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AaaSによる広告メディアビジネス革新の現場 AaaSを支える広告効果シミュレーション
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AaaSによる広告メディアビジネス革新の現場 AaaSを支える広告効果シミュレーション

博報堂DYグループが推進する広告メディアビジネスのDX化「AaaS」について分かりやすく紹介する本連載。第7回目は、AaaSが目指す「広告枠」から「効果」を売るビジネスの実現にとって欠かせない要素である広告効果シミュレーションについてです。広告効果シミュレーションでできるようになることや開発における課題や発見、さらにそれぞれの取り組みについて、データ基盤の開発を行っている博報堂DYメディアパートナーズメディアビジネス基盤開発局よりプロジェクトリーダーの坂井 良樹、データサイエンスに強みを持つ水田 泰由、プロダクトデザインを担当する宮澤 良和の3名に語ってもらいました。

「広告効果の予測」を追究するエキスパートチーム

――みなさんのチームの取り組みについて教えてください。

坂井
私たちのチームでは、複数の媒体・メニューを組み合わせたときの広告効果を予測・最適化する技術の研究開発を担っています。

現代のマーケティング環境では、テレビ、デジタル、交通などそれぞれの媒体に魅力的な広告メニューが揃っています。広告主はこれらを組み合わせて自社に最適な広告プランを組むことが可能です。その一方、複数の媒体が組み合わさることで、広告キャンペーン全体の効果を見積もることが困難になっています。

私たちは、グループ内外のメディア接触データや広告実績データを駆使して、媒体の組み合わせごとの広告効果を定量的にシミュレーションする技術を開発しています。

――具体的にはどのようなシミュレーションが可能なのでしょうか。

坂井
もっとも基本となるのは、複数媒体を横断したキャンペーンの広告到達(リーチ)のシミュレーションです。いかに優れた広告でも、ターゲットに届かなければ効果を発揮しません。多くの広告の現場で広告のリーチがベーシックなKPIとして位置づけられています。
リーチを最大化する上で、生活者が日常的にメディアをどう使い分けているのかをデータから客観的に把握することが大切です。私たちのシミュレーションでは、テレビ・デジタル・交通といった複数の媒体を横断して出稿したとき、全体としてターゲットの何%に広告が届きそうなのかを見積もることができます。またこのシミュレーションを逆引き的に使えば、目的のリーチを達成するための最適な予算配分の意思決定に使うこともできます。

リーチに加えて、認知や興味関心といった態度変容のシミュレーションにも力を入れています。ブランドの名称やイメージを生活者に印象づけるには、動画広告のような情報量の多いリッチな広告を、複数回ターゲットの目に触れさせることが望ましいとされています。しかしリッチな広告メニューは一般的に単価が高く、一人のターゲットに何回も接触させようとすると届けられる人数は減ってしまいます。
我々のチームでは過去の実績から各媒体の態度変容パワーをノーム値として持っており、リーチと効率を勘案した上で最も態度変容が期待できるプランをシミュレーションすることができます。

――当チームの開発した技術はどのように活用されているのでしょうか。

坂井
まずは社内ツールとして、弊社のプラニングメンバーに向けて提供をしています(以下、社内シミュレータ)。広告のシミュレーションはデータや数学の高度なテクニックが必要なため、プラナーが自前でやろうとすると作業負荷が高いものです。社内シミュレータとして気軽にアクセスできる環境があることで、プランのクオリティアップや業務効率化につながっていると喜んでもらっています。

また、社内ツールにとどまらず、AaaSで提供している様々なサービスの計算モジュールとして活用してもらうというチャレンジもしています。
AaaSのプロダクト開発の特徴は、開発チームがデータ基盤担当・ロジック担当・サービス担当などとレイヤー分けされており、各レイヤーで開発された部品の再利用が促進される体制構造にあると思います。
たとえば私たちの作った媒体横断リーチシミュレーションのプログラムを、ダッシュボードサービスチームが各媒体個別のリーチ計測結果の統合に活用して新たなサービスを提供したりしています。

――ここからは開発の現場について教えてください。開発チームのみなさんはどのような役割分担で開発を進めているのですか。

坂井
開発チームは外部パートナーのお力も借りながら10名以上で組織していますが、中心となっているのはここにいる坂井・水田・宮澤の3名です。

チームリーダーの坂井は、もともとグループの研究開発セクションで統計や機械学習といった専門技術をマーケティングに応用する基礎研究をしていました。このバックグラウンドを活かし、当チームの数理面・エンジニアリング面を牽引しています。
水田はデータサイエンス領域の強みを活かし、態度変容に関する研究を担当しています。
宮澤は社内シミュレータがより多くのユーザーによって使いやすいものにするプロダクトデザインを担当しています。

