生活者の意識と行動をデータと数理統計で探る
研究開発局の熊谷です。普段の業務ではデータ分析や統計的機械学習を行っています。
このコラムでは、博報堂が調査・所有している、生活者にまつわる様々なデータの中から特に行動・意識調査データに着目し、その紹介を行います。あわせて、数理統計を用いた分析を行うことで、博報堂におけるマーケティング・サイエンスの取り組みの一部をご紹介します。
データから理由を探る
私が所属する研究開発局では、新たなビジネスを生み出すための新技術や、現場や得意先の課題を解決するためのソリューション開発に取り組んでおり、その中でも特に私は統計的学習を用いた分析を専門に行っています。
私はこれまで購買データや行動データ、広告接触データなど様々なデータに対して分析を行ってきましたが、共通しているのは「生活者はなぜそのような行動を取ったのかを知りたい」というモチベーションです。「なぜこの商品を買ったのか」「どうしてこのタイミングで飽きてしまったのか」「データに見えないところではどのように振る舞っているのか」など、自分自身ですら理解しきれていない行動をどうにか説明しようと日々試行錯誤しています。
このような発想は、博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」にも謳われています。
「生活者発想」とは、人を、単に「消費者」として捉えるのではなく、多様化した社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として全方位的に捉え、深く洞察することから新しい価値を創造していこうという考え方です。生活者を誰よりも深く知っているからこそ、クライアントと生活者、さらには社会との架け橋をつくれるのだと考えます。(http://www.hakuhodo.co.jp/about/philosophy/より引用)
生活者発想を行うためには、生活者がどのようなことを考えているのかを知らなければなりません。私を含め、博報堂の人間は日々さまざまな手法・データ・施策を用いて生活者について知ろうとしています。
そんな博報堂においてもっとも利用され、生活者発想を支えているのが HABIT(ハビット)です。
大規模生活者調査データベース HABIT
HABITは、生活者の商品に関する使用実態や意識・行動、ブランドの評価、テレビ番組や雑誌などの媒体接触状況、個人属性や生活価値観など、生活者個人の意識や実態を幅広くつかむことのできる、博報堂オリジナルのデータベースです。
HABITは次に挙げる 2 つのコンセプトにもとづいて設計・構築されています。
アンケート調査によって行動と意識を知る
もし生活者の行動を知ろうとしたならば、もっとも適したデータは POS (ポイント・オブ・セールス)やアクセスログなどの実行動データ(関連記事 : 「オフラインコンバージョンで変わるデジタル広告の新しい可能性 | “生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」)でしょう。しかし、実行動データでは「その生活者がどのような意識を持っているのか」までは知ることはできません。
HABIT では「どのような行動を取っているのか」「どのような意識を持っているのか」の 2 つを知るために、関東・関西合わせて約 7、000 人の調査対象者(パネル)に対して大規模なアンケート調査を年 1 回行っています。パネルの構成は人口構成比に基づき、年齢・性別が偏らないよう考慮されています。
大規模なシングルソースデータ
シングルソースデータとは、同一の生活者から行動や意識などの多面的な情報を得たデータのことです。生活者の行動を知るためには、「この価値観を持っている人が実際このように行動している」ということがわかるシングルソースデータの存在は欠かせません。
近年では、異なる生活者の行動と意識とを統計的に紐付けるデータフュージョン技術も注目を集めていますが、HABIT のように膨大な質問項目が存在するシングルソースデータに対して別のデータをフュージョンによって紐付けることで、更に柔軟な分析が可能になります。
HABIT を利用する上での大きな特徴は次の 4 つです。
1.意識に関するユニークな質問を行っている
意識に関する調査と言っても、 HABIT にはさまざまな質問が存在しています。「できるだけ会話をせずに購入を済ませたいですか?」や「今は幸福ですか?」といった価値観に関するものから、「アレルギー性鼻炎が気がかりですか?」といった具体的な悩み、さらには既婚の方々に対して「今の配偶者を再び選びますか?」というユニークな質問などが行われています。それぞれの質問と回答は、単体で見ても興味深いですが、複数の質問を掛け合わせることで、当初は想定していなかった生活者の姿が浮き彫りになってくることもあります。
2.行動に関する調査を行っている
前述したように、HABIT には意識に関する質問だけでなく、行動に関する調査も含まれています。例えば、それぞれのパネルはどのようなテレビ番組を日常的に見ているのか、インターネットを日頃何時間利用しているのか、ソーシャルゲームにどの程度お金を使っているかといった情報です。特に、実際の行動が計測しにくい雑誌や新聞などのアナログメディアへの接触情報や、店舗への来店情報も含まれているのが特徴です。
3.長期にわたり調査が行われている
HABIT は 1996 年から毎年調査が行われ、現在も継続しています。年度をまたいだ分析を行うことで、時間経過に伴う意識や行動の変遷を調べることが可能です。
4.社内の誰でも自由に簡単に分析することができる
ここまで読むと、 HABIT のデータは膨大かつ複雑であり、簡単に分析することが難しいように思われるかもしれません。
しかし、社内には HABIT のデータを分析しやすい形式で提供するツールが存在しています。入社したての新人から管理職、はては取締役まで、 HABIT の複数の質問項目をかけあわせての集計や、類似した回答・パネルをグループ化して傾向を把握するクラスタリングなどをすぐに行うことができます。新入社員研修のカリキュラムにも HABIT の利用方法が含まれているほどです。
HABIT をどのように分析するか
HABIT の質問項目を分析する際、質問と行動の関係のみを分析するのでは面白くありません。質問と行動だけでなく、複数の質問の間にどのような関係があるか、それぞれの質問がどのように相互に影響しながら最終的な行動に影響を与えているのか、といった複雑な構造を探るために、マーケティング・サイエンスにおける共分散構造分析と呼ばれるモデルを用いて生活者の意識と行動を読み解いていきます。
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博報堂 研究開発局2015 年中途入社。機械学習による購買・需要予測、メディアプラニングが専門。主に書くプログラミング言語は Ruby。