2025.06.03

ヒット習慣予報 vol.364『ポジティブキッチュ』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの山田です。
突然ですが、皆さんは「キッチュ」という言葉に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか？
語源はドイツ語で、まがいもの、俗悪なもの、安っぽいもの、本来の目的とは違う用途で使うこと、などネガティブな意味を持つ言葉でした。
しかし、近年は「キッチュでかわいい雑貨」や「キッチュでおしゃれ上級者なファッション」というようにポジティブな意味合いで使われることも増えてきています。
今回はそんな「ポジティブキッチュ」な潮流を取り上げたいと思います。

まず一つ目は「100均財布」です。
「大人になれば上質なもの、高いものを持たなくてはならない。」「ハイブランドなお財布を持つことがステータスになる。」そのような価値観が主流とされてはいないでしょうか？
しかし、最近では100円ショップ等で安価に販売されているビニール製のクリアマルチケースやカードケースをお財布代わりにする人が若年層を中心に増えており、SNS上では「#100均財布界隈」といったハッシュタグとともに盛り上がりを見せています。

「財布を無くした際のダメージが小さい」「中が見えて収支を管理しやすい」「キャラクターコラボのクリアケースがかわいい」等、様々な理由から支持されているようですが、かく言う私も実はこの100均財布界隈の一人です。
TPOに応じて、ちょっといいごはんを食べに行くときは「いわゆるきちんとしたお財布」、近所に買い出しに出かけるときは小さいカバンに入るコンパクトな「100均財布」、と使い分けをしています。
中途半端にお手頃価格なお財布を複数個持つよりも、どこからどう見ても100円ショップ感がにじみ出ているクリアケースを使う方が、「あえて」使っていることをわかってもらえる気がして、周りの目を気にしなくて済む感覚もあり、振り切ったキッチュさ故の使いやすさと言えます。

二つ目は「アグリーセーター」です。
アグリーセーターとは、元々は欧米でおばあちゃんたちが孫たちのために編み、贈ったクリスマスシーズンに着るセーターのことでした。
着るのが少し恥ずかしくなってしまうほど、サンタやトナカイなどの派手な柄が入ったデザインから、「Ugly＝悪趣味な、ダサい」セーターと呼ばれるようになりました。
しかし近年ではこのキッチュさがむしろかわいいと評価され、若年層を中心におしゃれとして取り入れられるようになっています。
日本でも年々アグリーセーターへの注目度は上がっており、海外通販サイトだけでなく店頭での取り扱いなども増えてきています。
SNSでも「#アグリーセーターパーティー」というハッシュタグで、いかに派手で個性的なアグリーセーターを着ているかを競い合い楽しんでいる様子が見受けられます。

三つ目は「パチキャラグッズ」です。
元々はパチンコの景品であったマスコットキャラクター（パチキャラ）が描かれたグッズが、パチンコ未経験層からもキッチュでかわいいと評価されており、バラエティショップでグッズが取り扱われている他、最近では若年層女性向けのアパレルブランドとのコラボも話題になっていました。
私の周りにも、普段パチンコは全くやらないものの、純粋にキッチュなデザインに惹かれて購入している友人がいました。
その友人曰く、「行ったことはない海外カレッジロゴのデザインや、聞いたことはないバンドのグッズと同じ感覚」なのだそうです。

このようなポジティブキッチュな価値観が生まれたのは、主に2つの要因があると考えられます。
一つは、近年の物価高により、従来型のハイブランド品でのステータス維持が難しくなっていることです。
100均財布の例でも触れましたが、誰がどう見てもあからさまにキッチュな商品を使うことが、「本当はもっと上質なものを持つこともできるけど、あえてこれを使っているだけだよ」という”予防線”のように機能しているのではないでしょうか。

そしてもう一つは昭和レトロや平成レトロブームです。
シンプルイズベストで洗練された雰囲気が良しとされる令和の価値観に対し、物足りなさ・寂しさを感じた結果、洗練されきっていない、ある種過剰な装飾から得られる「無用の美」を持つ過去の価値観が再評価されているレトロブームの流れから、懐古主義的な意味を持たずとも同様に無用の美を感じるキッチュさに惹かれる人が増えていると考えられます。

最後に、「ポジティブキッチュ」のビジネスチャンスとして下記のようなことを考えてみました。

「ポジティブキッチュ」のビジネスチャンスの例
■キッチュな映え空間を提供する撮影スタジオ、写真アプリフィルター
■1点追加するだけでキッチュなコーディネートになる派手ダサかわ専門店
■盛り欲求・デコ欲求を満たすキッチュなカスタマイズ系アイテム（オリジナルキーホルダーやアクセサリーなど）

世間一般のこうあるべきという呪縛から解放され、自分にとって心地いいものを選択できることが本当に大人になるということなのかも知れませんね。
私もそんないい大人になれるよう、日々感性を磨いていきたいと思います。

▼「ヒット習慣予報」とは？
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。