おすすめ検索キーワード
事業プラニングが目指す新たな広告会社の姿【vol.2】 生活者データ起点で考える、地域交通のリ・デザイン
PLANNING

事業プラニングが目指す新たな広告会社の姿【vol.2】 生活者データ起点で考える、地域交通のリ・デザイン

現在、様々な領域でのデジタルシフトが進み、生活者インターフェース市場が次々と誕生しています。本連載では、博報堂が事業プラニングを専門とする組織を設置し、クリエイティビティやデータ・テクノロジーの知見を活かし、どのようにクライアントの事業戦略・事業開発の支援、さらには博報堂の生活者発想に基づいた新事業の立ち上げを目指すのかに迫ります。
第二回では、これからの日本社会が直面する交通課題にフォーカスを当てます。博報堂は、需要と供給のバランスを考慮した地域交通のリ・デザインが求められる地方部を中心に、データを活用しながら生活者の生活ニーズ・移動ニーズを紐解き、公共交通のプラニングやサービス設計を進めています。生活ニーズデータを活用した地域交通プラニングに取り組むメンバーが、これからの地域交通をよりよくしていくためにどんなプラニングソリューションが必要なのか、地域交通リ・デザインにおいて博報堂が提供できる価値は何か、語り合いました。

<写真左から>
長澤大樹
博報堂 コマースコンサルティング局 データサイエンティスト

奥村莉帆
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー

常廣智加
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター

黒住奈生
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー

工田菜央
博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー

地方部における、地域交通リ・デザインの現状の課題とは?

常廣
数年前からMaaSや地域交通の領域に取り組んでいますが、地域交通全体のプラニング段階から入っていかないと、新しいサービスを導入したとしてもうまくいかないケースが多いように感じています。需要と供給が現状どうなっているのかを客観的なデータで把握し、地域で生活する皆さんのニーズがどこにあるのかをきちんと紐解いていくことが重要だと日々感じています。

長澤
私は博報堂に中途で入社しました。前職では、基幹交通のダイヤを考えたり、将来の需要予測をした上で設備投資の提案をしたりするような、まさにデータ×プラニングの領域を担っていました。都市間輸送がメインだったので、地方部の地域交通は新鮮で、応用できる部分もあれば全く違う考え方をする部分もあり面白いですね。
実際に皆さんが現場で地域交通プラニングに取り組む中で感じている課題感を、データ活用の領域で解決できればと思っています。
黒住
今感じている課題としては、やはり、公共交通のプラニングと、実際の生活ニーズが乖離していることですね。
人口5万人以下の自治体になると、1人1台マイカーに乗っているのが当たり前で、公共交通の分担率がすごく低いことが多い。ですが、実際に地域交通の再編を進める際には、今バスを利用している人だけを対象にアンケートを行い、その結果だけで次の打ち手を判断する、ということがよくあるそうです。いま利用している人はもちろんある程度満足しているから使い続けているわけで、アンケート結果を見ても「現状のままでいい」となりがちですが、実際の住民はマイカーユーザーが大半。今マイカーに乗っている人たちの生活実態にも合わせていかないと、将来的な生活ニーズに応えられる公共交通を作っていくのは難しいと感じています。
工田
そうですね。例えば、路線バスの大々的な再編を検討している地域だと、利用者の大多数が学生で、それ以外の人はほとんど利用していないことが多い。学校の統廃合などで利用実態が大きく変わってしまうリスクもありますし、学生の需要以外にも交通に困っている人はいるのに、その声を拾いきれていないのが現状です。役場の皆さんも課題として認識はしているのですが、既存の路線バスの再編だけでは対応しきれない部分が増えている印象です。

奥村
私たちが実際のプラニングをさせていただくときにも、もちろんアンケートやヒアリングなどの手法は使うのですが、それだけでは限界を感じることが多いですね。公共交通がないエリアを含めて「本当に行きたいところはどこか」といった潜在的なニーズを聞くなど工夫はしているのですが、客観的な指標やデータがあったほうが自治体の皆さんや交通事業者の皆さんと合意形成がしやすいですね。
常廣
いきなり新しい交通サービスを導入するというより、まずは調査とプラニングをしてその上で方向性を決め、次年度以降どうするか、という具体の打ち手に入っていく地域は増えていますよね。そういった「前工程」の重要性は、徐々に全国的に浸透してきているように感じます。
黒住
省庁の皆さんと議論する中でも、新しいサービスありきで考えるのではなく、計画段階での方針策定や、需給のマッチングが重要という話はよく論点として挙がってきます。
どのプレイヤーもプラニングやニーズ把握の重要性は認識していて、その上で、具体的な方法論を試行錯誤している段階なのかなと思いますね。

