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AIエージェントとともに進化するこれからの働き方【生活者インターフェース市場フォーラム2025レポート】
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AIエージェントとともに進化するこれからの働き方【生活者インターフェース市場フォーラム2025レポート】

AIとの対話が日常となる時代に、企業はAIとどのように向き合っていけばいいのでしょうか。
先日開催した「生活者インターフェース市場フォーラム2025 いっしょに話そう。世界が変わるから。~AIエージェント時代の生活者価値デザイン~」のセッションから、博報堂DYグループが掲げる「Human-Centered AI(人間中心のAI)」を紐解くとともに、AIエージェントがもたらすマーケティングプロセスの変革やこれからの働き方の未来を探ります。

浦本 直彦 氏
花王株式会社 執行役員 デジタル戦略部門 データインテリジェンスセンター長 AI戦略フェロー

寳野 雄太 氏
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 テクノロジー部門 兼 事業開発本部 執行役員

森 正弥
株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表

中村 信
株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員
株式会社博報堂 執行役員
株式会社博報堂テクノロジーズ 代表取締役社長
 

AIによる業務自動化は加速

中村
ディスカッションに入る前に、AI時代の働き方を考えるうえで重要になる2つの「A」についてご紹介します。1つ目のAは「Automation(自動化・効率化)」で、AIをタスクの実行者として、組織の生産性を高めていくという視点です。2つ目のAは「Augmantation(能力拡張)」で、AIを思考のパートナーとして、人間の創造性や専門性を高めていくという視点です。
この2つのAは、大きく異なるAIの活用だと捉えています。

浦本さん、企業のAutomation、業務の自動化の現状についてお話いただけますでしょうか。

浦本
わたしは現在、花王のデジタル戦略部門でデータの高度利用やAIの推進を行っています。花王では2018年にデジタル技術による企業変革を目標とする組織を立ち上げ、経営戦略を支える「データドリブン経営」「オペレーショナル・エクセレンス」「顧客体験価値の向上」「グローバル最速展開」という4つのイニシアチブを推進しています。

現在はこれらのイニシアチブに横串で「AI Centric」という方針を掲げ、あらゆる場面でAIを最大限に活用していこうという動きが進んでいます。特に、全社員に開放されている汎用型のAIについては、グローバルも含めて誰でも使える環境が整っており、壁打ちやリサーチなど、日常業務の中で多くの社員が積極的に利用している状況です。

さらに、Automationということを進めていく上で、マーケターの作業を自動化したり、品質保証や知財といった業務をAIで効率化したりと、特定の業務に特化したAI活用も同時に行っています。

中村
さまざまな企業のAI導入を支援されている寳野さんから見ると、現在どのような取り組みが進んでいるのでしょうか。
寳野
普段、Geminiをはじめとする多様なAIソリューションの提案やコンサルティングを担当する中で、リサーチに関してはかなりAI活用の普及が進んできていると感じています。
ただ一方で、調べた内容を踏まえて実際のアクションにつなげていくような、一連の流れがエンドツーエンドで自動化され、業績向上に直結するまでには至っていないと感じていますね。

これは多くの企業が今まさに直面しており、議論されているポイントです。AIエージェントが出てきたことで、単なる1個のタスクの自動化から業務全体のワークフローをどう自動化するかというフェーズに移行しつつあると捉えています。

企業のマーケティング業務も、市場動向の分析から戦略の立案、コンセプトの設計やクリエイティブ制作、出稿など、さまざまな専門領域が連携してひとつの広告キャンペーンが成り立っています。今後はこの一連の流れを、それぞれの専門スキルを持ったAIエージェント同士がやり取りしながら自動で進められるようになっていくでしょう。

最近発表した「Gemini Enterprise」では、こうしたエンドツーエンドの自動化がすでに実現し始めています。この仕組みによって、企業の業務オートメーションは大きく加速していくと考えています。

人の持つ“熱量”はAIに反映しづらい

中村
複数のエージェントが連動して一つの作業を自動で進めていくということは、逆に人間側がAIのワークフロー自体をデザインする能力が求められると感じました。

その一方で、AIの導入が広がるにつれて新しい課題も見えてきているのではないでしょうか。この点について、浦本さんにお聞きしたいと思います。

浦本
AI技術を使う企業の立場から見ると、「AIは必ずしも100%の精度ではない」という前提のもと、80%の精度であってもどのように現場で活用できるのか、どんなリスクがあるのかを見極めながら使っていくことが重要になると思います。また、私たちのように多様なブランドを扱う企業では、多くのマーケターがいますが、その一人ひとりが持つ“熱量”のようなものは形式知化されておらず、AIに反映しづらい部分があります。

