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生活者のリアルの声を可視化するAIソリューション ―広告会社の新しい価値創造―
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生活者のリアルの声を可視化するAIソリューション ―広告会社の新しい価値創造―

博報堂DYグループのソリューションを紹介するシリーズ対談「Human-Centered AI Works」。今回は、読売広告社デジタルコンサルティングセンター(以下DCC)の岡村明理、桑野大介、黒田太郎が開発した、生活者の声を可視化するAIアプリ「こえまぷ」と、SNSの本音からAIペルソナを生成する「こえたん」について、その開発背景や活用の可能性を語ってもらいました。

YOMIKOが開発した「生活者の声」を起点にしたAIアプリ

岡村
YOMIKOでは現在、全社的にAI活用を加速させています。今回、新たに2つの生成AIソリューションを開発しました。1つは「こえまぷ」です。
「こえまぷ」は、ブロードリスニングという手法を活用し、ブランドや企業、サービスに関する隠れた意見や感想を可視化・分析ができるAIアプリです。ブロードリスニングは、もともと選挙における国民の声を可視化したことで注目された技術で、SNSやアンケートなどに寄せられた膨大な意見をAIが分類・分析して、その声を可視化する技術です。
従来のSNS分析ツールでは、単語の出現頻度を大小で示すものが多く、意見そのものの分析には限界がありました。一方ブロードリスニングは、民主主義政治の公聴会から生まれた手法で、生活者の声をAIで分析し、政策に生かしていくことを目的に開発されました。YOMIKOでもこのブロードリスリングを活用し、クライアントの課題解決に貢献したいと考えています。

桑野
もう1つは「こえたん」です。「こえたん」はXなどのSNSから収集した声をもとにAIペルソナを生成し、そのペルソナとチャットで会話できるソリューションです。すでに完成はしているのですが、2026年3月に社内で正式にリリースを予定しています。開発に携わった黒田と私は、もともとDCCでマーケティング戦略を立案するストラテジーグループで、生活者の“兆し”を起点にしたマーケティング戦略の立案やソーシャルリスニング分析を実践しています。その知見をツール化し、全社で活用できれば、より付加価値の高い提案ができると考えたのが開発のきっかけです。

黒田
AIペルソナは、マーケティング分野でAI活用が注目される中、企業が実施してきたさまざまな調査データに基づいて開発されています。そこで、私たちが着目したのがSNSです。調査データではユーザーの本音はなかなか見えませんが、SNSにはリアルタイムで率直な「生の声」があふれています。こうした声をAIで分類し、対話可能なAIペルソナとして構築することで、より深いインサイトをリアルタイムで掘り下げられるのではないかと考え、「こえたん」の構想をスタートしました。

クライアントの課題により深く寄り添うためのAI

岡村
今回2つのソリューションを開発した背景には、現場で「データに基づいた意思決定」や「データから仮説を導き出す文化」を今以上に広げていきたいという思いがありました。誰もが自由にデータを扱い、提案の幅を広げられる環境を作りたい。そんな思いを持っていたところに、生成AIの登場が大きな転機となりました。

AIはデータとの親和性が非常に高く、特に私たちが注目したのは「定性データ」です。定量データは分析ツールが充実していますが、アンケートの自由回答やSNSの投稿など「声」のデータは膨大で、人間が一つひとつ読み込んで分析するのは限界があります。そこでAIの力で可視化できないかと考え、「ブロードリスニング」という手法を取り入れて「こえまぷ」を開発しました。

桑野
私たちには「自分たちのマーケティングや戦略立案のノウハウを、きちんと型やソリューションとして残して競争力を高めていきたい」という思いがありました。広告会社はどうしても案件ごとのプレゼンで評価されがちですが、本来は「市場の兆しをどう捉えるか」「どんなターゲットに、どんな価値を届けるか」といった前段階から伴走できるはずです。そこで、これまで培ってきたソーシャルリスニングやSNS分析のノウハウをツール化できないかと考えました。
黒田
Xでは「あれが好き」「これは嫌い」「正直これは微妙」など、ユーザーの素直な感情がそのまま投稿されています。マーケティングにとっては、こうした生々しい本音の中にこそ貴重なヒントが眠っています。
そこで、「特定ブランドについて語る人たちの声」からAIペルソナを立て、そのペルソナと対話しながらインサイトを掘り下げられるようにしたのが「こえたん」です。

