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【連載】生成AIを活用して「発想の多視点化」を目指す「プロジェクトMonju」──生成AIを軸にしたプラットフォーマー戦略局の取り組み〈第1回〉
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【連載】生成AIを活用して「発想の多視点化」を目指す「プロジェクトMonju」──生成AIを軸にしたプラットフォーマー戦略局の取り組み〈第1回〉

メディアビジネスを手掛ける博報堂DYメディアパートナーズにおいて、大手プラットフォーマーとの協業を担っているのがプラットフォーマー戦略局です。今回は、その取り組みの中から、特に生成AIを活用したプロジェクトに焦点を当て、3回に分けて詳しくご紹介していきます。第1回目は、局内の開発部隊であるメディアプラットフォーム戦略グループが進める生成AI活用を目指す「プロジェクトMonju」について、中心メンバー2人に語ってもらいました。

佐々木 将人
博報堂DYメディアパートナーズ  
プラットフォーマー戦略局 メディアプラットフォーム戦略グループ

永作 光
博報堂DYメディアパートナーズ  
プラットフォーマー戦略局 メディアプラットフォーム戦略グループ

アジャイルな開発を目指す専門チーム

──博報堂DYメディアパートナーズのプラットフォーム戦略局のミッションと、お二人が所属しているメディアプラットフォーム戦略グループの役割をお聞かせください。

佐々木
博報堂DYメディアパートナーズのプラットフォーム戦略局は、さまざまなプラットフォーマーの皆さんとともに広告ビジネスを推進するとともに、テクノロジーなどを活用して新しい価値を生み出していくことを目指す部門です。僕たちが属しているメディアプラットフォーム戦略グループは、その中でもとくにソリューションなどの開発を手掛けることを大きな役割としています。これまでもさまざまなソリューションを開発してきました。
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──メディアビジネスを手掛ける博報堂DYメディアパートナーズにあって、開発を担うポジションは珍しいですね。

佐々木
自ら手を動かして開発にあたっているメンバーは、おっしゃるように博報堂DYメディアパートナーズの中ではかなり少ないのではないかと思います。プラットフォームは、新しいテクノロジーをどんどん導入して、日進月歩で進化しています。ですから、プラットフォーマーに向き合っている僕たちも、技術的な知見やスキルを日々アップデートしていかなければなりません。最先端の動きにスピーディにキャッチアップして、アジャイルに開発を進めることを目指してつくられたのがメディアプラットフォーム戦略グループです。

チーム内には、いろいろな得意領域をもつ人材がいて、テクノロジーの知見やスキルを深める研修を実施したり、テクノロジー人材を新たに育成したりする仕組みもあります。それぞれの人材の持ち味をうまく組み合わせて、そのつど最適なフォーメーションをつくっています。

「生成AIチーム」とのグループディスカッション

──そのメディアプラットフォーム戦略グループ内で現在進めているのが、生成AIの独自の活用モデルを広める「プロジェクトMonju」ですね。こちらについてご説明ください。

永作
広告やマーケティングへのデータ活用は、現在ではごく当たり前のことになっています。
しかし、データの分析結果の解釈や、それを具体的なアクションに移していくプロセスでは、人によって精度の差が生じてしまっているのが現状です。そこで、データの集計や分析の結果を生成AIに読み込ませ、そこから示唆を得ることによって、その差を平準化できないかと考えたのがこのプロジェクトの発端でした。

──データの「分析」にではなく、集計結果の「読み解き」に生成AIを使うということですね。

永作
そのとおりです。集計したデータの意味を読み解いて、0から1を生み出すところに生成AIの力を借りるということです。人の思考や発想はどうしても経験などに左右されるので、視点に抜けや漏れが出てきてしまうものです。生成AIを使うことで、その抜け漏れをある程度防いで、発想の幅を広げることができると考えました。

そうしてAIが示唆してくれた「1」を「10」に育てていくのは人の役割です。「Microsoft Copilot」や「Github Copilot」にある「Copilot」は「副操縦士」という意味ですよね。あくまでもメインの操縦士、つまり「機長」は人です。生成AIという副操縦士の力を借りながら、機長が案件という飛行機をうまく操縦して、「1」を「10」にブラッシュアップしていく──。そんなイメージです。