生活ニーズデータを活用した地域交通プラニングの実践

常廣
これからは、地域全体の生活者ニーズをどう把握し、公共交通リ・デザインに反映していくのかがますます重要になってきます。生活者ニーズを把握する手段の一つが、交通分担率の大半を占める「マイカーでの移動データ」なのではないかと考えています。実際にこれまで様々な地域で住民の皆さんのマイカー移動データを活用して、地域交通プラニングを行ってきました。
長澤
現状ではマイカーデータ・人口データ・人流データを「生活者ニーズデータ」、既存の公共交通の状況を「供給データ」と見立てたうえで、それらすべてを地図上に重ね合わせて可視化したマップを作っています。実際にマップを活用していった中で、何かプラニングのやり方や地域との議論の進め方に変化はありましたか。

黒住
プラニングの途中でマイカーデータを活用することで、現状の公共交通の路線とマイカーが走っている場所がいかにかけ離れているのか、はっきりと目に見える形で分かったのが良かったです。その客観的な情報と、地域の方が持つ知見を組み合わせて「この場所に公共交通の停留所を置いた方がいい」といった判断ができました。
マイカーデータがあったことで、地域の皆さんとも納得感を持って議論できましたし、ルートや停留所の設計が非常にスムーズに進みました。また同じ市町村の中でも、エリアによって課題が全く違うことがはっきり分かりました。このエリアはニーズにほぼ合致した公共交通がある、この地域はニーズとの乖離が大きいから再編が必要など、細かく分けて確認することができました。
工田
生活者の移動実態をデータで見せると、議論が前に進みやすくなることを実感しています。地域交通について議論しようとすると、減便や人手不足といったネガティブな話になりがちですが、少しでもポジティブな方向にもっていくことが重要だと感じています。
マップを見ながらだと、こういう移動ニーズがあるのか、こういう生活をしているならこういう交通手段が必要だよね、といったように、移動のきっかけや機会を増やすポジティブな議論に発展しやすいですね。
長澤
生活者データを活用することが、現場での議論やプラニングの変化のきっかけになるというのは、非常に嬉しいですよね。やはり公共の領域だと、今までのやり方を変えにくかったり、異動の関係で特定領域のスキルや知見が溜まりにくかったりするので、そこを変えるきっかけになれるのはそれだけでも大きい意義があると思います。

常廣
マイカーデータの始点・終点がそれぞれどこにどのぐらいあるのか、数的に把握できたのも大きかったです。生活圏がどこまで広がっているのか、同じ市町村内でもエリアによって違うことがはっきり分かって、広域も含めた移動課題を捉えやすくなりましたね。
黒住
複数の自治体にまたがる広域での移動サービスの検討は、自治体間の調整や、交通事業者や住民の皆様との合意形成など、様々なハードルがありますよね。地域の皆さまが大切にされている肌感覚は、施策の土台として非常に重要ですが、それらを補完する形で客観的なデータを分かりやすく可視化することで、既存の枠組みを超えた多角的な議論ができるようになります。地域の事情を尊重しながらも、データという共通言語を持つことで、未来に向けた本質的な議論がよりスムーズに進むと考えています。
奥村
ある自治体の例で、南部と北部で生活圏が異なることは予想していたのですが、実際のデータで見ても、住民は隣接する府県や近隣の主要都市まで生活圏が広がっているという実態が分かり、大変興味深かったです。ただ、その広域な移動実態を把握した上で、自治体としての交通施策としてどこまでカバーすべきか、という議論は非常に難易度も高く、かつ重要な検討課題であると感じています。

