データ・クリエイティブ対談【第17弾】 往年の人気ドラマをAIでリメイクする「どてらい」試み ゲスト:関西テレビ放送 駒井有紀子氏、田中健太氏
広告ビジネスを越えたテクノロジーやデータ活用のあり方について対話する連載「データ・クリエイティブ対談」。今回は、1970年代に人気を集めた連続ドラマ『どてらい男(やつ)』の失われた映像を動画生成AIでリメイクするプロジェクトについて、関西テレビでコンテンツビジネスを手掛けるお二人と語り合いました。
駒井 有紀子氏
関西テレビ放送 コンテンツビジネス局 局長
田中 健太氏
関西テレビ放送 コンテンツビジネス局 東京コンテンツ事業部
篠田 裕之
博報堂
メディアビジネス基盤開発局
「どてらい男」公式サイトはこちら
奇跡的に発見された録画テープ
- 篠田
- 駒井さんと田中さんのお二人は、現在、関西テレビのコンテンツビジネス局に所属されています。この部署はどのような仕事を担われているのですか。
- 駒井
- 放送番組のマルチ展開から、IP、アニメ、グッズ、国内外配信など多様なコンテンツで収益を生み出し、ビジネスになるものなら何でもチャレンジできる部署です。
- 篠田
- そのコンテンツビジネス局の皆さんが中心となって、ドラマ『どてらい男(やつ)』のAIリメイクプロジェクトを始められたのは、昨年3月でした。このドラマについても解説していただけますか。
- 駒井
- 1973年に放送が始まった連続ドラマです。当初はワンクールで終わる予定でしたが、視聴率がよかったので延長を繰り返して、最終的に3年半、181話まで放送されました。大阪の商社・山善の創業者である山本猛夫さんの一代記をもとにした物語で、丁稚時代から始まって、立派な商人に成長していく過程が描かれます。

主人公の山下猛造を西郷輝彦さんが演じているのですが、西郷さんがバラエティ番組などに出演される際に、このドラマの映像を貸してほしいという要望が非常に多く、それで私もこのドラマのことを知りました。
- 田中
- 2013年に『半沢直樹』というドラマが一大ブームになったことがありました。
その時に、「『半沢直樹』は平成版の『どてらい男』だ」といった投稿がSNSで散見されました。確かに、『半沢直樹』が好きな人なら絶対楽しめるドラマだと思います。
- 篠田
- どちらも、主人公が大きな力に立ち向かいながら、道を切り拓いていく物語ですよね。しかしこの作品の映像は、関西テレビには初回と最終回の2話しか残っていなかった。
それがこのプロジェクトのそもそもの発端だったとお聞きしています。
- 駒井
- 昔のビデオテープはとても高価だったので、一度使ったものに何度も重ねて録画していくのが普通でした。ですから、1970年代までの番組は局にもほとんど残っていないわけです。ところが、『どてらい男』の100話を超える放送の録画テープが、ある企業に残っていることがわかりました。物語のモデルとなった山善です。
きっかけは、山善から、「ホームページで「『どてらい男』ミュージアム」を開設したいので、写真を貸してほしい」という連絡があったことです。そのやり取りの過程で、山善に『どてらい男』の録画テープが大量に保管されていると知らされました。内容を確認したところ、7話から129話までが完全な形で録画されていました。
- 篠田
- どんなビデオテープだったのですか。
- 駒井
- Uマチックのテープです。なぜ山善さんに保管されていたのかはほんとにわかりません。
- 篠田
- 奇跡的な発見でしたね。
- 駒井
- 本当にそう思います。ただし、2話から6話が見つからず、その後、「捜索プロジェクト」を立ち上げ、不明の話数を探していたところ、ある視聴者から3話目のビデオがあるという連絡をいただきました。家庭用のベータのビデオデッキが発売されたのは1975年です。ドラマのスタートが1973年ですから、大半の回は録画できなかったはずです。しかし調べてみたところ、1975年の後半から一度だけ再放送されていることが判明しました。どうやら、その再放送回を録画したようです。
初回のテープは局にあったので、前半の欠番は2話、4話、5話、6話の4回分ということになりました。その欠けている回をAIによって復活させたい。そう考えたのが、このプロジェクトの始まりでした。
「メタファー」によってAIにイメージを伝える
- 篠田
- 僕は最初の段階でお声がけをいただいて、プロジェクトに参加させていただきました。当初は、失われている回を丸まる新たにつくれないかという話でしたが、いきなり1話およそ45分という長尺の映像をつくるのは難しいので、まずは1分くらいの短いプロモーションフィルムをつくって、プロジェクトの方向性を探っていこうということになりました。幸い、台本と当時の撮影風景の写真が残っていたので、それを生成する動画の元データとしてAIに学習させることができました。
- 田中
- 最初の動画作成はかなり時間がかかりましたよね。
- 篠田
- 2カ月くらいかかりました。最初にこだわったのは、AIで生成する主人公を西郷輝彦さんに似せることはもちろん、登場人物である山下猛造の雰囲気を正確に再現することでした。「モーやん(主人公の愛称)はこんなふうには動かない」「モーやんはこんな表情はしない」──。そんなふうに考えながら、試行錯誤を繰り返しました。

