オールデジタル化したCES2021 日本でのリアルイベントを同時開催できた成功の秘訣とは
大広はアメリカ・ラスベガスで開催している世界最大規模の電子機器の見本市CES(Consumer Electronic Show)において、日本のスタートアップ企業が出展する際の支援サービスを提供しています。
2021年1月に開催されたCESは、新型コロナウイルスの影響でリアル展示が無くなり、オールデジタル化しました。大広はデジタルでの出展サポートに加え、同時期に東京・有楽町のテクノロジー展示スペース「b8ta」でリアル展示も行えるようにしました。
今回提供したサービスの狙いや効果、デジタル展示会のメリットやデメリットなどについて、大広大阪ブランドアクティベーションプロデュース本部 D2Cビジネス推進局 コンサルティングチーム2の吉原達哉リーダーに聞きました。
―大広がCESに関連して提供しているサービスについて教えてください。
「JAPAN TECH PROJECT」という名称で、日本のスタートアップ企業がCESに出展するサポートをしています。元々「CESにおける日本企業のプレゼンスアップが必要」、「日本企業が自ら出展するにはハードルが高い」といった課題がありました。それらを解消するために我々がCESの中に日本企業のパビリオンを作り、そこにスタートアップ企業にご参加いただく、という形式を採っています。日本企業の展示がパビリオンにまとまるので、来場者に「JAPAN」という冠で興味を持っていただけますし、スタートアップ企業とCESの間に我々が入ることで、手続きや運営における負荷を軽減することができます。
ただ、2018年にパビリオンを初めて作った当初は、スタートアップ企業だけでなく大企業も対象にしたサービスだったんです。「オールジャパンの技術を発信しよう」という考えから、企業規模に関係なくサポートしていました。ですが、スタートアップ企業と大企業ではCESに参加する目的、想いに違いがあり、お互いのニーズを同時に満たすことが難しく、2019年からはスタートアップ企業に絞ってお手伝いする形に変更しました。現在でも大企業の社内ベンチャーのサポートはさせていただいています。
―大企業とスタートアップ企業の目的や想いの違い、とはどういったことでしょうか。
大企業の場合、あのCESに出展できたという実績自体で、ある程度ご満足いただけるんです。さらに、出展したことでメディアでも報道されやすくなる。一方でスタートアップ企業の場合は、その場で商談が進んだり、パートナーを見つけたりできないと意味がない、ということがありました。2018年の展示は、その温度差が結構出てしまったな、という印象がありました。
そのため、どういった方針にすべきかプロジェクトメンバーで再考し、スタートアップ企業に特化しよう、ということになり、2019年以降は、JAPAN TECHパビリオンにスタートアップ企業に出展していただき、出会いの場として活用してもらう、という形を採っています。
「リアルな展示もしたい」という声に応える
―2021年のCESはオールデジタルでの展示になり、それまでと大きく状況が変わりました。どういった具合に進んだのでしょうか。
CES側はぎりぎりまでリアルで開催する方針を示していたんです。それを受けて我々も、リアルで展示することを前提とした説明会を2020年6月に2回開いていました。
オールデジタル化が決まったのは7月末です。そこで我々はまず、デジタルの展示会がどのような状況なのかを調べました。いろいろ調べてみたのですが、その時点ではどれもあまり上手くは行っていないということが分かりました。また、CESへの出展を考えられているスタートアップ企業の方ともお話をしたところ、「リアルな展示をする場も作って欲しい」というご要望が多くありました。そこで、CESにデジタル出展すると同時に、国内でリアル展示をする、という方針を決めたんです。
―デジタルの展示会が上手く行っていない理由は何でしょうか。
プラットフォームの技術的な問題が大きいと感じています。スタートアップ企業がCESに参加する一番のメリットは来場者と偶発的に出会えることだったのですが、我々がリサーチしたイベントも今回のCESも、デジタル展示ではどうしてもそういう場がつくりにくい。デジタル上では、元々名前が知られている大企業にしか人が来ていただけないことは課題だと思います。
―今回リアル展示を行った東京・有楽町のb8taとはどういったスペースなのでしょうか。
b8taは元々最新のテクノロジーを使ったプロダクトを展示する「売らない店舗」として注目されています。米国シリコンバレーに本社があり、有楽町には2020年8月に出店しました。
今回我々がリアル展示をする場所を探していたところ、b8ta Japanの方から「出展しませんか」とお声がけいただいたんです。b8taの店舗のコンセプトからしても、今回リアル展示をする場所としては最高だと考え、展示することを決めました。
