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中小企業のコンテンツ制作・発信を支援するコンテンツ制作ツール ──顧客目線のコミュニケーションを実現
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中小企業のコンテンツ制作・発信を支援するコンテンツ制作ツール ──顧客目線のコミュニケーションを実現

情報の適切な発信と、顧客との継続的な関係づくりは、多くの中規模・小規模企業とっての課題です。その課題解決を目指したツールを開発したのが、大広でD2Cビジネスコンサルティングを手掛ける増田浩一です。そのツールと企業支援の考え方を論じた論文は、「東京都中小企業診断士協会会長賞」も受賞しました。中小企業のコンテンツ制作・発信を支援するツールを考案したきっかけ、コンセプト、成果、これからの可能性などについて本人に語ってもらいました。

増田 浩一
大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
D2Cビジネス推進局コンサルティングチーム2

中小企業・中堅企業のための実践的なツールを開発

──企業のコンテンツ制作・発信ツールを考案した経緯をお聞かせください。

増田
僕自身が中小企業診断士の資格をとったことがきっかけになっています。中小企業診断士として登録されるには、試験に合格したあとで、実務補修といって3社の現場で実習をしなければなりません。その実習の過程で知り合った診断士の先生から、「実践的プロモーション研究会」という研究会に誘われて、参加させていただくことになりました。

その研究会は、中小企業や中堅企業が自らできるプロモーションについて独自の研究をしていました。僕もそれまで感じていた中小企業の課題を解決するようなソリューションをつくってみようと考えました。

──どのような課題を解決しようと考えたのですか。

増田
中小企業の経営者や従業員の皆さんは一生活者であり、SNSなどを日常的に使っていらっしゃいます。そこで発信される情報を見て、「こんな店に行ってみたい」「こういうものがほしい」と感じる場面が日常的にあること、同時に「自分たちもこういう情報発信をしなければならない」といつも感じていること。そんなお話をよく伺っていました。

しかし、中小企業の多くは人材リソースが常に不足していて、日常業務以外の実務をこなす余裕がありません。また、経営者の皆さんもルーティンの仕事が忙しく、新しいことをなかなか始められないのが実情です。一番の問題は、SNSを上手に活用して情報発信をするノウハウがないことです。

どうすれば、中小企業が的確に情報発信をできるようになるか──。そう考えて思い至ったのが、発信すべき情報や発信方法をわかりやすく整理するツールがあればいいのではないか、ということでした。発信しなければならないのは、会社の魅力や強みです。しかし、経営者ご自身にもそれが明確に把握されていないケースが少なくありません。そこで、自社の魅力や強みをあらためて見つめ直して整理し、そこからコンテンツ発信につなげていくことができるツールをつくろうと考えました。

対話を重ね、訴求点を見極めていく

──ツールの概要をご説明ください。

増田
ステップ1の「訴求点発見ツール」、ステップ2の「コンテンツ呼び水ツール」、ステップ3の「発信先選定ツール」の3つに大きく分けられます。まず、ステップ1では、「その企業が目指すこと」を言語化し、「どのようなお客さまに、どのような価値を提供するのか。そしてその価値は競合と比べてどこに違いがあるのか」を整理します。

つまりは、ビジョンと3C(カスタマー、カンパニー、コンペティター)を定義するということですが、中小企業の経営者の皆さんの中には、「ビジョン」とか「3C」といきなり言われてもよくわからないという方も少なくありません。そこで、マーケティングの専門用語を使わず、できるだけわかりやすく説明することを心がけました。

その2つの整理を進めていくと、「お客さまへの訴求点」がおのずと明らかになってきます。それを言語化して、ステップ1は終了です。

──たいへんシンプルでわかりやすいですね。その整理はクライアントである中小企業の経営者の方やご担当者が行うのですか。

増田
クライアントと僕たちとの対話の中で整理していく方法が有効だと思っています。はじめに、僕たちから仮の内容を書いた叩き台をつくります。そうするとたいていは、「こういうことじゃないんだよな」という反応が返ってきます。そこが対話の入口になり、そこから話を広げていくわけです。

