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雑誌データを起点とした、ViVi/non-no/CanCamによるZ世代論 ~雑誌DX基盤「MDAM」のマーケティング活用方法~前編
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雑誌データを起点とした、ViVi/non-no/CanCamによるZ世代論 ~雑誌DX基盤「MDAM」のマーケティング活用方法~前編

雑誌DX基盤「MDAM」を活用した雑誌データ分析を通して見えてくるZ世代像や、新たな雑誌のポテンシャルとは。
集英社、講談社、小学館の編集者、データサイエンティストが一堂に会し、雑誌データの分析をもとに、Z世代に向けたマーケティング攻略の鍵について探っていきます。

(登壇者の社名・肩書はウェビナー開催当時のものです)
スピーカー:

平本哲也
講談社
NET ViVi編集長
 
小泉光代
集英社
non-noブランド統括 non-no web編集長 

高橋尚子
小学館
CanCamブランド室 副編集長 

長尾 洋一郎
講談社
IT戦略企画室
テクノロジーラボ 部長
兼 KODANSHAtech合同会社
ゼネラルマネジャー

樋口 建
博報堂テクノロジーズ
メディアDXセンター データテクノロジー部

ファシリテーター:
安島 博之
博報堂DYメディアパートナーズ(現:博報堂)
新聞雑誌局

MDAM分析が明らかにする、各雑誌読者のより精緻なインサイト

安島
まずは編集者の方々から、メディアの簡単なご紹介をいただけますか。
平本
ViViは今年41周年を迎えたメディアです。SNSの総フォロワー数は812万を突破し、インスタやTikTok、中国のSNSにも注力しています。名物企画である「国宝級イケメンランキング」は大きなバズを起こしています。TikTokとインスタグラムの年間動画再生数は3億を超え、クライアントからも好評で、動画で若年層に訴求していく試みを続けています。自分らしく、かっこよく生きようという強い信念、自分至上主義といったメッセージを発信するメディアでもあります。
小泉
non-noが特にターゲットにしている大学生の多くは、経済力も行動力も高いことが分析からわかっています。彼女たちのインサイトをすい上げることでZ世代全体の訴求もしやすくなると考えています。non-noでは現役の大学生を130名ほど抱えており、ウェブ内で記事を書いてもらったり、定期的なヒアリング会を開いたりしています。知名度が高い方、現役アイドルなどが専属モデルとして所属しており、Z世代にアピールできるモデルが揃っていることもnon-noの強みです。
高橋
CanCamはかつての「エビちゃん・もえちゃん時代」の「かわいい」から、今は「オトナきれいめ」に進化をしており、20代社会人女性の一番身近なメディアを目指しています。
具体的には「韓国っぽ」や「オフィカジ」企画のほか、「デート」にも力を入れており、マッチングアプリ関連企画も好評を得ています。フォロワーが10~20万人いる「it girl ICONS」たちとも連携し、CanCamを一緒に作ってもらっています。
安島
ありがとうございます。
では早速私から、MDAMとは何かについてご説明させていただきます。

MDAMは2017年に集英社で開発された編集制作支援機能を兼ね備えたアセットマネージメントです。編集部や協業先の印刷会社、フリーのクリエイターなどがMDAMを通じて雑誌の誌面のやり取りや送稿に利用できるというもので、言わば雑誌のDX基盤になっており、導入する出版社や協業パートナーは年々増加しています。

MDAMを使って昨年我々が取り組んだのが、「VoCE」「MAQUIA」「美的」という3大美容誌の過去3年分のデータ分析です。SNSのデータも用い、時系列でどのコンテンツのどのテーマがどれくらい盛り上がったかを見たところ、例えば「幸せホルモン」というテーマは、まずMDAMでスパイクがあり、その後SNSに波及。一方「純欲メイク」というテーマは、SNSで流行った後にMDAMがフォローすることでトレンドが持続していることがわかりました。雑誌が世の中のトレンドの発信源であると同時に、世の中のトレンドにお墨付きを与える存在であるというよく知られた仮説が、データで立証できたのです。

樋口
今年もMDAMを用いた女性誌を分析しましたので、その結果をご紹介します。
分析対象誌はZ世代をメイン読者に持つViVi、non-no、CanCamの3誌と、ミレニアル世代をメイン読者に持つCLASSY、BAILA、Oggiの3誌です。

最初にレイアウトや編集の仕方といったメタ情報分析から見えた違いをご紹介します。
文字数を見ると、ミレニアル世代はZ世代と比較すると全体的に文字数が多めでした。フォントサイズは、Z世代3誌に特大のフォントが目立ったり、フォントのレンジが広いという特徴がありました。使用しているフォントも、ミレニアル世代3誌はスタイリッシュで洗練された印象、信頼性といった印象を与えるフォントが使われており、Z世代3誌は柔らかさや活気あるイメージの、モダンで若々しい雰囲気のフォントが使われていました。

次に品詞単位でどんなワードが頻出しているかを見てみます。
名詞については、ミレニアル3誌は「30代」「ウェルビーイング」「私達○○派」など、ライフスタイルや生き方に関連する名詞が上位に来ており、Z世代3誌では、「デニム」「ヘア」「眉」など、具体的なパーツやアイテムに関連する名詞が上位に来ています。

