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生成AIを事業推進のドライバーとするために ──【ad:tech tokyo2024レポート】
TECHNOLOGY

生成AIを事業推進のドライバーとするために ──【ad:tech tokyo2024レポート】

生成AIは日進月歩の進化を続けています。AIの最新の機能をマーケティングや事業推進に役立てるにはどうすればいいのか──。クリエイターとエンジニアが、それぞれの視点から生成AIの可能性とビジネスにおける重要性について語りました。

<モデレーター>
野口 竜司氏
ELYZA CMO

濱田 隼斗氏
Tech0 CEO

洞ノ上 茉亜子氏
サイバーエージェント 
インターネット広告事業本部AIクリエイティブ部門AIクリエイティブプランナー

伊藤 俊輔
博報堂プロダクツ 統合クリエイティブ事業本部 ウラワザ クリエイティブディレクター/AIプランナー

マーケティングの安全性や「深さ」をAIで実現する

野口
生成AIの進化には目を見張るものがあります。テキスト、静止画、動画、音声といった種類の異なる情報を学習してアウトプットを出す「マルチモーダルAI」はすでに実用化されています。世界中のさまざまな言語を理解し、流暢に話せるようにもなりました。

最近のニュースで衝撃的だったのは、オープンAIが開発した新しい大規模言語モデル(LLM)のIQが120を超えたというニュースでした。これは、大学院の博士課程レベルの能力をAIが身につけたことを意味します。人間にできることをAIができるようになり、さらにそれを超えつつある。それが現在のAIです。

では、最新の生成AIは具体的にビジネスにどのように活用できるのか。AIの何が私たちにとって重要なのか。そういった視点でお話をうかがっていきたいと思います。

伊藤
博報堂プロダクツでは、プロモーションを安全に実施するための手段として生成AIを活用しています。
例えば、投稿キャンペーンを実施する場合、キャンペーン参加者から投稿される画像やテキストの内容を細かくチェックしなければなりません。一日数百件から数千件という数にのぼる投稿のすべてをスタッフが目視で確認するのには限界があります。

そこで私たちは、画像チェックには画像認識AI、テキストチェックにはLLM(大規模言語モデル)を活用することにしました。画像認識については、クライアントと相談したうえで、どのような画像を不適切とするかを設定しました。LLMも特定のワードをフィルタリングするといった設定によって、キャンペーンの意図に合わないテキストを削除していきました。これによって、スタッフの負担が激減したばかりでなく、有効な投稿に対してスピーディにレスポンスすることが可能になりました。

また、ユーザーアンケートにも生成AIを活用しています。
従来のアンケートでは、あらかじめ決めた質問に対して、一問一答の形でしか答えを得ることができませんでした。しかし生成AIを使えば、チャット形式で質問の深掘りができるかもしれない。ユーザーの答えに対し、「なぜこの答えになったのですか?」「なぜそう思うのですか?」とAIが質問を重ねることでインサイトが得られるかもしれないと考えました。いわば、AIにインタビュアーになってもらう。これはすでに一定の成果も得られています。

もう1つ、イベント会場で来訪者の写真を撮り、それをその場でイラスト化するといったAIの活用法にもトライしています。まだプロトタイピングの段階ですが、早々にプロダクト化して、広くご提供していきたいと考えています。

「RAG」がビジネスにもたらすインパクト

濱田
企業の中にはさまざまなアセットがあります。しかし、それを十分に活用できていないケースも少なくないと思います。部署が違うのでデータが使えない。活用しているシステムが部門ごとに異なる。ナレッジが俗人化している──。そういったケースです。

それらのアセットを上手に活用するにはどうすればいいか。そのような課題を解決してくれるのが、RAG(Retrieval-Augmented Generation/検索拡張生成)と呼ばれる技術です。私はこれに着目しています。

RAGとは、すでに学習している情報だけでなく、さまざまなデータベースの情報を「検索」して新たな情報を得ることで、回答精度を高める生成AIの新しい技術です。ChatGPTとRAGの違いは、裁判に例えるとわかりやすいと思います。ChatGPTが、検事や弁護士が自分の頭の中にある知識で議論するイメージに近いのに対し、RAGは判例集を持ち込んで、それを参照しながら論理を組み立てていくようなイメージです。この場合の判例集がデータベースに相当します。