佐々木
「プロジェクトMonju」とは、「三人寄れば文殊の知恵」という慣用句から取ったもので、永作が名づけました。たとえ凡人でも、3人集まれば、知恵を司る菩薩である文殊に匹敵する素晴らしいアイデアを出すことができる。それがこの慣用句の意味です。ここで言う「凡人」を生成AIで創成しようというのが、プロジェクトMonjuの基本的なコンセプトです。思考や発想の傾向が異なる複数の人格を生成AIでつくり、それぞれの視点からデータを読み解いてもらうことで、「発想の多視点化」を実現しよう。そんな考え方を広めていきたいと僕たちは考えています。

永作
例えば、生成AIで「データに強い人」「プラニングに強い人」「メディアに詳しい人」「商品に精通した人」「ブランディングに詳しい人」といった5人の人格をつくって、それぞれの意見を「機長」であるプラナーや営業担当がまとめていけば、リアルなチームをつくらなくても、AIを相手にした一種のグループディスカッションが実現します。

──現場で案件を担う一人ひとりが「生成AIチーム」を運用していくということですね。生成AIで複数の人格をつくるのは、どのように実装しているのでしょうか。

永作
方法は2つあります。1つは、プロンプト(AIへの指示)によって人格を指定する方法、もう1つは、資料をAIに学習させる方法です。例えば、ある企業の商品に精通した人格を生成する場合は、その企業や商品の公式情報、商品に関する口コミ、競合に関する資料などをひと通りAIに読み込ませて、その商品のプロを育成していきます。
佐々木
ほかにも、女性向けのWebサイトを読み込ませて女性人格を生成したり、ファッションのWeb記事を読ませてファッション愛好家の人格を生成するといった方法も考えられます。どのような人格が必要かによって、AIに読み込ませる情報は変わってきます。

「効率化」よりもアウトプットの「質の向上」を目指す

──プロジェクトMonjuの取り組みによって、どのような成果が期待できるのでしょうか。

佐々木
一般に、生成AIの活用には2つの方向性があります。
1つは、AIに業務を代替してもらい、仕事の効率化を実現する方向性です。それからもう1つは、AIを活用することでアウトプットの質を高めるという方向性です。プロジェクトMonjuはその両方に適用可能ですが、より力を入れていきたいのは後者です。

業務の代替や効率化は博報堂DYグループ内のメリットですが、生成AIを活用することによってソリューションやサービスの質が高まれば、それはすべてクライアントのメリットとなります。生成AI活用の価値を社内にとどめるのではなく、広くクライアントや社会に提供していくための1つのモデルがプロジェクトMonjuであると僕たちは考えています。

──プロジェクトMonjuの考え方をベースにした生成AI活用の具体的なイメージを解説してただけますか。

永作
例えばターゲットとなるユーザーのセグメント分析を行い、その結果をAIチームに読み込ませて、ユーザーにアプローチするうえで有効な媒体がどこであるのかをブレストしてもらうという活用法があります。我々、人はどうしても先入観や過去の経験等を通して分析結果を見てしまうので、各プラットフォーマーの持つ秘めたるポテンシャルや特徴を見落としてしまいがちです。そこで、AIチームによる目線を加えてユーザーや媒体の特徴をより多角的な視点から分析することで、各媒体の特徴やポテンシャルがより活きるアプローチのアイデアを生み出すことが可能になります。もちろん、それぞれのAIが出してくる示唆には、「なるほど」と思えるのも、クエスチョンマークがつくものもあります。それらを自分の解釈と組み合わせながら最適解を探っていくというのが、考えられるフローの1つです。
佐々木
以前は、会議室にチームのメンバーが集まって、ホワイトボードにいろいろなことを書き込みながらわいわい議論をする光景が社内でよく見られました。しかし、コロナ禍以降、そういった機会がめっきり減っています。プロジェクトMonjuは、そのような議論を1人でもできるようにすることを目指しています。生成AIのメンバーたちと疑似的な議論をして、アイデアをブラッシュアップしていこうということです。
永作
生成AIによる多視点の示唆を得ることは、自分の解釈や発想の癖のようなものを反省する機会にもなると思います。「こういう見方もあるんだ」「確かにこんな解釈もありかもしれない」──。そんな気づきを得ることで、視野を広げることができると僕たちは考えています。
佐々木
例えば、メディアビジネスの会社である博報堂DYメディアパートナーズのメンバーは、広告制作に直接関わる機会が少ないので、どうしてもクリエイティブの発想力が弱くなってしまう傾向があります。それを補完するために、生成AIでクリエイティブ人格をつくって、発想を手助けしてもらう。そんな取り組みもあり得ると思います。