形容詞については、ミレニアル3誌で「心地よい」「ふさわしい」「ほど良い」「かっこいい」など、理想の姿を形容する形容詞が上位に来ています。一方Z世代3誌ではいずれも上位1位に「かわいい」があり、さらに「色っぽい」「甘い」「大人っぽい」など、「かわいい」のニュアンス違いの形容詞が上位に来ていました。

副詞については、ミレニアル3誌で、今の自分に合った理想の姿として「すっきり」「ゆったり」「きちんと」といった副詞が、Z世代3誌では、どうかわいいかを形容する副詞が上位に出てきました。「これから」「始めてみたい」など、若い世代が対象だからこそなのかもしれませんが、ライフスタイルの変化に関連した副詞が上位に出てきたのも特徴的です。

続いてトレンドワードについてです。
まずミレニアル世代3誌では、「カスハラ」「フッ軽」「現代短歌」といったワードが上位に上がってきました。「カスハラ」は社会的トレンドを踏まえていますし、「フッ軽」は、フットワークの軽さがミレニアル世代にとっての魅力的な生活者像につながることがわかります。「現代短歌」は、インスタグラムで「♯短歌フォト」のハッシュタグが流行ったり、大河ドラマの影響もあって短歌が見直されていることが背景にあることが推察されます。「損益/決算」は、近年の投資ブームの影響が見てとれます。一方Z世代3誌では、タレントやコンテンツ関連の単語が多く見てとれました。特定の人気タレントや映画ドラマ作品についても上位に来ていたほか、具体的なファッションアイテムも上位に出てきました。

長尾
こうしたデータは、特定の世代に向けて意図的に、狙って編集した結果現れてきたものではありません。MDAMには雑誌を作る過程でつくられたあらゆるデータが格納されており、その結果、これまで感覚知・経験知でしかなかったさまざまな編集の特徴や背景がデータで可視化されたということです。一誌だけの編集方針だけだと見えてこない、ある世代に向けた企画の横断的な比較検討が可能になるわけで、MDAMの活用によって、今後は「一番狙うところはどこなのか」「データの変化から見える事実」などを把握することが可能になったというのが、まさに最大の変化だということを知っていただきたいと思います。
樋口
現代社会においては年齢による生活者の価値観や思考の違いが減少しつつあり、生活者がますます複雑になってきている。一口に「〇〇世代」という切り方ではとらえられなくなってきているなかで、今回のデータ分析を通じて、現在における女性誌の役割やマーケティング的な活用方法を可視化できればと思います。

まず1段階目の分析では、世代のライフスタイルを浮き彫りにするキーワード候補をMDAMにおいて調査します。具体的には、ライフスタイルの関連ワード群、キーワード候補群の中から、MDAMにおける共起語分析によって、その単語、各ライフスタイル関連ワードがどのような文脈で使われていたかを見てみます。それによって、同じワードでも各誌で細部の表現が違ったり、届けたい層の違い、取り扱われているテーマの違いなどが浮き彫りになり、各社の特徴も見えてくるはずです。今回ピックアップするのは「筋トレ」「お酒」「投資」という3ワードです。さらに2段階目の分析では、Xのデータを掛け合わせて、より立体的なクラスター分析を行いました。両者を比較することで、MDAMデータとXのユーザーの親和性を見ていければなと思います。

まず「筋トレ」というワードをMDAMで時系列的に見ていくと、年始や春にスパイクしやすい傾向でした。生活の区切りのタイミングで、生活者のモチベーションが上がることに関連しているのかと思います。どんな文脈で使われているかを見てみると、「自分」「見る」「最近」などのワードと共起して「筋トレ」が使われていました。つまり日常の中で、自分のスタイルに対して不満を持っていたり、気になり始めた読者が関心を引くような内容が多いという印象を受けました。

続いて6誌の違いをより浮き彫りにした分析をしてみます。 CanCamでは「綺麗」「飲む」「ご飯」など食生活の文脈で語られていたり、ViViでは「目標」「モデル」などストイック寄りな内容が書かれています。BAILA、non-noだと「下半期」「習慣」「続ける」など継続に関する文脈で語られていました

具体例を見ると、例えばCanCamでは「プロテインを飲んで栄養補給」「サプリを飲んで」「無理をせず」など、ライト層に寄った内容が多い印象です。一方ViViでは「目標はお腹とお尻」「我慢」などストイックに筋トレをする読者に語りかけていたり、non-noとBAILAは「ストレス発散」「習慣化するには」など、継続に寄り添うテーマで語られているのが見てとれました。

