ヒット習慣予報 vol.315『あえてのサイレント』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの中川です。
音声メディアの人気が増して、何かと耳が忙しい昨今、耳活なんて言葉も生まれ、イヤホンやヘッドホンの種類も多彩になってまいりました。かくいう私も、ラジオをよく聞くようになりましたし、そのせいもあってか、音楽も今まで以上に楽しむようになりました。さて、今回は、そんな潮流に逆行するようなテーマ。その名も「あえてのサイレント」。あえて、音を遮断して、聴覚を解放させるという習慣が広がりつつあるという話です。
ひとつ目は「サイレントウォーキング」。
健康目的のウォーキングがすっかり定着しました。長い距離、退屈しないように音楽や音声メディアを聴きながら歩く人も少なくないでしょう。そんな中、あえてイヤホンを外して、空を眺めたり、風を感じたり、草花のうつろいを楽しんだり、街の変化に気づいたり、周囲の環境に浸りながら静かに歩くサイレントウォーキングが広がりつつあります。イヤホンからの音に過集中することなく、ゆっくりとアイデアを考えたり、リフレッシュして日ごろのストレスから解放されたり、忙しい日々のちょっとした空白時間をもたらす効果があるようです。私自身も、毎朝30~40分ほどウォーキングしていますが、イヤホンからラジオを聴く日とサイレントウォーキングしながら一人アイデア会議をするときと日によって分けています。サイレントウォーキング中に都会の中にある自然や人々の営みを体感しながら歩くと、心まで晴れやかになって、とても心地よく感じるものです。
▼「散歩」の検索数推移
続いて、「サイレント飲食店」。
これは、耳の聞こえないスタッフが手話や筆談で接客する飲食店として、話題を呼んでいます。利用者の声を見ると、「静かだから資格の勉強がしやすい」「パソコン作業に最適」など、静かであることが新たな価値を生んでいることがわかります。ブックカフェも街で見かけるようになってきました。文字通り読書が目的のカフェで、私語厳禁のお店も。私もとあるお店に行ってみましたが、行く前は緊張感があるのかな?と少し警戒していましたが、なんとも居心地がよくて、コーヒー片手にじっくり読書。ずいぶんと長居をしてしまいました。ただ、カフェメニューを頼んで、ひっそりと音を立てずに食べるのに結構苦戦してしまいましたが(笑)
最後に紹介するのが、「サイレントレビュー」。
海外のTikTok界隈で注目を集めている新手のレビュー動画のこと。本やコスメのレビューを一切話すことなく、ジェスチャーで伝えるというもので、様々なジャンルで人気を博している模様。サイレントレビュー動画を見てみると、とても表情豊か、というかほぼ顔芸で、なんか笑えてくる感じ。その商品がいいのか悪いのかもあまりわからないレベルですが、それがかえって商品を気にさせる力を持っている印象がありました。本の場合、ネタバレにならないし、直感的に判断できるから、年代も国も問わない新しい楽しみ方の誕生ですね。たしかに長々と説明されるよりも、なーーんとなくよさそうというレベルが情報過多な現代においては丁度いいのかもしれません。あと、音声ミュートで動画を見るときにもいいですよね。
では、なぜ「あえてのサイレント」は広がりつつあるのでしょうか。
ひとつは、余裕のない日々からの解放です。朝から晩までオンライン会議がギッチリ詰まっていたり、観ておきたいコンテンツも溢れていたりと、頭も心も休まる暇がない人も多いでしょう。そんな中、つかの間の静寂によって、頭も心も解放される。それって実はとても贅沢な時間なのではないでしょうか。もう一つは、引き算のコンテンツの広がりです。そもそも音声メディアも視覚情報を排除して耳だけに絞っていますし、SNSではゆるいタッチの一コマ漫画が人気だったり、本の要約サイトがあったりと、可処分時間の奪い合いが進む中、情報量を削っていくことも大きな価値になりつつあります。
このように広がりつつある「あえてのサイレント」ですが、そこには新たなビジネスチャンスが広がっています。
「あえてのサイレント」のビジネスチャンスの例
■静寂の中で究極のリラックス体験を得る私語厳禁の「サイレントホテル」の開業。
■人見知りな人も安心!しゃべってはいけない「サイレントお見合いパーティ」の開催。
■読書や仕事など集中したい人たちのために、特急列車に「サイレント車両」を導入。
など
先日ふらっと入ったラーメン屋さんの席に張り紙があって、「ラーメンを食べるときに、スマホをいじらないでください。一杯一杯丁寧にラーメンをつくっていますので。」と書いてありました。そういえば昔、私語厳禁のラーメン屋ってあったなーと思いながら、スマホをいじらず、五感全開でじっくり味わってラーメンを食べたら、体にも心にも染みわたってとっても美味しく感じました。マルチタスクしがちな現代ですが、ちゃんと目の前のことに向き合うのって大事だなと気づかされた時間でした。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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クリエイティブ局 チームリーダー
ヒット習慣メーカーズ リーダー
エグゼクティブクリエイティブディレクターメーカーの商品開発職を経て、2008年に博報堂中途入社。
ECDとして、広告のみならず商品、サービス、事業にいたるまで幅広い領域に携わっている。今年に入って、レコードプレーヤーを買いました。レコード屋さんに繰り出して、ジャケ買いをして、家に帰ってドキドキしながら曲を聴くのが最近の楽しみです。