新しい体験型マーケティング ―都市の「生活者モード」抽出によるプランニング手法 ― 第2回:都市の診断事例編
はじめに
読売広告社データドリブンマーケティング局の伊藤です。今回のコラムでは前回の続きとして、私たちが体系化した新しいプランニング手法の具体的な内容をご理解いただくために、私たちが保有している都市生活データと、そのデータを活用することで、思い込みや感覚では見えてこない本当の都市の姿を浮き彫りにした都市の診断事例をご紹介させていただこうと思います。そのようなデータを活用した解像度高い都市の診断が可能になれば、その都市に潜む特徴的なインサイト:都市の「生活者モード」を精緻に抽出できるようになり、その都市ならではの効果的な生活者の動かし方を実現することにつながっていきます。
※新しいプランニング手法については前回コラムをご参照ください。
※「生活者モード」:株式会社博報堂DYホールディングスが定義した新しいインサイトの概念。
株式会社博報堂DYホールディングスは、「状況」によって生活者の意識や無意識下の気分、情報行動が変化することに着目し、生活者の「状況」に内包されるインサイト(潜在ニーズ)を「生活者モード」と定義。
都市生活データは、都市の特徴をあぶりだす「意識データ」と「アクチュアルデータ」で構成。
都市生活データは、YOMIKO独自調査:「変化する状況調査」に基づいた意識データと博報堂DYグループ独自開発:「屋外情報ダッシュボード」に基づいたアクチュアルデータの2つから構成されています。
YOMIKO独自調査からは、首都圏53都市の中心となる特徴的な生活シーンや気分などが浮き彫りになります。一方、博報堂DYグループ独自開発:「屋外情報ダッシュボード」には都道府県/市区町村別の施設特性(POI)や性・年代別来街者構成、来街者の行動特性、SNS投稿内容などのデータが搭載されており、抽出することができます。このダッシュボードでは都市の指定をするときに市区町村ベースだけでなく、例えば「渋谷駅を中心にした半径800m圏」というエリア指定も可能であり、特徴をあぶり出したい都市の指定・定義をカスタマイズすることができ、特に都市ごとに特徴を比較するときは、同じ半径エリア圏の比較が有効と考えます。
以上2つのデータを駆使して解像度高い都市の診断を行っていきます。
今回のトピック:「六本木」「池袋」「渋谷」の都市診断、で分かったことは、それぞれの都市に持っているイメージと実際の特徴がけっこう異なっている、ということ。
ここから具体的な3つの都市:「六本木」「池袋」「渋谷」を対象に、都市生活データ(意識データ&アクチュアルデータ)を活用した都市診断をおこなってまいります。
診断にあたっては、私たちの都市生活データによる対象都市の特徴分析とその都市に対する世の中の一般的なイメージ(思い込み)を把握するために実施した別の定量調査(首都圏20~60代男女1000s)の分析とを比較することで思い込みや感覚とは違う都市の本当の姿をあぶり出せるのではないか?と考えました。その結果、思い込みや感覚とは違うそれぞれの都市の姿が浮き彫りになりました。以下、そのご紹介をしてまいります。
都市診断例① 「六本木」:女性性の強い大人が元気をもらえる“美のパワースポット”のような都市、という特徴。
私たちの定量調査から六本木には「高級」「都会的」「夜遊び」「大人」というような印象・イメージが持たれていることがわかりました。
以前、ヒルズ族と言われたIT長者の派手なイメージや夜の繁華街のイメージなどが強いのかもかもしれません。なんとなくみなさんもそういう印象を持っているのではないでしょうか。
では、そのイメージに対して、私たちが保有している都市生活データからはどのような六本木の特徴が浮き彫りになってくるか、見てまいりたいと思います。
特徴的な生活シーンは「友人・恋人と外出」、気分は「元気がいっぱい」であり、六本木に外出すると元気がもらえる、という特徴が見えてきます。次に人・トライブ特性をみると「30-40代がメイン」で、「アーリーアダプター」「上昇志向」の傾向が高く、逆に「レイトマジョリティ」の傾向が低いことから、多様な人に開かれたオープンな都市というよりは一部の人のためのクローズドな都市という特徴がありそうです。また施設特性をみると、いわゆる六本木らしいイメージの「ナイトクラブ」の傾向が高いことから夜行性な都市という特徴が、「スパ」「ネイルサロン」「ヘルス&ビューティサービス」「アートギャラリー」などの傾向が高いことからビューティーヘルスマインドが特徴的な都市と捉えました。
以上のような特徴を考慮すると、健康も含めた美系のパワーに満ちており、そういう女性性的な感度高い大人が元気をもらうために集まっている“美のパワースポット”のような特徴を持った都市、という見方ができるのではないかと考えました。そのように六本木を捉えると、冒頭にあるようないわゆる一般的な印象・イメージとは異なる、あまり表に出ていない新しい六本木の姿が浮き上がってくることがご理解いただけたのではないでしょうか。
都市診断例② 「池袋」:誰でも安心して遊びに来れる、いろんな趣味・遊びがつまった“東京のパラダイス”のような都市、という特徴。
