テレビCMの「運⽤型化」、その課題と可能性 【アドテック東京2021レポート】
デジタル広告市場で主流となっている運用型広告の方法がテレビCMの領域にも広がってきています。しかし、長い歴史をもつテレビCMの仕組みの変化にはさまざまな課題もあります。実際に運用型テレビCMに取り組む広告主企業と、CM運用を支援する広告会社の面々が、テレビCMの「運⽤型化」の課題と可能性について語り合いました。
本稿では11月1日、2日に開催されたアドテック東京2021のセッション「テレビCMの運⽤型化がもたらす広告メディアの功罪とは?」の模様をお届けします。
吉川友英
ADKマーケティング・ソリューションズ
統合チャネル戦略センター 統合メディアプランニングユニット ユニット長
高橋 学
電通
第2統合ソリューション局 テクノベートストラテジー部 部長
藤原彰二
出前館
取締役/COO
モデレーター
清水康隆
博報堂DYメディアパートナーズ
メディアプラニングディレクター
CM運用によってステークホルダーのアクションを喚起する
- 清水
- テレビCMの現在の市場規模はおよそ1.66兆円です。2年ほど前にインターネット広告費がテレビの広告費を超えたことがニュースになりましたが、テレビCMは依然巨大なマーケットであり続けています。
現在、このテレビ広告の「運用型化」が進んでいます。インターネット広告は、すでに82.9%が運用型になっていて、運用型広告の仕組みはある程度成熟していると言えます。一方、テレビCMの運用型へのシフトはまだ道半ばにあります。これからの変化の過程の課題と可能性を考えるに当たって、まずは広告主の出前館のテレビCMの取り組みを伺っていきたいと思います。
- 藤原
- デリバリーの日常化を目指す出前館にとって、広告は「再現性」のあるものでなければならないと考えています。再現性のある広告とは、継続的に運用することによって、指名検索を増やし、ユーザーとの長期的な関係構築につながる広告です。
私たちのビジネスモデルには、3種類のステークホルダーがいます。加盟店、ユーザー、配達員です。私たちはまず、社員向けのインナーブランディングによって、それらのステークホルダーとのコミュニケーション強化に注力しています。さらに、関係をより強くしていくためにテレビCMを活用しています。
ユーザーに対しては、テレビCMによってブランドの「親しみやすさ」と「安心感」を伝えています。ダウンタウンの浜田雅功さんを起用したCMによって、SNSのフォロワー数や認知率が飛躍的に向上しました。CMのオンエアにあたっては、夕食時間の1時間前のタイミングで放映することによって検索率を向上させる戦略をとっています。CMの成果は、検索後のアプリのダウンロード数に対するGRPもしくは単価を指標としています。
データを見ると、初回の注文はピザや寿司が多いことがわかります。しかしこのジャンルは、施策を打たないと2回目の注文になかなかつながりません。そこで、テレビCMで半額キャンペーンやクーポン配布などの情報を流し、2回目の注文につなげつつ、他のジャンルも注文してもらえるような方法をとっています。
- 高橋
- ピザや寿司は出前に馴染むジャンルだと思います。そこを入り口にして、徐々に他ジャンルに誘導していくという戦略ですね。
- 藤原
- そうです。次に加盟店に対しての訴求ですが、既存の加盟店と出前館のCMを組み合わせたカップリングCMや、地元の人気店を紹介するCMを放映しています。後者については、オンエアする地域ごとに紹介店をすべて変えています。さらに交通広告を展開することによって、昨年の半年間で加盟店が2万店から9万5000店まで増えました。
また、配達員に対しても、お笑いコンビのEXITを起用したCMをオンエアしています。
さらにPRでは、タレントのSNSを有効活用して、ファンへのリーチを最大化する手法をとっています。
CMの短期的効果と長期的効果
- 清水
- 藤原さんからCMの効果指標についての話がありました。「検索」というアクションにつなげることで効果を見るという手法が今後広まっていきそうですね。
- 吉川
- 業界や商材、あるいはKPIの設定によって異なると思いますが、出前館のようにCM視聴後の「行動」を指標とするケースと、ブランドや会社名の純粋想起などの「意識」を指標とするケースがあるのではないでしょうか。テレビCMにはその両方に大きな影響を与える力があります。
- 高橋
- CMの短期的効果と長期的効果という視点で見ると、デジタル広告市場が拡大することによって、短期的にPDCAを回していくことが正解であると考えられるようになりました。しかし、企業やブランドの成長を目指すなら、長期的に人々の意識を変化させていくアプローチも必要です。吉川さんがおっしゃるように、適切に運用することによってその両方を実現できるのがテレビCMだと思います。
- 清水