誰もがディレクターにならなければならない

──生成AIを有効活用する際には、どのようなスキルが求められると考えていますか。

永作
これも一般論ですが、生成AIが生み出すものを100%信用してはいけないというのが1つの鉄則です。例えば、生成AIにコーディングをしてもらった場合、そのプロセスを僕たちは知ることができないので、仮にあとからバグがあることがわかっても修正することができません。生成AIがつくったプログラムをそのままの形で運用するのはリスクがあるということです。そういったリスクはほかにもいろいろあります。まずは、生成AI活用に関する基礎的なリテラシーを身につけておくこと。それが前提になります。

それに関連しますが、自分の思考力を低下させるような使い方をしてはいけないというのも重要な視点です。生成AIへの依存度が高まると、人間の思考力は必ず落ちていくと僕は考えています。AIの能力が人間を上回るシンギュラリティが2045年頃に起こる可能性があると言われていますが、AIの能力の向上によってではなく、人間の能力の低下によってシンギュラリティが実現してしまうかもしれません。そうならないようにするためにも、生成AIを「便利な道具」として活用しながら、自分の判断力や思考力を磨いていく心構えが必須だと思います。

──生成AIチームを率いる「機長」に求められるスキルとはどのようなものでしょうか。

佐々木
さまざまなスキルが求められると思います。まず、自分が担当している案件の質を高めるにはどのような「AI人材」が必要かを判断する力が必要です。人材のアサイン力ですね。また、その人材をまとめていくチームビルティングの力も求められます。さらに、チームメンバーであるそれぞれのAIが出してきた答えを判断し、その良し悪しを見極めたり、異なる方向性の意見をすり合わせていったりすることも重要です。そのうえで、最終的に方向性を絞り込んでいくのが「機長」の役割です。

──生成AIチームを運用する場合は、これまでマネジメントレイヤーの人がやっていた仕事を誰もができるようにならなければならないということですね。

佐々木
おっしゃるとおりです。ディレクターとしてのスキルを身につける必要があると思います。

──生成AIを使うことで仕事が楽になる反面、これまで自分になかったスキルを身につけていかなければならないという側面もあるわけですね。それによって仕事の質を高められるわけですから、ぜひチャレンジしてみたいと考える人がたくさんいそうです。

佐々木
ぜひ、そうなってほしいですね。自分の権限でいろんなことに挑戦したいと思っていた皆さんには、大きな可能性を感じていただけると思います。逆に、上からの指示によって動くことに慣れてしまっていると、プロジェクトMonjuの方法論をストレスに感じるかもしれません。生成AI活用に関する考え方を提案するだけでなく、生成AIの人格とチームづくりをテクニカルな面でサポートして、ストレスを軽減していく支援をしていきたいと考えています。まずはこのコンセプトをグループ内に広めて、生成AIをプラナーや営業メンバーの「武器」にする後押しをしていきたいですね。

生成AIにポジティブに向かい合うマインドとスキルを

──今後、プロジェクトMonjuでどのようなことにチャレンジしてみたいと考えていますか。

永作
生成AIを用いて新たなプラットフォーマー活用の可能性を探っていきたいと考えています。先ほどの生成AI活用例の部分でも話しましたが、良くも悪くも人はどうしても過去の経験や先入観を通して物事を考えてしまいます。生成AIを用いて多角的にプラットフォーマーを見つめなおすことで、新たな視点からプラットフォーマーの強みや特徴、活用法などを発見し、彼らの持つプロダクトやポテンシャルを更に拡大させるお手伝いが出来ればと考えています。

──生成AIの取り組み全般にかける意気込みを最後にお聞かせください。

永作
生成AIに関する技術をもっと学んで、できることを増やしていきたいと思っています。生成AIの進化のスピードは非常に速いので、それにキャッチアップしながら、いずれは「博報堂DYメディアパートナーズにおける生成AIのエキスパート」と認めていただけるような存在になっていきたい。それがこれからの目標です。
佐々木
生成AIをめぐるネガティブな話題は常にあります。
例えば、AIに仕事が奪われるといった話題です。僕は生成AIをポジティブなものと捉えたいし、そう捉えられる人が増えていってほしいと思っています。生成AIに怯えず、上手に使いこなしていろいろな価値を生み出していける。そんなマインドとスキルをもった人を社内外に増やしていくことも、プロジェクトMonjuの目標の一つです。クライアントやプラットフォーマー、社外パートナーの皆さんとの協業も視野に入れながら、生成AIをポジティブに活用していく方法論を広めていきたいと思っています。

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