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Googleとのコラボレーションプロジェクト【Vol.1】「マルチモーダルデータ」からいかに新しい価値を生み出すか
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Googleとのコラボレーションプロジェクト【Vol.1】「マルチモーダルデータ」からいかに新しい価値を生み出すか

Googleのテクノロジーやプロダクトと博報堂のクリエイティブアイデアを掛け合わせることで、これまでになかった新しいサービスを生み出す──。そんなプロジェクトが始まったのは2021年末でした。そのプロジェクトから生まれたのが、<Google Glass*を使ってコミュニケーションをサポートするソリューション>と、<AIを活用してSDGsを推進するソリューション>の2つです。それぞれのプロジェクトのメンバーによる対話を2回にわたってお届けします。第1回ではプロジェクト事務局と「Google Glassチーム」のメンバーに、プロジェクトの展開とそこから生まれた成果について語ってもらいました。
(*Google Glass は 2023 年 3 月 15 日をもって、販売を終了しております)

曽根原 正樹
博報堂 DX プロデュース局

牧野 壮馬
博報堂 データドリブンプラニング局

倉嶋 崇
博報堂 BX クリエイティブ局

安島 博之
博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局

まったく新しい使い方を実現するために

──Googleとのコラボレーションのプロジェクトがスタートした経緯をお聞かせください。

曽根原
2021年のHAKUHODO DX_UNITED 発足を機会として、博報堂グループとGoogle Cloud は様々なカタチでのパートナーシップを強化しています。今回の取り組みは、博報堂とGoogle Cloud の中長期的かつ戦略的なパートナーシップ構築に向けて、Google Cloud から企画いただき実施した、博報堂の社内向けイベントから発展して企画・推進されたプログラムとなります。

まず、具体的には 2021 年の秋に「HAKUHODO Cloud Days」という博報堂グループ社員向けのセミナーをGoogle Cloudに開催いただきました。そのセミナーに参加した博報堂グループ社員の有志のメンバーに向けて、その後 2 日間のアイデアソンを実施しました。そのアイデアソンを経て、考案されたいくつかのアイデアの中から、実際にMVP開発を体験してみようということになったのです。そこで絞られたテーマが、メガネ型のウェアラブルデバイスであるGoogle Glassを使ったサービス開発と、AIを活用してSDGsを推進するソリューション開発の2つでした。

──今回集まってもらっているのは、そのうちの「Google Glassチーム」のメンバーですね。チームメンバーはどうやって集めたのですか。

曽根原
テーマが決まって、プロトタイピングのフェーズに入るタイミングで募集しました。5人のメンバーのうち3人に今日は来てもらっています。

──プロトタイピングはどのように進んだのでしょうか。

牧野
Google Glassを使うことは決まっていたのですが、あらためてこれで何ができるかをフラットに考えるところからスタートしました。これまでGoogle Glassは、主に工場や医療現場などで使われてきました。博報堂ならではのクリエイティブなアイデアがあれば、そういった用途以外に、エンターテインメントや日常生活での活用など、これまで思いもよらなかった使い方が実現するのではないか──。そんな視点でアイデアを出し合いました。

倉嶋
僕が出したのは、Google Glassをかけて星空を見上げると星座名がグラス部分に表示されるというアイデアや、赤ちゃんの表情から感情を読み取るといったアイデアでした。
安島
僕は、Google Glassをかけて博物館内を歩くことで新しい体験が得られるという案を出しました。ほかにも、面白いアイデアがいろいろ出ましたね。

クリエイティビティとテクノロジーを組み合わせる

牧野
最終的にアイデアソンで優勝したのは「視聴者参加型・恋愛科学バラエティ」というアイデアでした。デートしている2人にGoogle Glassをかけてもらい、デート中の男女の目線映像がリアルタイムに動画サイトに中継され、視聴者からのコメントが始終、デート中の男女の AR グラスに映し出される仕組みです。加えて、デート相手が「デート中にどのくらい笑顔になっていたか?」がGoogle cloud上での解析によって事後的に点数化されます。ARグラスはプロダクトそのものの市場認知度が未だ低い現状がある為、エンタメ的にまずは認知してもらうことを目的とするアイデアです。