実際にこのツールを使った、東京・恵比寿にある日本酒居酒屋の例でご説明します。
その店は以前には「飲み放題」「おいしいしゃぶしゃぶ」「そばも食べられる」など、いろいろなメッセージを顧客に向けて訴求していました。しかし、その店の一番の売りは、「全国の230種類以上の純米酒を揃えている」ことではないか、それを伝えていかないのはもったいないと思いました。それをご指摘したうえで、どういう店にしたいのかということを社長と対話を続け、最終的に「人が楽しく集まれる場所にしたい」とおっしゃいました。「では、それをしっかり伝えていきましょう」ということになり、その店が目指すことを「いかに、国内外に向けた、本物の日本酒のおいしさ・たのしさの発信基地になれるか?」と定義しました。

対話の中で、こんなやりとりもありましたね。

「日本酒の銘柄数を一番飲んでいるのは誰だと思う?」
「造り酒屋ですか?」
「そんなわけはないだろう。造り酒屋は自分の蔵の酒を飲むので手いっぱいだよ」
「酒販店ですか?」
「そんなわけはないだろう。商品には手をつけられないじゃないか」
「じゃあ、誰ですか?」
「俺だよ。年間800種類は飲んでいるからな」

だったら、何でそれを伝えないんですか、という話ですよね(笑)。それで、お客さまに提供できる価値を「全国の純米酒を毎年800本以上テイスティングし続ける店主が、厳選した希少銘柄230超を“唎酒(ききざけ)し放題”できる日本酒居酒屋」としました。

──なるほど。一種のコンサルティングサービスを含んだソリューションということですね。

増田
そう言ってもいいかもしれませんね。一番大事なのは、対話の中でクライアント側に「気づき」を得ていただくことだと思っています。気づきや腹落ちがないと、ツールを開発しても、結局使っていただけない場合が多いからです。

顧客視点のコンテンツを生み出す12の「呼び水」

──次がステップ2の「コンテンツ呼び水ツール」ですね。

増田
「呼び水」というのは、顧客が求めているものを明確にするための視点で、それを12個用意しました。「生産方法」「原産地」「歴史」「五感」「消費の仕方」「周辺グッズ」などです。この12の中から、顧客視点のコンテンツにつながりそうなものを3つから4つくらい選んでいただき、そこから具体的なコンテンツの切り口を考えるのがステップ2です。

コンテンツはSNSを中心に発信していくことを想定しているので、切り口はビジュアルから考える想定にしてあります。先ほどの居酒屋の例では、選択した呼び水は「五感」「消費の仕方」「周辺グッズ」で、それぞれを「ラベルとおちょこ」「お料理とおつまみ」「季節のインテリア」などのビジュアルで訴求するということになりました。

──コンテンツの切り口はいろいろありそうですね。

増田
商品、企業の姿勢、従業員、顧客のコミュニティ、場合によっては社長の趣味などがあってもいいと思います。逆に、コンテンツをつくるためにイベントなどを企画するという発想もあります。恵比寿の居酒屋では、ツール導入後に、店に落語家や蔵元を呼ぶイベントを開催して集客につなげると同時に、それをコンテンツとして発信していくという取り組みを始められました。

──どのような切り口にすればいいか、悩まれる経営者も多いのではないでしょうか。

増田
そこをお手伝いする補助ツールもあります。自社のSNSアカウントに寄せられたコメントや、グルメサイトのコメント、あるいは顧客へのインタビューやアンケートなどをテキストマイニングして、分析するツールです。大切なのは、「自社視点」「経営者視点」を「顧客視点」に転換することです。そのお手伝いをさせていただきます。

──そうして、次のステップ3「発信先選定ツール」でコンテンツの発信方法を決めていくわけですね。一種のメディアプランニングだと思いますが、何がメディア選択の基準になるのでしょうか。

増田
発信方法にはSNS、自社メディア、ブログ、メール、リリースなどがありますが、ポイントはそのすべてを使おうとしないことです。すべてのSNSやメディアで発信しようとすると、結局、途中で負担になって発信が続かなくなってしまうからです。継続的な運用が可能かどうかを見極めて、発信方法を絞り込むことが大切です。

とはいえ、やってみないとわからないこともありますから、まずはいろいろな方法を試していただいて、現実的なラインを検討するのがいいと思います。情報の発信頻度も、デイリーが難しいなら、週に1回から2回くらいにするなど、無理をせずに続けられる体制をつくることをお勧めしています。「できることを確実にやっていく」ということですね。

