おすすめ検索キーワード
音声解析・生成AIを活用してビジネスを進化させる ~対面商談活用へのチャレンジ~【セミナーレポート】 前編
TECHNOLOGY

音声解析・生成AIを活用してビジネスを進化させる ~対面商談活用へのチャレンジ~【セミナーレポート】 前編

生成AIの発展ともに、音声解析サービスの可能性も急速に広がっています。

しかし、AIを活用した音声書き起こしサービスなどの多くは、録音データやオンライン会議からの音声取得にとどまっており、リアル音声データの解析や要約といったサービスの提供は、依然として難易度が高い状況です。

博報堂DYグループでは、2018年から音声データの解析とビジネス活用に向けた技術開発や事業化に取り組んできました。今後、生成AIの活用は、広告・マーケティング領域だけにとどまらず、営業や商談現場でもさらに進んでいくでしょう。

本記事では、先日開催した博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナー「音声解析・生成AIを活用してビジネスを進化させる ~対面商談活用へのチャレンジ~」の様子を編集し、お届けします。セミナーレポートの前半では、私たちが研究開発した商談時の対話音声をタイムリーに解析し、効果測定・評価レポートを自動生成する対話音声解析システム『CONOOTO®』(コノート®)技術について、その仕組みや利便性、その可能性について「Human-Centered AI Institute」所長補佐の西村啓太が紹介します。さらに、この『CONOOTO®』技術をもとに開発が進められている対面商談の評価や商談メモをAIで自動作成し、実際の営業現場で活用できるサービス『商談サポートアプリ』について、gmove事業責任者の金野がご紹介します。

<登壇者>
森 正弥
博報堂DYホールディングス執行役員
Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表

西村 啓太
博報堂DYホールディングス
Human-Centered AI Institute所長補佐
マーケティング・テクノロジー・センター室長補佐

金野 敏和
株式会社博報堂
ミライデザイン事業ユニット
gmove 事業責任者

【第一部】商談音声解析と生成AIの実用可能な技術内容

営業活動の課題を科学的に解決する『CONOOTO®』

西村
私は、博報堂DYホールディングスの研究開発組織「マーケティング・テクノロジー・センター」と、生成AI領域に特化した研究開発組織「Human-Centered AI Institute」の所長補佐を務める西村と申します。

第一部では、私たちが研究開発した『CONOOTO®』について紹介させていただきます。
『CONOOTO®』とは、商談時の対話音声をタイムリーに解析し、効果測定・評価レポートを自動生成する対話音声解析システムです。オンライン・オフラインの商談の解析・評価や、生成AIを活用した商談内容の要約を可能にします。2018年から研究開発をスタートし、2019年にサービスをローンチ、事業化について検討しているところです。

現在、世の中には多くの音声解析サービスが溢れているかと思いますが、その大半は、書き起こしやキーワード検出に特化しているサービスです。

そんな中、私たちのサービスで大切にしたのは、営業スタッフとお客様のやりとりや反応といった、コミュニケーションを可視化・評価すること。当社グループのフィロソフィーである「生活者発想」に基づき、技術を構築しています。

西村
まずは、このサービスの仕組みについてご紹介させていただきます。
対面の商談の場合は独自アプリにて、オンラインの商談の場合はシステムにて音声データを取得することからはじまります。次に話者を分離し、その音声が誰のものなのかを識別。商談内容を書き起こし、定量的に評価した上で、商談メモを自動的に生成します。これらを一連のシステムで行えるサービスとして、現在、商用での提供を進めています。

研究の積み重ねによって、精度を追求

西村
この研究に着手した2018年ごろの私たちの認識は、「生成AIにはまだまだ難点がある」というものでした。一般的な商談内容を文字に書き起こすと、1回しか発話していないことも繰り返して表示されてしまうなど、精度が十分ではなかったのです。
どうしたら高い精度で発話内容を書き起こせるのか、また、どうしたら書き起こしにとどまらずコミュニケーションを可視化できるのか。そこで、精度の向上を目指して3つの研究プロセスに取り組んできました。

