おすすめ検索キーワード
販促キャンペーンをいかに進化させるか──ブランドの中長期的な成長を目指す新しいセールスプロモーション
PLANNING

販促キャンペーンをいかに進化させるか──ブランドの中長期的な成長を目指す新しいセールスプロモーション

商品の販促キャンペーンは、短期的な売り上げが目標となるケースが少なくありません。しかし「ブランドの成長」という視点に立てば、販促キャンペーンにも継続性が必要になります。キャンペーンの結果を緻密に検証し、新しいキャンペーン施策にチャレンジし、より大きな成果を上げていく──。そんな「進化するキャンペーン」の取り組みをご紹介します。

林 裕也氏
花王 ヘルス&ビューティケア事業部門
ヘアケア第1事業部 ブランドマネージャー

新熊 寿基氏
花王 ヘルス&ビューティケア事業部門
スキンケア事業部

李 眞煥
SP EXPERT’S 取締役

岩﨑 敬寛
博報堂 マーケットデザイン事業ユニット
ストラテジックプラニング局

永井 裕揮
Hakuhodo DY ONE 
第三ビジネスデザイン本部 第七アカウント局 第一アカウント推進部 チームリーダー

青木 洋輔
Hakuhodo DY ONE 
第三ビジネスデザイン本部 第七アカウント局 第一アカウント推進部

ブランドマーケティングとトレードマーケティングの融合

──はじめに、最近の販促キャンペーン全般の動向についてご説明いただけますか。

以前は、ブランドマーケティングとトレードマーケティングは別々のものと捉えられていました。前者は広告宣伝をメインとしたマーケティング、後者は流通サイドで商品仕入れを担当されているバイヤーの皆さんや、店頭での商品購入者を対象としたマーケティングです。

しかし近年データの活用が進み、2つのマーケティング領域を連携させることが可能になってきました。中長期的なブランドの成長と、店頭における短期的な売り上げ。その両方を大きな1つの戦略の中で考えていくことができるようになったわけです。

それにともなって、トレードマーケティングの領域での活動である販促にも、より中長期的な視点が必要とされるようになっています。クライアントサイドのブランド担当者や販売担当者、販促活動を支援する僕たち広告会社、そして流通サイドの皆さん。その三者がビジョンを共有し、中長期的な視野をもった販促キャンペーン戦略を立案していくことが求められています。

──企業側の販促課題にはどのようなものがありますか。

この5年ほどの間に流通の効率化が進み、店頭環境も変わってきました。例えば、1つの商品を店頭で山積みにして販売するケースは以前よりも減っています。また、価格を安くするキャンペーンで売り上げを立てるという方法にも変化が見られます。価値あるものをそれに適した価格で売る、という考え方にシフトしているわけです。そのような変化の中で、流通の皆さんに支持していただきながら、いかに店頭で購買者にブランドを訴求していくか。その方法を緻密に考える必要があります。
新熊
販促キャンペーンの設計においては、需要の「先食い」、つまりキャンペーンによってまとめ買いが促進され、未来に生まれるはずの売り上げを先んじて獲得してしまうといったことが生じない企画を考える必要があります。以前にも増して、販促キャンペーンのアイデアが重要になっていると感じますね。

過去に例のない併売促進キャンペーン

──メンズグルーミングブランドである花王〈サクセス〉の販促キャンペーンについてうかがっていきたいと思います。博報堂DYグループが〈サクセス〉の販促キャンペーンを支援するようになったのはいつからですか。

このチームで販促キャンぺーンに取り組むようになったのは2022年からです。はじめに実施したのはマストバイ型キャンペーンでした。〈サクセス〉の購入者にレシートの写真を撮って登録していただき、ポイントを還元する。そんな施策でした。

しかし、キャンペーン参加率は当初の想定ほどではありませんでした。また、キャンペーン運営側のオペレーションも結果的に煩雑になってしまいました。そのような反省を2023年のキャンペーン設計にいかしながら、新しい方法にチャレンジしようと考えました。

新熊
2023年に実施したのは、2つの新しい施策です。まず、〈サクセス〉のシャンプーと薬用育毛トニックの両方を買ってくれた人たちをキャンペーンの対象としました。これは、両アイテムの併買率が1割程度しかないという課題を受けたものです。さらに、PayPayの協力を得てポイントを還元する仕組みをつくりました。

