澤田設計事務所が挑む! エリアデータを活用したマーケティングの最適化
「エリアのWEBコミュニケーション立案・実施」と「エリアデータを活用した戦略設計」の一気通貫サポートを提供している、大広グループの澤田設計事務所。2022年3月にはエリアデータを活用したコミュニケーション設計において特許も獲得しています。「人」や「土地」が持つ膨大なデータの中から、いかにニーズに合わせたデータを活用し、分析、事業設計へとつなげるのか。同社を率いる澤田善郎代表取締役に聞きました。
膨大なエリアデータから目的に合ったデータを取り出し、組み合わせ、答えを導き出す
――まずは澤田さんのこれまでの来歴を教えていただけますか。
- 澤田
- 大広に入社したのが1995年です。最初は営業でしたが、2001年からダイレクトマーケティングビジネスにおける事業設計・顧客獲得・CRMなどに一通り携わりました。2013年からはDMPを主軸にデータプラットフォーム構築や設計に従事。その後、2018年に澤田設計事務所を設立しました。
――「澤田設計事務所」というユニークな社名にされたのはなぜでしょうか。
- 澤田
- 設計を英語でいうとデザインですから、事業をデザインする会社という意味でこの社名にしました。そもそも、いくつかの複合的な要素を使って全体を組み上げるときに設計という言葉を使いますよね。最近コミュニケーションでもデータマネジメントでもプランニングでも、設計という言葉がよく使われるようになってきたのは、必要な要素がまさに複合化してきているから。間違えて建築資材の売り込みが来ることもありますが(笑)、建築ではなく事業設計をサポートする会社です。
――では改めて、エリアマーケティングとは何か、またそこで使用されるエリアデータとはどんなものか教えてください。
- 澤田
- エリアを指定したコミュニケーションや出店計画などを総じてエリアマーケティングといい、そこで活用できるデータを総称してエリアデータと呼びます。エリアデータは、大きく土地が持つ特性のデータと、人が持つデータにわけられます。土地が持つデータとして代表的なものは、5年に1度行われ、世帯年収や家族構成などが記録される国勢調査です。ほかにも国土交通省が出しているニュータウンデータでは、何年何月に開発が始まったかといった情報がわかり、街並みの歴史を知ることができます。一方、店舗のポイントカードからはどこに住んでいる人がどういう頻度で店を利用したかなどがわかりますし、スマホからはその店にいる人がどのスマホ広告にどう反応したかなどもわかる。そうした個人に紐づくデータを人が持つデータと呼びます。たとえばコロナの流行中は、多くの店舗で、店内の人流をデータ化し、リアルタイムで混雑具合をお知らせする取り組みがありました。あれもスマホを通じた人が持つデータの活用事例です。
――澤田さんがエリアデータビジネスに注目した背景として、エリアデータが抱える課題について教えてください。
- 澤田
- エリアデータには大きく5つの課題があります。1つは、データ量が膨大なこと。ウェブ上での行動データはすでにマーケティングでよく活用されていますが、そもそもリアル環境においては、データ化されていないものがたくさんある。それをデータ化するだけで現状の10倍の量になるといわれている。切り口がさまざまなこともあり、使い勝手が悪いんです。
2つめは、データの粒度が統一されていないこと。たとえばそこに人がいたことを示す緯度経度の地点データがありますが、日本だったり都道府県だったり市町村だったり、尺度がさまざまです。複数のデータを掛け合わせて活用するには、この粒度を整える必要があります。
3つめは、人が持つ位置データにおいて、取得方法によっては捕捉量が不安定になること。取りやすいデータと取りにくいデータというのが出てきてしまうんです。たとえばいまは数年前に比べると無線イヤホンを使う人が増え、それによってブルートゥースをオンに設定している人の割合が増え、スマホからのデータを取りやすくなりました。また、高齢者が多い地域では他の地域に比べてスマホを持たない人も多く、必然的に捕捉データは少なくなります。
4つめは、コストがかかるということ。ことデータマネジメントに関しては、データが多ければコストが下がるというわけにはいきません。その逆で、データが多いほどコストがかかるため、結果的に非常に使いにくいんです。