でも、しばらく動画生成AIを使っているうちに、コツのようなものがわかってきました。一方でAI自体もどんどん進化を続けていたので、命や感情が宿った動きを比較的短時間でつくれるようになり、モーやんっぽい人物を再現できるようになりました。
- 田中
- 「プロンプトでAIに演技指導をしている」とおっしゃっていましたよね。
大学で演劇部に属していた篠田さんだからできることだと思いました。それから、たしか「メタファーが大事」とおっしゃっていたのも憶えています。
- 篠田
- 例えば、「人物がここで怒る」といった指示をAIに出すと、すごく大げさで不自然な怒り方になってしまいます。だから、「ぐっと手を握る」とか、「俯いて目を上げるが、対面している人とは目を合わせない」といった具体的な表現で指示を出すことにしました。それによってある時期までは、ほぼ狙いどおりの動きを表現できるようになりました。しかしAIが進化したことで、逆に指示に忠実すぎて機械的な動き方をするようになってしまいました。
そこで思いついたのがメタファー、つまり「たとえ話」を使う方法です。例えば、みんなが喜びを表す場面をつくるときには、「スポーツの試合の得点後のような興奮状態」という例をAIに伝えると、かなり納得感のあるシーンを生成してくれます。
- 駒井
- そういった方法論は、このプロジェクトを通じて見つけられたのですか。
- 篠田
- そうです。動画生成AIは新しい技術なので、使う人によってさまざまな方法論がありうると思います。自分がつくりたいものに合わせて、最適な方法論を見出していくことが必要だと僕は考えています。
- 田中
- 篠田さんがこのリメイク版ドラマの「監督」になられたみたいですよね(笑)。
- 篠田
- 僕自身は、映像作家でも演出家でもなく、データサイエンティストが本職です。
でも、AIを使って何かをつくり出そうとするときは、本職の枠に閉じてしまうのはよくないことだと僕は思っています。AIはどんどん進化しているので、それを使いこなす側も進化していかなければならない。そんなふうに思います。
- 駒井
- このドラマに対する篠田さんの「愛」をすごく感じますね。いいコンテンツをつくるには、つくり手の「愛」が絶対に欠かせません。

