連載【ソウルドアウトのポテンシャルVol.4】企業のオウンドメディアの「資産価値」を上げるために──コンテンツマーケティングの力で新しい価値創出を目指すメディアエンジン
2022年4月に博報堂DYグループの一員となったソウルドアウトグループの中で、メディア/コンテンツマーティング領域の事業を担う企業がメディアエンジンです。企業がもつオウンドメディアの力を最大化し、収益力向上を支援する──。そのビジネスモデルの独自性や、博報堂DYグループとの連携のあり方、そして今後のビジョンなどについて、代表取締役社長の杉岡秀一に語ってもらいました。
杉岡 秀一
メディアエンジン 代表取締役社長
グループのメディア事業領域を担う会社
──メディアエンジンがM&Aによってソウルドアウトグループの一員となったのは、2020年だそうですね。
- 杉岡
- そうです。メディアエンジンはもともと、企業のオウンドメディアの立上げや運用支援を手がけている会社で、ウェブメディアの構築力と、コンテンツによってメディアを成長させていく力の両方を備えている点に強みがありました。一方、ソウルドアウトグループは、広告・マーケティング、ソフトウェア開発、メディアの3事業を柱とする成長戦略を描いていました。しかし、2020年以前にはメディア事業を担うセクションがグループ内にありませんでした。そこでメディアエンジンをグループに招いて、3本柱を完成させていくようにしました。
──杉岡さんがソウルドアウトからメディアエンジンに移ったのは、そのタイミングだったのですか。
- 杉岡
- 私はソウルドアウトに入社する以前から、一貫して広告会社の営業畑で働いてきました。その経験をメディアエンジンの営業力強化に役立ててほしいということで、M&Aと同時にメディアエンジンに役員としてジョインしました。代表に就任したのは22年4月です。
──メディアエンジンの現在の事業内容をご説明ください。
- 杉岡
- 以前から手掛けていたオウンドメディアの制作・運用の受託事業に加えて、2020年以降、メディアを支援する新しいスタイルの事業を立ち上げました。この事業は、主に出版社のDX支援からスタートしたものです。出版社の多くは、雑誌媒体ごとのメディアを展開しています。そのメディア自体には非常に影響力があるのですが、その力をうまく活用できていないケースも少なくありません。メディア内で上手にコンテンツ展開をしていけば、検索エンジンでの表示順位が上がり、訪問者が増え、広告収入アップが期待できます。そのお手伝いをするところからこの事業は始まりました。
具体的には、出版社が保有しているメディアに対して、新たなテーマのコンテンツページを制作し、その運用をメディアエンジンに任せていただくというのが1つの典型的なモデルです。そのコンテンツページで広告収入を獲得し、出版社に還元していく取り組みをこれまでいくつも手がけています。
競合環境を勝ち抜くための2つの「武器」
──受託事業のモデルについても具体的に教えていただけますか。
- 杉岡
- オウンドメディアの立上げからご支援するケースと、すでにあるメディアのコンテンツを拡充していくケースがあります。いずれの場合も、検索で上位に表示されることでメディアへの流入数を増やしていき、認知・購入・問い合わせ等の拡大を重要なKPIとしています。そのためには、各得意先のターゲットに合わせた最適なキーワード戦略と質の高いコンテンツを提供していく必要があります。
私たちは常々、オウンドメディアの運用は「総合格闘技」であると得意先にお伝えしています。ウェブメディアにおいてコンテンツの質はもちろん重要ですが、それだけで検索の上位に表示されることは通常ほとんどありません。まず、メディア自体の基盤をしっかり整備し、そこに適切なキーワードを織り込んだコンテンツを数多く載せていくことで検索エンジンに評価されるようになります。その「総合格闘技」の取り組み全体を支援していくことがメディアエンジンの受託事業の大きな特徴です。
──ウェブメディアの制作や運用を支援する企業はたくさんあります。その競合環境で勝ち抜いていくのはたいへんそうですね。
- 杉岡
- 勝ち抜くための「武器」がメディアエンジンには2つあります。1つが、広範なネットワークです。私たちは、3000名の外部スタッフの皆さんと連携して事業を進めています。3000名の中には、プロのライターとさまざまな分野の専門家が含まれます。ライターは自由に登録していただくのではなく、それぞれの方のスキルを私たちがしっかり見極めたうえで選考させていただいています。コンテンツのテーマに応じて、力のあるライターと、そのテーマに精通した専門家、そしてメディアエンジンのディレクターがチームをつくります。その体制によって、あらゆる分野で質の高い記事をつくることができるわけです。
もう1つの武器が、自社で開発したAIツールです。AIを活用してオウンドメディアの戦略設計を行うツールと、外部スタッフのマネジメントツール等を私たちは独自に開発しました。AIツールは、得意先の事業内容やオウンドメディアの現状などから適切なキーワードを導き出し、競合との差分を抽出し、競合よりも質の高いコンテンツの方向性を示すことを主な機能としています。
もう一方のマネジメントツールには、そうして導き出された戦略に応じて、最適なライターと専門家をアサインし、発注する機能があります。これらのツールを活用することによって、コンテンツ戦略、制作、レポーティングまでのサービスを一気通貫でご提供することができます。同業界においてここまでの仕組みを社内でつくっている企業は、おそらくほとんどないと思います。
