「顧客体験向上」と「人材採用」、その2つの課題を同時に解決する画期的ソリューション──大広の〈CVサークル活動〉
顧客体験(CX)を向上させることで、従業員の働きがいを生み出し、優秀な人材を獲得できる組織文化を醸成し、同時に収益性も向上させる──。そんなサイクルをつくることを目指して開発されたソリューションが「小集団顧客価値向上活動(CVサークル活動)」です。このソリューションを担当する大広の増田浩一と、ソリューションの基盤を開発したトータルエンゲージメントグループの池田順一氏の2人に、〈CVサークル活動〉の概要や可能性について語ってもらいました。
増田 浩一
大広 顧客価値開発本部 顧客発掘局
中小企業診断士
池田 順一氏
トータル・エンゲージメント・グループ
代表取締役社長
継続的なCX向上活動を支援するソリューション
──〈CVサークル活動〉の概要をご説明いただけますか。
- 増田
- トータルエンゲージメントグループが開発したアンケートシステム「Your Voice」を活用して顧客体験(CX)の現状を調査する。その結果をもとに、顧客接点の現場で改善活動を行い、再び調査を実施する。そうして改善活動がCX向上につながっているかどうかを確認する──。そのサイクルを回していくことで、継続的にCXを上げていくことを目指すのが〈CVサークル活動〉です。「CV」は顧客価値(カスタマーバリュー)を意味します。
製造業などでは、各現場のチームごとに製品の品質向上を目指す「QCサークル活動」が昔から行われていますよね。それをサービス業や小売業で実践するための独自のモデルが〈CVサークル活動〉です。
- 池田
- トータルエンゲージメントグループは、CX向上を実現するソリューションを主に中堅・中小企業向けに提供してきました。これまでとくに活用いただいているのが小売店舗で、現在約400以上の店舗に導入いただいています。そのすべてのケースで、CXの数値が向上しています。
- 増田
- 私自身、中堅・中小企業の経営者の皆さんを支援したいと考え、数年前に中小企業診断士の資格を取得しました。トータルエンゲージメントグループのソリューションのことを知って、中小企業診断士のネットワークを活用して多くの中堅・中小企業の支援に役立てたいと考えました。そこで池田さんとお話をさせていただき、ソリューションに〈CVサークル活動〉という名前をつけて、協業で企業に提供していく取り組みを始めたわけです。
CXが上がればEXと収益性も向上する
──〈CVサークル活動〉によって、どのような企業課題を解決したいと考えたのですか。
- 増田
- 人口減少にともなって、人材採用に苦慮する企業が増えています。とくに中堅・中小企業は人手不足に悩んでいます。一方、顧客側のサービスに対する意識は高まっていて、企業や小売店舗への要望のレベルも上がっています。〈CVサークル活動〉は、その2つの課題の解決を目指したものです。
- 池田
- 人材採用とCX。その2つの課題はつながっていると僕たちは考えています。例えば、小売店舗や宿泊施設の場合、CXは商品やサービスだけで決まるわけではありません。商品やサービスを提供する従業員の接客や対話によって、CXは大きく左右されます。優れた顧客対応を実現するには、一人ひとりの従業員がいきいきとモチベーション高く働ける職場環境や組織文化がなければなりません。お客さまに喜んでいただきたいという思いがあり、それが行動につながり、顧客に褒めてもらうことによって、さらに仕事が楽しくなる──。そんなサイクルが必要です。そのような仕組みや組織文化がある企業は、求職者の側から見れば、ぜひ働いてみたいと思える企業である。そう僕たちは考えています。
- 増田
- CXとEX(従業員体験)には相関性があるということです。優れたCXを提供することによって、顧客からの称賛が増え、それが働きがいと離職率の低下につながります。そして、その仕組みが採用市場における差別化要因となると考えられます。
- 池田
- 重要なのは、その仕組みが収益向上にもつながることです。よい顧客体験は口コミの増加につながり、それによって顧客数や顧客単価が増え、売り上げが上がります。CXを中心にして、一方に収益向上のサイクルがあり、一方にEX向上のサイクルがある。CX向上が収益とEXの両方にポジティブな効果を及ぼす。そんな考え方です(図参照)。