生活者の広告への反応を定量化する仕事

――水田さんの態度変容の研究とはどういったことをされているのでしょうか。

水田
広告の到達人数(リーチ)だけでなく、ブランドの認知・興味関心・検索意向など、より事業成果に近いKPIを管理したいニーズは根強いです。そのため当チームではリーチに加えて態度変容のシミュレーションにも力を入れて研究を行っています。
当チームのシミュレーションでは、「どのくらい広告が広く到達したのか(リーチ)」と「広告接触によって効率的に態度変容してもらえたか」の2つの予測モデルをかけ合わせて態度変容を予測しています。私は後者の態度変容効率を表現するモデル開発を担当しています。

広告の態度変容効率は、広告の媒体・メニュー、接触回数、商品ジャンル、ターゲットの性年代などの様々な変数が左右します。私たちは、博報堂DYグループで独自に実施した調査実績をもとに、これら変数が態度変容にあたえる影響を定量的にモデリングし、シミュレーションに組み入れています。キャンペーンの特徴、KPIに応じて柔軟にシミュレーションができるため好評を頂いています。

――研究の過程で、なにか発見はありましたか。

水田
一般的に言われている知見だけでなく、なるべく新しい知見も積極的に取り入れていくことを意識しています。
例えば商品ジャンルと性別年代の組み合わせによって広告への反応が大きく異なる、というのは一般的な生活者感覚としても理解できると思います。実際データを見てもそうした傾向が見られるのですが、さらにデータを細かく見ていくと、一部のジャンルでは「発売からの年数」によっても違いが出ることも分かりました。具体的には、発売から長期間経過したブランドは、発売からまもないブランドに比べて広告の認知効率が明らかに高い傾向が見られました。長寿ブランドは生活の中で目にする機会も多く、生活者から信頼を勝ち得ているのではないか、その結果新しい広告・メッセージが発信されたときにも受け入れてもらいやすいのではないか、と考えています。このように、分析する中で発見した市場についての新たな知見も積極的に反映できるように心がけています。

現代の業務環境に適応進化するアプリケーション

――宮澤さんは社内シミュレータのプロダクトデザインをされているということですが、どのような取り組みをされているのでしょうか。

宮澤
当チームで開発したシミュレーションロジックに、ブラウザから気軽にアクセスすることができるWebアプリケーションをつくっています。弊社のプラナーは、好きなときに自分の手元のPCから広告効果のシミュレーションを行うことができます。

社内向けの業務ツールではありますが、ユーザーの使いやすさにはかなり注意を払って設計をしています。いまの世の中には洗練されたマーケティングツールが溢れていて、弊社のプラナーも複数のアプリケーションを使い分けて業務を進めています。そうした “目の肥えた” ユーザーにもストレスなく使ってもらえるようにしたいと、常に試行錯誤をしています。

――具体的にはどのような試行錯誤がありましたか。

宮澤
例えば条件の共有機能です。チームでの協業では、自分が作成したシミュレーションを他のユーザーと共有したくなりますよね。
開発当初は、一般的なアプリケーションと同じくファイル形式での共有を想定していました。しかし現在、業務コミュニケーションの多くはMicrosoft Teamsなどのチャットツールが主流です。チャットツールの中でファイルを転送し合うのってあんまり自然じゃないですよね。
検討を重ねた結果、現在はURLベースの共有方法をメインに採用するようになりました。シミュレーションごとに異なるユニークなURLテキストが発行され、それをチャット上にペタっと貼ることで他のユーザーに条件が共有できるようになっています。こちらの方がチャットツールの中だけで情報が完結し、忙しいプラナーにはストレスが小さいと考えました。

新卒で広告会社に入社して、まさかアプリケーションのデザインを担当するとは思っていませんでした。まだまだ勉強中ではありますが、ユーザーと対話する中で課題の理解を深めていくプロセスの大切さを日々感じています。ユーザーから頂くリクエストや課題を受け止めつつ、その先をいくようなアイデアを常に提案しようと考えることがこの仕事の醍醐味です。

――最後に、当チームの今後の展望を教えてください。

坂井
博報堂DYグループの提唱するAaaSでは、従来の「広告枠」を売るビジネスから、広告主の事業貢献である「効果」を提供するサービスへの転換を目指しています。その過程で、広告が約束できる「効果」を事前に予測しようとする当チームの取り組みはますます重要になってきていると感じています。

シミュレーションの精度・正確性といったロジック面の改善はもちろん、マーケティングチームが楽しく・エキサイティングに課題に取り組めることが最大のゴールだと考えています。日々のマーケティングPDCAの中で、うまくいくときもいかないときも、「マーケティングって、広告ってやっぱり楽しい」と実感してもらえるようなサービスを作っていきたいです。

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