短期的な「PLモデル」と中長期的な「BSモデル」
──ソウルドアウトグループ内の他のセクションとはどのように連携しているのでしょうか。
- 杉岡
- ソウルドアウトは4つのカンパニーから構成されています。そのうち、地方・中小企業の広告・マーケティング活動を支援しているのがマーケティングカンパニーです。この部門と密に連携しています。
マーケティングカンパニーが手掛けている広告領域は、どちらかというとPL、つまり短期的な「損益」が重視されます。一定の期間に100万円の広告予算を使って200万円の売り上げを上げることができれば、100万円の「益」と見なされる。そういうモデルです。それに対して、メディアエンジンが支援しているのはコンテンツマーケティングで、こちらはいわばBS(バランスシート)、つまり「資産」の形成が重視されます。数カ月単位での成果を目指すのではなく、コンテンツの強化を通じて顧客基盤という資産を中長期的に拡大していくモデルということです。この2つのモデルがあることによって、得意先の売上拡大を中長期も見据えながらトータルで支援していくことができます。
──ソウルドアウトグループが博報堂DYグループに加わったのは2022年4月でした。それ以降、メディアエンジンのビジネスにはどのような変化がありましたか。
- 杉岡
- 博報堂DYグループがもつ広範な得意先ネットワークの力で、とくに受託事業が大きく伸びました。博報堂DYグループの得意先のほとんどは、当然ながらオウンドメディアをもっています。しかし、思うような成果が出せていないという課題をもった得意先が少なくありません。そんな課題解決のお手伝いを私たちがさせていただくケースがこの1年半ほどの間に非常に増えました。
それから、博報堂DYメディアパートナーズと連携して、放送局のオウンドメディアの運営をご支援する機会も増えています。近年、インターネットのフェイク情報が問題になっています。フェイク情報の拡散を防ぐには、放送局などの大手メディアが報道した内容をウェブメディアで正確に伝えていくことが1つの有効な方法です。メディアエンジンの外部スタッフのネットワークを活用して、報道番組の内容を放送局のオウンドメディアにスピーディに反映し、正しい情報を世の中に伝えていく。そんな取り組みを現在進めています。
メディアを事業の「ハブ」にしていく
──博報堂DYグループとの共同プロジェクトなどの動きなどはあるのでしょうか。
- 杉岡
- 生活者のウェルビーイングを促進する情報を集めたウェブメディア「Wellulu(ウェルル)https://wellulu.com/」を立ち上げ、博報堂ミライの事業室のメンバーと一緒に編集部をつくりました。現在は、コンテンツを拡充してメディアとしての基盤をつくっていく段階にありますが、中長期的には、EC、コミュニティビジネスなどの事業を展開していくことを視野に入れています。メディアとしての収益化はもちろん、メディアから事業拡大していくモデルをつくることがWelluluの大きな目標です。
──博報堂DYグループの一員になることによって新たに見えてきたことはありますか。
- 杉岡
- 博報堂DYグループの方々との対話の中で私がいつも感じるのは、広告やマーケティングの未来のことを本気で考えている人がとても多いということです。広い視野と長期的なパースペクティブをもって物事を捉える──。そんな姿勢に大いに刺激を受けています。博報堂DYグループには、人材、得意先ネットワーク、データなどの豊富なアセットがあります。そのアセットとメディアエンジンのノウハウを融合させて、社会的意義のある事業を創出していきたい。そんなふうに思っています。
──今後のビジョンをお聞かせください。
- 杉岡
- ソウルドアウトグループは、「中小・ベンチャー企業が咲き誇る国へ。」というミッションステートメントを掲げています。それを実現する方法の1つが、ニッチ分野におけるマッチングだと私は考えています。メディアエンジンは最近、OEMのポータルメディアを立ち上げました。委託者のブランドで製品をつくるOEM事業を手がける企業が日本にはたくさんあります。しかし、どのようなOEM企業があって、それぞれにどのような強みをもっているかを俯瞰的に把握することは簡単ではありません。そこで、委託者とOEM事業者をマッチングするメディアをつくったわけです。メディアがあれば、海外企業が日本のOEM事業者にアプローチするケースも増えるはずです。
このようなマッチングが必要とされる分野は、ほかにもたくさんあるはずです。メディアの力を使って、さまざまなプレーヤーがつながる支援をしていくこと。そして、そこから新しい価値を生み出していくこと。そんな取り組みに今後もチャレンジしていきたいと思っています。
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杉岡 秀一メディアエンジン 代表取締役CEO 兼 CCO
メディアカンパニープレジデント1984年生まれ。2007年に総合広告代理店に入社。2010年に株式会社オプトに入社。2012年にソウルドアウト株式会社に出向、転籍し関西営業部部長として、大阪、京都、兵庫の3拠点を管轄。2017年に東京本社に転勤。EC支援一部部長、2018年7月に西日本統括本部長を経て、2020年メディアエンジン株式会社取締役に就任。2022年4月より現職。2022年8月よりCCO(=Chief Compliance Officer)を兼任。