- テレビCMが運用型化にすることによって、CM枠の購入方法も変わってきています。最近の傾向についてお聞かせください。
- 高橋
- これまでは、デモグラフィックデータに基づいた基本視聴率をもとに購入するケースが一般的でしたが、広告主のニーズは多様化していて、例えば、天気との連動、SNSとの連動、インターネットへの誘引など、テレビCMに求められる機能は非常に多様化しています。それぞれのKPI達成を目指してテレビCMを運用しようとすると、オペレーションがたいへん複雑になります。そこで、AIの助けを借りて最適な広告枠の買い付けを行う仕組みをつくり、クライアントに提供しています。
- 吉川
- バイイングの自動化は必須の取り組みだと思います。一方、すべてをAIの力で最適化できるわけではありません。人間の知見とAIの力をいかに組み合わせていくかがこれからの課題になりそうです。
運用型化にともなう課題とは
- 清水
- テレビCMの運用型化には、ほかにどのような課題がありそうですか。
- 吉川
- 運用チームをまとめる人材、データ基盤をマネジメントする人材が必要だと思います。
- 高橋
- デジタルに強いプレーヤーだけでなく、ステークホルダーすべてにとってメリットのある体制をいかにつくるか。それも大きな課題であると考えています。
- 藤原
- 広告主の視点から見ると、コスト面に課題があるように感じます。CMを運用しようとすると、動画をたくさんつくらなければなりません。動画制作の単価が今後どれだけ下がっていくかが大きなポイントになりそうです。私が今考えているのは、15秒CMを5秒ずつに分けて、それを切り替えていく手法です。それによって15秒CMを何本もつくるよりはコストが抑えられますが、それでも費用はかさみます。さらに放送局の考査にもコストがかかります。それらの費用感が変わると、今後市場も拡大していくのではないでしょうか。
- 清水
- テレビCMを活用する企業の幅は広がっています。多様なクライアントが出稿することによって、テレビCMの価値は引き続き保たれていくはずです。そのためには、広告主から求められる指標や仕組みづくりが必須になります。その新しい仕組みが運用型ということです。しかし、1.66兆円のマーケット全体が運用型化していくにはまだ時間はかかりそうです。クライアント、放送局、広告会社の連携によって、テレビCMの運用型化を推し進め、CMの価値を高めていきたいと思います。
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吉川 友英ADKマーケティング・ソリューションズ
統合チャネル戦略センター 統合メディアプランニングユニット ユニット長銀行系広告代理店を経て、旭通信社に入社。入社後、営業担当にて多種多様なクライアントのCMB・ブランド業務に従事。
その経験から、統合メディアプランニングユニットに異動。現在ユニット長にて、テレビ×デジタルを中心としたオンオフ統合プランニングに従事。
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高橋 学電通
第2統合ソリューション局 テクノベートストラテジー部 部長1997年株式会社電通に入社後、セールスプロモーションやマーケティング、PRといった領域を経験。
2007年にグループの通販事業支援会社に創設メンバーとして出向、クライアントの通販事業立上に多数関与した後、2016年には電通デジタルの創業メンバーとして参画。
2017年5月電通帰任後はデュアルファネルを前提としたオンオフ統合PDCAを現場で推進、事業に寄与するためのプランニングと、その結果としての広告効果の可視化アプローチを探求。
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藤原 彰二出前館
取締役/COO元キックボクサー。2006年からマーケターとしてのキャリアをスタートし、複数のWebコンサルティング会社で実務責任者を歴任。その後単身アメリカ・サンフランシスコに渡り、O2O事業の投資とR&Dに従事。
2015年LINE入社。ショッピング、グルメ、トラベルの領域で6サービスの立ち上げ推進、2000億円超の市場創造に貢献。LINE PayCMOを経て、2020年より出前館 取締役/COO。
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博報堂DYメディアパートナーズ
メディアプラニングディレクターアドテクノロジー/マーケティングテクノロジーの導入活用支援に従事した後、博報堂DYメディアパートナーズにて、大手自動車メーカー、外資消費財メーカー、国内飲料メーカー等のデジタルメディア・バイイングに関わる戦略策定・テクノロジー推進を対応。特に効果測定やテクノロジーを活用したメディア全体戦略構築に強み。現在はテレビとデジタルメディアの融合や統合プラニング・ソリューション開発を対応。