まずは、人の手で正解データをつくること。どこからどこまでが営業スタッフの発話なのかといった話者の特定・分類や、発話内容の書き起こし、質問内容の検出など、正しいデータを作成します。次に、音声データを解析し、発話区間を正しく検出できているか、話者を正しく識別できているか、質問を正しく認識できているかなどを解析。最後に、正解データとアルゴリズムを比較し、評価・チューニングしていきました。

その結果、「話者識別」や「話者交代」の予測精度が向上し、当社グループ独自の技術力の高さを証明することができています。

また、類似サービスでは、話者が代わっているにもかかわらず同じ人が話しているように出力されることも多いのですが、当社グループの技術では「話者交代」を1,000ミリ秒単位で精度高く検出できるようになっています。

商談内容の要約についても、話題の粒度が粗ければ、顧客の近況など取得したい情報のキーワードを生成AIにインプットすることで抜け漏れを防いだり、要約内容と実際の会話のニュアンスが異なる場合は会話にない情報を含めないようにしたりと、何度も調整を繰り返してきました。

こうした細かな調整によって、出力される要約の精度は大幅に向上しました。調整なしの生成AIで出力された要約は粒度が粗く、情報にも漏れがあったのですが、調整によって粒度が細かくなり、抜け漏れも減少。さらに、テーマごとに見出しがついたり、提案内容への反応や次回の内容などもまとまっていたりと、クロージングにもつながりやすい要約になっています。

こうしたプロセスを3つのモデルでテストし、精度やコストについて比較検討することで、よりよいサービスの提供を目指しています。

【第二部】営業現場における先進技術の実践的活用

営業現場の実態と課題

金野
はじめに、自己紹介をさせていただきます。
私は、博報堂で『gmove』というチームを運営している金野と申します。

今回お話させていただくのが、『商談サポートアプリ』についてです。
第一部で西村から紹介させていただいた『CONOOTO®』技術をもとに、実際の営業現場で活用できるサービスとして開発を進めています。

開発に際して、さまざまな営業現場に伺ってヒアリングさせていただく中で、私たちは二つのことに着目しました。

一つが、商談力の底上げの必要性です。
どこの営業現場でも同じような課題があると思うのですが、商談が属人化してしまって管理できていなかったり、商談力を均質的に評価するのが難しかったり。それだけでなく、営業スタッフの商談力向上のための研修時間が十分に取れないといった課題もあるのではないでしょうか。

もう一つが、商談メモの記入が不十分であることです。
商談後、お客様の情報やニーズ、次回のアクションをメモしておくことも多いと思いますが、それが不十分であったり、書いている粒度が人によってまちまちだったりすると、次のアクションに結びつきにくいだけでなく、チームでお客様対応にあたることもできなくなってしまいます。一方で、商談メモの記入を義務化すると、残業時間の増加につながることもあるため、なかなか踏み切れないこともあるでしょう。

『商談サポートアプリ』で、業務効率化と商談力向上を実現

金野
こうした課題に対して、私たちが準備を進めているのが『商談サポートアプリ』です。
お客様との会話をタブレットで録音し、商談を評価するだけでなく、生成AIによる商談メモの自動生成や、本部でのデータ管理まで可能にします。このアプリを使うことで、業務効率化はもちろん、顧客対応力の向上にもつながるはずです。

簡単に、操作についてもご紹介させていただきます。
まずは、商談前にアプリにログインし、お客様の承諾を得た上で録音。商談後に音声を保存すると商談メモが自動で作成され、一覧できるようになります。さらに、商談ごとにその品質が数値化され、商談力の変化も確認することができます。

また、マネジメント層などの管理者画面では、すべての店舗・営業スタッフの商談内容を音声含めて確認できるため、営業スタッフの育成や指導にも役立てることが可能です。

ここで、ホンダの販売会社様にご協力いただいて、実際に近い形で音声を収録させていただき、アウトプットした事例をご紹介します。
家族構成や車の使用状況、重視しているポイント、チャイルドシートが必要などといった商談内容を元に、生成された商談メモがこちらです。

1~3でお客様のライフスタイルやご要望・お悩みをまとめ、4~6では営業スタッフからの提案内容とお客様の反応や質問を整理、7~10では今回再確認したことや、次回の内容・お約束など、クロージングにつながる内容がまとめられています。

