
AIが変える広告マーケティングの常識。Grokと博報堂DYグループ、 AIツールによるXの攻略術
AIの進化は、広告マーケティングの常識を一変させる可能性を秘めています。
博報堂DYグループにおける生成AI活用の取り組みとしては、データクリーンルームを活用した配信ポテンシャルの高いユーザーのペルソナ生成によるインフルエンサーの選定、プラットフォーム上のユーザーコメントの詳細分析によるインサイトの可視化などが挙げられます。
また、Xにおいて、X上の会話のAIクラスタ分析でより話題化や拡散、マス化に繋がるような独自プラニングにも活用が始まっています。
Xに搭載されている対話型マルチモーダルAI「Grok(グロック)」は、X上の情報に基づいた回答やリアルタイム性の高い情報収集、高品質な画像生成など、さまざまな機能を提供しており、次世代の広告マーケティングツールとして注目されています。
X(X Corp. Japan 株式会社)Head of Marketingの竹下洋平氏とHakuhodo DY ONE パフォーマンスデザイン本部 副本部長の越 一峰が、広告マーケティング領域におけるGrokの効果的な活用方法や新たな価値を生み出すために抑えるべきポイントを語りました。
AI時代は処理能力だけでなく、パートナーとしての相性や信頼関係も重要に
- 竹下
- 今回は、Xの兄弟会社であるxAIが開発するGrokと博報堂DYグループのAIツールで、「Xのマーケティングをどう攻略していくか」というテーマで対談していきたいと思います。
まずはGrokの概要についてご紹介します。Xでは、日々ものすごいスピードでサービス開発が行われていますが、なかでも特に注目しているのがAIの分野です。
世の中では「AI」という単語を聞かない日がないほど、色々な企業がAIを開発し、まさに日進月歩で進化を遂げていますが、Xでもイーロン・マスクをオーナーとするxAIと密接に連携してX上にAIを導入しています。
2023年7月に設立されたxAIは、その1ヶ月後にGrokの開発を発表。2023年11月のリリース以後はバージョンアップを繰り返して、2024年8月には「Grok 2」を世に出しています。*2025年2月に最新バージョンである「Grok 3」をリリース済み。
「Grok 2」は「初代Grok」と比べて非常に高速で、賢く進化したモデルになっています。X上で今トレンドになっている話題の要約はもちろん、ビジネス用の文書作成や、複雑なプログラミングコードの生成など、あらゆる日常のタスクを手助けしてくれる機能を備えています。
Grokは他のAIと何が違うかというと、X上でリアルタイムに発信される膨大なユーザーの会話データにアクセスし、それを解析してアウトプットに活用できるのが大きな特徴です。
業界全体を見渡しても、XほどAIを深く統合して利用しやすくしているプラットフォームは他にないのではないかと感じています。
こうしたなかで、Grokは一般の利用者のみならず、広告主や広告会社にとっても非常に大きな革新とメリットをもたらすと考えています。
2024年9月には、xAIが世界最大規模となるAIトレーニングクラスターの稼働を開始し、Grokの進化がより加速していくことから、2024年末にはAIの主要指標において「Grokが最も強力なAIになる」と発表しています。実際にイーロン・マスクもそれに合わせて「Grok 3」をリリースすると公言しており、さらなる機能の追加や利便性の向上が期待できると言えるでしょう。
- 越
- Grok以外にも生成AIはあるため、Hakuhodo DY ONEでは様々な生成AIを比較、分析しています。タスクの処理能力や正確性を判断する従来型のベンチマーク評価はもちろん、回答の傾向や口調をもとに“イラスト付きで擬人化比較”なども行っています。
他のモデルでは、無駄のない簡潔な回答が特徴的であったり、「もちろんです」「します」と丁寧な回答が多いモデルもあるのですが、Grokは親しみやすく独特な言葉遣いが特徴です。
今後AIと人間の関係がより密接になる未来においては、処理能力だけでなくパートナーとしての相性や信頼関係も重要になっていくかもしれません。
Grokを実務の中で使うことを考えると、最新トレンドや情報に非常に敏感であること、ペルソナ生成の際にコンテンツやSNSの使い方を具体的に描写してくれることなど、Grokならではのユニークさと有用性があります。
広告主や広告会社の実務にも活用できるGrokの可能性
- 竹下
- 次にGrokのアウトプット例を紹介したいと思います。Grokに「 最近話題のドリンクは?」と聞いてみると、季節限定や新作のドリンク、リラクゼーションドリンク、健康やサステナビリティに配慮したドリンクなど様々な種類が出てきます。
また、「若年層に受けが良さそうな驚き要素のある製品発表イベントの企画案を出して」という少し複雑な質問を投げかけたところ、イベントコンセプトやそのアイデアをかなり具体的に回答してくれました。
先ほどお伝えした通り、Grokは実際のリアルタイムなユーザーがポストしたデータを使ってアウトプットを作ってくれるので、「どのような背景があってこの回答が出たのか」ということを把握でき、実際のポストにも飛べるので、すごくリアリティのあるアウトプットを出せるのが特徴になっています。
そして、「Grok 2」から新しく実装されたものとして、高画質な画像が作れる画像生成機能が挙げられます。「海底で将棋を打つ2人を描いて」「VRをしながらステーキを食べている人を描いて」といったように、実際にはないシチュエーションを聞いてみても、そのオーダーに合わせた画像を作ってくれます。
こういった形で、Grokは単にAIアシスタントとしてだけではなく、広告主や広告会社の皆様にとっても大きなメリットがあると考えています。
今後広告管理画面へのインテグレーションが進めば、例えば、ピクセルタグのインストールの、購入や問い合わせの追跡する設定の仕方や、過去4週間のキャンペーンの平均クリック率を教えてくれたりするようになると思います。