続いて「筋トレ」について、Xでポストしているユーザーのプロフィール文をクラスタリングしたところ、9つのクラスターに分けることができました。中でも「投資・副業」「筋トレ・ダイエット」「育児」の各クラスターが、具体的にどんなワードと一緒にポストしているかをワードクラウドで示し、各誌のクラウドと照らし合わせてみます。すると、CanCamの「食事等を通じて健康的な体を目指す」が「母・育児」のクラスターと共通項があったり、ViViの「目標に向けてストイックに」が「投資・副業」クラスターや「筋トレ・ダイエット」クラスターと親和性が高いことが見えてきます。non-no、BAILAの読者は「頑張りを継続したい」という方が多いため、「雑多」「アイドル好き」「アニメ・ゲーム好き」などのクラスターと親和性が高いようです。

続いて「お酒」について。時系列推移を見ると、毎年冬に登場数が多くなる傾向です。新商品のマーケティングが行われたり、忘年会や新年会、季節的に寒いという背景があるようです。6誌合計では、「食べる」「美味しい」などお酒や食事について触れていたり、「楽しい」「好き」「時間」などお酒と紐づいたシーンについての言及も見られました。さらにOggiは「香り」「味わい」など、CLASSYは「彼」「雰囲気」「お店」、BAILAは「結婚」「人生」などについて語っている特徴が見えました。

具体例を見ると、Oggiは「味わい」「知る人ぞ知るマイナーな」など通向けの内容なのが目立ちました。CLASSYは「彼とスペシャルなひと時」など大人のデートシーンを想起させる形、BAILAは「人生を豊かに」「誰かと楽しく飲みながら話したい」などお酒が人生を豊かにするという文脈、non-noは日常のリフレッシュという文脈で取り上げていました。

こちらもXの各クラスターのつぶやきの内容と比較してみると、X上でお酒の種類などについて情報交換をしたいといったクラスターとOggiとの相性がよかったり、美味しい料理と合わせてお酒を飲みたいといったモチベーションを持つ趣味アカウントとBAILAが、趣味を楽しむ社会人クラスターと、誰かと美味しくお酒を飲みたいモチベーションを持つCLASSYの親和性が高かったりします。non-noのストレス解消やリフレッシュのためにお酒を飲むところが、母世代と意外にも相性がいいことも見てとれました。

最後は「投資」です。年々登場回数が増加傾向にあり、近年の投資ブームとの関連がわかります。どんなワードが使われているかを見ると、「始める」「できる」など初心者に向けたワードが目立っていたり、「美容」「肌」などビューティー面での自己投資の意味でも登場していました。

CanCamでは「ESG投資」が出ていたり、CLASSY、ViVi、non-noではビューティー文脈での「自己投資」というワードが上位に来ています。具体的には、Oggiでは「投資信託を新たに始めました」「引退後の住まいが気になる」など社会人世代の悩みに寄り添う内容、BAILAでは「年間40万円まで非課税」「期間は最長20年まで」など突っ込んだ内容まで紹介していました。一方CLASSYでは「初心者の心得を聞きました」、CanCamは「20代のうちに絶対やった方がいい投資」などZ世代にわかりやすく共感を生みやすい表現で入門的な紹介をしています。

Xのデータと掛け合わせて見ると、Oggiの「引退後に不安を持つ社会人」とファイアを目指す投資アカウントが相性がいいとか、CanCam、CLASSYの「わかりやすく投資に関する知識を紹介」する文脈が、投資の初心者と相性がよかったり、BAILAの「投資に関する国の制度等への関心」があるクラスターが、政治関心クラスターと親和性が高いなどが見てとれました。

長尾
雑誌の編集部門としては、クライアントに対して「うちは〇年代のこういう人たちを狙っています」と説明するしかなく、クラスターも多数あって確度の高いSNSマーケティングに比べるとどうしても弱みを感じてしまっていたかと思うんです。MDAM分析によって我々は何者であるかというより明確な説明ができれば、ネットの海に大量に存在する言葉と存分に戦っていけるはず。分析結果を、どう有機的にビジネスに使っていくかが、次のステップではないかと考えています。

古くて新しい、女性誌の提供価値とは

安島
改めて、雑誌にはトレンドを生み出す力、信頼できるコンテンツ力、時代を切り取る編集の力があると言えます。その力とMDAMの掛け合わせで、商品開発やローンチキャンペーン、リブランディング、コミュニケーション策定など、上流の工程でもお手伝いできることがあるのではないかと考えています。 マーケターが普段感じている世の中の動きや仮説を可視化することで、非常に興味深い示唆を得られたという評価をクライアントからいただけました。
ほかにも、クライアントのオウンドメディアやSNSのアカウント、販促ツール、コミュニティといったお客様とのエンゲージを深める接点に、雑誌のコンテンツ力とMDAMのデータ活用の可能性が多いにあるのではないかと考えています。

また、広告主と一緒に作るタイアップ記事はクオリティが高い一方で、こだわり抜いて作るためなかなか量産が難しいという課題があります。そこにMDAMのアーカイブコンテンツを活用することで、クライアントさんのオウンドメディアにもタイアップ記事を活用していくといったことも可能になるでしょう。さらには、オウンドメディアをつくっているクライアントと制作会社の中に、編集者自身が入ることで、メディアのグロースの部分まで見据えて、一つのチームとして継続的にクライアントのメディアを盛り上げていくといったやり方も、十分考えられると思います。

後編に続く 

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