おすすめ検索キーワード
経営とデータマーケティングの融合は何を生み出すのか──ENND  Partners とHakuhodo DY ONEの協業から始まるクライアント支援の新しい形
PLANNING

経営とデータマーケティングの融合は何を生み出すのか──ENND Partners とHakuhodo DY ONEの協業から始まるクライアント支援の新しい形

2024年に発足した博報堂DYグループ内のプロフェッショナルサービス会社「ENND Partners」、そして、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(以下、DAC)とアイレップの統合によって誕生した「Hakuhodo DY ONE」。経営戦略コンサルティングとデジタルマーケティングという異なる専門領域をもつ2社の協業体制づくりが進んでいます。このコラボレーションの意味とは。そして、その先にあるより大きな協業の可能性とは──。両社のトップに話を聞きました。

岩渕 匡敦
ENND Partners 
Co-Founder & CEO 

田中 雄三
Hakuhodo DY ONE
代表取締役会長

戦略から実行までをトータルに支援するために

──ENND Partnersが営業を開始したのは2024年4月でした。あらためて、会社の成り立ちや理念についてお聞かせいただけますか。

岩渕
コンサルティングの世界では長い間、論理思考が重視されてきました。論理を研ぎ澄ますことで進化してきたのがコンサルティングです。もちろんその役割は依然重要であり、進化はこれからも続いていくと思います。

しかし、そこには課題もあります。「戦略」と「実行」が断絶してしまうという課題です。論理に基づいた素晴らしい戦略をつくったとしても、それを実行に移す際には、ビジネスデザイン、システム構築、マーケティング、事業運営といったさまざまなセクションが動かなければなりません。そこにしばしば断絶が発生します。

私たちはその断絶を乗り越え、戦略コンサルティングだけではなく実行フェーズまで責任をもって支援することで、クライアントに提供する価値を最大化したいと考えています。しかし、それは私たちENND Partnersだけでできることではありません。博報堂DYグループが持つ多種多様な「実行力」を組み合わせることで、戦略から実行までを支援できるトータルなパートナーになることを私たちは目指しています。

──博報堂DYグループ側から見ても、クライアント支援の幅を広げることにつながりそうですね。

岩渕
おっしゃるとおりです。私たちはコンサルタントとして、企業の経営層と直接対話をできる立場にあります。グループのさまざまなセクションとENND Partnersが連携することによって、宣伝、マーケティング、個別事業といった「現場レイヤー」から「経営レイヤー」に博報堂DYグループのビジネスを広げていくことができると考えています。

──DACとアイレップが統合してHakuhodo DY ONEとなってまもなく2年になります。現在注力している取り組みにはどのようなものがありますか。

田中
人事制度を含めた実質的な統合が完了し、ビジネスのアクセルを一気に踏み込んでいる状況です。

現在は、従来のビジネス領域であるデジタル広告事業に加えて、4つのプロジェクトに注力しています。
最大のプロジェクトは、AIを全社に導入する取り組みです。AI活用によって業務効率を向上させ、新しい領域に人材を最適配置していくことを目指しています。

2つ目は、インフルエンサーマーケティング事業を強化するプロジェクトです。
当社のこれまでのデジタルマーケティングは、企業の「広告・マーケティング活動」を支援する取り組みでした。一方、近年市場規模が拡大しているインフルエンサーマーケティングは、TikTokなどのメディアでインフルエンサーを起用して売上を図る「販促活動」の一部です。この領域における企業支援を強化していくことを大きな目標に掲げています。

3つ目は、従来から得意とするDSP(デマンドサイドプラットフォーム)事業を引き続き拡大していくプロジェクトです。

さらにもう1つ、最近スタートしたのがAIO(AI最適化)プロジェクトです。私たちのこれまでの強みの一つは検索連動型広告ですが、検索エンジンがAIモードを備えることで従来型のモデルで成果を上げることが難しくなっています。この変化に対応するには、企業や商品のブランド価値を高めて指名検索を増やし、AIに企業名や商品名を認識してもらいやすくする施策が必要です。それがAIOと呼ばれる取り組みです。これにも注力していきます。