そのため、まだ暗黙知として言語化・構造化されていない熱量の部分をうまく技術と組み合わせ、AIエージェントと協調しながら業務を自動化していくことが大切なのではないかと考えています。

中村
とても大事な視点ですね。最終的に生活者へ価値を届けるのは生身の人間で、「ここまでは機械で効率化できるけれど、この先は人の情熱が不可欠」というラインが確実に存在するわけです。そこを取り違えると、本当に伝えたいことが相手に届かなくなってしまうでしょう。

この点について、森さんはどう考えますか?

自動化を進めていくうえで、浦本さんのお話は本当に重要だと思います。紙の上で定義されたプロセスがあったとしても、現場ではその周辺で膨大な人の努力が積み重なっていて、それがプロセスを支えています。

さらにマーケティングとなると、これまでにない価値を創出していくうえで、何度も試行錯誤しながら、細部にこだわって磨き込んでいくという熱量の高いプロセスが随所にあります。

このような「現場のこだわり」があって、初めてプロセスが成立しているわけです。そのため、自動化を進めるときには、その裏側にある努力や品質をきちんと見極めて棚卸しする必要があります。
そこをおろそかにして自動化すると、本来持っていた良さが削ぎ落とされ、逆に損失が生まれてしまう可能性もあり得ます。

中村
確実に業務領域で自動化は進展していくと考えられる一方で、「どこまで自動化して、どこから人が介在するのか」という境界線を明確にすることは、働き方や業務設計を行う際にとても重要になると言えます。
しかもこの境界線は企業ごとに異なるため、自社の業務や文化に合わせて議論を深め、適切な線引きをすることが肝になるでしょう。

人とAIの“共進化”がオーグメンテーションの鍵に

中村
もう1つの考えるべき視点が「Augmantation(能力拡張)」です。これは人の創造性や専門性の拡張と深く関わるものです。頭を使わずに、AIに頼りきりになってしまうと、人間の考える力が衰えるのではという懸念も各所から出始めています。

AIへの依存ではなくて、いかに共存していくかということが大切になるわけですが、Human-Centered AIを掲げる立場として、森さんはどのようにお考えですか?

近年の研究では、何も考えずにAIのアウトプットを使い続けると、個人の認知能力の低下やチームのパフォーマンス悪化を引き起こすという論文やレポートが100件以上も発表され、大きな議論となっています。
人間や組織の「生産性」「創造性」「能力」をいかに高めていくかが最も重要であり、それが我々の提唱する「人間中心のAI」の核となる考え方です。

具体例を示すと、TBWA\ HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサーである細田高広が実践するコンセプトメイキングのノウハウが組み込まれた、通称「細田AI」と呼ばれる博報堂の社内向けAIツールがあります。

これは単にAIが答えを教えるものではなく、AIが逆に聞いてくるわけですよね。問う・問われる、あるいは教える・教えられるといった相互の関係をAIと人間が協働でアイデアを洗練させていく。このようなAI活用が大事になると考えています。

中村
AIを自動化だけではなく、能力拡張やコラボレーションで使っていくためには、「AIが進化すると同時に、人も進化しなくてはならない」という“共進化”がひとつの理想形になるのかもしれません。
浦本
花王は創業当初から、生活者の声に耳をすまし、それを商品開発に生かすことで生活者の生活を豊かにすることを目指しています。例えば、今ではコールセンターのシステムは当たり前ですが、花王では1970年代にIT化したシステムが導入され今日に至っています。生活者の声を一番理解している企業でありたい花王として、バックエンドのシステムを自動化するのはもちろん重要ですが、フロントエンドの生活者と触れ合う部分を単純にAIに置き換えるのがいいのか、というのは考えるべきポイントだと考えています。

人間はもしかするとAIに比べて不完全だけれども、人間とAI、あるいはAIを介した人間と人間の間の関係性において、どうやって共生していくかを見出していくのは、非常に面白い意味があると感じましたね。

