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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.12】そのポイント、本当に顧客の
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マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.12】そのポイント、本当に顧客の"心"を掴んでいますか? "お得"依存から脱却する、新時代のロイヤリティプログラム

マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。第12回のテーマは、「"お得"依存から脱却する、新時代のロイヤリティプログラム」です。
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德田 晃弥 
株式会社博報堂 
マーケティングシステムコンサルティング局 
CRM推進部 CRMコンサルティングチーム

「お客様との関係性を強化し、LTV(顧客生涯価値)を向上させたい」――。
多くの企業がこの命題を掲げ、その有力な打ち手として「ロイヤリティプログラム」を導入・運用しています。しかし、その実態に目を向けると、多くのご担当者が共通のジレンマを抱えているのではないでしょうか。
「結局のところ、割引やクーポンがなければ顧客は離れてしまうのではないか」
「ポイント還元率の競争は、もはや"体力勝負"の様相を呈している」
「会員数は増えても、事業収益への貢献が見えづらい」
これらは、私たちがクライアントの皆様から実際に耳にする切実な悩みです。もし、貴社のロイヤリティプログラムが、こうした「お得感」の提供、すなわち「経済ロイヤリティ」の追求に留まっているのであれば、それは顧客との間に真の絆を築く絶好の機会を逃している危険なサインかもしれません。
本稿では、変化し続ける市場と生活者の中で、企業が顧客から真に選ばれ続けるための、新しいロイヤリティプログラムのあり方を、広告会社である博報堂ならではの視点で解き明かしていきます。
「なぜ今、ロイヤリティプログラムの根本的な刷新が求められているのか」について、その背景と本質に深く迫ります。

1. 「お金の切れ目が縁の切れ目」― 経済ロイヤリティの限界

多くのロイヤリティプログラムは、購入金額や頻度に応じてポイントを付与し、そのポイントを値引きやクーポンに交換できる、という仕組みを基本としています。これは顧客にとって分かりやすいメリットであり、短期的な利用促進には確かに繋がるでしょう。
しかし、その効果は永続的ではありません。よりお得な条件を提示する競合が現れれば、顧客はいとも簡単にスイッチしてしまう可能性があります。割引率の競争は、短期的には顧客を惹きつけますが、長期的には企業の収益性を圧迫し、ブランド価値を毀損する可能性があり危険です。これは、多くの担当者が抱える「安易に廃止すれば顧客が離れてしまう」という恐怖の根源であり、「お金の切れ目が縁の切れ目」という言葉が、まさに大きな不安として横たわっています。
なぜ、このような事態に陥ってしまうのでしょうか。
それは、ブランドと顧客の間に「お得」という経済的な繋がり以上の関係性、すなわち「心理ロイヤリティ」が育まれていないからです。
「心理ロイヤリティ」とは、顧客が企業やブランドに対して抱く「愛着」「信頼」「共感」といった、目には見えない感情的な繋がりのことです。この「心理ロイヤリティ」こそが、価格や利便性といった合理的な判断基準を超えて、「このブランドでなければならない」と顧客に思わせ、長期的なファンでい続けてもらうための、揺るぎない土台となるのです。
一方でロイヤリティプログラムが正しく機能していない企業では、会員の年間利用額が非会員を下回るという衝撃的なケースも出てきており、プログラムが意図せず「価格重視の顧客」を育ててしまっている場合もあります。今こそ、私たちはロイヤリティの本質に立ち返り、顧客の「心」を動かすプログラムへと舵を切るべきなのです。

2. 顧客の"インサイト"に応えよ ― 「心理ロイヤリティ」を育む源泉

では、どうすれば顧客の心を動かし、「心理ロイヤリティ」を育むことができるのでしょうか。その鍵は、顧客自身も気づいていない「真の欲望=インサイト」に応えることにあります。
顧客が口にする要望は、あくまで氷山の一角にすぎません。その水面下には、本人すら言語化できていない、巨大な欲求の塊が隠されています。
例えば、ある顧客がホテルに宿泊する理由を尋ねられて、「非日常を味わいたいから」と答えたとします。これは「表層の欲求」です。しかし、その欲求をさらに深掘りしていくと、「日常のすべてがタスク化している。仕事や家事から解放されることで、普段なかなか向き合えない家族との時間を取り戻し、子供の成長を実感したい」という、より切実な「深層の欲求=インサイト」が見えてくるかもしれません。