地域交通リ・デザインのためのプラニングソリューション確立を目指して

黒住
現状のニーズの把握からもう一歩進んで、将来的な需要予測まで提示できると、より地域交通のリ・デザインが進みやすくなると思います。さらに地域リ・デザインを行った後のシミュレーションまでできると、「こういう交通サービスの形にすれば、こういう未来が広がっています」「ここに人流ができて、このエリアがもっと盛り上がります」といったことまで言えるので、より議論しやすいですね。
工田
将来予測が出せると、自治体の皆さんに対しても、「こんな効果があるので来年も継続してやっていきましょう」「意味があるので市の予算でやっていきましょう」といったことが提案しやすくなります。
長澤
そうですよね。実際にデータを活用する中でも、単なる現状分析だけでなく、ある程度将来の需要予測や、リ・デザインの効果測定までしていけると良いと感じています。
現状のマイカー移動データから、もし需要が満たされたら地域がどのぐらい活性化するのか、というところまでシミュレーションできるといいですよね。また、将来的に、数年後の人口変化が生活全体にどう影響するかも合わせて可視化できると、自治体・交通事業者の意思決定にも役立ちそうです。
常廣
そういうことができると、地域コミュニティや交通に直接関わりのない病院やスーパーといった周辺事業者と連携するきっかけにもなりますね。行政や交通事業者だけで交通を考えるのではなく、住民の皆さん、地域の企業さんやそこで働く方々が担い手となるような協力体制を作りやすくなります。
奥村
地域住民の方は「何とかしないといけない」という思いが強くて情熱もあるけれど、行政とうまく連携できない、制度が理解できずにどこから手を付けていいのか分からず困っている、というお話も聞きます。それは非常にもったいないなと思うので、そういった住民目線での危機感が、将来予測という形でデータに現れていれば、地域内でのコミュニケーションツールになると思います。

黒住
タクシーやバス事業者の有無、マイクロバスの運行管理が可能か、といった地域の状況に応じた条件によって、自動的にある程度の交通サービスの方針が出るような診断チャートも作っています。全地域に当てはまる一律の基準があるわけではないですが、専門知識がなくても指針を出せるようなツールがあると、考えやすいですよね。
長澤
将来的な担い手不足を見据えて、「こういう仕組みを整える必要がある」「そのためにこの計画で進めるので、今これをやる必要がある」といった見せ方は、自治体の方に有効かもしれませんね。そうした情報を先んじて共有できれば、撤退や廃線など何か動きがあってから対応するのではなく、自治体がプロアクティブに動ける体制を作っていけると思います。交通事業者にとっても、公共交通の今後の方針を決定するために活用していただける可能性があり、役立つツールになりそうだと感じました。
常廣
特に公共交通の領域は、まちづくりの視点も取り入れながら、中長期的な目線で粘り強く取り組む必要があります。中長期の予想図を何らかの形で提示することが、5~10年後の未来を地域全体で考えようという姿勢に繋がってきそうです。
どこまでの正確性を求めるのかは課題ですが、指針を出すだけでも意味があるなと思っています。いい未来イメージを持てずに、上手くいかない前提で考えてしまうと、どうしても新しいことにもチャレンジしにくいので、そこをポジティブに変換できるといいなと思っています。
長澤
そうですね。予測の完全性・正確性を追い求めすぎると、肝心の将来像や計画の議論を進められないという状況もあるため、議論や考え方を転換するきっかけを作るという捉え方で進めることは非常に実践的意味があることだと思います。 ソリューション化を目指す上でも、その前提のもとで、ビジネスニーズと分析の正確性をすり合わせながら落としどころを探っていくというのは、ぜひこれからもやっていきたいなとは思います。
常廣
地域の皆さんが、前向きに地域交通リ・デザインに関われるような、プラニングのあり方を追求していきます。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂 コマースコンサルティング局 データサイエンティスト
    静岡県出身。2022年に博報堂に中途入社。消費財メーカー・流通小売を中心に、データ分析に基づくマーケティング戦略・施策コンサルティングを担う。新卒では鉄道会社に入社し、中長期の需要予測や輸送計画、それにかかわる設備計画の策定業務に従事。
  • 博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター
    福井県出身。2018年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、飲料・不動産のマーケティング業務を経験したのち、地域交通のサービス実装、自治体DXのプラニング、システム・サービス開発に取り組む。近年では、交通領域での自社ビジネスの開発を担う。
  • 博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー
    岡山県出身。2021年博報堂入社。ヘアケア・スキンケア・医薬品・食品などのブランドで、マーケティング・新商品開発を担当。現在は、地域や社会課題をテーマに、自社の地域交通サービス実装、得意先の事業開発に取り組む。
  • 博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー
    大阪府出身。2023年博報堂入社。入社以降、マーケティングプラナーとして主に地域交通のサービス実装、自治体DX等に取り組む。
  • 博報堂 ストラテジックプラニング局 マーケティングプラナー
    北海道出身。2024年博報堂入社。ストラテジックプラニング職として、現部署に配属。地域交通のサービス実装、地域観光サービスやコンテンツの開発に取り組む。