おすすめ検索キーワード
音のコミュニケーションの未来 -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.4
CREATIVE

音のコミュニケーションの未来 -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.4

先進的なアイデアを形にする自主開発型クリエイティブ・ラボ、博報堂「スダラボ」の代表 須田和博が、データドリブンで変わる広告の「未来のカタチ」を解き明かします。

「脳みそフレンドリー」な音の可能性

先日ひょんなご縁からニッポン放送で『スダラボラジオ 音の逆襲』という番組をやらせていただきまして、そのとき感じた「音のコミュニケーションの未来」についてお話ししたいと思います。

ラジオのいいところって、集中してメモを取って聞こうと思ったらそういう聞き方もできるし、逆に作業のBGMとして聞き流したければ、そうしてもいいというところですよね。

音とか声とかは、文字が発明されて教育されるようになるより、はるかに昔から使っているコミュニケーション能力なので、文字よりもすんなりと人間の深いところに入っていけるんだと思うんです。つまり、頑張らなくてもアクセスできる「脳みそフレンドリー」なツール。

テレビCMも「テレビ」と言いながら、実は、ほぼ「聞くもの」で、名人のプラナーの先輩から「お皿洗っているときにハッと振り返るのがいいCMだよ」と教わったりしました。

要するに、人間に対してなんらかの動作を促すとき、音や声のコミュニケーションが文字のコミュニケーションより、はるかに深く作用するのだとしたら、「ラジオの未来形」って、かなり可能性があるなぁ、と思ったんです。

「エルビス・プリーズ!」でいいんです

そんなことに気づく少し前に、「スマートスピーカーがアメリカで、どう使われているか?」という博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所のビデオ調査報告を見せてもらう機会がありました。とある老人ホームでは、入居者一人ひとりにスマートスピーカーを渡しているそうで、その「使われ方」をビデオで密着調査したものです。

その中で、あるおじいさんが「プレイ・クラシック・ミュージック!」って、スマートスピーカーに言うのを見ました。選曲っていったって、細かい指示なんかいらなくて、ざっくり「クラシック・ミュージック」でいいんだ、と。AIが人間に融通を効かせて、ラクさせてくれている。しかも、別に最新の音楽を聴きたくて、最新のスマート・スピーカーを使ってるワケじゃない。長年、親しんだ好きな曲をただ、一番ラクな方法で聴きたいだけなんです。

訊けば、メディア環境研の加藤さんの実家のお父さまはスマートスピーカーに「橋幸夫かけて!」「美空ひばり!」という風にすっかり使いこなしいるとのこと。「それだ!」と思いました。先のアメリカのおじいさんだって、昔を懐かしんで「エルビス・プリーズ!」って、最新のAI機器に頼んだっていいんです。むしろ、そういうことが平気でできるようなUI・UXを提供しなきゃいけない。おじいさんもおばあさんも、別に「新しいもの」がほしいわけじゃなくて、眼が弱くなったから声で応答してくれる相手がほしい、そういうデバイスがあると助かる。そこに気づくことこそが、大事だと思います。

実際、いまスマートスピーカーで一番使われているアプリはradikoだそうです。作り手側はスマートスピーカーに最適なコンテンツをいかに作るかということを躍起になって模索しているのですが、実は新しい何かがほしいわけじゃなくて、昔から聴いているラジオとかニュースとか、そういうものを「手っとり早くラクに提供してくれる」ことが最重要。その新しい「ラクな経路」こそが大事で、コンテンツそのものがニューエストである必要はないのだ!ということです。

古いメディアと言われていたラジオも、radikoみたいな仕組みができて、聞いて面白ければ、今の生活に復活する。さらに配信データとつながり、スマートスピーカーにつながることで、「何を聴いたときにどんな反応をしたか?」がコンテンツを届ける側に伝わる。

サービスの提供者には、「誰が何をいつ欲したか?」というデータが重要です。それがあれば、もっとサービスを良くするヒントが得られますから。それなのに新し過ぎて、面倒くさくて、結果誰も使ってくれなかったら、データも取れないし、反応もわからないし、意味がないですよね。

キラーアプリケーションは「相づち」!?

それと、例えばスマートフォンを手にしてるときって、実際にはさほど必要じゃない「手いたずら」に近いことも結構やってますよね。スワイプとか、フィードを読みこませるときのビョーンと下に引っぱるアクションとか。スマホゲームしかりですが、頭で操作してるというより「手くせ」でやっている部分が、かなりある。声のインターフェースも、実は、それと同じことがあるんじゃないか?と思っています。「つい声に出して言いたくなるような何か」が見つかると、ちょっと操作感が変わるような気がする。操作目的の理性的な発話ではなく、どうでもいいことを言ったときに「相づち」を返してくれるとか、そういうことが、案外スマートスピーカーを普及させるキラーアプリケーションなんじゃないか、と。

広告も、例えばスマートスピーカーからラジオCMが流れたときに「チェッ、何言ってやがる」という声が聞こえたとしたらそのCMはダメだったんだな・・・だし、逆に「なるほどね」というつぶやきが聴こえたら、それは納得してもらえたんだな、というように、エンゲージメント率が測れるラジオCMというものが、やがて現れるかもしれません。瞬間視聴率のように、音単位の反応がチャンと見られるようになったら、「音で出来ている広告コンテンツ」の作られ方も、変わっていくような気がします。

漫画:須田和博
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 株式会社博報堂 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/スダラボ代表
    1990年多摩美術大学卒・博報堂入社。アートディレクター、CMプラナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。2009年「ミクシィ年賀状」で、東京インタラクティブ・アドアワード・グランプリ受賞。2014年スダラボ発足。第1弾「ライスコード」で、アドフェスト・グランプリ、カンヌ・ゴールドなど、国内外で60以上の広告賞を受賞。2016~17年 ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。
    著書:「使ってもらえる広告」アスキー新書