博報堂プロダクツによる「AIクラフトスタジオ」始動|目指すのは、AIだからこそつくれるハイエンドなクリエイティブ
博報堂プロダクツでは、生成AIを活用したビジュアルクリエイティブ制作の専門チーム「AIクラフトスタジオ」を発足。ディレクター、ビデオグラファー、レタッチャーといった従来の専門性にAIの専門性を融合した新職種「ジェネレーター」を設け、次世代のクリエイティブ体制を構築します。
AIで誰でも簡単に画像や動画がつくれる時代、企業のブランディングなどハイエンドなクリエイティブに対応できる真のスペシャリストが必要と語る発足メンバーに、「AIクラフトスタジオ」が目指す未来についてききました。
浦田 淳
博報堂プロダクツ
フォトクリイエティブ事業本部
レタッチャー・カラリスト
浅野 真史
博報堂プロダクツ
映像クリイエティブ事業本部
チーフクリエイティブプロデューサー
田中 心剛
株式会社博報堂プロダクツ
ONE★PUNCH事業本部
クリエイティブディレクター・アートディレクター
石﨑 優
博報堂プロダクツ
執行役員 兼 Promotion X室 室長
2025年は、クリエイティブ領域におけるAI活用の「キャズムを超えた」年
-はじめにAIクラフトスタジオ設立の背景から教えてください。
- 田中
- 近年の生成AIの進化に伴って、高速でPDCAを回すバナー制作など、ローエンドなクリエイティブ領域ではかなりAI活用が進んでいる実感があります。この領域は、極端なことを言えば今後自動化されていく可能性もありますし、企業で内製化が進む可能性もある。
一方、日進月歩で進化していく生成AIの最先端を追いかけるには、高度な知識と専門的な技術力が必要です。今後は、ビジュアル表現のセンスと生成AIの技術力を兼ね備えたハイエンドな生成AIクリエイティブ領域にニーズがあると考え、いちはやく価値化したいと考えました。博報堂プロダクツは映像プロデューサーやデザイナー、フォトグラファー、レタッチャーなど、あらゆるクリエイティブのプロフェッショナルがいる集団。そのなかに生成AIクリエイティブのプロが存在するチームをつくりたかったんです。
-クライアントからの要望など、日常業務でもニーズを感じることが多かったのでしょうか?
- 石﨑
- 2022年にStable Diffusionがリリースされた頃から話題になりはじめて、1~2年前から生成AIを使ってみたいというご相談が増えてきました。でもその頃はまだ十分なクオリティに達していないという判断で、実施には至らないケースが多かったんですね。それが2025年になって大きく変化しました。僕は「クリエイティブ領域におけるAI活用のキャズムを超えた」と言っているのですが、ブランディング広告を必要とされるクライアントにも満足いただける水準のものがつくれるようになり、得意先からの要望も急激に増えた年だったと思います。
- 浦田
- 写真やムービーの領域でも、2024年以降の進化は目覚ましいものを感じますね。それまでは、切り抜きを自動でやる、修正のクオリティをあげるといった効率化ツールだったAIが、ゼロから高度なビジュアルを生成できるようになった。実際に撮影したものとほとんど見分けがつかないレベルまで完成度をあげることができます。

本来レタッチャーは撮影された写真のフィニッシュを担当する仕事ですが、生成AIを使うことで企画から仕上げまで一人で完成させることができる。クライアントからも興味を持っていただいて、この半年でビジュアルにおけるAI活用はかなり進んだ実感があります。先月できなかったことが今月はできるようになっていたり、とにかく進化が激しい世界ですので、さまざまな職種のクリエイターが最先端ツールを駆使し、連携しながらアップデートするというやり方にはすごく可能性を感じていますね。

- 石﨑
- 同じツールを使ったとしても、ディレクター、ビデオグラファー、レタッチャーなど職種によってまったく違うアプローチになるのがおもしろいですよね。レタッチャーはキーとなるビジュルをつくり込むのに長けているし、ディレクターはAIだからこそ生まれる価値を企画に盛り込んでくる。そういう意味でも職種を横断することが重要だったと思います。
生成AIのプロフェッショナル「ジェネレーター」が、企画から制作プロセスまで統括
-具体的にはどういった組織になっているのでしょう?
- 浅野
- AIクラフトスタジオでは、表現領域で生成AIを使いこなすプロフェッショナルを「ジェネレーター」と呼んでいます。僕はプロデューサー兼ジェネレーター。映像の知識をたくさん持っていますので、その知見を活かしながら生成AIクリエイティブを統括します。同じように、田中さんはCD/AD兼ジェネレーター、浦田さんはレタッチャー/カラリスト兼ジェネレーターという立場で、それぞれの得意分野を活かしながら各スタッフと連携して制作を進行していきます。