さらに、営業スタッフ用の要約だけでなく、お客様用の要約も同時に生成されるため、商談後すぐにお客様へ商談内容を送ることも可能です。

これらの要約内容や項目については、企業様に合わせて出力されるよう、私たちの方で調整いたします。
このように、開発過程でいろんな商談の要約を見ていく中でわかったのは、優秀な営業スタッフほど、お客様のニーズをしっかり引き出せていて、クロージングもできているということ。要約によって、必要な情報を聞けていなかったり、クロージングができていなかったりすることも明白になりますので、店長やマネジメント層は営業スタッフの要約を確認することで、アドバイスや育成にも活かせるのではないかと思っています。

5つの指標で、商談内容の評価が可能に

さらに、「会話のラリー」や「抑揚」などの5つの指標を軸に、商談内容の評価にも力を入れています。

たとえば「会話のラリー」は、発話時間の比率で評価しています。商談の場合、営業スタッフは6割くらいに抑え、4割くらいはお客様にお話しいただくのがよいと言われているので、そうした目安をもとに、営業スタッフの発話時間が長かったり、短すぎたりする場合は、スコアが低くなるようになっています。

また、「抑揚」は、営業スタッフの周波数の変動によって評価。やはり自信のない営業スタッフは、少し平坦な喋り方になってしまうこともありますので、周波数の変動からスコアが算出されるようになっています。

あとは、「質問回数」を検知してスコア化したり、最後の語尾を見て「言い切れているか」を見たり。また、これは検証中なのですが、お客様の感嘆やポジティブなワードから「お客様満足度」を評価できないかと、マーケティング・テクノロジー・センターと一緒に開発しているところです。

実際にサービスを体験いただいた営業スタッフの方からは、「ほぼ完璧な要約で驚いた」「商談内容を思い出してメモを残す手間が省けた」「確実に記録が残るため、次回の商談に活かせると思う」「AIによる分析によって客観的に課題を受け止められた」など、コメントをいただいています。

最後に、将来的なサービスの発展イメージについてもお話させてください。
現在は、商談後の要約・評価をスタートラインとしていますが、今後は、AIがもっとアシスタント的な役割を担っていくようにできたらと思っています。

たとえば、商談中にお客様のニーズを踏まえてAIが最適なサービスを提案してくれたり、商談後にお客様に要約を送る際に、最適なコンテンツをあわせてお送りするなどが考えられます。また、お客様との商談内容のデータが溜まっていくと、それ自体がビックデータになりますので、ニーズの傾向を分析して商品開発にも役立てられるでしょうし、優秀な営業スタッフの商談を分析して商談の勝ちパターンを探ったり、お客様に刺さっているキラーワードを見つけて育成に活かしたりと、さまざまな活用が可能なのではないかと思っています。

今後、ぜひいろんな企業様と一緒に検証させていただきながら、商談へのAI活用を進めていきたいと思っています。

<後編>に続く

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂DYホールディングス執行役員
    Chief AI Officer
    Human-Centered AI Institute代表
    1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て、監査法人グループにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。東北大学 特任教授、東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問、日本ディープラーニング協会 顧問。著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
  • 博報堂DYホールディングス
    Human-Centered AI Institute所長補佐
    マーケティング・テクノロジー・センター室長補佐
    The University of York, M.Sc. in Environmental Economics and Environmental Management修了、およびCentral Saint Martins College of Art & Design, M.A. in Design Studies修了。
    株式会社博報堂コンサルティングにてブランド戦略および事業戦略に関するコンサルティングに従事。株式会社博報堂ネットプリズムの設立、エグゼクティブ・マネージャーを経て、2018年より博報堂DYホールディングスにて研究開発および事業開発に従事。
    2019年より株式会社Data EX Platform 取締役COOを務める。2020年より一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)にて、データポリシー委員会、Consent Management Platform W.G.リーダーを務める。
  • 株式会社博報堂
    ミライデザイン事業ユニット
    gmove 事業責任者
    2005 年博報堂入社。自動車・流通業界などでビジネスプロデューサーとして活動後、現在は博報堂顧客接点専門チーム「gmove」のリーダーとして SMS関連サービス、CTIソリューション、オンライン接客ロープレサービスなど、販売現場に向けたさまざまなソリューション・サービスを開発している。