また、クリエイティブにおいてもABテストを実施する機会があると思いますが、キャンペーンの中で一番パフォーマンスの良いクリエイティブは何かというのを教えてくれることも可能になると思われます。
加えて2023年末には、AIによるターゲティング機能を強化した「最適化ターゲティング」を発表しました。
この機能をオンにしていただくことで、実際に設定したターゲットを超えて、より良い結果をもたらす可能性があると判断した時に、システムがターゲットを広げてくれるものになっています。
この実装によってCTRが平均10%改善、コンバージョン(CV)率が平均16%改善したという結果も出ています。
さらに現在、広告主や広告会社の皆様にも活用いただける機能をいくつか開発しています。1つ目は、目標のCV単価を設定すると、AIがその単価を下回る形でCVを達成できるように配信を最適化する「目標コンバージョン単価入札」という機能です。*「目標顧客獲得単価」という名称の入札オプションとして2025年2月にリリース済み。
実際の想定ケースとして、ランニングシューズのメーカーが「コンバージョン単価を1万円以下に抑えたい」と設定した場合、1万円以下で獲得可能なユーザーをターゲティングし、その配信をAIの力で最適化する仕組みとなっています。
もうひとつは、訴求したいターゲットを自然言語で入力すると、AIがXの膨大な利用者像を解析をしてターゲットグループを作ってくれる「AIオーディエンス」という機能です。
これは例えば、「20代の年収800万円以上で自然に関心がある人」といった条件を入力すると、それに該当するターゲットをAIが抽出し、ターゲティンググループを自動作成します。この機能によって、キャンペーン作成に費やす時間を大幅に削減してくれるものと考えています。
Xに特化した生成AIツール「X Post Generator」の有用性と付加価値
- 越
- ここからはHakuhodo DY ONEの取り組みについてお話していきます。
私たちは日々、広告配信実績による検証を通じたナレッジの創出とデータベースへの蓄積を行っています。
昨年の社内セミナーでも、拡散を生み出すためのベストな配信設計「X 広告版 拡散の科学」を発表するなど、テーマ型のナレッジを作り出しています。
こうしたナレッジに関して、これまでは人がナレッジを理解・習得して作業することで、初めて実務に応用することができました。しかし今後は、このナレッジにAIを実装することで、誰もが簡単にナレッジを実務の中で活かせるようになることを目指していきたいと考えています。
今回、ご紹介するのはXに特化したナレッジ搭載の生成AIツール「X Post Generator」です。広告主名や商品名、URLなど簡単な7項目の情報を入力するだけで、AIが商品分析や顧客分析を行い、その後に投稿文(広告文)を自動生成することができる仕様となっており、おおよそ4分程度の処理時間で、投稿文が28本生成されます。
企業が生成AIを利用する上で直面する課題は「非独自性」「画一性」「不透明性」の3つが挙げられます。
LLM(大規模言語モデル)が公開情報をもとに学習されているからこそ、そのまま利用するだけでは差が生まれず、同じような出力結果になりがちであり、AIの処理過程も不透明ゆえに根拠を説明できないという課題感があるわけです。
X Post Generatorはこうした課題に対処する形で設計されています。Xに特化したHakuhodo DY ONEのナレッジを実装し、さらにはXが保有するナレッジも活用することで他社との差別化につながり、モーメントカレンダーの実装や案件個別の分析結果の入力、その情報をもとにした投稿文の生成など、最適化されたアウトプットが可能になります。
また、マーケティングのフレームワークを活用しているので、包括的な分析や多面的なアイデアも出力できます。
実際に、このツールはどのような性能があるのかを業務効率、切り口の多様性、投稿文の品質、広告パフォーマンスの4つの観点から検証しました。
業務効率は先述したので割愛しますが、切り口の多様性はX Post Generatorを使うことでさまざまな切り口による投稿文の表現が生まれ、多様性が大きく向上しました。
投稿文の品質は、人間4名とAIが作成した投稿文を、審査員がいくつかの視点から品質評価を行ったところ、X Post Generatorが人の平均点を上回る結果となりました。特に「エンゲージメント誘発度」というスコアが高くなっています。
実際に、コスメ関連の企業で広告配信した事例では、AIで生成した広告文をもとにして最終的に人間がブラッシュアップして配信したのですが、AI活用後では図のようにCL指標、CV指標ともに大きく改善が見られました。このように、AIをうまく活用することで、広告パフォーマンスにも好影響を与えると思っています。
最後にGrokとの掛け合わせの使い方についてですが、GrokはX上の情報をリアルタイムに引っ張ってきていることから、他社の広告キャンペーンの事例や商品の評判などの調査に使えると捉えています。
商品に対する評価や盛り上がりをGrokの中で検索し、その情報をX Post Generatorに入力することで、Xユーザーに刺さるようなポストを生成することも可能になります。
その先にあるターゲットのインサイトハックなど、GrokとX Post Generatorを組み合わせて活用することで、広告効果をより一層高めることにつながるのではないでしょうか。
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竹下 洋平X(X Corp. Japan 株式会社)
Head of Marketing
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株式会社Hakuhodo DY ONE
パフォーマンスデザイン本部
副本部長