- 石﨑
- AIでできることが増えている一方、できないこともたくさんある。
実際に最新ツールを使ってしっかり理解している人がいないと、その見極めができないんです。なににAIを使うべきか、どこを手作業でやるべきか、その線引きをしっかりできるジェネレーターが企画から制作プロセスまで統括することで、AIを活用した本質的なハイエンドクリエイティブが実現できると考えています。
- 浅野
- クライアントもAIのプロフェッショナルではありませんので、ご要望と実現できる範囲を照らし合わせながら最適なプランニングをするのもジェネレーターの仕事。やはり何度もトライ&エラーを繰り返してものづくりをするので、AI独特のプロセスを理解していただくことも重要な役割だと思います。
「人物一貫性」にこだわったハイエンドなコンセプトムービー
-生成AIでなんでもパッとできてしまう印象がありますが、実際そう簡単ではないのですね。
- 田中
- そうですね。AIが民主化され、誰でも簡単に画像や動画がつくれるようになった一方で、ハイエンドなクリエイティブはますます専門性が高まり、二極化が進んでいると感じます。ハイエンドというのは、企業のブランディングに関わるような根幹のクリエイティブのこと。
今回、AIクラフトスタジオ立ち上げにあたって、コンセプトムービーをつくったのですが、これまでむずかしいとされてきた「人物一貫性」にこだわり、ひとつのストーリーラインを楽しめる作品に仕上げました。これまでも生成AIを使ったコンセプトムービーはありましたが、断片的にかっこいい映像が組み合わされているようなものが多かったんですよね。
-「人物一貫性」というのは?
- 田中
- ひとつの動画の中で、同じ人物が、同じ人物として認識し続けられること。生成AIはフレームごとに最適解を導きだすので、カットが変わると微妙なズレが生じてまったく同一の状態にならないという特性があります。この「不得手」の部分を改善する最新ツールが登場したこともあり、一人の主人公がひとつのストーリーを描き出すというムービーの制作にチャレンジしました。
-このムービーをつくるにあたり、AIとのやりとりで得られた発見などありますか?
- 田中
- なるべく驚きのある映像にしたかったこともあり、荒唐無稽なシチュエーションを要求していたのですが、実写の映像クオリティとして納得できるものが出てこなかった。
そもそも荒唐無稽なビジュアル自体が情報リソースとして不足しているんですよね(笑)。世の中に情報リソースとして存在する設定の中に、どのように驚きを持ち込むかという順番で考え直すことが必要。新しいものを生み出すための「コツ」みたいなものが明らかにあると実感しました。
- 石﨑
- 相当な数のアイデアがボツになっていますよね(笑)。
画像で約10,000回、動画で約1,000回もの生成を繰り返してこのムービーができあがっています。
- 浅野
- たとえば、月でウサギが餅を食べるシーンがあるのですが、何度生成しても餅に見えない。そこは最終的に人間の手で調整しました。いまの時点でもできることとできないことがあって、それをひとつひとつ見つける作業でもありますね。
- 田中
- やはり、完成度の高いものをつくろうとするとかなりの労力がかかります。もちろん、これからさらに習熟を重ねて、生成回数も減らしていけるようになることがチームとしての大きな目標です。

生成AIだからこそ応えられる、パーソナライゼーションとローカライゼーション
-クライアント企業にとってどんな利点を生み出すことができるでしょう?
- 石﨑
- 明らかに期待できるのはパーソナライゼーションと、ローカライゼーション。同じストーリーで主人公をたくさんつくりたい、同じ商品を違う国のロケーションで撮影したいといったニーズは今後確実に増えていくと思います。昨年手がけたPlan・Do・See Globalさんの企業広告はまさしくその好例でした。
- 浦田
- 日本企業に有能な海外人材を派遣するサービスで、多様なシチュエーションに、さまざまな人種のモデルを組み合わせることでビジュアル表現を行いました。600種類の組み合わせを生成し、検証を重ねて、最終的に3ビジュアルを選定。これは生成AIだからできることですよね。

