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デジタルトランスフォーメーションによって企業のマーケティングを変革させていく第一歩として必要となる「データの統合」「アクションにつなげるための可視化」のために、最初の段階で検討に上ることも多いマーケティングダッシュボード。現在さまざまなサービスが提供されていますが、重要なポイントは単に導入するだけではなく、業務フローの中で定着させて、業務プロセスが改善・革新していくインフラとして活用され続けていくことです。

デジタルトランスフォーメーション時代における、マーケティングダッシュボードはどうあるべきなのか。今回、マーケティングダッシュボードのサービス開発・導入支援に携わる木下陽介、戸梶大陸、島野真の3名が、マーケティングダッシュボードの今と未来について語ります。

島野

それでは最初に、皆さんの自己紹介をお願いします。

木下

僕は、博報堂でマーケティング職とコンサルティング職を担当した後に2010年から研究開発局に在籍しています。2011年に、博報堂DYホールディングス傘下にマーケティング・テクノロジー・センターが設立された後に兼務し、現在担当しているのは、データ・デジタルマーケティング領域におけるサービスソリューション開発ならびに、同領域におけるアライアンス開拓です。

戸梶

私は大学卒業後、大手SIでシステムエンジニアとして働いていた後、ITベンチャーで製品企画やプロダクトマネージャーを担当しました。2011年に博報堂に転職し、マーケティング・テクノロジー・センターに7年おります。現在は主に、得意先や博報堂DYグループ向けのマーケティングテクノロジー領域のシステム基盤の開発や、開発したシステムの導入支援を行っています。

島野

私は91年に博報堂に入社してマーケティング部門に在籍して、各得意先のマーケティングプランニング業務を担当してきました。その後、2012年にデジタル系の部門に移り、現在はデータドリブンマーケティング局に在籍しています。「デジタル技術やアクチュアルデータを活用して、いかにマーケティング全般の効果を高めるか」ということがテーマです。

マーケティングダッシュボードとは何か

島野

それでは本題に入ります。マーケティングダッシュボードはさまざまなタイプが存在し、また使われ方にもいろいろなパターンがあると思いますが、そもそもマーケティングダッシュボードとはどのように定義されるものでしょうか。これまでの経緯も含めてお話しいただけますか。

木下

わかりやすい例えをするならば、自動車のダッシュボードです。車を運転するときに、どれくらいスピードが出ているか、タコメーターを見てどれ位加速するのか、ガソリンがどれだけ減っているのかなどを、運転席のダッシュボードですぐに見ることができますよね。それと同じように、マーケティング活動に必要な情報をわかりやすい数字で見ることが可能なダッシュボードが、マーケティングダッシュボードだと思っていただければ良いかと思います。

個人的な感覚としてはインターネットの運用型広告に注目が集まったことにより、かつてはダイレクト業務だけで行われていた、デイリー、ウィークリーベースでのPDCA業務を行う必要性が出てきました。そしてビッグデータへの注目が集まったタイミングで、「マス、WEB、店頭、その他コーザルデータなどさまざまなデータをリアルタイムに可視化して分析したい」となり、マーケティングダッシュボードの活用が期待されはじめました。

ピラミッドストラクチャー

今、一番オーソドックスなダッシュボードは、売上そのものと、その売上を構成する要素を販売数量と価格などに分解したピラミッドストラクチャーと、それぞれの指標の推移がどう変化しているのかが一目でわかるようなものです。また得意先は、自社のデータしか保有していないことが多く、今後の市場発展のためには競合のデータを入れたいというニーズも高く、他にも、世の中のトレンドや流行を押さえておきたい、生活者のキャンペーンは商品そのものへの反応を見たいという声から、ソーシャル系のバズのトレンドデータに対する要望は多く、バズのデータと売上にどれくらい関係があるのかなど、得意先が気になるマーケティングキーファクターを説明するデータを選んで作っています。

また、ダッシュボードを作成する手前の段階として、売上に関係がありそうなデータを相関分析や共分散構造分析などで統計的に分析処理をし、売上に貢献するデータだけをピックアップしてダッシュボードに入れるようなプロジェクト提案も行っております。

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 木下陽介
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 木下陽介
戸梶
マーケティングダッシュボードの実態であるBIツールは、随分前からさまざまな製品が提供されていましたし、本質的には、今やっている業務は昔からやっていることとあまり変わりません。 しかし昨今、リアルタイムに取得できるデータが増え、データ量も非常に大きくなり、エクセル等では処理できなくなったことで、マーケティングダッシュボードの重要性がより増してきていると考えています。
木下

博報堂DYグループでは、2010年にマーケティング・テクノロジー・センターが設立された際に『Vision-Graphics(ビジョン・グラフィックス)』というマーケティングダッシュボードを開発し、提供をはじめました。リリース以降も機能や搭載データの拡充を進めて、機能を充実させ続けています。