このインサイトを捉えた時、提供すべき体験は大きく変わります。単に豪華な部屋や食事を提供するだけでなく、「親と子供が一緒になって夢中になれる体験プログラム」を設計し、家族の新たな思い出作りをサポートすることが、顧客の心を深く揺さぶるのです。
このように、顧客のインサイトに応える体験を提供してこそ、顧客は「このブランドは、私のことを本当に理解してくれている」と感じ、経済的なメリットを超えた強い愛着、すなわち「心理ロイヤリティ」を抱くようになります。

3. なぜ広告会社なのか? ― 事業と顧客を繋ぐ、私たちの提供価値

「なるほど、心理ロイヤリティやインサイトが重要なのは分かった。しかし、それをどうやってプログラムに落とし込むのか?それはコンサルティングファームやITベンダーの領域ではないのか?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、彼らもロイヤリティプログラム刷新の重要なパートナーです。しかし、広告会社である私たち博報堂DYグループには、彼らとは全く異なるアプローチと、独自の提供価値があります。
コンサルティングファームが「事業戦略」の視点から、ITベンダーが「システム実装」の視点からアプローチするのに対し、私たち博報堂DYグループは、事業の根幹を成す「顧客」を、多様な価値観や欲望を持つ「生活者」として深く洞察することから始めます。これが、博報堂DYグループのフィロソフィーである「生活者発想」です。
私たちの役割は、ロイヤリティプログラムという単体の施策を設計することに留まりません。事業戦略や顧客獲得戦略といった上位の戦略とロイヤリティプログラムを接続させ、マーケティングコミュニケーション全体の視点から、顧客との「あるべき関係性」を再定義し、設計することにあります。
目指すべきは、顧客にとって貴社のサービスを利用することが、旅の「手段」ではなく、旅の「目的」そのものになるような関係性です。顧客が「なんとなく旅行に行きたい」と考えるのではなく、「あのブランドの体験を味わうために、あの場所へ行こう」と考える状態を創り出すこと。そのためには、顧客のインサイトを的確に捉え、心を動かすクリエイティブな体験の提供が不可欠であり、それこそが博報堂DYグループの真骨頂なのです。
さらに、顧客の感動体験は、信頼性の高いクチコミ(UGC)となり、最高の広告となります。この熱量をブランド資産として循環させるコミュニケーション全体の設計こそ、私たち広告会社ならではの価値提供です。

まとめ: "お得"の呪縛から、"愛着"という絆へ

本稿では、多くの企業が直面するロイヤリティプログラムの課題を起点に、なぜ今、経済的なメリットの提供だけでは不十分であり、顧客のインサイトに基づいた「心理ロイヤリティ」の醸成へと舵を切るべきなのかを論じてきました。
皆さまのロイヤリティプログラムは、単なる「お得な会員制度」になっていませんか?
顧客の心を掴み、「あなたでなければ」と言われるような、かけがえのない関係を築けているでしょうか?
もし、少しでも疑問を感じられたなら、それはまさに変革の好機です。
私たち、マーケティングシステムコンサルティング局は「生活者発想」と「クリエイティビティ」を両輪に、データとインサイトを深く洞察し、事業成長に貢献するロイヤリティプログラムを設計します。そしてロイヤリティプログラムを顧客の声をサービス改善に繋げ、時に顧客をブランドの「エバンジェリスト(伝道師)」へと変える、ダイナミックな仕組みへ昇華させます。

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  • 株式会社博報堂
    マーケティングシステムコンサルティング局
    CRM推進部 CRMコンサルティングチーム
    自動車、電機、金融、通信など多様な業界において、経営・事業戦略、新規事業開発、CRM戦略やロイヤリティプログラム策定など幅広い領域を支援。豊富な業界知見と実践経験を活かし、クライアントの課題解決や事業成長、顧客価値創出に向けて、業界横断型のコンサルティングサービスを提供。2023年より現職。戦略立案から実行まで一貫して伴走し、成果創出にこだわる姿勢を持つ。