AIアプリ開発を通し、業務理解とノウハウ型化を加速

岡村
今回2つのソリューションは、私たち非エンジニアが中心となって開発した点も大きな特徴です。「こえまぷ」はベトナムのエンジニアチームの協力のもと開発しました。
構想から2~3カ月で2025年6月にリリースしました。ブロードリスニングはオープンソースの技術を活用しているため、日本語の文脈に合わせた細かな調整や、英語ベースの設定変更、セキュリティ強化などを依頼しました。「こえたん」は、桑野と黒田が現場業務での知見を生かしながら自ら開発を進めました。
桑野
「こえたん」の構想は5月・6月くらいからありました。エンジニア経験者がいなかったため、実現方法に悩みました。最初は外部企業への委託を検討していましたが、ちょうどアプリ開発AIツールが話題になり始めていたので、「まずは、自分たちで使ってみよう」と挑戦したところ、一気に開発が加速しました。

とはいえデータベースの知識やAPIの具体的な連携など、知識としては知っていても、実際の開発方法は手探りでした。そこで黒田と毎日2時間の打ち合わせを重ね、集中して議論しながら進めました。最初から完璧を目指すのではなく、MVP(Minimum Viable Product)開発の手法を取り入れ、「まずは最小限の機能をつくる」ことから着手し、動作確認ができたら次のステップへと少しずつ範囲を広げていきました。大変でしたが、「概念としてしか知らなかった技術が、実際にこう使うことで動くんだ!」という発見があり、非常に有意義な経験となりました。

黒田
この開発プロセスこそが最大の発見でした。AIに「こういうプロセスで分析してほしい」と指示するためには、私がこれまで感覚的に行っていたソーシャルリスニングの業務をすべて言語化し、棚卸しする必要がありました。その結果、自分たちの業務理解が深まり、ノウハウの型化にもつながったと感じています。
桑野
さらに実際にツールを利用して得られたフィードバックを即座に開発に反映できるため、よりユーザーにとって使いやすいものを、スピーディに作れることも、この開発プロセスならではの強みでした。

AIによる定性データ活用とマーケティング提案の進化

岡村
「こえまぷ」は、現在代表的な活用例として、アンケートの自由回答や、顧客からの問い合わせ内容はもちろん、SNSやレビューサイトの口コミ、ワークショップでの発言録など、さまざまな定性データが対象になります。もとが公聴会記録の分析のため、行政や自治体での活用とも非常に相性がいいですね。

また、企業での活用が広がっています。例えば、黒田と一緒に取り組んだ、あるドリンクの比較分析では、A・B2つの商品の口コミを「こえまぷ」で分析し、「両者の口コミにはこれだけの差分がある」という結果をクライアントへの提案に活用しました。ブランド同士の比較分析にも有効です。

桑野
SNS以外でも、クライアントが定期的に実施している大量のアンケートを「こえまぷ」で分析・可視化しました。自分たちの施策が実際にお客さんや社員にどう響いているかを検証するためです。満足度などの数字だけでなく、深い部分にある「生の声」も可視化することで、多角的な視点で効果検証ができています。
黒田
「こえたん」は、ターゲットとなるペルソナに新商品のコンセプトについて意見を聞いたり、複数のクリエイティブ案を見せてA/Bテストをしたりと、さまざまな活用法を想定しています。従来は好みに左右されがちだったクリエイティブ提案も、AIペルソナで事前に反応を確認できるため、提案の説得力が大きく向上すると考えています。

広告会社が提供できる新たな価値と社内変革

黒田
私はソーシャルリスニングやSNS分析を得意としていますが、これらのスキルは2~3年の経験がなければ身につきませんでした。そのため、未経験者が同じアウトプットを出すのは難しいのが現状です。しかし、「こえたん」のようなソリューションがあれば、ソーシャルリスニングの知見をスムーズに継承でき、経験のない人でも私たちと同じ観点で分析が可能になります。これは社内にとって非常に大きなメリットです。
桑野
「こえまぷ」はすでに複数のクライアントにご紹介しており、手応えを感じています。例えば家電量販店での事例では、アンケートデータの重要性は理解されていたものの、具体的な活用方法に悩まれていました。そこで「こえまぷで可視化しませんか」と提案したところ、「まさに求めていたものです」とご評価いただきました。

これは単なるアンケート分析にとどまりません。私たちが普段手がけている広告が、顧客にどんな価値を届け、従業員のエンゲージメントにどう寄与しているかを考えることは、広告制作の本質と直結しています。

現状、「広告会社=広告を作る人」というイメージが根強いですが、こうしたツールを活用することで、広告以外の切り口からも課題を発見できるようになります。それが結果的に、広告を含めたより大きな仕事につながっていくはずです。今後も新しい切り口を積極的に生み出し、YOMIKOが掲げる「パートナーポジションの向上」の実現に貢献したいと考えています。