社内のアセットを「判例」として検索できるようになれば、あらゆる業務にそのアセットを活用することが可能になります。もちろん「判例」は社内の情報に限りません。例えば、RAGに「電気自動車の事例をレポートしてほしい」という指示を出すと、世界中のEVの事例を検索・収集し、それをパワーポイントの形でまとめてくれます。私の計測では、RAGを使うのと使わないのとでは、生産性に25倍ぐらいの差が出ます。

野口
RAGは「知識参照」を伴う生成AIの利用方法の一つですよね。
生成AIが学習していない情報は世の中にたくさんあります。それを探しにいって、参照しながらアウトプットを出すということです。そのような仕組みをエンジニアリングのスキルがなくても使えるようにするということですね。
濱田
エンジニア起点ではなく、現場の課題起点でAIを活用することが重要だと思います。現場のマーケターの皆さんが生成AIの使い方を覚えて、さらにコードを多少書けるくらいのスキルを身につければ、外部のエンジニアに委託する場合と比べると10分の1くらいのコストで済みます。もちろんコストパフォーマンスだけでなく、生産性も格段に変わるはずです。生成AI、とくにRAGを活用すれば本当に世界が変わる。そのことを皆さんにお伝えしたいと思います。

CMクリエイティブの新しい形

洞ノ上
サイバーエージェントは、エンジニアとクリエイター、合わせて数千人規模になってきています。その間の垣根もなくなってきていると感じます。生成AIを活用する際は、エンジニアとクリエイターが垣根なく動くことでその成果がより大きくなると私は思っています。

私たちの会社でAIの開発や研究を中心で担っているのは、「AI Lab」という企業内研究機関です。会社の中に研究機関があることのメリットは、広告ビジネスから得られるデータをすぐに研究に生かせるので、非常にスピーディな研究・開発が可能になることです。
そのようなサイクルから、さまざまなツールが生まれています。「極予測AI」もその1つです。現在、多くのお客様が「極予測AI」を活用されています。

昨年12月には、商品画像の自動生成機能の開発/運用開始をしました。商材の写真を大量に撮影し、それをAIに学ばせることで、ロケやスタジオ撮影なしで広告画像がつくれる機能です。また、広告効果最大化の追求に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極お台場スタジオ」を開設し、CMの映像を撮影しながらリアルタイムで広告効果を予測して、最も効果が高いと考えられるシーンだけを採用するといったことも可能になっています。この機能を使うことで、撮影、納品、入稿までを一日で終わらせた事例もあります。

野口
CMに出演するタレントの映像をAIで生成するといったことも可能になっていますよね。
洞ノ上
実在するタレントの分身をつくることもできますし、タレントやモデルをバーチャルに生成することも可能です。実在しないモデルが登場しているCMも増えていますよね。

仕事の基盤にAIをどう乗せていくか

野口
最後に、それぞれの視点から生成AIの可能性や重要性についてご意見をいただけますか。
伊藤
マルチモーダルAIの活用法に着目しています。
テキスト、画像、音楽それぞれの生成モデルを組み合わせれば、これまでになかったクリエイティブをつくることが可能になるかもしれません。例えば、風景画像をテキスト化し、さらにテキストをもとに音楽を生成したら、風景に合った音楽ができるかもしれません。そんなAIの使い方にチャレンジしてみたいですね。

濱田
ビジネスの面から見れば、AIはたいへん優秀な課題解決ツールであると言えます。1つの課題に対して複数の解決法を出してくれるし、それぞれの方法に対する結果検証もしてくれます。ゴールに向かって最短で最良の道を示してくれる地図のようなツール。それがAIであると考えています。
洞ノ上
AIはたんなる道具ではなく、自分にシンクロして自分の能力を拡張してくれる武器である。そんなふうに考えるべきだと思います。AIを自分の一部と捉えられるかどうかで、これからの仕事の形は大きく変わっていくのではないでしょうか。
野口
生成AIは、今や「使うか、使わないか」ではなく、「使う」の一択になっています。問題は「どう使うか」です。自分の仕事の基盤にAIをどう乗せていくか──。その視点があらゆるビジネス分野で必要とされていくのだと思います。
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