──Google Glassのどのような機能を使うことを想定したのですか。

牧野
Google Glassのアウトカメラ・マイク・ARモニターとGoogle cloudの解析技術を組み合わせています。視聴者からのコメント機能に関しては当初のアイデアをさらにブラッシュアップさせ、Google cloudの自然言語処理を利用して最適な会話トピックを逐次 AR グラス上にレコメンドして、会話が沈黙にならないようにする機能に変えています。
安島
それを聞いたときは、博報堂のクリエイティビティとGoogleのテクノロジーを組み合わせたとても面白いアイデアだと思いました。Google側からもGoogle GlassとGoogle Cloudの担当者に並走していただいていたのですが、技術的にも十分に実現可能だろうというお墨つきをいただきました。

牧野
すでにあるAIの仕組みを使って実現できるので、POC(実証実験)がクイックに進められるというのもポイントでしたね。

──プロトタイピングの具体的な過程についてもお聞かせください。

牧野
検証は二段階で進めました。最初に「人間アプリ会」を実施してアプリに必要とされる要件を考え、その後にその要件を実装したアプリを検証するという流れです。

──「人間アプリ会」?

安島
アプリをつくる前に、僕たち自身が仮想的にアプリになってみて、どのような機能が必要かを考える検証を「人間アプリ会」と名づけました。インタビュールームで2人の男女に30分間フリートークをしてもらい、メンバーがマジックミラー越しにその様子を見ながら、こういうときにこういうトピックをARグラスに送ったら話が盛り上がるんじゃないか、といったアイデアを次々に出すわけです。それをもとにアプリに必要とされる機能やメッセージの種類を絞り込んでいこうと考えました。

もう1つ、「人間アプリ会」が必要だと思ったのは、メンバー全員が男性だったという理由もありました。女性の視点抜きで開発を進めたら、的外れのサービスができてしまう可能性があるからです。

──その検証をもとにアプリをつくったわけですね。

曽根原
2回目の検証は、男性と女性にアプリをインストールしたGoogle Glassをかけてもらい、1回目と同じように2人で30分間会話してもらう「Glassアプリ検証会」でした。1回目の検証をもとに実装した機能を、実際に使うとどうなるか?実利用に耐え得るか?を検証するのが狙いでした。
安島
グラスにトピックを送る機能を実際に使ってみたのですが、Google Glassはスクリーンのサイズがコンパクトなので、トピックの文字数が多すぎると読めなくなる可能性があることがわかりました。いくつかの文字数を表示させてみて、7文字くらいが最大ではないかということが見えてきました。
倉嶋
僕は、会話を盛り上げるために、ARグラスにハートマークを浮かび上がらせたり、花火を打ち上げたりする演出をしようというアイデアを出したのですが、スクリーンが小さいのでそれも難しいことがわかりました。結果として、相手が「喜んでいる」「怒っている」「悲しんでいる」という3種類の感情をそれぞれ赤、青、緑で相手のスクリーンに背景色として表示するのが最適だろうということになりました。

曽根原
トピックを出すタイミングもシミュレーションしましたよね。当初は30秒ごとにトピックを切り替える設定にしていたのですが、それでは短すぎることがわかりました。話が盛り上がっている途中で話題が切り替わってしまうからです。これも2回目の検証から見えてきたことです。

