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D2C(Direct to Consumer)ブランドのグロースには何が必要か?
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D2C(Direct to Consumer)ブランドのグロースには何が必要か?

D2Cブランドが注目を集めています。その立ち上げを成功に導き、さらに大きく発展させるためには、顧客に対して一貫したUXを提供し、ブランドの世界観が顧客に正確に伝わるコミュニケーション設計が必要不可欠となります。ではどのようにUXおよびコミュニケーションを設計すればいいのでしょうか。Eコマースを起点としたブランディングを得意とするフラクタ、デジタルネイティブなマーケティングを支えるECプラットフォームを提供するShopify(ショッピファイ)、そしてブランドビジネス成長のフレームワークを持つ博報堂が共同で、そのノウハウを具体的に解説しました。

D2Cの最新の潮流と3社の取り組みについて

スタート・セッションとして、株式会社フラクタの河野(こうの)貴伸氏、博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局の入江謙太、Shopify Japanの平田依里朱(えりす)氏の順に、自己紹介を兼ねて、D2Cの最新の潮流とそれぞれの会社の取り組みについて説明がありました。

フラクタは、ECをベースとしたブランディングが得意であり、サイトの企画から実装までをワンストップで対応できることを強みとしています。河野氏は、革製品ブランドとして根強いファンを持つ土屋鞄製造所の取締役も務めており、メーカーの実務にも精通しています。またフラクタはShopifyのパートナーであり、河野氏はShopifyエバンジェリストに任命されています。

入江はまず、博報堂が長年培ってきたクリエイティビティで日本企業の成長に貢献するために「マーケティングシステムコンサルティング局(HMSC)」を立ち上がったことを紹介しました。
続いて、メーカーが大手も含めてD2Cの動きに触発されている理由として、流通にダイレクトな顧客接点があり、以前はメーカーは自社ECに本腰を入れにくかったが、環境が変わってきていることを指摘しました。

そしてHMSCのEコマースおよびD2Cに関する取り組み領域として、以下の3つを揚げました。

①大企業メーカーの自社EC:構築とその運営
②大企業メーカーがスモールに始めるD2C的ブランド:ブランド規定およびEC構築とその運営
③小規模D2Cブランド:立ち上げと運営支援

平田氏からは、Shopifyが日本に上陸してからまだ2年にもかかわらず急成長を遂げていることの紹介から始まり、起業家を支援するために、良いアイデアを実現するハードルを下げ、使いやすいプラットフォームを提供することが創業から変わらない理念であることの説明がありました。

さらにTime誌「世界一快適なシューズ」と紹介したことで知られるAllbirdsのビジネスにShopifyが大きく貢献していることが事例として紹介されました。

本セッションを総括して、入江は「例えば米国企業は自社製品を紹介する際に平気で『アメージング!』と言う。日本人はそういうことが苦手だが、良い悪いを決めるのはカスタマーなので、様々な角度から良さを説明することがこれからは大事」という提言がありました。また河野氏からは「日本人はプロダクトファーストの面があるが、顧客体験の場さえも楽しむのがD2Cの流儀」という指摘がありました。

D2Cブランドグロース・プログラム~考え方

続いて、博報堂の荒井友久からD2Cブランドのグロースに必要な考え方についての解説がありました。
荒井はまず、D2Cブランドを立ち上げる際に多くの企業が悩むこととして、大きく以下の3つがあることを提示しました。

・ 自分たちのアイデアをどう伝えたらいいのか
・ 自分たちのやっていることを客観的に評価するにはどうしたらいいのか
・ 市場で通用するかをどうやって検証するのか

そしてこれらの悩みを解決するためには、アイデア/構想/実装/獲得までの一貫性が重要であると述べました。

スタートアップ企業でも大企業でもこの流れは変わりませんが、それぞれでよく見られる状態が違うと荒井は指摘します。
「スタートアップ企業では、理念ファーストで構想を打ち立てる。そのこと自体は大切だが、理念が重くなりすぎて身動きできなくなるケースが多い、新規事業になるので、アイデアを作ることよりも、ピボットすることのほうがむしろ重要なのにそれができなくなる。重すぎない柔軟性のある理念を考えることが重要。また構想時に教科書的なマーケティング設計(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング、および4P施策など)までしっかりやらないといけない。
大企業では逆にD2Cブランドやその運用のためのECサイト構築が担当者のミッションになりがちで、重厚長大なECサイトを作り、マス広告に出稿するなど大々的に始めてしまって失敗するケースが多い。それもピボットを妨げている。理念やパーパスを練り込み、数は少なくてもいいから継続購入が高いファンを生み出すことが必要」と解説しました。

またブランデッドなデザイン構築とその改善のためには、ユーザビリティとエモーショナルの掛け算で考える必要があるとそのコツを説明しました。「様々な企業のUXUIデザインはユーザビリティを中心に考える。しかし、それだけでは生活者は動かない。人間の五感に訴求する手法(例えばビールのグラスに水滴をつけることでシズル感を醸成するようなこと)であり、広告のデザインに似ている。広告会社にはたくさんのノウハウがある。実はこのノウハウがWebのデザインにおいても求められるようになっている」と指摘しました。

荒井はさらに、以下の重要なトピックを紹介しました。

  • 商品の機能要件定義では、MVP(最も顧客・従業員から愛される最小サービス)から始めることが重要である
  • ブランディングコストは限られているから、パッケージや店舗、ECサイトなどの中からどこに集中すべきかを定義すること
  • タッチポイントは売る場ではなく、関係性を作り、それを可視化する場に設けること
  • ブランドの価値を最も実感する瞬間であるシンボリック・エクスペリエンスを考え出すこと(例:炭酸飲料の蓋を開けたときのシュワシュワ感)

