
NFTを活用したロイヤルティプログラムでグループシナジーを創出―ハウス食品「CURRY PASSPORT(カレーパスポート)」の成果と今後の展望
次世代インターネット「web3」に注目が集まるなか、新たなマーケティング施策のひとつとしてNFTを活用したロイヤルティプログラムがあります。
博報堂では、NFTロイヤルティプラットフォーム「beyondClub」を運営するPONT社とともに、ハウス食品グループ本社様のweb3ポイントプログラム「CURRY PASSPORT(カレーパスポート)」を実施。ハウス食品のカレー関連商品の購入やカレーハウスCoCo壱番屋の店舗利用など、日常的な“カレー体験”を通じてポイントが貯まるキャンペーンを行いました。
本プログラムに取り組んだ背景やNFTを活用したロイヤルティプログラムで得られた成果について、プロジェクトメンバーの3人に話を聞きました。
(写真左から)
栃原 修
株式会社博報堂
コマースデザイン事業ユニット プロデュース局 第一プロデュースグループ
ビジネスプロデューサー
高橋 良輔氏
ハウス食品グループ本社株式会社
コーポレートコミュニケーション本部 広告統括部デジタルクリエーティブ課 課長
脇山 雄気氏
PONT株式会社 代表取締役
「カレー」を共通のテーマに各事業同士の横の繋がりを創出
── はじめに、皆さまの自己紹介と今回のプロジェクトでの役割についてお聞かせください。
- 高橋
- 私はハウス食品グループの広告統括部デジタルクリエーティブ課に所属していて、デジタルを中心としたコミュニケーションデザインの設計、実行を担っています。
その業務の中で、「新しい手法」に積極的に取り組み、知見を集約し社内還元するといったミッションがあります。世の中に次々と登場する新しい技術や手法を少しずつ試していかないと、時代に取り残されてしまうのではという危惧をもっており、手法先行型でトライアル検証を行っています。そこで得た知見は、事業会社の様々なサービスやブランドプロモーションに活用の幅を広げていくことを想定しています。今回は特にWeb3の分野にしっかりと踏み込んでみようという流れになり、栃原さんや脇山さんとも相談を重ねながら、最終的にはカレーパスポートのアイデアにたどりつきました。
- 栃原
- 2024年3月まで博報堂のDXプロデュース局に所属し、お客様のコミュニケーション領域におけるDX化に取り組んでいました。そのなかで、web3を活用したプロデュース業務にも携わり、ハウス食品グループ様のプロジェクトでは企画立案からPM的な役割まで幅広く関わりました。現在は、DXプロデュース局から異動し、コマースデザイン事業ユニットに所属しています。
- 脇山
- 私はNFTロイヤルティプラットフォーム「beyondClub」を通じて、企業やブランドがファンとより近い関係を築いていくサービスを提供しています。今回のプロジェクトでは、カレーパスポートの開発に落とし込んでいくことをメインに担当していました。
── カレーパスポートの概要について教えてください。
- 栃原
- ハウス食品のカレールウやレトルトカレーといった対象商品の購入やカレーハウスCoCo壱番屋、ココイチベーカリーの店舗利用などを“カレー体験”と総称し、それらを通じてカレーポイントが貯まっていきます。貯まったポイントに応じて、カレーパスポート(NFT)がランクアップしていき、ランクごとに抽選賞品に応募できる仕組みになっています。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000533.000036263.html
構想としては、海外に行く際のパスポートのように、「私はこれくらいカレーが好きです」という証明になるのがカレーパスポートだと考えています。現在はハウス食品グループに限定されていますが、カレーパスポートを見せることでさまざまな割引や特典が受けられるような世界を目指しています。
そういう意味でも、まずはPoCとしてロイヤルティプログラムを試験的に実施し、ユーザーの反応を見ながら継続的にプロジェクトを進めていこうと考えています。