中村
たとえばAIが作った資料はすごく網羅的で完璧に近いように見えますが、作った人の考え方や視点が入ってないものが多くなっているのではと感じます。

自分で考えることをやめてAIに頼る状態が増えるのは非常に危険だと思っていて、依存ではなく、AIと共存することをどこまで考えられるかが大事になってくると言えるでしょう。

「人間にしかできない価値」をしっかりと認識し、それにAIを掛け合わせることで、初めて私たちの能力は、一段上のレベルに達するのだとあらためて感じましたね。

AI時代に企業独自の価値を創るためには「アスピレーション」が重要

中村
ここまでAutomationとAugmantationに触れてきましたが、AIの進化とともに考えなければいけないもう1つの「A」について議論したいと思います。

今起きている問題は、同質化と均質化です。テックやデータ、アルゴリズムにおけるAI活用だけが過度に進むと、全員が同じ答えに行き着いていく。

マーケティングでいえば、生活者に意味のある違いを生むことが大切なのに、それと逆の方向に行ってしまうわけです。

そのため、AI活用には「Aspiration(願望・大志)」という3つ目のAが必要になると考えています。

他社にはない願望や大志が根底にあるからこそ、AIが上手く使えて人が動いていき、魅力ある企業へと変革していくわけです。

そんななかで、企業や社員の違いや個性を生むためにはどうすればいいのか。登壇者の皆さんの意見を伺えればと思います。

浦本
AIが単なる道具ではなく、段々と社員一人ひとりのバディになっていくのではないかと思います。その際も、企業や組織のベースとなる「思い」や「大志」は共通で持っておくべきだと感じています。
中村
AIをバディにするというのは重要な視点ですよね。AIも全部同じではなくて「個性あるAI」が組み合わさることで新しい働き方や違うベクトルが生まれていくのではないでしょうか。
寳野
まさにパーソナライゼーションの領域は非常に重要で、たとえば「Gemini Enterprise」が備える長期記憶の機能も鍵になってくるでしょう。

ユーザーのメールのやりとりや、上司との関係値などから自動的にパーソナライズされたメールを返してくれることも可能です。ただ、その同質化を避けるために、やはりAspirationが最も重要だと考えています。

また、意思決定の判断に迷った時に立ち戻るのが、企業のビジョン、ミッション、パーパスだと言われていますが、AIにとってもそれが非常に重要だと思います。
AIの判断軸を人間と揃えたとき、お客さまに対して差別化した体験を提供できるのではと感じています。

寳野さんのお話は非常に重要な示唆があると感じました。企業のビジョン、ミッション、パーパスはもちろん、企業独自のコンテキストやAspirationがあってこそ、同質化を防ぐことができるわけです。

例えば、AIにプロンプトを書いて指示を出すときに、「自社のパーパスを理解して応答してください」と入れると、アウトプットの精度が向上したんです。これは結構大切なポイントで、AIが企業のパーパスを理解することでアウトプットの質が変わるということです。

企業自身がパーパスを深く見つめ直し、AIにもアライメントさせていくことで、AIがその価値をさらに引き出し、独自性を生み出すことにつながるのではと考えています。

中村
AIを使いこなすためには、企業として、そして社員としての意思・思いが根底にあることが重要になります。その思いの先に、“企業らしさ”を纏ったAIエージェントが誕生し、新しいブランディングや絆が生まれ、その企業独自の個性がつくられていくのではないでしょうか。

これまで議論してきたAutomation、Augmantation、そしてAspirationはどれも欠かせないものです。各企業が、AIの進化と並行して「3つのA」についても考えていくことが大事になります。

同質化しないための“別解”を生み、独自の価値創造を目指す

中村
最後に博報堂DYグループのAIの取り組みについてご紹介いたします。
博報堂DYグループではHuman-Centered AIを指針に掲げ、AI活用の取り組みを加速させています。多くの企業がAIを導入するなかで、単なるAutomationだけを追求すれば、アウトプットは均質化してしまいます。博報堂では効率化は実施しつつも、その先にあるAugmantationにも重きを置いています。

つまり、AIで人間の創造性を拡張する「AI-Powered Creativity」で、生活者に意味のある違いを提供し、同質化しない価値創造を行うことを目指しています。