──これによって、コンテンツ発信の基盤ができるわけですね。

増田
そうです。ツールのスコープはここまでで、ここから先は運用のフェーズに入ります。具体的な運用方法はケースバイケースですが、SNSやブログなどへのレスポンスを見ながら、月1回くらいの頻度でクライアントとミーティングをしていき、コンテンツの内容や発信方法を継続的に改善していくのが一般的な方法です。

情報発信を始めると、ネガティブなリアクションがある場合もあります。そういうときに慌ててしまう経営者もいらっしゃるのですが、「大丈夫ですよ。世の中にはそういう人もいますから」とお話をしたりするなど、引き続きご相談の相手になることが大事だと思っています。対話を続けながら、PDCAを回して、顧客の心を捉えるコンテンツ発信を実現させていく。そんな取り組みが続くことになります。

クライアントともに「答え」を探していく

──日本の中小企業は全企業の98%を占めます。業種業態も千差万別ですが、このツールのユーザーとして想定しているのはどのような企業なのでしょうか。

増田
大きくは、BtoB企業とBtoC企業に分けられると思いますが、そのどちらでもお使いいただけるツールだと考えています。顧客とのコミュニケーションという点でのお悩みは、おおむね共通しているからです。BtoB企業の中にも、コロナ禍以降は直接的な営業活動が制限されて、オンラインでの情報発信に本格的に取り組まなければならなくなっている会社が少なくありません。そのようなクライアントにもこのツールはお役立ていただけると思います。

──具体的に、ツールはどのような形でクライアントに提供されるのですか。

増田
大広がコンテンツ制作やメディアプランニングの一環でご提供するケースもありますし、各企業を担当されている中小企業診断士の先生から提供していただく場合もあります。また、競合プレゼンの際にこのツールをご紹介して、対話のきっかけとさせていただくこともあります。これまで、先の居酒屋以外にも、粕漬、ジュエリー、ヴィンテージレコード、ウェディングなど、さまざまな業種業態の企業にお使いいただいています。

──これまでの具体的な成果をお聞かせいただけますか。

増田
一例をご紹介すると、SNSフォロワー以外のアカウントへのリーチ数が74.5%増、リーチアカウントの総数が最大で216.0%の増、「いいね」やコメントなどのインタラクションが227.0%増といったケースがあります。とくに重要なのがインタラクションで、これが目に見えて増えると経営者にもかなり喜んでいただけます。

一方、定性的な成果としては、継続的なコンテンツ発信が可能になるなどの「社内効果」、整理した訴求点に合わせて店のメニューやインテリアなどを改善する「波及効果」、顧客からの反応や引き合いが活性化する「営業効果」などが挙げられます。

──中小企業だけではなく、大手企業の新規事業開発などにも役立ちそうなツールですね。

増田
そう思います。ビジョンや3Cは事業の基本中の基本です。それをシンプルに整理したいというニーズがあれば、企業規模に関係なくお使いいただけると考えています。

──ツールをリリースしてから、新たな発見などはありましたか。

増田
やはり「対話」が重要だということですね。広告会社の仕事は主にクライアントへの「提案」ですが、こちらでつくりあげたアイデアをご提案する前に、対話することによって新たに見つかることがたくさんあると感じています。

提案はこちらで見出した「答え」を提示することですが、対話はともに「答え」を探っていく作業です。対話の中でクライアントの考えが変わることもあるし、僕たち支援する側が変化することもあります。その互いの変化の中からよりよいものが見えてくる。それが対話の一番の効用だと思います。このツールをきっかけとして、多くの企業の経営者や事業担当者の皆さんと対話させていただける機会を広げていきたい。そう考えています。

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  • 大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
    D2Cビジネス推進局コンサルティングチーム2
    早稲田大学理工学術院建築学研究科卒。
    一貫して、ストラテジックプランナーとして事業会社の広告戦略、商品戦略立案を支援。2020年からは、経済産業大臣登録中小企業診断士として中小企業の経営戦略を中心としたコンサルティング活動を継続。
    主な顧客は、食品製造業、機会製造業、飲料メーカー、学校法人ほか、ゴーストレストランといった次代のユニコーン企業までと、幅広い。
    東京商工会議所派遣専門家。
    直近執筆の論文「小規模事業者の情報発信を効率化するコンテンツ制作ツール~12の「呼び水」を使ってサクサク創る制作メソッド~」にて、東京都中小企業診断士協会会長賞を受賞。ほか表彰歴・セミナー等対外活動実績多数。