── なぜweb3技術を活用したカレーパスポートのキャンペーンを実施するに至ったのでしょうか。
- 高橋
- もともと課題感として抱いていたのは、グループの各事業が連携してプロジェクトを行う機会の創出ができていなかったことでした。ハウス食品グループでは、カレー関連商品を扱うハウス食品や、カレーハウスCoCo壱番屋、カレーパンを販売するココイチベーカリーなど、それぞれが独自にカレーの商品企画やマーケティング施策を考え、取り組んでいます。
しかし、これまでは各事業同士が横の繋がりを持つ形で1つのプロジェクトを展開するケースはそれほど多くありませんでした。そこで、「カレー」という共通のテーマを軸に、「各事業をつなぐアイデアが何かないか」と模索していき、結果としてカレーパスポートという形に落ち着いたという経緯になっています。
先ほど、新しい領域に関する知見を積み重ねていくことが大切だとお話ししましたが、web3に取り組むと決めてからはさまざまな情報収集を行い、「web3で何ができるのか」という理解を深めていくことに徹しました。ただ、実際にどう進めるべきかについては予測がつかず、お二人と議論を繰り返しながら実現可能なアイデアを考えていきましたね。
普段のウェブサイトと変わらない「使いやすさ」を意識
── カレーパスポートの体験設計はどのように工夫されたのでしょうか。
- 脇山
- ユーザーがweb3に詳しくなくても、スムーズにカレーパスポートを使えるようにした点です。web3やNFTに関連する専門用語は一切使わず、ログインも、一般的なメールアドレスやSNSアカウントでの認証のみで簡単に行えるようにしました。
また、パスポートのランクアップは裏側でNFTがエアドロップされる仕組みにしたのですが、ユーザー側は普段から使っているウェブサイトと同じような感覚で利用できるような設計を心がけました。
- 栃原
- 個人的には「web3を打ち出さなかった」ということにジレンマを感じる部分もありました。そこはハウス食品グループ様と一緒に意思決定したのですが、 要はweb3の市場が日本ではまだできあがっていないとも言えるわけですね。
今回はあえてweb3を前面に出さない設計にしましたが、beyondClubの知見や技術を活かして体験設計を進めたことで、NFTがダイナミックに変化する要素を取り入れつつも、一般的なポイントプログラムとして認識されるように「カレーハウスCoCo壱番屋のお食事券」や「カレーの定番商品」をインセンティブとして受け取れるようにできたのは非常に良かったと思っています。
- 脇山
- カレー体験ごとに貯まっていくカレーポイントも、うまくバランスが取れるように留意しました。例えば商品の購入や来店でポイントが貯まるだけではなく、ハウス食品グループや壱番屋の公式SNSのフォローやハウス食品グループの公式YouTubeのチャンネル登録でもポイントが貯まるようにしました。さらに、ハウス食品にはカレーをより知ってもらうためのウェブコンテンツが充実しており、それを読んでもらうこともカレー体験の一環だと考えたのです。このように、購買に紐づいたポイント以外にも、誰でも手軽にカレー体験に参加して楽しめるように意識しましたね。
- 栃原
- また、今回のカレーパスポートがCRMに繋がっていく可能性も十分にあると感じています。たとえば、今回の取り組みで「カレーハウスCoCo壱番屋コレクション」として店舗来店ごとにスタンプが発行されるコンテンツを用意しました。カレーへの「愛着」だけでなく店舗という「地理的な要素」も絡んでくるので、ターゲティングがよりしやすくなると思いますし、特定のスタンプを集めた人に対して、インセンティブキャンペーンを実施する展開もできるかもしれません。たとえば誰でも行けるわけではないような特定の店舗のスタンプが価値を持つようになって、二次流通が生まれるという世界観ができてくれば、非常に面白いと考えています。
web3を通じて、一度きりにならない長期的なコミュニケーションを実現
── 実際にどのような反響がありましたか?