──PayPay利用者を対象にした併買促進キャンペーンということですね。

そうです。このキャンペーンで併買率が向上することとして、これまでシャンプーしか買ってなかった方にトニックを買っていただき、逆にトニックだけを買っていた方にシャンプーを買っていただけるようになると考えました。
PayPay決済を対象にしたキャンペーンは過去にもありましたが、2つのアイテムの購買を条件としたキャンペーンは、僕たちとしてもPayPayとしても初めてでした。キャンペーン実施は23年4月、5月の2カ月間でしたが、準備には半年ほどかかりましたね。

大きく向上したアイテム併売率

──キャンペーンを設計するにあたっての具体的な作業や苦労点などについてお聞かせください。

永井
Hakuhodo DY ONEの僕たちのチームは、もともとデジタル広告の領域で〈サクセス〉のマーケティングを支援させていただいていました。店頭キャンペーンを含む販促活動に取り組むのは初めてだったので、学ばなければならないことがたくさんありました。

新熊
流通チェーンによっては、独自のJANコード(商品識別コード)を発行していたり、すでに店頭で2アイテムをパックにして販売していたりする可能性がありました。
また同じ流通チェーンの中でも、店舗によってPOSの仕組みが異なるケースもあり得ました。キャンペーンを実施してくださることになった流通の店舗すべてでそれをチェックしてくれたのが永井さんのチームです。たいへんなご苦労だったと思います。
岩﨑
僕が担当したのはキャンペーン実施後の効果検証でしたが、キャンペーン設計時にも、どのようなデータを出すことができて、そこから何が明らかになるかを想定して提案させていただきました。
キャンペーンの方向性が決まったあとの流通チェーンへの働きかけもたいへんでしたね。まずキャンペーンを実施していただけるかどうか、実施いただける場合は店頭やウェブサイト、アプリなどでどのような情報発信が可能か──。そういったことを一つ一つ相談させていただきました。その作業を担ったのは、販売会社であるKCMK(花王グループカスタマーマーケティング)でした。
結果的に、全国およそ1万店舗のドラッグストアでキャンペーンを実施することができました。僕たちとしても、ここまでの規模のキャンペーンは初めてでした。

──2023年度のキャンペーンの成果をお聞かせください。

キャンペーン期間中のアイテム併売率が通常の40%増となりました。これはたいへん大きな成果でした。
新熊
PayPay決済と併売促進の組み合わせという過去に例のないキャンペーンを実現できたこと。それ自体も大きな成果と言えると思います。

岩﨑
事後のデータ検証により、さまざまな事実が明らかになったことも成果であると捉えています。〈サクセス〉のシャンプーと育毛トニックには、それぞれ複数のサブアイテムがあります。それらのアイテムのどの組み合わせの併売率が高かったかがデータから見えてきました。
また、購買情報をYahoo!のデータクリーンルームを活用してIDデータと突合することによって、どのような人がどのようなアイテムを買ったかも明らかになりました。興味深かったのは、ブランドのコアターゲットである30代から50代の男性だけではなく、主婦層の購買が多かったことでした。この機会に夫のために買っておこうと考えた女性が少なくなかったということです。
店舗ごとの売り上げも重要なデータでしたね。例えば、店舗の規模はそれほどないのに、売り上げが非常に大きいというケースがありました。そういったケースでは、どのような店頭施策が効果的だったのか。それを検証して得られた知見を次のキャンペーン設計にいかすことができれば、より大きな成果が期待できます。

2つのポイントプラットフォームを使い分ける

──2024年度の販促キャンペーンはどのようなものだったのですか。

2023年のキャンペーンでは併売率が40%増えたものの、当初掲げていた目標値には達しませんでした。また、同じキャンペーン施策を繰り返したくないという思いもありました。22年の時点から、私は「キャンペーンを進化させよう」とことあるごとに口にしてきました。では、「進化するキャンペーン」とはどのようなものか。それを博報堂DYグループの皆さんと話し合いました。次のキャンペーンへの動きがスタートしたのは、2023年の11月頃でしたね。
次の施策を考えるにあたって、博報堂の営業チームがアンケートを実施して、どういうキャンペーンなら積極的に参加したくなるか意見を収集しました。
方向性が決まるきっかけとなったのは、KCMKからの提案でした。流通チェーンによっては、PayPayよりもNTTドコモのdポイントが店舗でより多く使われている。PayPayとdポイントの両方をキャンペーンの対象にできないか──。そんな提案です。
販売現場に最も近くにいる皆さんからのご提案であり、たいへん納得感のあるものでした。早速その方向性で施策を立案して、次のキャンペーンに向けて動き始めました。
キャンペーンを実施してくださる各流通チェーンの皆さんとご相談して、どちらのポイントがより売り上げが期待できるかを判断していただき、店舗ごとにどちらのポイントを対象とするかを決めていきました。重要なのは、どちらのポイントがキャンペーン対象になっているかを店頭やウェブサイトでしっかりお客様に伝えていくことでした。
青木
僕は2024年度のキャンペーンからチームに参加させていただきました。PayPayとdポイントでは仕組みに違いがあるので、キャンペーン設計にあたって細かな調整が必要でした。とはいえ、前回のキャンペーンのナレッジがあったので、それを基盤にして設計を進めることができましたね。