──CS(顧客満足度)ではなく、CXの向上を目指している理由を教えてください。
- 増田
- 多くの企業がCS調査を実施していますし、僕たちが調査をご支援するケースもあります。しかし、その調査結果を具体的な改善にいかす確かな方法論は、これまでありませんでした。というのも、CS調査だけでは数値の意味や根拠がわからないからです。CSが低かった場合、なぜ低くて、どこをよくしていけばいいかがわからないし、CSが高かった場合も、それを維持するにはどうすればいいかがわからない。それがCS調査の課題であると僕たちは考えました。
- 池田
- 従来のCSの指標に別の指標を組み合わせ、広くCXとして捉えることで、具体的な改善活動に結びつけることができる。それが〈CVサークル活動〉独自のコンセプトです。
NPSと満足度の相関関係を自動的に可視化する
──〈CVサークル活動〉の具体的な実践方法を教えてください。
- 増田
- まず、顧客にアンケートに答えてもらいます。アンケートの内容は2つです。1つがNPS(ネットプロモータースコア)で、これは知人、友人、同僚などへの商品やサービスの推奨意向を11段階で調査するものです。もう1つが店舗や接客などに対する満足度評価で、これはさまざまな項目をそれぞれ5段階で回答してもらいます。この複合的アンケートによってCXの現状を明らかにします。これに活用するツールが、トータルエンゲージメントグループが開発した「Your Voice」です。
その後、アンケートの結果を見ながら、自分たちの強みと課題を把握していきます。ここでは「現状把握シート」というツールを使います。さらに、明らかになった強みと課題から、具体的な改善活動内容と目標を設定していきます。これには「改善活動シート」を活用します。
以上の3段階のプロセスを経て、顧客接点の現場で改善活動を実施し、その後あらためてアンケート調査を行って、スコアがどのくらい変わったかを見ていきます。このサイクルを継続的に回していくことで、CXとEXと収益性の向上を目指すという流れです。
──満足度評価の項目はどのようにして決めるのですか。
- 池田
- ご要望に応じてカスタマイズするケースと、あらかじめこちらで設定した業種ごとのスタンダードモデルをご提供するケースの2通りがあります。スタンダードモデルは、例えば宿泊業の場合は、「価格」「スタッフの対応」「スタッフの挨拶」「スタッフの身だしなみ」「客室の清潔感」「ベッドや寝具」「アクセス」「お風呂・シャワー」「食事」などの項目からなります。そのそれぞれを5段階で評価してもらいます。
──現場の皆さんが、アンケート結果を見て独自に強みと課題を把握するのはたいへんではないですか。
- 池田
- 「Your Voice」は、NPSと満足度の相関関係を自動的に可視化するツールです。この機能があることによって、アンケート結果の整理や分析の負担が圧倒的に軽減されます。とはいえ、おっしゃるように最初から現場の従業員の皆さんだけで課題把握をするのは難しいケースもあると思います。その場合は、私たちや中小企業診断士がコンサルテーションを行います。
- 増田
- 経営層やマネジメント層ではなく、現場の「小集団」が自主的に、かつ継続的に改善活動を進めることを可能にしようというのが〈CVサークル活動〉の基本的な考え方です。しかし、現場の業務をこなしながらこの活動に取り組むのがたいへんな場合は、評価項目の設定、課題抽出、目標設定の各プロセスで専門家による支援をご提供します。
- 池田
- 実際、〈CVサークル活動〉に取り組んでいく過程で、「評価項目を変えたい」「次の目標をどう設定していいかわからない」といった声が出てくることはよくあります。それに対する助言や支援はもちろんさせていただきますが、現場や顧客のことを最もよく知っているのは従業員の皆さんです。現場の従業員の皆さんのアイデアやクリエイティビティをできるだけ大切にしたいと僕たちは考えています。
〈CVサークル活動〉が日本社会を元気にする
──〈CVサークル活動〉は、2023年の「中小企業診断士協会会長賞」を受賞したそうですね。
- 増田