次に池袋ですが、私たちの定量調査から「庶民的」「気軽に行ける」というような印象・イメージが持たれていることがわかりました。
では六本木と同じように、私たちが保有している都市生活データから、池袋の特徴を浮き彫りにしてまいります。
特徴的な生活シーンは「ショッピング」「自分の趣味で外出」、気分は「ほっとした」であり、池袋はほっとした気分になれる遊び場、という特徴が見えてきます。次に人・トライブ特性をみると「20-40代がメイン」で、「週末の来街率が高い」傾向、来街者の在住沿線として「埼京線は高いが、それ以上に山の手線の方が高い」傾向(埼京線沿線からはもちろん都内からも人が集まってきているということ)にあり、六本木と違って「アーリーアダプターからレイトマジョリティ、ミーハー、リア充まで多様に存在」の傾向が高いことから、幅広い多様な価値観の人の(特に週末の)お出かけ先、遊び場という特徴がありそうです。また施設特性をみると、「ペット・ネットカフェ」「ホビーショップ」「ゲーム店」「カラオケ」「ネイルサロン」「音楽関係」「夜の娯楽スポット」「イベントスペース」など趣味・遊び系の施設の傾向が高いことから趣味・遊びのパラダイスのような特徴を持った都市だと捉えました。
以上のような特徴を考慮すると、いろいろ多様な趣味や遊びがつまっているからこそ、池袋に来れば自分の好きな遊びに出会える安心感がある“東京のパラダイス”のような特徴を持った都市、という見方ができるのではないかと考えました。そう考えると、冒頭の定量調査の結果に基づくイメージとは異なる、魅力的な本当の池袋の姿が浮き上がってきたことがご理解いただけたかと思います。
都市診断例③ 「渋谷」:いろいろな価値観を持った人が、自分の好きなようにオンオフなく自由に過ごせる“オトナの公園”のような都市、という特徴。
最後に渋谷ですが、私たちの定量調査から「若者」「夜遊び」「流行の先端」「自由」というような印象・イメージが持たれていることがわかりました。ハロウィン、年末年始、ワールドカップなどイベントごとにスクランブル交差点に集う若者たちの自由な行動などがそのようなイメージを象徴させているのかもしれません。ただ一方で100年に一度の再開発が行われ「大人化」しているともいわれる渋谷でもあります。私たちが保有している都市生活データからはどのような特徴が浮き彫りになるでしょうか。
特徴的な生活シーンは「自分の趣味で外出」、気分は「自由、のびのび、充実」であり、渋谷は自由でのびのびできるから充実した気分になれるお出かけ先、という特徴が見えてきます。次に人・トライブ特性をみると「20-40代がメイン」で、池袋と似ていて「アーリーアダプターからレイトマジョリティ、ミーハーまで多様に存在」の傾向が高いことから、幅広い多様な価値観を受け入れるお出かけ先という特徴がありそうです。また施設特性をみると、「オフィス」がありながら「ナイトクラブ」「イベントスペース」もあるという職遊近接の傾向が高く、また「衣料店・化粧品店・ネイルサロン」といったファッション系、「フードトラック・タピオカティー店」といった食系、「音楽・デザイン・映画・舞台芸術」といった趣味・遊び系それぞれの傾向が高いことから衣食遊オールマイティな特徴を持った都市だと捉えました。
以上のような特徴を考慮すると、いろいろな価値観を持ったオトナを受け入れて、仕事と衣食遊のオンオフの境目が低くいったり来たり自由にできる公園のような特徴を持った都市、という見方ができるのではないかと考えました。そう考えると、また冒頭のイメージとは異なった新しい渋谷の姿が浮き上がってきたことがご理解いただけたのではないでしょうか。
最後に:都市生活データを活用して都市の解像度を上げた確かな都市診断を起点に都市を舞台に生活者を動かす活動すべてをサポートする。
以上、今回は3都市の診断例を見ていただきましたが、都市生活データを活用して都市の解像度を上げることで、思い込みや感覚に依存しない都市の本当の姿を浮き彫りにした確かな見方ができることがお分かりいただけたかと思います。私たちはこのデータドリブン型の解像度高い都市診断を起点にその都市ならではの特徴的なインサイト:都市の「生活者モード」を抽出する新しいプランニング手法を推進することで、その都市ならではの生活者の動かし方を実現させた様々な体験型のマーケティング活動(都市そのものの開発や施設開発、都市における体験装置開発やメディア開発、そしてプロモーション開発まで、都市を舞台に生活者を動かす活動すべて)をサポートしてまいりたいと考えています。
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読売広告社
データドリブンマーケティング局 第3マーケティングルーム ルーム長
シニアストラテジックプランニングディレクター1975年鹿児島県生まれ。1999年読売広告社入社。中長期的なブランド育成・管理から短期的な集客/販促戦略の構築まで生活者視点でのニュートラルな戦略プランニングを核にソリューション開発・効果にまで責任を持つ。「生活者モード」の開発案件にも従事。