黒田
さらにYOMIKO社内で「自分でアプリを開発できる人材」が増えれば、より大きな変革が期待できます。大企業であればエンジニア集団を抱えていることもありますが、YOMIKOのような規模だからこそ、現場の社員が自ら業務に必要なアプリを素早く作れることに大きな価値があります。現場のニーズを最も理解しているのは、やはり現場の人間です。
桑野と私も、今回苦労しながらノウハウを蓄積してきました。その経験を活かし、今後は社内向けにセミナーや勉強会を開催し、全社のAIリテラシー向上にも力を入れていきたいです。
岡村
クライアントとの関係性を深めるためには、まだ「考えが固まりきっていない段階」でどれだけ深く関われるかが重要だと考えています。
相手が悩んでいる時期に、一緒に考え始められる関係性。そのきっかけとして、「こえまぷ」や「こえたん」が武器になるはずです。例えばワークショップの翌日、記憶が新しいうちにアンケート結果を可視化して持参することで、ビジネスプロデューサーやマーケターが「ポケットにしのばせておける気軽な武器」としてAIツールを活用できる環境を整えていきたいです。

人間中心のAIがもたらす本質的な価値

黒田
「こえたん」は、専門部署が持つ高度なデータ分析の知見を全社の営業担当者にも開放しました。これにより、現場を熟知した営業担当者がデータ分析という新たな武器を手に入れ、自分の得意分野と掛け合わせることで、更なる可能性が広がります。これこそが、人間中心のAIがもたらす本質的な価値だと考えています。
最近のメディアでは「人間対AI」や「AIに奪われる仕事」といった刺激的な見出しをよく目にしますが、私はAIを「人間の能力を拡張するもの」として捉えています。博報堂DYグループが掲げる「人間中心のAI(Human-Centered AI)」という考え方を、今後も積極的に活用していきたいと思っています。
桑野
黒田とよく話すのは、コピーライティングやコンセプト作りなどの領域では、やはり「人間にしかできないこと」があるということです。個人の経験やふとした気づき、その人自身のストーリーという“深さ”がなければ、説得力も生まれず、良いものにはなりません。
一方で、人間には「1日24時間」と物理的な時間の限界があります。限られた時間の中で、AIに任せられる領域を切り分け、人間はより深い思考や新しい選択肢の検討に時間を使う。そうすることで、人間の可能性を広げ、社会をより良くしていけると期待しています。
岡村
私たちの「こえ」シリーズのソリューションは、その名の通り「人の声」を起点にしています。博報堂DYグループが大切にしている「生活者発想」をスタート地点とし、マーケティングや街づくりに活かすことで、常に「人」が中心にいます。

ある調査では、AIとの向き合い方は世代によって異なるそうです。
団塊世代はAIに対して「自分の価値が脅かされるかもしれない」という不安を感じやすく、「あなたの価値は揺るぎません。AIは助けてくれる道具です」と伝えることが人間中心の考え方につながります。
一方、インターネットと共に育ったY世代は、AIと人間の得意分野をうまく住み分けることを重視します。
さらにアルファ世代になると、AIは好奇心をぶつける相手であり、一緒に考えてくれる「共感」の対象になっていくそうです。
このように「人間」が多様である以上、中心に置くべき価値観も一つではありません。それぞれの世代や個人が、自分なりの「人間中心」の形を追求する。その多様なアプローチが重なり合った先に、本当に必要とされるAIの姿が見えてくるのだと思います。

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  • 読売広告社 デジタルコンサルティングセンター
    デジタルコンサルティングルーム AI&データビジネスグループ
    グループリーダー
    デジタルストラテジスト
    2015年読売広告社入社。営業職として不動産、インフラ・エネルギー業界を担当。2021年よりデータ活用領域に軸足を移し、マーケティング・ミックス・モデリングによる保険成約予測、AIを活用した売上予測等、データ起点のマーケティング支援を手がける。2022年度にデータビジネスグループを新設。現在は、データ×AIによるビジネス価値創出をテーマに、Difyを活用したアプリ開発、AIアバターによる広報コミュニケーション、AIキャラクターロボット開発など、自社およびクライアント向けソリューションの企画開発に従事。
  • 読売広告社 デジタルコンサルティングセンター プランナー
    2019年読売広告社入社。デジタルメディア推進セクションを経て、2024年度より現デジタルコンサルティングセンターに所属。保険・不動産・エンタメ・公営競技など、幅広い業種におけるマーケティング戦略立案・プロジェクト推進業務に従事。生活者データやプラットフォーマーデータの分析を起点とした統合的なコミュニケーション戦略・戦術立案を得意としている。また人財開発局との兼務も経験し、全社のデジタル人材育成担当も務めた。
  • 読売広告社 デジタルコンサルティングセンター
    AI&デジタルストラテジーグループ 
    シニアデジタルマーケター
    兼インダストリーコンサルティングセンター
    小原ルーム プランナー
    2021年読売広告社入社。主に飲料・不動産・官公庁案件などのストラテジックプランニング業務に従事。また、デジタルマーケターとして、GA分析、WEBサイト制作、Webプロモーション企画立案なども行う。特にSNS分析を通した生活者発想のソーシャルリスニングを得意とする。