- 僕と池田さんの連名で賞をいただきました。これをきっかけに、〈CVサークル活動〉を多くの企業の皆さんに知っていただき、導入例を増やしていきたいと思っています。
──〈CVサークル活動〉を今後広めていくために必要なことは何ですか。
- 増田
- デリバリーするネットワークや人材であると考えています。まずは、できるだけ多くの中小企業診断士の皆さんにこのソリューションの意義に共感していただき、顧問契約をしている企業にご提案いただく取り組みを進めていきたいでと思っています。
同時に、博報堂DYグループ各社との連携も模索していきたいと思います。〈CVサークル活動〉は中堅・中小企業にご活用いただくことを想定していますが、CXとEXと収益性の連関モデルは大企業にももちろん適用可能です。中長期的には、大手クライアントの活用例もぜひ増やしていきたいですね。
──今後の〈CVサークル活動〉の取り組みにかける意気込みを最後にお聞かせください。
- 池田
- 〈CVサークル活動〉が目指すのは、単にCXのスコアを上げることではなく、CX向上の取り組みによって顧客に喜んでもらい、それが従業員への称賛につながり、現場の皆さんがいきいきと働けるようになるサイクルをつくることです。日本の経済や雇用の多くの部分を支えているのは中堅・中小企業です。そこで働く人たちが元気になることは、すなわち日本が元気になることです。日本社会全体を元気にするという志をもって、〈CVサークル活動〉を広めていきたいと思っています。
- 増田
- 〈CVサークル活動〉に取り組んでいる会社の商品を買いたい。〈CVサークル活動〉を導入している会社のサービスを使いたい。〈CVサークル活動〉が成果を上げている企業に勤めたい──。そんな評判を醸成していくことができたら素晴らしいと思います。〈CVサークル活動〉が目指すのは、「顧客起点」でEXや収益性を上げることです。「顧客が大切」「顧客のことをしっかり考えよう」ということは、どの企業の経営者の皆さんもおっしゃいます。しかし、それをどう実践していけばいいか、わからないケースが少なくないと思います。〈CVサークル活動〉を多くの企業にご活用いただき、「顧客起点の働きがい」「顧客起点の収益性向上」を実現するご支援をしていきたい。そう考えています。
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株式会社大広 顧客価値発掘局増田チームチームリーダー
チーフコンサルタント・ミラスト主宰
経済産業大臣登録 中小企業診断士早稲田大学理工学術院建築学研究科を修了の後、株式会社大広入社。
一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。
主な顧客は、食品製造業、機械製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ベンチャー企業までと、幅広い。
ベンチャー企業の上場支援コンサルタント。東京商工会議所派遣専門家。
直近執筆の論文「小規模事業者の情報発信を効率化するコンテンツ制作ツール~12の「呼び水」を使ってサクサク創る制作メソッド~」にて、東京都中小企業診断士協会会長賞を受賞。ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。
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池田 順一株式会社トータル・エンゲージメント・グループ
代表取締役社長インターネット黎明期からIT × マーケティング領域において、デジタルマーケティングの先駆けとして立上げた事業を売却。また、モバイル端末向け事業会社を2000年に売却。2010年に事業をエンゲージメント領域にピポッドを行い、2014年に社名を志の通り、現在のトータル・エンゲージメント・グループに変更。企業のプロモーション活動を根底から見直す「エンゲージメント」をテーマに活動を行い、現在エンゲージメント・テクノロジー・カンパニーとして、コンサルティングからソリューションまでを提供。多岐にわたる業種のクライアント企業に対し、NPS®調査などを活用した顧客ロイヤルティ戦略のコンサルティングを幅広く手掛けている。執筆、講演多数。
著書 『お客を増やす努力をやめなさい!』日経BP