b8taの店舗では通常、展示商品製品の説明をb8taのスタッフの方が行います。ただ今回は、出展者の方にも展示製品を説明していただく形を採りました。CESのデジタルに出展した6団体に加えて、リアル展示のみをご要望いただいた1団体の計7団体にご参加いただきました。
―展示期間の来場などの状況はいかがでしたか。
プレスデーが緊急事態宣言の初日の1月8日となってしまいました。それにも関わらず、多くの記者に来ていただくことができました。JAPAN TECH PROJECTの4年間で、最も多くメディアに取り上げていただいたのが今年です。
実は、CESがオールデジタルになると、記者の方が現地に行って取材や撮影ができません。ですので、国内向けのリアル展示は、メディアへの掲載のしやすさなどからかなり注目していただけるのではないかと目論んでいまして、実際その通りになりました。
―出展企業にはどのような成果がありましたか。
メディアに大きく取り上げていただいたので、注文が凄く増えたという企業もいらっしゃいます。ただ、マスクや空気清浄機など、コロナの文脈で大きく取り上げられた展示があった一方で、そうでないものや、写真や動画が中心の展示はあまり取り上げていただけませんでした。その辺りをどうするかは今後の課題ですね。
リアルとデジタルの両方の良さを生かすべき
―CESのデジタル展示の方はいかがでしょうか。
やはり例年と比べて、商談まで行ったケースは圧倒的に少ないです。チャット機能や面談機能などもあるのですが、それを利用できたケース自体も少ないんです。
出展プランは三つあり、最も安価なプランは約15万円なのですが、真ん中のプランでも約280万円と一気に価格が上がってしまいます。そのためスタートアップ企業がコスト的に選択可能なのは安価なプランだけ、といった状況でした。このプランだと、静止画や動画を何点か表示することしかできず、ただのサイトのような見た目になってしまうのが難しいところでした。
また、例年我々がやっていた「パビリオン形式で出展し、JAPANの冠を被せる」ということが今回はできませんでした。それも偶然の出会いが減った要因の一つだと思います。
―デジタル化は難しい部分が多かった、というお話でしたがメリットはありましたか。
現地に行かないこともあり、例年より安い価格でメニューを提供したので、コストだけを見るとメリットと言えるかもしれません。
デジタル化したことでどういう来場者が自社の展示を閲覧したかが容易にデータ化され、把握できました。やはり日本の大企業の方のアクセスも多くありましたので、そういった部分にご期待いただいた出展企業には、ご満足いただけたと思っています。
―アクセス解析はリアルにはない部分ですね。
はい、どこの会社の誰々が閲覧した、ということをスプレッドシートで簡単に見ることができるんです。リアルだと名刺交換して取り込んで、ということがありますし、ちょっと展示を見たような方は名前を知ることもできませんよね。そこはデジタルの便利さだと感じました。
―今回のCES全体としてはどう感じていらっしゃいますか。
短い準備期間で、これだけの大規模なイベントを開催しているので、サーバーダウンしないだけでも凄いですし、多言語対応の部分は非常に見事でした。また例年現地に視察に行ってカンファレンスに出席したり、トレンドを調べている方であれば、今回はWebでそれに近い体験をできたと思うので、かなり良かったのではないかでしょうか。講演を聞きながら慌ただしく資料の写真を撮ったりする必要もありません。でも、我々のように出展に関わる側にとっては厳しいイベントだったな、という印象です。
―展示会のデジタル化が増えて来ていますが、今後どうなっていくべき、というお考えはありますか。
今回改めて、リアルイベント、リアル展示会は非常に大事で無くなることはないと感じました。リアルで起こる偶発性は重要です。一方で顧客管理にはデジタルならではの良さがありました。ですので将来的には、リアルで製品やサービスを体験してもらい、商談などはデジタルで後日、という使い分けもできてくるのかなと感じています。
オールデジタルが浸透するまでの経過は、ECで服や靴を買う人が増えていった経過と重なるのではないかと思います。最初はECでの購入に抵抗を感じていた人が、徐々に慣れていくという流れがあり、同時にやはり店舗で商品を見たいという人もいる、といった具合です。プラットフォームのUI改善とともにオールデジタルのイベントは一定数増えると思いますが、CESのようなイベントはリアルの部分も残るのではないでしょうか。
我々としては、買い物がデジタル化していったステップなどから学び、イベントのどういう要素がデジタルに向くか、早い段階で抽出していけたらと考えています。そして得たノウハウを、スタートアップ企業支援に生かしていきたいと考えています。
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