AIによって創造性を最大化し、その力をマーケティングに接続する。
AIと人が協働することで、人だけでは到達できなかったレベルの成果を実現する。

AI時代においても、生活者の変化を深く読み解かなければ、心を動かす発想は生まれません。私たちは「AIをまとった新しい生活者」の研究を今まさに進めている状況です。そこで得られた知見や想像する以上の変化が起きていることについて、これからも情報発信していきます。

さらに、AIという自分とは違う存在を味方につけて、生活者の心を動かすアイデアを生み出すために、「新しい生活者発想プラットフォーム」を提供します。このプラットフォームは、人の知恵にテクノロジーを掛け算することで、同質化しないための“別解”を生むことを目指し、4つの機能を備えます。

一つ目は、生活者視点での発想機能です。20万人の生活者意識データや2億のWEB行動データをもとに、エビデンスベースドなバーチャル生活者を生成し、彼らとの対話機能を提供することで、いつでもどこでも生活者からの発見と発想を支援します。

二つ目は市場起点での発想機能です。AIによる「数千市場の情報収集」に博報堂の知見による「今と未来の洞察」を加えることで、業界のイシューや変化の兆しを発見するマーケット洞察機能を構築しています。

三つ目は、メディア、生活者インターフェース視点での発想機能です。20万人の生活者の接点意識データと10万のメディア在庫情報をもとに、コミュニケーションの設計図をAIと描く生活者接点の発想機能を備えます。

四つ目は効果を予測する機能です。豊富な生活者データで“仮想市場”を再現し、効果予測と改善点をAIとともに把握することで、発想したアイデアの効果を考えていくことができます。

そして、生活者発想プラットフォームに加え、戦略、クリエイティブやメディア、パフォーマンスマーケティングなど、各マーケティングの領域に特化したAIソリューション群「AI-POWERED Marketing Solutions」も展開していきます。

生活者発想プラットフォームで新しいアイデアを発想し、様々なマーケティングの
AIソリューションで精度を高めて実行していく、発想と実行のAIソリューション群です。

博報堂DYグループは、AIによる効率化はもちろん、その先の創造性までAIで高めていくことを目指しています。人とAIが連携したマーケティングを提供し、同質化しない、価値ある未来を、AIとともにデザインしていきます。

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  • 浦本 直彦 氏
    浦本 直彦 氏
    花王株式会社 執行役員 デジタル戦略部門 データインテリジェンスセンター長 AI戦略フェロー
    1990年、日本IBM入社、東京基礎研究所において自然言語処理、データ統合、Web技術の研究開発に従事。2017年、三菱ケミカルホールディングス入社、2020年より執行役員CDOとしてDX推進をリード。2023年4月、花王入社、2025年1月より、執行役員 デジタル戦略部門データインテリジェンスセンター長としてAI技術を活用したデータの高度利活用を推進。2018年-20年、人工知能学会会長。
  • 寳野 雄太 氏
    寳野 雄太 氏
    グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 
    テクノロジー部門 兼 事業開発本部 執行役員
    通信会社にてエンジニア、米国出向、プロダクトマネージャーを務めた後、2016年にGoogle Cloud日本リージョン立ち上げより参画。データアナリティクススペシャリスト、データ&AI部門を統括したのち現職。現在はAI領域を中心に技術チームおよびビジネス開発を担当。
  • 株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer
    Human-Centered AI Institute代表
    株式会社博報堂テクノロジーズ 取締役
    外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。慶應義塾大学 xDignityセンター アドバイザリー ボードメンバー、日本ディープラーニング協会 顧問、内閣府AI戦略専門調査会委員。
    著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
  • 株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員
    株式会社博報堂 執行役員
    株式会社博報堂テクノロジーズ 代表取締役社長
    1999年博報堂入社。様々なクライアントの情報戦略業務を担当。マス~WEBまで統合したコミュニケーションを設計してきた。その後、デジタル、データ、システムを活用したマーケティングの構想と実践(生活者データドリブンマーケティング)やテクノロジーを活用したソリューション開発を数多く担当。現在は、博報堂DYグループのマーケティング基盤の構築・データ基盤の構築、AI活用などを通じて、生活者発想の高度化、創造性の拡張、マーケティングの次世代化に取り組んでいる。