- 篠田
- このドラマ自体に、「愛される力」があるということではないでしょうか。シンプルにとても面白いドラマなので、僕も自然と前のめりになりました。
ドラマ台本のベースをAIで生成する試み
- 篠田
- 関西テレビの皆さんは、日頃の業務で生成AIを活用される機会はあるのでしょうか。
- 田中
- 制作現場でAIを使うケースは増えてきていると思いますが、全体としてはまだ少ないのかなと思います。僕自身は、篠田さんとプロジェクトをご一緒するようになってから積極的にAIを使ってみようという気持ちになって、企画書やプロットづくりにAIを活用しています。
最近、ドラマの仕事を初めて任されたのですが、これまでまったくやったことがない分野だったので、企画を作るに当たってのプロットをどう書いていいのかもわかりませんでした。そこで、AIを使って自分のアイデアに肉付けをしてもらいました。
- 駒井
- 『どてらい男』の現代版を作りたいと思い、その台本や企画書作成にもAIを使っていますね。
- 田中
- 以前の台本をAIに読み込ませて、「現代を舞台にこの物語をリメイクするなら、どのような企業で働く設定にしたらいいか」といったことの案出しをAIにしてもらっています。企画段階の台本は、なかなかプロの脚本家にはお願いできません。生成AIがあってすごく助かっています。
- 駒井
- それから、最近は局内にバーチャルスタジオをつくって、AIを使って背景をつくるといった取り組みも進めています。
- 篠田
- ロケをしようと思ったらお金がかかる海外の風景とか、まったく未知の景色などをAIでつくって、バーチャルに合成していくのはいい方法ですよね。もちろんすべてをAIでつくる必要はなくて、俳優が演技をした映像にAIの映像を加えて仕上げていくといったやり方が、今後はスタンダードな方法論になっていきそうな気がします。
- 田中
- ニュースの事件現場などの再現VTRにもAIが使えたら便利だなと思います。「棒人間」が動く映像がよくありますよね。今はCGでつくっているのですが、結構手間がかかる作業なんだそうです。あの作業を動画生成AIに任せたら、すぐにつくってくれそうですよね。
AI活用の「前提」をつくる地道な取り組み
- 篠田
- 話を『どてらい男』に戻したいと思います。以前、駒井さんから伺ってすごいなと思ったのですが、このコンテンツを新たに展開するに当たって、15年くらい前から権利処理を進めてこられたそうですね。
- 駒井
- 当時の契約書などは一切残っていないので、全話のエンドロールを見て出演者をチェックしました。トータルで550人くらいになったと思います。
とはいえ、50年以上前のドラマですから、連絡がつかない方も多いわけです。そこで「連絡をいただきたい」という広告を出しました。音事協など実演家団体への連絡、権利者との交渉など含め、権利処理作業に3年くらいかかりました。
- 篠田
- その地道な取り組みがあったからこそ、今回のAIリメイクプロジェクトも実現したわけですよね。過去の俳優の姿をAIで再現することが技術的に可能であっても、権利処理がしっかりできていなければ、公開することはできません。皆さんの努力の賜物だと思います。
- 駒井
- 脚本家や俳優の皆さんがとても協力的だったこともありがたかったですね。皆さん「好きにやってくれていいよ」と言ってくださいました。これも「どてらい愛」の力だと思います。
- 篠田
- このプロジェクトの今後ですが、これからもぜひ皆さんとご一緒させていただきたいというのが僕の強い思いです。欠けている前半の4話ぶんを完全再現するという究極の目標を掲げつつ、やれることを一つ一つやっていく。その中で、動画生成AIの可能性を追求していく──。そんな取り組みを続けていきたいと思っています。
- 駒井
- ぜひ続けていきたいですね。4話すべての再現は難しくても、2話から6話をひとつのコンテンツとして新たにつくることはできるかもしれません。すでに、映像が残っている回の一部は「カンテレドーガCHANNEL」で配信していますが、コンテンツが揃えば、初回から129話までをセットにして配信することができます。そうなったら、海外配信にもチャレンジしたいと思っています。
- 田中
- 「AI」というキーワードが、若い人たちが『どてらい男』を見るきっかけになればいいと僕は思っています。AIでリメイクしているという話題性をアピールして、まずは一度見ていただく。そうすれば、きっと多くの人がこのドラマのファンになってくれるはずです。

もう1つ、このプロジェクトには、AIによるリメイクだけでなく「捜索」という意味合いもあります。2話からの4話の録画テープは、これまで15年間探してきたけれど、どこにもありませんでした。でも、もしかしたらもっている人がいるかもしれないという期待が僕にはまだあります。『どてらい男』のプロジェクトを継続し、情報を発信し続けることで、そういう人に出会える可能性をあきらめたくないと思っています。
- 篠田
- 今日お二人とお話をしてきて、このAIリメイクプロジェクト自体がひとつのストーリーになっていると強く感じました。いろいろな条件が奇跡的に揃って、不可能だと思えたことが徐々に実現している。この状況自体が「どてらい」と言えると思います。
AIは日進月歩の進化を続けています。15年間引き継いできたバトンをこれからもつないでいけば、今できないことがいずれできるようになると思います。欠けている4話ぶんの完全再現も夢ではありません。ぜひこれからも、関西テレビと博報堂のコラボレーション、そして人とAIのコラボレーションによって、『どてらい男』のプロジェクトを前に進めていきましょう。

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駒井 有紀子関西テレビ放送 コンテンツビジネス局 局長
-
田中 健太関西テレビ放送 コンテンツビジネス局 東京コンテンツ事業部
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博報堂
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