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注目を集める「マーケティング・ミックス・モデリング」。その具体的な活用法とは ─Advertising Week Asia 2024より
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注目を集める「マーケティング・ミックス・モデリング」。その具体的な活用法とは ─Advertising Week Asia 2024より

マーケティング&広告業界で最大級のグローバル・プレミアイベント「アドバタイジングウィーク・アジア2024」。昨年に引き続きリアルとオンラインで開催された今回も、各界の最新の知見に触れる刺激的で魅力的な数多くのプログラムが実施されました。

ポストCookie時代のマーケティング効果検証手法「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」にあらためて注目が集まっています。MMMとは何か。マーケターはMMMをどう使うべきか。注意すべきポイントとは──。
本稿では、MMMを活用している事業会社、MMMの技術開発を行うプラットフォーマー、そしてMMMの導入と運用を支援する広告会社。そのそれぞれの立場の3人がMMMの実践について語りました。

佐藤 満紀氏
花王 DX戦略部門DX戦略デザインセンター
データマネジメント部長/データ知創戦略センター チーフデータサイエンティスト

田中 湧也氏
フェイスブックジャパン
マーケティングサイエンス/ マーケティングサイエンスパートナー

<モデレーター>
宮腰 卓志
博報堂 データサイエンティスト/チーフディレクター

マーケティング施策と成果の関係を明らかにする手法

宮腰
マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)は、計量経済学から発展したマーケティング効果計測手法です。回帰分析、すなわち結果となる数値とその要因と考えられる数値の関係を明らかにする分析方法を応用したものがMMMです。この手法を活用することで、どのようなマーケティング施策がどのような成果につながったかを高い精度で推定することが可能になります。

自社のマーケティングファネルやカスタマージャーニーを踏まえた上で、広告などのマーケティング施策と売り上げや利益との関係を測定し、マーケティング活動の最適化を実現していくのがMMMの活用法です。

MMMが大きな注目を集めている背景には、Cookie規制によって従来のような広告効果測定が難しくなっていること、ユーザーデータが個々のプラットフォーム内でのみ活用されるWalled-Garden化が進んでいることなどが挙げられます。

現在、各社がさまざまなMMMソリューションを提供しています。今回は、MetaのオープンソースMMMソリューション〈Robyn〉を紹介していただきたいと思います。

田中
Metaがオープンソースに力を入れているのは、技術をオープンにすることで利用者が増え、それによって技術がどんどん進化して社会のベネフィットになっていく、そんな考え方があるからです。〈Robyn〉もそのような思想に基づいて開発されたMMMソリューションです。オープンなMMMのユーザーコミュニティをつくり、ソリューションの質を高めていくことを目指しています。

〈Robyn〉には4つのポイントがあります。個人情報を守る「プライバシーファースト」、すべてのソースコードを公開して、誰もが無料で使えるようにする「MMMの民主化」、さまざまなMMMソリューションとの共創を目指す「既存MMMとの補完関係」、そしてユーザーからのフィードバックによってソリューションを改善していく「コミュニティと一体となった進化」です。

〈Robyn〉の特徴として、MMMをクイックに導入できること、コミュニティからのサポートを得られること、技術的な透明性が高いことなどが挙げられます。

あるオンラインゲーム会社は、〈Robyn〉を導入した結果、広告効果予測モデルの精度が従来比で95%向上し、ROAS(広告の費用対効果)が8%も改善されました。
〈Robyn〉を活用することで、ペイドメディアの費用対効果を明らかにすることが可能になります。その機能を使って月次の広告予算配分を行い、週次・日次のオペレーションはアトリビューションで調整していく。そのような方法で大きな成果を上げています。

目的は「マーケティングをコントローラブルにする」こと

宮腰
次に、事業会社におけるMMM活用の事例を紹介していただきたいと思います。花王でDXを推進している佐藤さんからご説明いただきます。
佐藤
私たちがマーケティング施策のROI(費用対効果)を明らかにする取り組みを始めたのは20年ほど前でした。当時、粉末洗剤の売り上げが落ちていたため、内容量を減らすことでコストパフォーマンスを改善する施策がとられていました。そのダウンサイジングの影響を計るプロジェクトを私が担当しました。
テレビCM、店頭施策、販売価格、季節的要因などを踏まえたうえで、ダウンサイジング後の販売数の推移を調べた結果、商品販売に対するダウンサイジングの影響はほぼないということがわかりました。

これが、現在で言うMMMの花王における初期段階の取り組みでした。近年、デジタル広告が多様化し、データ分析のアルゴリズムも進化したことで、MMMへの注目度が高まっています。私たちも昨年から今年にかけて〈Robyn〉も利用し、最新のMMMを活用してみました。

実際に活用してみると、さまざまな分析結果がアウトプットとして出てくることに驚く一方、結果の解釈の難しさも感じました。また、変数の設定など独自の工夫も必要になります。MMMを施策にいかしていくには、ソリューションを導入するだけではなく、それを活用できる人材が必要だと思います。

宮腰
マーケターは具体的にMMMをどう使うべきだと思われますか。
佐藤
マーケティング施策の効果を可視化し、定量化することで、マーケティングをよりコントローラブルにしていく──。それがMMM活用の目的です。しかし、MMMを上手に使うことは簡単ではありません。

ポイントは3つあります。まず「データ収集と分析の準備」です。どのようなデータを、どう集めて、どう分析するか。それを決めて実行するところに大きな労力を要します。しかし、そこで疲弊してしまっては元も子もありません。重要なのは次の「分析結果のレビュー」であり、さらに重要なのはそのレビューをもとにした「アクション」、すなわち新しい施策の実行です。
「準備」と「レビュー」と「アクション」。その3つが揃って初めて、MMMは効果を発揮すると言えると思います。

重要なのは「チームづくり」と「目的の明確化」

宮腰
これからMMMに取り組んでみようと考えている企業の皆さんに向けてアドバイスをいただけますか。
佐藤
まずは、しっかりした「チーム」をつくることだと思います。マーケティング部門の現場には日々こなさなければならない業務がたくさんあります。その中で、データ分析という別のタスクに取り組むのはたいへんなことです。マーケティングの現業以外の部分でMMM運用を支えてくれるスタッフをいかにアサインできるか。それが重要な視点になると思います。

もう1つ大切なのは、MMM活用の目的を明確化することです。現在の広告展開の効果を知りたい。あるいは、広告出稿の最適化を図りたい。そのような目的があって初めてMMMは効果を発揮します。「とりあえず使ってみる」というスタンスでは、得られるものは少ないと考えるべきです。

田中
いずれもとても重要な視点ですね。チームを組成する場合は、マーケティングやデータのプロといった職能にこだわらず、幅広い人材を集め、MMMとはどのようなものかを体験し、その効果を実感してもらうことが大切だと私たちは考えています。
宮腰
運用するチームをつくることと、目的をしっかり定めること。その2つによって、MMMは大いに力を発揮するということですね。ぜひ多くの企業の皆さんにMMMにチャレンジしていただき、コントローラブルなマーケティングを実現していただきたいと思います。
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  • 佐藤 満紀
    佐藤 満紀
    花王 DX戦略部門DX戦略デザインセンター
    データマネジメント部長/データ知創戦略センター チーフデータサイエンティスト

  • 田中 湧也
    田中 湧也
    フェイスブックジャパン
    マーケティングサイエンス/ マーケティングサイエンスパートナー

  • 博報堂 データサイエンティスト/チーフディレクター