、インターネット上での経路検索や運休情報の把握がしやすくなりました。このようにデータを「集める」ことは取組が進んでいますが、集めたデータセットを交通再編に向けてどうやって活用するかについては悩まれている自治体も多いようです。
※公共交通に関する、時刻表、バス停の場所、路線情報などの情報を取りまとめた世界標準のデータフォーマット。Googleマップや経路検索アプリへの情報配信はこのフォーマットで行われており、国土交通省により2016年から標準化が進められている。
- 黒住
- GTFSデータは「どこに・どのバスが走っているか」が分かるというものなので、「人がどこからどこへ移動しているか」まではわかりません。GTFSデータの整備に加えて、各停留所の乗降人数データなど、人の移動が現れるデータをきちんと集めたい・そこから今後の交通再編への示唆を得たい、というニーズは強いです。
- 土崎
- 交通計画をつくる際にも同じように、データの活用がうまくできないという課題がありますね。交通計画は地域の交通の現状と今後を示す資料としての側面があります。そのため、様々な地域情報・交通情報を、膨大な実データやアンケートデータからとりまとめることが標準的ですが、こうしたデータを取得・整理する作業は大変なこともあり、データ整理自体が目的になりがちです。
行政計画なので公平性とかアカウンタビリティへの配慮も必要ですが、私としては、データは整理・分析することより、「議論するために使う」ものだと思っています。いちプラナーとしてデータを読み解いて仮説を持ちつつも、様々なステークホルダーと実態データを共有して、次に取るべきアクションや目指すべき状態について議論を重ねていくということが望ましいデータの使い方であると思いますし、それが先ほどの課題オリエンテッドな官民連携のベースになると思います。
- 黒住
- スピンオフ会ではもっと地域の企業や住民も巻き込んで話せる場が欲しいという意見もあったので、その材料としてデータを使うのも良いかもしれません。データが議論の拠り所になると理想的だと思います。
例えば博報堂では住民のみなさんの協力のもと、自家用車にセンサーをつけて走行していただき、移動のデータを分析することがありますが、そのデータなどは良い議論材料になるのではないかと思います。
- 土崎
- 自家用車の移動データは交通コンサルから見ても良いと思います。行きたい場所への自由な移動が反映されているデータということで、本当の需要はどこにあるのかというマーケット始点の発想ができるわけですし、既存のものとは異なる解決手段が生まれるきっかけになると思います。こういったアクチュアルな、ある意味でビジネスライクな視点は、これまでの地域交通業界からはなかなか出てこなかったものだと思います。

2.地域全体で達成する「地域リ・デザイン」
- 黒住
- 地域リ・デザインを進める上で、今後注目すべき観点は何かありますか。
- 工田
- 交通領域以外の地域プレイヤーをどう巻き込んでいくのか、というのは今後注目される視点かと思います。例えば、交通サービスの運営資金を住民やコミュニティが一部負担しているような地域は各地にありますが、移動の目的地となる地元スーパー・飲食店等と組んで協賛金を得る・来店促進キャンペーンをするなどで自己負担を減らしつつ、地域活性化にも繋げることで、サービスの持続性を高められるかもしれません。
- 土崎
- 別の例でいうと、病院が帰宅する患者さんをサービスとして自宅まで送るなど、すでに地域で実施されてきた移動サービスを地域交通と統合できないかという視点もあります。各地域には、路線バスやタクシー以外にも、このような独自の移動サービスも様々に実施されていて、似た路線を通っているなど重複した機能をもっていたり、それぞれに経営や人員が苦しい状況だったり、ということがよく発生しています。
地域交通だけで収支を改善し持続的に運営していくのは限界がありますが、一旦こういう視点に振り切って、どのような移動・接続の仕組みが必要なのか考えながら、自主的に実施されてきたサービスとの連動も含めて地域交通のあり方を見直していくと、地域特性に応じた実効的な生活・経済基盤でありながら、持続的な地域公共交通を実現できるのではないかと思います。
- 黒住
- 例えば病院送迎は各病院単位で行い、スクールバスは教育関係の方が管轄し、バスやタクシーは交通関係の方が管轄する、など色々な領域の方が少しずつ移動に関わっているケースも多くあります。一足飛びにひとまとめにできるものでもないので、課題などを議論しながら考える必要がありますよね。
- 工田
- 都道府県や民間企業といった外部の視点を持つ人材こそ、地域全体を俯瞰してどのように工夫していけばよいのかを考えていけると良いのかなと思いました。