- 高橋
- キャンペーン期間中の参加人数は想定の倍近くの参加がありました。残念ながら、カレーポイントを1,000ポイント以上貯める「ブラック」ランクの方は少なかったですが、100ポイントで達成する「ブロンズ」ランクを獲得していただいたことや、カレーに関するウェブコンテンツを見てもらえただけでも非常にポジティブな結果だったと実感しています。
web3を活用して繋がったお客様とは、一度きりの関係ではなく継続的にコミュニケーションしていける点が大きなメリットだと思っています。通常のキャンペーンだと、どうしても一度きりのやり取りになりがちですが、今回のロイヤルティプログラムを繰り返し実施していくことで、お客様とより深い繋がりを築けるきっかけにもなると考えています。
- 栃原
- 今回、キャンペーン時の初動以外ではあまり販促活動を行っていませんでした。しかしノンプロモーションでこれだけの成果が出ているのをみると、今後プロモーションを強化すれば、さらに歩留まりが上がる可能性は高いと考えています。
SNSでも「ココイチでポイントが貯まる!」「ハウス食品が面白いことをやっている」といった反応も見られたので、次回以降はweb3の純度を高めたカレーパスポートのサービスを作ってみても面白いかもしれないと感じました。
- 脇山
- 通常のレシートキャンペーンであれば、購入・来店した人しか参加できませんし、単なるリツイートキャンペーンだと特定の体験に限られてしまいます。今回のカレーパスポートが成果を出せたのは、Web上の体験から実際の来店・購入までつなげられたことで、キャンペーンの幅を広げることができたからだと考えています。
- 高橋
- ノンプロモーションではありましたが、カレーハウスCoCo壱番屋の店舗ではカレーパスポートのPOPを設置し、来店客に訴求いただいていたのは正直驚きました。「こんなことまでしてくれるんだ」と思いましたし、ひとつの共通フォーマットをもとにグループ間で連携したキャンペーンを実施するのは本当に初の試みでした。
- 栃原
- その話を聞いてすごく嬉しく思いました。お互いのアセットを持ち寄ることで、相互にプロモーションを補完し合う。グループといっても異なる企業同士でありながら、共にプロモーションを展開するという考え方が、まさにWeb3の哲学だと感じましたね。
「Web3だからこそ楽しめる体験」に昇華させ、新たな価値を生み出す
── 今後さらなるプロジェクトの展開や展望について教えてください。
- 高橋
- カレーパスポートの取り組みを実施したことで、カレーハウスCoCo壱番屋がハウス食品のグループであることを知っていただく機会にもなったのは、とても大きな意義がありました。また、「カレー体験のために店舗へ足を運んでいただいた」というポジティブな意見も店舗からあがっていたので、次回はもっとパワーアップした企画をやりたいですね。
- 脇山
- 今回のパスポートはNFTとして1人1枚発行され、実際の国際パスポートと同じように個人のカレー体験を記録する役割を持たせたことで、ポイントによる「カレーへの愛着度」を示していました。そして今後は、訪れた店舗や購入したトッピングなどもNFTコレクションとして表現し、幅広いカレー体験を反映できるようにすれば、さらに進化していくのではないでしょうか。ブロックチェーン上にこうしたデータが蓄積されることで、カレー業界にとどまらず、他の食品メーカーとも連携し、新たな価値を生み出せるのではないかと考えています。
- 栃原
- 単なるポイントプログラムならWeb2でも実現可能ですが、今後は「Web3だからこそ楽しめる体験」にどう昇華させていくかが自分の中でのテーマになっています。
その鍵となるのが「データ主権」です。
パスポートを持つことで得られるユーザー体験が充実すればユーザーがweb3市場に流れ込み、企業もより多く集まる。それによってさらにユーザーが増えていくという好循環が生まれるでしょう。
この相互作用をどう生み出すかが肝になるわけで、広告会社としてはユーザー体験を軸にした場作りが鍵を握ると考えています。web3ならではの価値をどう生み出すかが乗り越えるべき課題だと感じていますし、新たな付加価値を見出せるようにこれからも尽力していきたいですね。
この記事はいかがでしたか?
-
高橋 良輔氏ハウス食品グループ本社株式会社
コーポレートコミュニケーション本部 広告統括部デジタルクリエーティブ課 課長1998年 ハウス食品株式会社 入社。
国内量販店営業および営業支援業務を経て2011年からマーケティング室にて広告制作などを担当。
2013年 ハウス食品グループ本社広告統括部にて、企業コミュニケーション、事業会社マーケティング支援を担当。データに基づいたストーリー性のあるコミュニケーションデザインの策定・実行などを推進。
-
脇山 雄気氏PONT株式会社 代表取締役2018年東京大学卒。大学在学中からNST Picturesでフィリピンを中心に東南アジアでWebやアプリの新規事業開発を行う。
2021年PONT株式会社設立。2022年クリエイター事業売却。
2022年海外メディアDAOの日本支部、Bankless Japan創立。ETH Global Bangkok、Monad Madnessなど受賞多数。
-
株式会社博報堂
コマースデザイン事業ユニット プロデュース局 第一プロデュースグループ
ビジネスプロデューサー2015年博報堂入社。
初配は情報システム部門となり社内の基幹システム導入/運用に従事。
2018年からは営業職として飲料系メーカーのブランド業務 / D2Cマーケティング業務を中心に担当。
2022年 10月より現職。DX/コマース業務推進プロデューサーとしてHDYGのデジタル領域戦略企画/実行を担う。