
ヒット習慣予報 vol.371『クワイエットバイブス』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの吉田です。
僕は散歩が趣味で、休みの日は札幌の街中を練り歩いているのですが、道行く人々を観察していると、少し前と比較してシンプルな装いの若い人たちが増えてきているように感じています。
実際にシンプルなファッションのニーズが高まっているのか調べてみると、「ファッション 派手」の検索数が、直近10年間で緩やかに減少しているのに加え、2025年に入ったあたりからさらに検索数は減少しており、ファッションに対して派手さを求める傾向がダウントレンドであることがわかりました。
出典:Googleトレンド(「ファッション 派手」の直近10年間のウェブ検索数の推移)
このように、ここ最近は派手で目立つファッションが倦厭されがちなのですが、SNSの投稿などを見ていると、ただ単にシンプルなファッションへと傾倒しているわけではないようで、全体のトーンとしては落ち着いていながらも、ワンポイントでギラつかせるような、目立ちすぎることなく「静かに」自分の気分を上げるファッションを取り入れる人たちが増えてきています。今回は、そんな新たな兆しを「クワイエットバイブス」と題しまして、ファッションの文脈を超えて、生活の中に「クワイエットバイブス」を取り入れた事例を紹介していきます。
最初に紹介する事例は、「クワイエット・ラグジュアリー」です。
クワイエット・ラグジュアリーとは、一目でハイブランドとわかるような主張の強いロゴや派手な装飾を避け、素材やシルエットなどに上質さを求めるような、控えめな豪華さを追求するファッションのトレンドで、海外セレブたちを起点に少し前から徐々に注目を集めていましたが、ここ最近はファッションの文脈を超えて「ラグジュアリー」というカテゴリー全体でこの潮流が見られるようになってきています。
例えば、ホテル業界では立地の良さや設備・内装の豪華さを売りとするラグジュアリーホテルが今までは主流でしたが、ここ最近は「快眠」を目玉コンテンツとしたラグジュアリーホテルが登場し話題になるなど、形のない控えめなラグジュアリーに価値を感じる富裕層が増えてきています。
続いて紹介する事例は、「クワイエット・アクセサリー」です。
先ほど紹介した事例はファッションスタイルそのものに「クワイエットバイブス」を取り入れたものでしたが、最近はZ世代を中心にアクセサリーなど細かなファッションアイテムにも「クワイエットバイブス」が取り入れられつつあります。
代表的なものでは、ヘッドホンやイヤホンケースに付けるシルバーやメタリック素材のアクセサリーが、K-POPカルチャーを通じて流行の兆しを見せています。メタリック素材の派手すぎない落ち着いた色味に対して、あしらわれた造形が派手なものが多く、ワンポイントのアクセントが映えるアイテムです。SNS上でも新商品発売時には大きな反響を呼んでおり、日本国内の通販で取り扱いがない商品を待ちきれず韓国通販で購入している人も見受けられました。
最後に紹介するのが、「クワイエット・メイク」です。
僕自身はメイクに関する知識はほとんどないのですが、後輩の子と雑談している中で、最近「ミュートメイク」という、クワイエットを取り入れたメイクが流行していると教えてもらいました。
ミュートメイク(=mute make)とは、全体的に肌色に近いトーンで揃えた、比較的カラーレスなメイクで、肌や唇の色を大きく変えるというよりは、元々のパーツの素の色を活かしたナチュラルなメイクのようです。
濃く見えないのに、透明感のある今っぽい顔に仕上がることから、Z世代女子だけでなく大人女子にも人気があり、SNS上でも「#ミュートメイク」の投稿は1,000件以上存在し、実際のメイクの手法を中心に、ノウハウが共有されていることが確認できます。
このメイクも、派手に着飾るのではなく、あくまでも元の自分の顔をベースにしながらも「静かに盛れる」ことが、いまの生活者潮流とマッチしたことで流行したのではないかと考えられます。
ここまで「クワイエットバイブス」の事例をいくつか紹介してきましたが、このような新たな兆しを見せている背景にはどのようなことが考えられるでしょうか。
まず、過度に着飾ることへのアンチテーゼが考えられます。SNSを通じて様々な価値観が顕在化し、情報化されていく時代の中で、過“美”性がどんどん可視化されていき、その結果として模倣したいと思うような憧れの対象ではなくなっていったのではないかと考えられます。そういった過“美”性へのアンチテーゼの中で、シンプルさを求めつつも自分の個性はしっかりと残したいと考える若年世代のニーズが、「クワイエットバイブス」という概念とマッチしたのではないでしょうか。
もう一つの背景としては、周りから浮かない範囲でポジティブなマインドを維持したいというニーズが考えられます。お気に入りのアイテムを身に着けることでセルフケアを行っている人は多いですが、人間関係やコミュニケーションに対して特に敏感なZ世代は、周囲との調和を重視する傾向が見られることから、調和を乱さない範囲で自分の気分を上げられる「クワイエットバイブス」がZ世代を中心に広がり始めているのではないでしょうか。
最後に、「クワイエットバイブス」のビジネスチャンスについて、少し考えてみました。
「クワイエットバイブス」のビジネスチャンスの例
■写真の色味や装飾をクワイエットになるように加工してくれる画像加工アプリの開発
■オリジナルのクワイエット・アクセサリーを制作できる制作キットの販売
■クワイエットなライフスタイルを提案してくれる、ライフスタイルコーディネートAIの開発
僕自身は派手で個性的なファッションが好みですが、シンプルなファッションに、ワンポイントでアクセントを加えるスタイルにアップデートしていこうかなと思います。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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北海道博報堂
ヒット習慣メーカーズ メンバー2020年北海道博報堂に入社し、マーケティング・ストラテジックプラナーとして業務に邁進している。インターネットに生息し、日夜インターネットカルチャーを浴び続けている。