開発力を博報堂DYグループの新しい武器に

──2回の検証を経て、サービスの形は明確になりましたか。

牧野
最初にイメージしていたことをかなりの部分実現できたと思います。実際にサービスにするとなると言語解析のチューニングがもう少し必要ですが、超えるべき壁があることがはっきりしたのは収穫でした。
曽根原
今回はあくまでも、サービス自体のフィージビリティ検証ではなく、意図した体験を狙い通り提供できるか?を検証するために「最低限の機能を備えた動くもの」を開発するプロジェクトでした。その過程で、実際に利用者になりきって検証のサイクルを回したからこそ、例えば、表示されるトピックの順番や大きさ、切り替えのタイミングなど、利用者でないと気付き得ない些細な違和感やストレスに気づくことができました。まさにこのような細部の心遣いの積み重ねがユーザーの体験価値を左右するのだと思いますし、博報堂が提唱する「生活者体験を起点とした価値創造型のDX」を実現するためのアプローチの一例なのではないかと思いながら、プロジェクトに伴走させてもらいました。

──このプロジェクトに参加した手応えをお聞かせください。

倉嶋
僕はアクティベーションプラナーという立場で、主にクリエイティブに関わる仕事をしています。今回、プロトタイピングに参加してみて、アイデアをユーザー視点で練り上げていくプロセスや、UI/UXをとことん考えることの重要性を学ばせていただきました。この経験を今後の日常業務にいかしていきたいと思っています。
安島
最先端の技術に携わることの醍醐味を感じました。最近は生成AIが話題を集めていますが、今回僕たちが取り組んだ表情解析や自然言語処理の技術にさらに生成AIを組み合わせれば、マルチモーダルデバイスで収集したデータで仮想の人格をつくったり、個々人のライフログからその人の分身をつくったりすることも可能だと思います。プライバシーや倫理面を充分に配慮しながら、博報堂のクリエイティビティとテクノロジーをかけ合わせて、企業や社会に新しい価値を提供していきたい、と考えています。
牧野
僕は日頃はデータサイエンティストとしていろいろなデータに触れているのですが、今回の取り組みを通じて、収集と分析が可能なデータはまだまだたくさんあることに気づきました。表情の変化や会話の内容などをデータ化し分析して、それを活用できるようになれば、次世代のアシスタントAIを生み出すことも不可能ではないと思います。データサイエンスのスキルを、生活者の日常生活や行動を変えるために使っていく新しい道筋が見えたような気がしています。
曽根原
これまでプロダクト・サービス開発やエンジニアリングに触れてこなかった方も含め、1つのチームとしてアプリ開発のプロセスをアジャイルに進めることができたこと、それ自体が大きな成果だと感じています。この取り組みをきっかけに、サービス・アプリ開発のノウハウをどんどん組織知化していきたいですね。そして、広告会社という枠組みを超えて、クライアントやさまざまな事業者と「共創」することで、生活者に対して新しい体験を提供していきたいです。
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  • 博報堂 DX プロデュース局
    東北大学法学部を卒業後、ITベンチャーにて、メディア事業のCS・Sales・Marketing・新規事業開発を幅広く経験。退職後、クラウド領域でのスタートアップ創業に携わり、2022年博報堂に中途入社。現在はGoogle Cloudを用いたプロダクト開発やクラウドガバナンス体制構築業務、及びGoogleソリューションの活用戦略~戦術策定を中心に推進。
  • 博報堂 データドリブンプラニング局
    データサイエンティスト
    入社以来、データサイエンスによる戦略策定・サービス開発・予算配分最適化・効果検証業務に従事。金融・通信・ゲーム・決済サービスなど様々な業界のビッグデータを活用したデータサイエンス業務に従事。千葉生まれ千葉育ち。
  • 博報堂  BX クリエイティブ局
    2022年一橋大学社会学部卒。同年博報堂入社。アクティベーションプラナー。Z世代向け施策や、企業ブランディングにおける統合的なコミュニケーション業務を担当。コンセプトの開発から表現まで一気通貫でのプラニングを行っている。静岡県出身。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局
    2005年、博報堂入社。営業として流通、メーカー、エンタメ企業などを担当した後、2013年より博報堂DYホールディングス傘下の新会社設立に参画し、スマホアプリのサービス設計、パートナーアライアンス、マネタイズなどの事業推進一切を経験。2017年より現職で、媒体社との協業による事業開発、ソリューション開発に従事。