戸梶

以前はデータを加工・集計して、マーケターが意味を見出せる形にするまでが非常に手間で、レポートを作ることに作業時間の大半をとられ、課題を発見し改善施策を提案するといった、本来行うべき付加価値を出す作業に時間をとれないでいました。そういった手間の掛かる作業を自動化して、リアルタイムに適切な形にして見せていくことが、テクノロジー的にも可能になり、他社からもマーケティングダッシュボードと呼ばれる製品が提供され始めたのが2010年頃だったと思います。まずは散在しているデータを統合して、分析できる形に整えた後、基礎分析やモデリングなどにシームレスにつなげていくことが、マーケティングダッシュボードの一つの役割だと思っています。

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 戸梶大陸
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 戸梶大陸

マーケティングの意思決定につながるダッシュボードは、生産管理や経営管理まで広がっていく

島野

コンサルティング会社やシステム会社など様々な企業がマーケティングダッシュボードに関連するサービスを提供していますが、その中で博報堂DYグループとして大事にしているのはどのような部分ですか?

木下

特に大事にしているのは「マーケティング施策がKGIやKPIにつながったのか」が“すぐに”わかる設計です。僕はマーケ出身なので、クライアントのニーズやクライアントで起きている課題に対して、どうマーケティング業務に落とし込んで、どういう数字を見ていくかということを現場で担当してきました。そもそも企業のマーケティングは世の中を動かすことがゴールですので、次につなげていく意思決定ができるためのダッシュボードにしなければいけません。

また、それを実際にシステムに搭載して、実用的に機能させることができるか検討することも重要です。例えば週次でデータを作ることは可能なのか、データをビジュアライズする時にコスト的に問題ないのかなどのフィジビリティをシステムサイドとディスカッションしながら開発しているので、机上の空論ではないサービスを提供していきたいなと思っております。

戸梶

木下さんはマーケサイドで「話を拡げる」側で、 僕はシステムサイドで「拡がった話を着地させる」側です。同じ社内に両方の役割があるからこそ、クライアント企業に価値が提供できると感じています。

島野

マーケティングダッシュボードで得られた知見を、アクションにつなげていけること。また、デジタルの限られた領域だけでなく、リアルのさまざまなタッチポイントを含めた企業のマーケティング活動全体へフィードバックできることが重要で、そのためにさまざまなクライアント企業のマーケティングプランニングを担当させていただいている博報堂の経験が活きるということですね。また、マーケティングサイドとシステムサイドが協調してサービスを提供する体制を準備していることも、今後の強みにしていきたいですね。

博報堂 データドリブンマーケティング局 島野真
博報堂 データドリブンマーケティング局 島野真
木下

僕たちは、テレビCM、Web、店頭におけるマーケティング施策を実施まで携わった上でPDCAを回しているので、ここにはSIerやコンサルティング会社にはない経験値が溜まっていると思っております。今後はその部分で素早く意思決定に繋げられるようなサービスを展開できるように心がけています。
さらには、最近ではマーケティング・コミュニケーション領域だけではなく、在庫のデータやPOSデータをダッシュボードに入れて分析してみたいという話や、クライアント企業の顧客IDを管理しているプライベートDMPとつなげたいという話も増えています。

戸梶

以前ですと、博報堂が生産管理、在庫管理、経営管理まで踏み込んでいくことはありませんでした。それが現在では、それらの領域とマーケティング領域との垣根が少しずつなくなってきており、マーケティング領域以外でも提案を求められることが多くなっています。最近ですと、SIが得意なコンサルティング企業とよく競合になります。

島野

われわれが一番得意な部分としては、市場を分析し、戦略を決定した上で「どの手段で、どのような表現で伝えると人々は動くのか」というところまで一貫してできることですね。市場を今後作っていくことにどう貢献できるか、という視点でマーケティングダッシュボードを提供していければと思っております。

(後編に続く)

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  • 博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
    博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー
    2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。
  • 博報堂 研究開発局 主席研究員 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 開発2グループ グループマネージャー
    2011年博報堂中途入社。前職では大手SI会社のシステムエンジニアとしてマーケティング関連のシステム開発を数多く経験。博報堂入社後は, 博報堂DYホールディングスに出向し, 同社のマーケティング・テクノロジー・センターにて, 博報堂DYグループのデータ・デジタルマーケティング領域におけるシステム基盤の開発と導入支援に従事。Vision-Graphicsシリーズ, 「生活者DMP」のシステム基盤, 大規模ライフログ分析システムなどのシステム開発責任者として開発実績が多数ある。
  • 株式会社 博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理
    1991年に博報堂に入社。主にマーケティングセクションに在籍。飲料、通信、サービスなど様々な業種の得意先を担当し、コミュニケーション戦略、ブランド戦略、商品サービス開発などのマーケティング戦略立案に従事。2012年よりアカウンタビリティ推進部長として、ROI最大化に向けた取組を進める。その後、データドリブンマーケティング部長を経て、2017年より現職。全体最適視点でのデータ活用による戦略企画や、そのために必要となる新たなソリューション開発による統合マーケティングマネジメントの進化を推進する。共著:基礎から学べる広告の総合講座(日経広告研究所)
Vision-Graphics

広告宣伝、Web行動、店舗・販促、CRM、売上データ等のマーケティング活動に関わるデータを統合・可視化するマーケティング・ダッシュボード

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