第五世代移動通信システム【5G】で変わるメディア環境と生活者体験(前編)
データドリブンマーケティングの実践には、データ、システム、ユーザー体験等をどのように設計するかが重要です。しかしどんなに理想的な設計であっても、それらを支える通信インフラ上で技術的に実現できなければ意味がありません。こうした中、Mobile World Congressをはじめとして、様々な企業が来るべき5G時代への対応を発表しています。
そこで、博報堂DYグループの中でテクノロジーをリードするDACの永松が複数の事例を交えながら解説します。
着々と進む5G環境
スペイン・バルセロナで2月26日から3月1日まで開催された「Mobile World Congress 2018」では、「5G」(第五世代移動通信システム)に関する様々な展示がなされ大きな注目を集めました。日本でも5Gの技術や仕様に関する情報の提供やパートナー間の意見交換を行う、ワークショップの場を提供するなど、2020年のサービス開始を目指し、通信事業者をはじめ各社において5Gへの対応の動きが進んでいます。
5G(IMT-2020)では、従来の4G(IMT-Advanced)と比べて図1のように様々な項目において高い要件が定められており、ここでは5Gの特徴に対して、メディアやサービスがどのように変化していくのか、海外での事例等を交えながら考えていきたいと思います。
【図1】
5Gの特徴と影響
主な特徴として、「高速化・大容量化」、「多数の端末との同時接続」、「低遅延」の3つが挙げられます。
【図2】
高速化・大容量化
4K・8KやVR/ARといった大容量コンテンツを高速に配信できるようになり、スポーツやライブの複数視点映像等によるユーザー体験が向上していくことが考えられます。例えば、8Kの360度の動画を視聴するためには、200Mbps以上必要と言われており、現在の移動通信では快適な視聴や体験が難しい状況となっています。
多数の端末との同時接続
IoTが本格稼働し、屋内(スマートホームや店舗内の商品・棚等)や屋外(自動運転車やスマートシティ等)の多数のデバイスの同時接続が可能となることで、これらのデータが入手・活用できるようになります。これまで収集できなかった生体情報や生活情報を元に、ライフスタイルにあった生活支援サービスを提供できるようになると期待されます。
低遅延化
ネットワークの遅延が少なくなること(低遅延化)によって通信がリアルタイム化し、自動運転や遠隔医療のように微細な動きが求められる領域において、強く期待されています。また遠隔地にいる人間との共同での創作活動、AIやロボットとの協働作業等のコラボレーション方法にも影響を与えることで、企業活動の効率化にも繋がっていきます。
5Gで変わる領域
【図3】
新たなサービスの展開が期待される領域として図3が考えられています。
これらの領域の中で、メディアにも関係する領域について海外等の事例も交えながら見ていきます。
エンターテインメント、放送
SKテレコム「oksusu Social VR」
SKテレコムは、VRデバイスを装着して映像コンテンツを見ながら、他の人とコミュニケーションをとれるプラットフォームを発表しています。5Gで大人数による同時接続に対応することで、VRによるコンサートやスポーツの観戦、映画の視聴が可能になるとしています。
China Unicom×Baicells「ドローンによる360度動画ライブ配信
中国では、通信事業者「China Unicom」と基地局メーカー「Baicells」が連携し、5Gとドローンによる360度動画ライブ配信に取り組んでいます。コンサート・スポーツコンテンツの撮影・配信の他にも、災害・事故の発見、無人飛行機偵察等の活用を想定した内容となっています。5Gによって360度動画のような大容量のコンテンツのライブ配信も可能となり、ユーザーは自分の興味に応じてリアルタイムで見たいシーンを操作することで、より没入型の体験をすることができます。
AT&T「DIRECTV NOW 5G配信」
AT&Tは、インターネットテレビサービス「DIRECTV NOW」において、テレビ番組のライブストリーミング配信を5Gを用いてオースティンでトライアル開始しています。このトライアルではEricssonとIntelと共同で住宅や企業向けに5Gによる超高速インターネット接続を提供しており、トライアルの参加者は、高品質なライブ番組を視聴することができるものとなっています。
今回は「エンターテインメント、放送の領域についての事例を紹介しましたが、残りの領域についてはまた後編で触れていきたいと思います。
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D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社 テクノロジー&データ戦略センター 広告技術研究室長2004年DAC入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室長として、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの開発に取り組む。またアドテクノロジーの理解と発展促進のためセミナーへの登壇、専門学校の特別講師等を努める。共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)、「生き残るための広告技術」(翔泳社刊)等。