データ活用のスキルによって経営課題を解決する

──企業の経営支援とマーケティング支援は、従来は別のものと考えられる傾向がありました。しかし、近年はそれが一体化しつつあると感じます。

岩渕
企業の経営層が、ブランディングやマーケティングを視野に入れた経営戦略を立てなければならない時代であることは間違いありません。重要なのは、そこにさらに「デジタル」という視点が必要とされることです。今やデジタル無しのブランディングやマーケティング戦略は成立しなくなっています。

しかし、経営層の皆さんが必ずしもデジタルに関する専門的知識を持っているわけではありません。だからこそコンサルタントの支援が必要になるのですが、AIを含めた最新のデジタルマーケティングの手法に精通したコンサルタントは決して多くはありません。私自身、コンサルティングファームのデジタル部門を立ち上げた経験がありますが、その経験があるからこそ、デジタルマーケティングの専門的かつ最新の知識を備えたプレーヤーにはやはりかなわないという実感があります。ここに、私たちコンサルタントと、 Hakuhodo DY ONEのようなデジタルの専門家集団が協業することの意味があります。現在、その協業体制の構築を進めているところです。

田中
私たちはデジタルマーケティングやデータマーケティングのプロとして、経営層を支援できる可能性がある。これはとてもワクワクするビジョンです。その実現のために重要なのが「中間人材」の役割です。
ENND Partnersには戦略コンサルティングの専門性があり、私たち Hakuhodo DY ONEにはデータ活用やデジタルマーケティングの専門性があります。これら異なる領域の専門性を有機的に連携させるためには、コンサルティングとデジタルの両方の知識を備えて、「間をつなぐ」役割を果たす人材が必要です。そういった人材の育成が現在の課題です。それが実現できれば、「私たちはデジタルやデータ活用のスキルによって経営課題を解決します」と胸を張って言えるようになると考えています。
岩渕
私たちが実現しようとしているのは、いわば「組み合わせの美学」によって、デジタル技術やデータを経営の意思決定に役立て、戦略実行のエンジンにしていくことです。その「組み合わせ」が可能な企業グループは、国内はもとより、世界的にもほとんどないと思います。

「人」を動かし、「人」の力を活かす

──ENND Partnersは「Human-Centered=人間中心」という理念を掲げています。この理念についてもご説明いただけますか。

岩渕
先ほど、戦略と実行の間に断絶が生じてしまうケースが多いという話をしました。その最大の要因は「人」であると私たちは考えています。人を動かす力が不足しているために断絶が生まれるのです。逆に言えば、常に人を中心に物事を考えることができれば、断絶は解消できます。では、人とは誰のことか。私たちは、3種類の人を動かす必要があると考えています。

第一は生活者です。企業の成長につながる戦略を実現するには、自社のユーザーや取引先企業のエンドユーザーである生活者に本当に喜ばれる価値を提供し、生活者の心を動かす必要があります。

第二は企業の従業員です。経営戦略を従業員にしっかり浸透させ、従業員の心を動かして行動を変化させていくことができれば、断絶はなくなります。日本企業がほかの先進国と比べて生産性が低いと言われているのも、従業員を動かすことができていないからだと考えています。

そして第三が経営層です。当然ながら経営者も人間であり、弱さや悩みを抱えています。私たちは、経営層の気持ちを深く理解し、人間的なコミュニケーションをするよう努めています。また、経営層がいきいきと仕事に取り組めるよう支援する研修やワークショップのプログラムも提供しています。経営層がより人間らしく働けるようになれば、従業員とのコミュニケーションも活性化し、経営戦略と現場の実行の断絶も生じにくくなる。そう私たちは考えています。

──AIの普及によって、あらためて「人間的価値」に注目が集まっています。デジタルマーケティング企業にとっての人間的価値とはどのようなものだと考えられますか。

田中
一番の人間的価値は「発想力」だと思います。
AIを活用すれば、大量の広告クリエイティブを短時間でつくることが可能です。しかし、AIによるクリエイティブの最大の課題は、どれも似通ってしまう点です。AIは過去のデータをもとに生成するので、これまでにない新しいものを生み出すことは困難です。

これは、クリエイティブだけではなく、広告やマーケティングの企画にも言えることです。必要なのは、人間が発想力を駆使してAIをディレクションしていくことです。人間がディレクションしながら、AIによってクリエイティブや企画の幅を広げ、生産性を上げていく。そんな考え方が今後ますます重要になっていくと思います。