- 土崎
- 交通と他の領域の資源・課題の双方を幅広く理解し、「こう繋げば良いのでは」と考えて動ける人材が不足しているのではないかと思います。交通コンサルは、データや制度を理解して設計図を描くことは得意ですが、地域で民間を巻き込みながら実際に取り組みを動かすことは苦手です。さらに、地域外も含めた企業とつながってエンパワーしていくということも大事になってきます。その部分には、色々な業界や企業に広告会社として向き合い、横断して関係を築いている博報堂のような企業が持っている知見・ネットワークが活かされるのではないかと思います。
- 黒住
- 行政と民間を指して「官民連携」とよく言いますが、自治体の内部でそれぞれの分野に特化した縦割り的なあり方を変えていく必要があるのではという問題意識から、自治体内部を指して「官”官”連携」という言葉もスピンオフ会の議論でキーワードとして出てきました。その地域や領域のことは深く理解していても、領域を横断した知見を持つ人材が求められているのかもしれません。
- 土崎
- その人が活動する範囲には限界がありますし、地域全体を俯瞰するといっても本当に様々な立場の方がいて、その地域ならではの文化や課題もあります。全部オールマイティにというのはなかなか難しいので、その時、その地域に関わっている人ができる範囲でつないでいくのが現実的なのだろうと思います。その時、我々のような「民」が、フレキシブルに動くというのは一つのポイントになってくると思います。
- 工田
- 行政で言えば、ソリューションの紹介や予算取りまでは、似た課題を持つ地域を複数把握していて知見がある都道府県が主導する。実際のサービス設計や運用体制作りは、住民の思いや地域特性を深く理解している市町村の交通担当や、困っている人と普段から関わっている福祉担当などが一緒になって積極的に動く、という役割分担をしている地域もあります。お互いの強みを活かし合えるような体制ができると良いですよね。
3.専門分野を跨ぐ共創で生み出すシナジー効果
- 黒住
- 今まで博報堂は、交通事業者が撤退したり、存続が危ぶまれたりするような地域の交通を、公共ライドシェアを通じて補うような事業を多く手掛けてきました。ただ、最近は、多くの交通サービスが運行する地域や、市町村合併後でも移動サービスがかつての市町村区分に分断されている地域など、状況の違う様々な地域の交通再編が求められることも増えていますよね。
- 土崎
- 今、北陸博報堂の方と一緒に、北陸のある自治体の交通やまちづくりに取り組むコミュニティを醸成していこうとトライアルを行っています。博報堂さんがネットワークを活かして、交通関係者以外にも、地元の事業者や企業のみなさんをつないで、輪を広げてくださっているのですが、様々な人や企業との繋がりを普段から持っていないとできないことなので、交通コンサルとしてはとてもありがたい連携だと感じています。
- 黒住
- 過去、私自身が企業やブランドの広告領域を手掛けてきたので、公共交通を利用したくなる気持ちをつくる、というところでもっと広告領域の知見を活用できそうだとも思っています。サービスを知ってもらう活動を続けることと同時に、もっと公共交通を使いたくなるようなマインドシフトを促すことは、広告領域の知見が活かせる部分かなと思います。
広告業界では、人々の潜在的で根強い想いであるインサイトを捉えたプラニングをよく行うのですが、地域交通には、皆大切だとは思っているけど当事者意識が芽生えづらいというインサイトがあるなと感じています。そうしたマインドを変えていくというのは新しく便利な交通サービスの設計とは別の視点だと思います。
- 土崎
- 交通業界的に言えば、いわゆる「モビリティ・マネジメント」の考え方に近いですね。モビリティ・マネジメントは、個人や組織の心理、認知・判断するときの癖をとらえて、社会的に望ましい行動をとってくれるように情報提供やきっかけづくりを行おうとする取り組みです。広告領域のブランディングや生活者の背景・ペルソナを踏まえてアプローチしていく手法とあわせて活用する余地があるように思います。
- 黒住
- 移動や行先にどう意味をつけ、伝えるか?という施策は地域モビリティでもやっていく価値があるかもしれませんね。速さや便利さだけではない価値や意味づけを考えていく必要もありそうです。
- 土崎
- そうした施策を地域の企業と組んでやるという方向性もありそうですよね。社会課題としての地域交通の取り組みに、企業が進んでいきたい・ブランディングしたい方向が重なったり、地域交通のプロモーションを企業のメリットとなるような形で組み込めたりしていければ、協力も得られるかもしれません。
- 黒住
- 地域一体となって進める「地域リ・デザイン」だからこそ、様々なプレイヤーが入り込む余地を作るような視点で進めていけたらと思います。

※肩書は取材当時のものです
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土崎 伸オリエンタルコンサルタンツ 関西支社 交通政策部 次長愛知県出身。2004年オリエンタルコンサルタンツ入社。入社以降交通政策領域で、モビリティ・マネジメントや自治体の計画策定支援を担当。現在は、交通を活かした産官学連携による共創まちづくりの推進に取り組む。
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博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー岡山県出身。2021年博報堂入社。ヘアケア・スキンケア・医薬品・食品などのブランドで、マーケティング・新商品開発を担当。現在は、地域や社会課題をテーマに、自社の地域交通サービス実装、得意先の事業開発に取り組む。
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博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー大阪府出身。2023年博報堂入社。入社以降、マーケティングプラナーとして主に地域交通のサービス実装、自治体DX等に取り組む。