販促キャンペーンを継続的に進化させていくために

──2024年度のキャンペーンの成果をお聞かせください。

最終的な集計結果が出るのはこれからですが、キャンペーン前半のデータを見ると、併売率は前年の2倍となっています。「進化するキャンペーン」が実現したという確かな手応えがあります。
青木
やはり、店舗ごとに最適なポイントシステムを使い分けるという施策が功を奏したのだと思います。最終的な結果が出るのが楽しみですね。

──結果検証ののちに、2025年度に向けてキャンペーンをさらに進化させていくことになりそうですね。

結果検証によって、成果だけではなく課題も見えてくるはずです。それを踏まえて、さらに新しいチャレンジをしていきたいですね。

──最後に、今後に向けた見通しをお聞かせください。

青木
今回のキャンペーン期間中、いろいろな店舗に足を運んで、売り場の様子など見せていただきました。店内でのキャンペーン告知の方法にはいろいろあって、より効果が高いと思われる方法を勉強させていただくことができました。店舗でのキャンペーンの展開方法は基本的には各流通チェーンの皆さんの判断になりますが、現場の優れたナレッジを共有できる方法にもぜひ取り組んでみたいと思っています。

永井
過去3年間のキャンペーンの経験をいかして、新しいアイデアにチャレンジしていきたいですね。実作業の工数を減らすなど、オペレーションにも改善の余地があるはずです。ポイントプラットフォーマーにもご協力いただきながら、より少ない工数でより大きな成果が得られるキャンペーンをつくっていきたいと考えています。
岩﨑
PDCAサイクルを回して成果を上げていくことを目指す循環型マーケティングにおいては、データ分析が非常に重要になります。
今回のキャンペーンでの購入者がどういう人だったかということに加えて、「購入しなかった人」や「購入しなかった要因」をデータから探っていくことで、次のキャンペーンで販売率をさらに上げることができるはずです。データ活用によってキャンペーンを進化させていくことがこれからの目標です。

新熊
過去2回は、2つのアイテムの併売キャンペーンでしたが、今後は3アイテムを組み合わせる方法もありうると考えています。また、流通の皆さんのモチベーションをさらに向上させる取り組みを模索していくことも大切です。例えば、キャンペーン期間中にどのようなお客様が商品を購入したかといった情報をフィードバックすることは、流通にとって大きなメリットになると思います。今後もいろいろなチャレンジの方向性が考えられそうです。
私もやれることはまだまだあると思っています。挑戦したいことの1つは、新規ユーザーの掘り起こし、つまり、まだ〈サクセス〉を使ったことがない方に商品を体験していただくことです。どうすれば、ブランド未体験層の購買を喚起できるか。それを来年に向けてチームの皆さんと一緒に考えていきたいですね。
販促支援を専門とするSP EXPERT’Sは設立からまだ日の浅い会社です。この3年間、販促キャンペーンに伴走させていただけたことはたいへん貴重な経験であったと思っています。
過去に例のないキャンペーン施策をご支援する取り組みを通じて、僕たち自身の販促ノウハウを確実にレベルアップさせることができました。

販促キャンペーンはどうしても一回的なものになりがちです。いかに継続性のある施策を企画し、ブランドのファンを育成していくか。いかに林さんがおっしゃる「進化するキャンペーン」をつくっていくか──。それをこれからも考え続けていきたいと思っています。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 林 裕也氏
    林 裕也氏
    花王 ヘルス&ビューティケア事業部門
    ヘアケア第1事業部 ブランドマネージャー

  • 新熊 寿基氏
    新熊 寿基氏
    花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 
    スキンケア事業部

  • SP EXPERT’S 取締役

  • 博報堂 マーケットデザイン事業ユニット
    ストラテジックプラニング局

  • Hakuhodo DY ONE 
    第三ビジネスデザイン本部 第七アカウント局 第一アカウント推進部 チームリーダー

  • Hakuhodo DY ONE 
    第三ビジネスデザイン本部 第七アカウント局 第一アカウント推進部