──一方、AI時代にはデータの重要性もさらに増していると言われています。

田中
データはAIの「燃料」であり、データがなければAIは機能しません。
では、どのようなデータを、どのように集め、どのように整理して活用していくのか。そこには専門的な知識が必要とされます。その知識を提供し、経営層や現場スタッフのデータ活用を支援することが私たちの役割です。

企業が保有するファーストパーティデータは貴重なビジネス資産ですが、単独では有効活用できないケースが多々あります。そうした場合には、博報堂DYグループが保有する生活者データを提供することができます。
近年、データ活用の大きな壁となっているのがプライバシーポリシーです。個人情報の取り扱いに十分注意を払いつつ、データを有効に活用していかなければなりません。その点でも、私たちが培ってきたデータ活用のノウハウを役立てていただけると考えています。

新しい価値を生み出すプラットフォーム

──ENND Partnersは、博報堂DYグループのメンバーとともに「クリエイティビティ・プラットフォーム」の構築を1つの目標に掲げています。「クリエイティビティ・プラットフォーム」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。

岩渕
クライアント企業の経営やブランディング、そしてマーケティングなどの実行フェーズをトータルに支援していくには、博報堂DYグループ内の多種多様なメンバーとの連携が必要です。その連携の形を「プラットフォーム」と表現しています。

「クリエイティビティ」には、いわゆる広告クリエイティブやプロダクトだけではなく、「価値を創造する」という意味合いがあります。クライアント企業の新しい価値創造の支援をするプラットフォーム。それが「クリエイティビティ・プラットフォーム」です。博報堂DYグループには、453社の関連企業があり、約2万9000人の仲間がいます。ENND Partnersがその力を結集するハブとなり、大きなプラットフォームをつくり、新しい価値を生み出していきたい。そう考えています。

田中
先ほど岩渕さんがおっしゃったように、そのようなプラットフォームは世界にも例がないと思います。もちろん、コンサルティングファームがデジタルマーケティングを支援するケースはあります。しかし、ENND Partnersのような人間中心主義を掲げるコンサルティング会社と、私たち Hakuhodo DY ONEのような、インターネット広告の黎明期からデジタル技術の進化に対応し、ビジネスを成長させてきた会社が連携する例はほかにありません。さらにそこに、博報堂DYグループ全体のビジネススキルを組み合わせることができる点でこのポテンシャルは非常に大きいと考えています。

そのようなポテンシャルがグループ全体に認知されることで、できるだけ早い段階で具体的なユースケースを創出したいと考えています。おそらく来年度の早い時期には、最初のユースケースを生み出せる見込みです。具体的なユースケースがいくつか生まれれば、多くのクライアントの皆さまにこのクリエイティビティ・プラットフォームの力を実感していただけると思います。まずは、それを1つの目標にしたいですね。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • ENND Partners
    Co-Founder & CEO
    Boston Consulting Group 東京オフィスにて、Digital BCGの共同統括、Marketing, Sales and Pricingプラクティスの日本リーダーを歴任し、2024年より博報堂DYホールディングスの執行役員に就任。
    過去には、ソフトバンク、i2 Technologies、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの企業で、ハイテク・メディア・通信、自動車、消費財、エネルギー産業の経営戦略やデジタル変革を多数経験。『Harvard Business Review』などへの寄稿や執筆多数。経済産業省「アートと経済社会について考える研究会」の委員を務める。欧州、米州、アジアを含む20か国を超えるグローバルでのプロジェクトの経験を持つ。
  • 株式会社Hakuhodo DY ONE
    代表取締役会長
    2002年、他業界を経てデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
    (現・株式会社 Hakuhodo DY ONE)に入社。2011 年、執行役員に就任し、営業
    統括、開発部門統括を歴任。2016 年に取締役、2019 年に常務取締役、2022 年代
    表取締役社長。2024 年 4 月より現職。デジタル広告運用、データ・テクノロジー
    活用によるソリューション開発、人材育成などデジタルマーケティングにおける幅
    広い領域でサービス提供し、国内外で企業の DX 推進を支援している。