最後は1~4のすべてに影響する課題でもありますが、1つの目的に合わせて1つのデータを引っ張ってくるため、汎用性が少ない。万能なデータがないというのも、エリアデータの活用が進まない理由です。
こうした課題があるなか、僕らはクライアントの目的に応じて適切なデータを取り出し、組み合わせ、1つの答えを導き出していきます。
―なるほど。
- 澤田
- 昔なら「高齢者が多いエリアはこういうビジネスが成功しやすい」といったシンプルなロジックが有効でした。確かに、何かしらの単一データから答えが導き出せれば、コストもかからないしベストです。でもいまの世の中は複雑化していますから、複合的なデータを用いたうえでの分析が非常に重要になってくる。社会変化だけでなく、人々の意識変化も著しくなっています。たとえばコロナ一つとっても、初期の頃から第3波、第4波、第5波と、人々の考え方、判断の仕方は変わってきていて、単純にコロナ前後で整理できるものではありません。そこをどう細かく見える化していくか。全体のデータマーケティングに言えることですが、社会変化、意識変化のスピードが早いので、半年前のデータも通用しないということになります。
――そうした課題をふまえ、澤田設計事務所が提供しようとしている価値とは何でしょうか。
- 澤田
- よりインタラクティブに、スピーディに、コンパクトに、カジュアルにエリアデータを設計し、マーケティングから事業戦略立案まで一気通貫でサポートしていくことです。そして、世の中に膨大にあるデータの中で、いかに小さいデータでデータマネジメントをやり切るかということにもこだわっています。僕らはデータそのものを所有しているわけではありませんが、これまで数多くのデータを触ってきた知見、目利き力をもって、クライアントの目的に合った適切なデータをセットアップし、マーケティング手法を提案できる。それが僕らの何よりもの強みです。
4Gが5Gになり、カメラの画素数も増えていくように、これからデータは増える一方で、いずれは個人も企業も社会もデータをストックしきれなくなっていきます。だからこそ、何を残していくかが重要になる。さまざま存在するエリアデータのどこに的を絞り、データを置いていく必要があるかは、企業ごとに異なってきます。それは今後のデータマネジメントの大きなポイントになるでしょうね。
なお2022年の3月には、データの粒度を合わせ、そのデータ分析によってエリアのポテンシャルを見出すというビジネスモデルで特許も取得しました。これは複数のエリアデータを複合的に分析しようとした時にデータごとにエリア粒度が様々なために分析が進まない弊害を解消するための1つの手法です。エリアデータ粒度を整えこの分析を実施し、次のアクションにダイレクトに活用するためのエリアデータマネージメントを提供します。
エリアデータ活用で問われるのは、最初に何に着目し疑問を持つか
――澤田さんが感じるエリアマーケティングの面白さとは、何でしょうか。
- 澤田
- データを使う意味は、人の行動や意識を見える化することにあります。実際、データによって、経験則上の思い込み、主観的な考えとはまったく違う事実が見える化されることがあって、そこに何よりもの醍醐味を感じますね。たとえば店舗のお客さんがどこから来ているかについて考えるとき、まず拠点から何キロ圏内という同心円をイメージしますよね。でも実際はその円の外からも来ているし、何なら円の中でも濃淡があったりする。実は円の外に大きな集客ポイントがあるといったこともあります。そうした、想定とギャップのある事実がデータによってはっきりと可視化されたときは特に、「やってやった」感を覚えます(笑)。アクセスした人の足跡が残るネットと違って、リアルにおける人流の可視化はそう簡単ではない。むしろ感覚知の方が重視される世界です。そこを精緻化し、データ化し、事実として提示することに意義を感じますし、一番面白さを感じます。
こうした考え方ひとつひとつは、特に画期的だとは思いません。あくまでもそれぞれの組み合わせ、設計の仕方次第で、できることはたくさんあると考えています。
――では逆に、どういったところに難しさを感じますか?