- 田中
- いいアイデアがあるのにコストやスケジュールの制限で実現できない、というケースもAIを活用することでクリアできる可能性が広がったと思います。
セキュリティやリスク面に配慮しながら、生活者にとって価値あるコンテンツを届ける
-AIクラフトスタジオとして生成AIを使ったクリエイティブに取り組むことで、今後どのような未来につながると考えますか?
- 浅野
- いま話にあったように、予算やロケ地の制約を気にせず画づくりがはじめられるというのは制作サイドとしても大きな利点。なにより嬉しいのが、生成AIで自由にものづくりができるようになって、若い世代が映像に興味を持ってくれていることです。映像をつくる楽しさをもっと感じてもらえるようなったら、クリエイティブにとってもいい未来につながるんじゃないかと感じています。

- 浦田
- 我々の最終的な目的は、生活者の心を動かすこと。今はAIがもてはやされていますが、それはひとつのツールであって、クライアントの思いを届けるために一番いい表現を探すのが仕事です。これは実際に撮影したほうがいい、これはAIのほうがいいとスムーズに最適解が出せるようになれば、自然とクリエイティブの質も高まっていきますよね。
- 田中
- そうですね。僕も生成AIを使いながら、並行して既存の手法でのものづくりも行なっています。やはり実際に撮影でつくる画づくりにしかできないことがあるし、すべて代替されることではない。AIを駆使することで、既存の価値もはっきり見えてきたことがひとつの気づきでした。
そのうえで、生成AIの世界は、つくってみてはじめてわかることがたくさんあるんですよね。そのひとつひとつの発見をチームで積み重ねていけることにすごく意味を感じていますし、生成AIの新しい可能性を切り拓いていきたいと思います。
- 石﨑
- 安かろう悪かろうのAI生成ではない、ハイエンドのAIクリエイティブというのはこれから伸びていく市場。だからこそ、その領域のトップランナーでありたいという気概でスタートした組織です。
世界で戦えるジェネレーターを育成することももちろんですし、セキュリティやリスク面のケアもしっかり行いながら運営することを重視しています。
リアルとバーチャルが溶け合わさったようなファジーバーチャル領域は、一歩間違えるとディープフェイクと捉えられる危険性も。社会的なインパクトを考慮しながら十分な配慮を行い、生活者にとって価値のあるコンテンツをお届けするというのが我々の前提条件です。

正直、はじめにAIを扱うときは警戒心が強かったんですよね。でも実際に触ってみると、これまでできなかったことができるようになり、個々の能力が拡張される実感があり、すごくポジティブな気持ちに変化していった。いまチームのメンバーがみんな前のめりで取り組んでくれていることが何よりうれしいです。AIによってクリエイターの価値を高め、クライアントや生活者にとっての新たな価値創造につなげていきたいと考えています。
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博報堂プロダクツ
フォトクリイエティブ事業本部
レタッチャー・カラリスト動画、静止画の垣根を超えたビジュアルクリエイティブ全般のポストプロダクションに精通。グラフィック広告、CM、ミュージックビデオ、ドラマ、映画などを手掛ける。2025年2月に生成AIビジュアルクリエイティブ展「Phantom」を開催。生成AIとポストプロダクションスキルを掛け合わせた新たなビジュアルクリエイティブの可能性を提示。2025年11月 博報堂プロダクツ AI Craft Studioに参画。
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博報堂プロダクツ
映像クリイエティブ事業本部
チーフクリエイティブプロデューサーCMやWeb動画を中心に、ジャンルにとらわれず映像制作をプロデュースしています。企画から完成まで丁寧に伴走しながら、常に新しいテックやAIも取り入れて、より良いクリエイティブを形にしている。
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株式会社博報堂プロダクツ
ONE★PUNCH事業本部
クリエイティブディレクター・アートディレクターアート×ストーリー×テクノロジーで、記憶に残る“ブランド体験”をつくり出すCD。
あらゆるコミュニケーションにおける時間軸のある体験をアート×ストーリーテリングを武器としたプランニングとディレクションで拡張。さらに表現における最新テクノロジーを柔軟にかけ合わせ、社会に新しい価値を提供するクリエイティブを志向する。AI Craft Studio 事務局リーダー。Spicks Asia、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、朝日広告賞、交通広告グランプリ等。
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博報堂プロダクツ
執行役員 兼 Promotion X室 室長東京大学大学院応用生命工学 修士。McKinsey&Companyで戦略コンサルタントとして、農産業成長戦略の策定、製品開発および購買プロセス改革などに従事。2016年、バンコクにてEmpag社を創業(現株式会社Emerge)、オフショア映像制作事業を展開。2019年、博報堂プロダクツと業務資本提携、2023年 博報堂プロダクツ 執行役員に就任。