そして最近オープンした、オムニチャネル発想のリテール店舗が自撮りしやすいスペースであるように、思わずSNSなどに投稿したくなる「オープンエンターテインメント」を用意して、ブランド運用を「自走化」することが大事だと指摘して、荒井は自分のパートを終えました。

続いて博報堂の山形健からD2Cブランドの構想をまとめる際に実際に使えるプランニングフォーマットについて解説がありました。

図の各項目を埋めていけばブランド構想ができあがると山形は言います。これは実はD2Cブランドだけでなく、あらゆるブランドの構想に利用できるフォーマットです。ただし、「D2Cブランドの場合は、それぞれの項目の精度は低くて構わないが、それぞれの要素のつながりを想定しておくことが重要」と山形は言います。

D2Cブランドの場合はスピードが命なので、プランニングフォーマットの作成に数カ月をかけるようなことはしません。専門家がワークショップや経営者ヒアリングを行って1日で内容を聞き出し、同じく専門家が3日でフォーマットにまとめるといったスピード感が必要だと山形は強調し、話を終えました。

D2Cブランド成長におけるShopify活用とブランドUX

構想はできたが、それを実装するにはどうすればいいのか――この問いに答えたのが、次の河野氏のセッションでした。

「まずブランドの体験を私たちは『ブランドUX』と呼んでいるが、それには一貫性が必要」と河野氏は強調します。山形によるプランニングフォーマットの説明で、要素間のつながりが重要だと説明がありましたが、今の感性の鋭いユーザーはつながり、すなわち一貫性が無いとすぐに見破ると言うのです。
一貫性を持たせるためには「北極星を見つけて、そこに向かって進むことだ」と河野氏はたとえます。北極星がすなわち構想であり、その方向からずれると無駄なコストやリソースが発生、あるいは考えすぎることになります。カスタマージャーニーマップも構想無しでは単なる空想になると河野氏は言います。
言い換えれば、構想があることによって、関係者全員が同じ方向を向き、同じ認識が持てるということです。

「もう1つD2Cブランドの立ち上げ時に構想が重要な理由は、ブランドのスタート時にはリソースが限られるからだ」と河野氏は指摘します。そもそもリソースが潤沢である方が珍しいのが現実です。ブランド構想があればリソースの最適化とクリエイティブ・リバランス(どのクリエイティブに注力するかの調整)が可能になるというのが河野氏の主張です。

またECの選定や要件定義といった、システム構築において重要な局面でも構想が重要な役割を果たします。「日本企業はECサイトを構築・再構築する際に、要件定義ですべての機能を盛り込もうとして失敗するケースが多い。要件定義の際に、プランニングフォーマットがあれば優先順位の認識が関係者間で揃うので、リソースの最適化が可能になる」と河野氏は自らの経験から語ります。
「ゼロから要件定義を始めると半年、下手すると1年かかってECサイトを立ち上げることになりかねないが、D2Cブランドにおいてはビジネスロスが大きすぎてナンセンスだ。しかし構想がしっかりしていれば、1週間ぐらいで実装することも可能になる」とも言います。

D2Cとはカスタマーと直接やり取りするという意味ですから、「適切な対象に対して、適切なタイミングで、適切なコミュニケーションを」取ることが重要になります。どれか1つでも間違えると、ダイレクトであるゆえに悪影響も大きくなります。それゆえにブランド構想を明確にし、その構想をしっかり実装することがD2Cブランドにおいては基盤になります。

そもそもなぜ効率的に実装を進めていくことが重要なのでしょうか。河野氏はAllbirdsのビジネスを実際に見て、そのブランドが考え抜かれて作り込まれていることを知り、実装よりも考える時間を作ることの重要性に気づいたと言います。

「特に重要なことは、SX(シンボリック・エクスペリエンス)をきちっと作り込むこと。これがあるかないかでD2Cブランドの成否が分かれる」と河野氏は強調します。
河野氏は、現段階ではまだ仮説だと断った上で、「UXの中にブランドUXがある。その中にSXがあり、さらにその中にUIが存在する。ブランドUXの中にはもう1つIXがある。これはインプレッシブ・エクスペリエンスの略で、荒井氏の説明にあったオープンエンターテインメントなどがそれに該当する」と説明しました。これらすべての体験を設計していく必要があり、その中でも特に重要なものがSXなのです。

SXは視覚だけではありません。それ以外の味覚、嗅覚、触覚、聴覚にも働きかけるものです。
例えば、「ぬま田海苔」の海苔を焼く香り、「グリローズ」のカタログと店舗の香りを統一する試み、土屋鞄の革の手触りが分かるカタログ、Slackの「カカカッ」という操作音――こういったものがSXなのだと河野氏は解説します。

以上を踏まえて、「ブランド運営にはやることが多い。デジタル化は大事だがデジタル化にすべてのリソースを割くのはナンセンス。デジタルは最短かつ最大効率で回すことが大切」だと河野氏は強調します。そして「あるブランドマネージャーが『Shopifyは100点を目指すには少し力不足かもしれないが、80点のサイトを爆速で作ることができる』と評価したのは名言だ。80点ですぐに作って、あとはアジャストしていけばよい」と、迅速な実装のためにShopifyを活用することを提案し、話を締めくくりました。

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  • 河野 貴伸
    河野 貴伸
    株式会社フラクタ 代表取締役

  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局

  • 平田 依里朱
    平田 依里朱
    Shopify Japan

  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局

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