- 澤田
- 実際のデータを突き合せた結果、想定の範囲内の結果が出たときでしょうか。特に問題があるわけではないですが、せっかくクライアントのデータをお預かりするのであれば、何か驚きや発見、気づきが提供できればよりいいと感じています。我々のビジネスは、分析なりデータ活用の可能性、期待を超えるインパクトに対して投資をしていただくものです。そのバランスをよくしていきたいですね。
データというのは、使えば使うほど必ず精度は上がるものです。そのうえで、必要なデータをどれくらいスマートに、コンパクトに、要点を絞って使えるかが最大のポイントになる。全国レベルで使える大きなデータから、小さく使い勝手のいいサイズのものまで、さまざまなデータが存在するなか、いかに最適なサイズ、種類のデータを取り出して活用するか。その目利き力をよりシャープに磨いていくことが重要だと考えています。
――ほかにどんな活用事例がありますか。
- 澤田
- たとえば隣接している2つの店舗の集客状況を見るときに、企業側としては2店の間に線引きをし、分断してとらえがちですが、店舗によっては商圏が非常に大きくかつ重なり合っている場合もあります。つまり、一方の店舗がもう一方の店舗の客を“食っている”場合がある。そのときに、どこからどこまでのデータを、該当する店舗の客のものととらえるか、細分化して見える化したケースがありました。あるいは、自動車関連のクライアントに向け、住民と土地のデータと自動車の車検情報を組み合わせ、アプローチすべきエリアや時期を整理したケースもありました。車検情報というのは、どの車種が何月何日に登録されているかがすべて記録されているので、ある特定のブランドの特定の車種において、たとえば3カ月後に車検が切れる人がこれだけいる、というのが見えます。そして、車検の切り替えのタイミングで車の買い替えをする人が多いため、その層を狙ってピンポイントに広告を打てるようになるわけです。これまで当たり前のようにあったデータを地図上に乗せて見える化することで、エリア、車種レベルなどターゲットを精緻化でき、クライアントにも高い評価をいただけました。
――当たり前のように存在しているデータも、使い方、組み合わせの仕方でより高度なマーケティングに活用できるようになるんですね。
- 澤田
- そうですね。少し話がそれますが、たとえば家電量販店で、売り物のマッサージチェアに座っている人がいたとします。よくある風景ですが、その方が本当にお客さんかどうかはその場で見ただけではわかりませんよね。もしかしたら、ただ休んでいるだけの人かもしれないし、家族の買い物が終わるのを待っている人だったり、何かの商品を購入後、必要な手続きを待っているお客さんかもしれない。でも最後に店舗内の行動データとレジのデータを照会することで、それぞれの単価や、導線、徘徊ルートなど、リアルでは見えなかった事実が一気に明らかになる。データからは本当にいろいろなことが判明します。ポイントは、最初にどこに着眼するか。“この人はターゲットにするべきお客さんなのか?”と、最初に疑問を持つかどうかです。
――なるほど。とてもわかりやすい例えをありがとうございます。では、エリアマーケティングに従事する際のこだわりは何ですか。
- 澤田
- いまあるデータを活用することはもちろんですが、あらかじめ予測を立て、先に必要とされるであろうデータをつくっておかなくてはならない場合もあります。その場合でも、やはり掛け合わせてみないことには見えてこないことも多い。その後の分析の負荷を抑えるという意味でも、最初の段階で、いかに目的に合った精度の高いデータがつくれるかにはこだわっています。データのつくり方、そして見方。この2つには細心の注意を払っています。
――ありがとうございます。最後に、御社の事業にかける想い、そして今後の展望について教えてください。
- 澤田
- 僕は大広時代に長年従事したマーケティングの仕事において、特にエリアに特化した事業や小さな事業、地方行政といったお客様のさまざまな課題や悩み事に触れてきました。そのなかで、データをもっと上手に使ってもらいたいという想いに至ったことが、会社を設立することにした大きな動機です。独立したからこそ、自由度高くお客様に合った課題解決ができるし、どんなレベル感でもデータを使えば確実に事業はよくなります。データを使いすぎて事業が落ち込んだなんて言う話は聞いたことがありませんから(笑)。とにかく、「データは高いし使い勝手が悪そう」とか「そもそもどうデータを活用したらいいかわからない」といった方にこそ、一度ご相談いただければと思います。目的と大きさ、投資額の範疇でできることはいくらでもありますから、少しでも多くの企業や社会に対して貢献できたらいいですね。我々ができることは、事業者の皆さんの想いや経験に対して、客観的なデータを示し、考え方や選択肢の幅を広げるお手伝いをすること。それが、今後も我々の役割だと思います。
――わかりました。今日は貴重なお話をありがとうございました!
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株式会社 澤田設計事務所
代表取締役社長1995年に(株)大広に入社。2001年より通信販売を中心としたダイレクトマーケティング業務を通じて、事業設計・顧客獲得・顧客育成(CRM)業務に携わる。2013年から事業推進のためのデジタルおよびデータマーケティングに携わり、データプラットフォーム構築・設計にも従事。この経験を生かし、2018年に(株)澤田設計事務所を設立。「データ基点による生活者および顧客理解推進」により事業デザインを行う。